初心者向け:PTS夜間と翌朝の“寄り付きギャップ”を使う超シンプル短期戦略(日本株)

投資入門|日本株

本記事では、日本株のPTS夜間で形成された価格と、翌営業日の朝の寄り付きとの価格差(ギャップ)を利用する、初心者向けのミニ逆張り戦略を紹介します。証券口座の準備、板の見方、注文方法、利確・損切りの指針、そしてExcelでの簡易検証方法まで、初めての方でもその日から再現できるレベルで具体的に解説します。

想定読者とゴール

本記事は、日本株の短期取引を初めて学ぶ個人投資家の方を対象にしています。読み終えるころには、(1)戦略ルールを自分の言葉で説明できる(2)そのルールを使って注文を出せる(3)Excelで最低限の検証ができる状態をゴールとします。

前提:PTSと寄り付きの基礎

PTS(私設取引システム)は、取引所(東証)の取引時間外でも売買ができる場です。特に夜間PTSは、決算発表・材料開示・海外市況の影響が価格に先行反映されやすい特徴があります。一方、翌営業日の朝9:00は東証のオークションで寄り付き(初値)が決定します。この「夜間に先走った価格」が翌朝の流動性(板厚・成行フロー)で再調整されるとき、小さな平均回帰(リバウンド)が起きやすいことに着目します。

ここでは教科書的な理屈ではなく、誰でも前日終値とPTS終値、翌朝の寄り値を見比べられるという実務の観点で整理していきます。

戦略の全体像(30秒で要点)

  • 狙い:前日終値に対してPTS夜間終値が過度に乖離した銘柄は、翌朝の寄り後に「行き過ぎの修正(平均回帰)」が小さく起こりやすい。
  • 型:ギャップ逆張りのデイトレ。原則として寄り直後〜9:30までで完結。
  • 優位性の源泉:夜間は板が薄くニュース反応が大きく出がち。寄りで流動性が戻る過程で短期的に均衡へと調整される。
  • リスク:本質的悪材料(下方修正・破綻懸念など)では平均回帰が起こらないことがある。

具体ルール(ベースライン)

まずは最もシンプルな基準で始め、後述の拡張パートで微調整していきます。

  1. ユニバース:東証プライム・スタンダードのうち、月間平均売買代金が5億円以上。常時約500〜800銘柄が対象になります。
  2. シグナル抽出(前夜):前日終値に対してPTS夜間終値の乖離率+2.5%〜+8.0%または-2.5%〜-8.0%の銘柄を抽出します。極端すぎる乖離(±10%以上)は除外します。
  3. エントリー(翌朝):寄り付き後の最初の1分足が確定したら、PTSで上がり過ぎていた銘柄売り(制度信用・貸借のみ)下がり過ぎていた銘柄買いでエントリーします。成行は避け、基本は指値(気配より0.1〜0.2%有利側)にします。
  4. 利確・損切り:利確目標+0.6%、損切り-0.4%を初期設定とします。どちらかに到達したら即時クローズ。時間損切りとして9:30までに未約定・未達成なら成行でクローズします。
  5. 同時建て上限:同時に保有する銘柄数は資金の1〜3%を1ポジションの目安にし、最大5銘柄までに制限します。

このベースラインは、小さい優位性を時間で切るというコンセプトです。朝の流動性が均衡を取り戻す9:00〜9:30に勝負を限定し、引け跨ぎのリスクを避けます。

準備:口座・ツール・板の読み方

口座の準備

現物・信用の両方に対応でき、PTS夜間取引が可能で、寄り付きの板情報がリアルタイムで見られるプランにしましょう。最初は現物のみで構いません。貸借銘柄の売り建ては慣れてからで大丈夫です。

必須ツール

  • 気配と歩み値が見られるツール(PC推奨)
  • PTS価格と出来高の一覧(前夜の乖離率を算出するため)
  • Excelまたはスプレッドシート(検証・売買日誌)
  • アラート機能(寄り後1分足確定通知、利確・損切り条件通知)

板の読み方(寄り直後)

寄り直後は成行フローが厚く、板の空洞が埋まっていきます。「厚い板に当たって反発しているか」「成行の偏りが解消に向かっているか」を観察します。板が薄く飛びやすい銘柄は約定リスク・スリッページが大きくなるので、慣れるまでは避けます。

乖離率の作り方と銘柄スクリーニング

前日終値 Close と PTS夜間終値 PTS を使い、乖離率 Gap(PTS - Close) / Close で算出します。|Gap| が 2.5%〜8%の範囲に入る銘柄を候補にします。

併せて、前日の出来高が20日平均以上当日の板の最良気配に10万株以上の厚みなどの簡易流動性フィルターを入れておくと、約定とスリッページの面で安定します。

エントリーの微調整(勝率と期待値の両立)

  • 1分足の方向確認:寄り後最初の1分足が陰線(上に乖離していた銘柄)陽線(下に乖離していた銘柄)ならエントリー強度を上げる。
  • 指値の置き方:気配から0.1〜0.2%有利側に指して、約定しなければ気配に寄せていく「二段指値」。逆行の勢いが強いときは無理に追わない。
  • 成行回避:寄り直後は飛びやすいため、基本は成行を避ける。時間を味方にして板の厚みが戻るのを待つ。

