PTSアービトラージ入門:夜間PTS×先物ギャップ逆張りで翌日寄りを取りに行く手順と実装

投資入門

要点(エグゼクティブサマリー)
本稿は「夜間PTSの行き過ぎ」と「日経225先物ナイトの方向性」という2つのシグナルを組み合わせ、
翌日東証の寄り付きで平均回帰(ミーンリバーション)を取りに行く超短期戦略を、初心者でも実装できるように手順化したものです。
実務に必要な口座準備・板の見方・売買ルール・手仕舞い・検証・改善・リスク管理までを具体的に記載します。投資助言ではなく教育目的の情報提供です。

1. 戦略の狙いと背景

日本株は16:00以降も、SBI PTSや楽天PTSといった私設取引システム(PTS)で夜間に取引が可能です。
夜間は板が薄く、先物や海外ニュースに引っ張られて行き過ぎた価格が出やすいのが特徴です。ところが、翌朝の東証寄り付きでは
寄り前板の厚みが戻るため、夜間の歪みが部分的に解消される局面が一定割合で観測されます(平均回帰)。
この性質を「ギャップ逆張り」として定式化し、勝てる局面だけを機械的に拾うのが本戦略のアイデアです。

初心者に向く理由は、①判断をルール化できる、②保有時間が短い(原則:夜→翌朝)、③損失限定の設計がしやすいからです。
一方で、イベント(決算・業績修正・材料開示)直後はトレンド継続が勝つ場合もあるため、イベント除外が必須になります。

2. 準備:口座とツール

本戦略の実施に最低限必要なのは、国内ネット証券の一般口座/特定口座(源泉あり推奨)と、
PTS取引の有効化、加えて板・歩み値を見られるツールです。一般的な流れは次のとおりです。

  1. 口座開設申込(本人確認資料・マイナンバー提出)。
  2. 信用取引は必須ではありません(現物のみで可)。ただし貸借銘柄の空売りやヘッジを使う高度版は信用口座が必要。
  3. PTS取引の利用規約に同意し、有効化。取引時間帯(例:17:00-23:59など)を確認。
  4. ツール準備:先物のナイトセッション価格(例:日経225先物夜間)と、対象銘柄のPTS価格を同時に監視できる画面を用意。
  5. Excel/スプレッドシートで寄り付き検証用のテンプレートを作成(後述)。

先物やCFD口座は参照用としてあれば便利ですが、初心者はまず現物+PTSに集中しましょう。

3. コアとなる売買コンセプト

価格は以下3つの「力」で動きます。

  • 情報伝播:海外指数・先物・為替・ニュースが夜間に伝わる。
  • 流動性の偏り:夜間PTSは板が薄く、需給で価格が振れやすい
  • 日中の厚い板:翌朝の寄り付きは注文が厚く、夜間の行き過ぎが平均回帰しやすい。

従って「夜に行き過ぎた値」を逆張りで仕込み、翌朝の寄り成り or 寄り直後で手仕舞うのが基本線です。

4. シンプル版ルール(最初の30トレード)

まずは以下の「機械的で、例外が少ない」ルールから始めます。30回の少額トレードで慣れてから改良します。

  1. 銘柄範囲:TOPIX Core30や日経225採用など、出来高が多く板が厚い大型株のみ。
  2. イベント除外:当日・翌日の決算発表、業績修正、配当・優待の権利落ち、会社説明会など材料日を除外。
  3. シグナル作成:東証終値をP0、同日夜間PTSの価格をPP、先物ナイトの終盤価格をFNとします。
    乖離率A=(PP−P0)/P0、指数乖離B=(FN指数換算−当日現物指数)/当日現物指数。
    A−β×B が閾値θを超えてマイナスなら買い、プラスで超えれば空売り(現物のみなら見送り)。
    ここでβはその銘柄の指数感応度(簡易には1で良い)。
  4. 発注:PTSで指値(スプレッド内の有利側)。無理に追わない。約定しなければ見送り。
  5. 手仕舞い:翌朝の寄り成行を基本。気配が極端に不利なら、寄り直後〜9:03までに逆指値を置きつつ板を見て手仕舞い。
  6. サイズ:1銘柄あたり資金の1〜3%。同時保有は最大3銘柄まで。
  7. 損切り:翌朝ギャップが更に進む場合は、寄り直後3分以内に逆指値で撤退(幅はボラ基準)。

このルールは「平均回帰が優勢」という市場の性質に賭けるものです。イベント日に突っ込むとトレンド継続で踏まれやすいので、除外が肝です。

5. 具体例(数値シミュレーション)

以下は説明用の架空データです(手数料・税は便宜上の数値)。

ケース1:買いの平均回帰成功
P0=2,000円、PP=1,950円(A=−2.5%)、指数B=−1.0%、β=1、A−B=−1.5%<−1.2%(閾値)。
夜に1,950円で500株買い、翌朝の寄り2,000円で成行売却。粗利=25,000円、往復手数料=500円、税前損益=+24,500円。

ケース2:買い失敗(トレンド継続)
A−B=−1.3%で買い、翌朝寄りが1,930円(さらに−1.0%下落)。寄り直後に逆指値で撤退、損失=(1,950−1,930)×500=10,000円+手数料。