出口戦略:利確・損切り・時間切り

ベースラインの+0.6% / -0.4%は、勝率と損益比のバランスを意識した初期値です。約定の滑りが大きい口座・銘柄では利確幅を+0.5%に狭めると充足率が上がることがあります。反対に、流動性が厚い大型株だけに絞るなら+0.7%まで伸ばす選択肢もあります。

時間切りの9:30は、朝のリバランス・裁定・ニュース一巡が概ね落ち着く目安です。そこまでに意図どおりの反発が無い場合は、スタンスが間違っているか、材料が強すぎる可能性が高いと判断します。

資金・リスク管理(超重要)

  • 1トレードのリスク:口座資金の0.3〜0.5%を推奨。損切り幅0.4%なら、建玉金額をその範囲に収めるようロット調整します。
  • 連敗対策:日次で-1.5%に達したら新規エントリー停止。週次で-3%を超えたら翌週まで休む
  • 分散:同一セクターの同じ方向(買い・売り)に偏らないよう、同時建ては最大2銘柄/セクター。
  • ギャップ拡大の例外:決算の下方修正・継続前提に疑義などは除外。平均回帰よりもトレンド継続の可能性が高いです。

Excelでの簡易検証フロー

  1. 日次で「銘柄」「前日終値」「PTS夜間終値」「翌日寄り値」「9:30の価格」を表にします。
  2. 乖離率 (PTS-Close)/Close を計算し、|Gap|≥2.5%でフラグ。
  3. 方向(上乖離=売り、下乖離=買い)を付与。
  4. エントリー価格は「寄り後1分足確定時の気配近傍」を近似値として記録。
  5. 利確・損切り・時間切りのいずれかに到達したかを判定し、損益(bps)を算出。
  6. 横断的に勝率、平均損益、最大DD、日次・週次プロフィットファクターを集計。

最初は10〜20営業日の小規模期間で形にし、その後ユニバースを拡張します。数値のブレを恐れず、「どこで守ると安定し、どこで攻めると伸びるか」を一つずつ確かめてください。

ケーススタディ(架空データで手順を確認)

前日終値1,000円、PTS夜間終値1,030円(+3.0%)。翌朝9:00の寄り値1,028円、1分足は陰線で終値1,025円。ここで売り指値1,026円が約定。利確+0.6%は1,019円、損切り-0.4%は1,030円です。9:12に1,020円に到達し利確完了。以後は新規を作らず見送り。

反対に下方向:前日終値2,000円、PTS夜間終値1,940円(-3.0%)。寄り値1,945円、1分足が陽線。買い指値1,944円が約定。利確+0.6%は1,955円、損切り-0.4%は1,936円。9:25に1,956円で利確完了。

よくある失敗と回避策

  • 成行で飛びつく:寄り直後は価格が飛びやすいです。基本は指値、二段指値で約定精度を上げます。
  • 材料の質を無視:深刻な悪材料では反発が起きにくいです。除外ルールを明文化しましょう。
  • 時間を伸ばす:朝の優位性は短命です。9:30を超えて粘ると期待値が崩れます。
  • 分散しない:1銘柄に集中すると、たまたまの材料強度に飲み込まれがちです。

拡張アイデア(上級者向けへの道)

  • 乖離幅×出来高の二軸スコア化:単純乖離に加えてPTS出来高が多い銘柄を重視。
  • 板厚の回復速度:寄り後に最良気配の数量がどれだけ早く平常化するかを定量化。
  • イベントフィルター:決算種別(本決算/中間/四半期)、IRの種類別に期待値を分解。
  • 時間足別の出口最適化:1分・3分・5分足で到達率と滑りを比較。

最低限の注文テンプレート

初日は現物・買いエントリーだけでOKです。以下のように定型化してください。

(例)9:01  買い指値 1,944円 100株(下方向に3%乖離した候補)
利確指値 1,955円(+0.6%)/ 逆指値 1,936円(-0.4%)
9:30までにいずれも未約定なら成行クローズ
    

売買日誌の付け方(勝てるまでの最短距離)

  • エントリー理由(乖離率・1分足の方向・板厚)を一行で。
  • 出口の到達経路(利確か時間切りか)と滑り(約定差)を記録。
  • 週末に勝率・平均損益・最大DD・PFを集計し、変えるのは一度に一箇所

用語ミニ解説

PTS(私設取引システム)
取引所外の売買システム。夜間のニュースを即時反映しやすい。
寄り付き(初値)
オークションで決まるその日の最初の価格。
ギャップ
前日終値とPTS終値、あるいは翌朝寄り値との価格差。
スリッページ
想定価格と実際の約定価格の差。流動性や成行比率で変動。

実行前のチェックリスト

  • ユニバースは流動性基準を満たしているか。
  • 乖離率は±2.5%〜8%の範囲か(極端な案件は除外)。
  • 寄り後1分足の方向を確認したか。
  • 利確・損切り・時間切りの注文を同時に置いたか。
  • 一日あたりの損失上限(例:-1.5%)を設定したか。

まとめ

夜間に動きすぎた価格が、朝の流動性で均衡へ戻る“少しだけの平均回帰”を丁寧に拾うのが本戦略です。小さく素早く、時間で切る。この原則を守れば、初心者でも再現しやすい短期の型になります。大事なのは、ルールの一貫性検証→微調整→再検証のサイクルです。明日からの寄り前準備に取り入れて、まずは小さく試してみてください。

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