ケース3:売りの平均回帰成功(信用前提)
A=+2.4%、B=+0.8%、A−B=+1.6%>+1.2%で空売り500株@2,050円、翌朝寄り2,000円で買い戻し。粗利=25,000円−費用。

ポイントは、指数で説明できる動きを除いた個別の行き過ぎ成分を狙うことです。

6. コスト・税・スリッページの現実

短期戦略では、往復手数料・貸株料・金利・スプレッドが勝敗を左右します。必ずあなたの口座の実コストで損益表を作り、
1トレードあたりの期待値=勝率×平均利益−(1−勝率)×平均損失−コストを把握してください。
スリッページ(狙い価格と約定価格のズレ)は夜間の方が大きくなりがちです。

税は国内上場株の譲渡益課税(申告分離課税)が基本です。源泉ありの特定口座だと納税が簡便になります。
詳細は各社の約款・手数料体系・税務情報を確認してください。

7. 発注実務:板と気配の読み方

夜間PTSは板の厚みスプレッドの変化が早いです。次を徹底してください。

  • 成行多用は避け、指値中心。ただし約定を焦って板を飛ばすのは厳禁。
  • 複数ティックに指値を分割配置し、平均約定を狙う。
  • 約定したら即座に翌朝寄り成行の売り(または買い戻し)を予約(成行予約ができない場合はアラート)。
  • 翌朝の寄り前板(8:59以降)は必ず再確認。気配が不利に傾いたら逆指値を上書き。

8. 検証(バックテスト)手順:Excel/スプレッドシート

板のフル履歴が無くても、日中終値・PTS価格・翌日寄りの3点があれば、簡易検証は可能です。

  1. 列を用意:日付、コード、終値P0、PTS終盤PP、先物終盤FN(指数換算)、A、B、A−B、シグナル(買い/売り/なし)、寄り値Open、損益。
  2. イベントカレンダー列を作り、材料日を除外するフィルタを実装。
  3. 閾値θを0.8%〜2.0%でグリッド検索し、勝率・PF・ドローダウンを可視化。
  4. 出来高しきい値(夜間の約定累計)を導入し、流動性不足のケースを除外。
  5. 結果を月次で集計し、一貫性を確認。突出月が1〜2個だけなら過適合の疑い。

最初の30トレードは最小ロットで行い、実運用のスリッページを測定してからサイズを上げます。

9. 改良アイデア(中級者向け)

  • ボラティリティ正規化:閾値θを日次ATR過去20日のσでスケーリング。
  • 指数感応度の推定:βを過去60日の回帰で推定(個別の指数連動を反映)。
  • 板厚みフィルタ:最良気配の厚み合計が一定枚数未満の銘柄は除外。
  • 時間帯ルール:PTSの終盤30分のみを対象にしてノイズを減らす。
  • ヘッジ併用:空売りが難しい場合はミニ先物/ETFで指数ヘッジ(ただし経験者向け)。
  • 翌場まで延長:寄りで解消しきれない時はVWAP到達まで保有。ただしルールを固定。

10. よくある失敗と対策

  • イベント日に逆張り:決算・業績修正・大型開示はトレンド継続が優勢。必ず除外
  • サイズ過多:板が薄い夜間でロットを入れ過ぎると自分で価格を動かす。分割と小口
  • 成行の多用:スプレッドを丸呑みして期待値がマイナスになる。指値と価格帯分散
  • 手数料失念:薄利多売はコストに飲まれる。手数料・貸株料・金利を常時反映。
  • 翌朝の再確認を怠る:寄り前気配の変化を無視すると損失拡大。9:00前の板を必ずチェック。

11. Q&A(初心者からの質問)

Q1:どの銘柄がやりやすい?
A:大型・高流動性・指数連動度が高い銘柄。値がさは避けても良いが、板の厚みが最優先。

Q2:空売りできない場合は?
A:売りシグナルは見送りにし、買いシグナルのみで回す。まずは勝てる形を一つ作る。

Q3:何時まで監視すべき?
A:終盤30分に集中。無理に追いかけないことがスリッページ対策。

Q4:資金が少なくても可能?
A:可能。1銘柄あたりのロットを小さく固定し、同時保有を増やさないこと。

12. 実装チェックリスト

  • □ PTS取引が有効化されている。
  • □ 監視レイアウト:先物ナイト・為替・対象銘柄PTS板を同時表示。
  • □ イベントカレンダーで材料日が除外されている。
  • □ ルール:A−β×Bの閾値θ、サイズ、損切り分岐、寄り成/寄り直後の手仕舞い。
  • □ コスト表:手数料・税・スリッページの現実値を記録。
  • □ 30トレードの最小ロット検証が完了。

13. まとめ

夜間PTSのギャップは、情報の偏り×流動性の薄さで生まれる「歪み」です。指数で説明できる部分を差し引いた個別の行き過ぎ
的を絞り、イベント日を除外して、寄りで解消を取る。やることは単純ですが、徹底したルール化
コストの管理が成果を分けます。最小ロットで学習し、期待値が正になることを確認してからサイズを上げてください。

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