T+2受渡し歪みを狙う『月末・配当前後』需給トレード入門(初心者向け実践ガイド)

トレード戦略

本記事では「T+2(約定から2営業日後の受渡し)」という市場インフラが生む需給の歪みに注目し、月末・四半期末・配当権利前後で発生しやすい価格バイアスを、個人投資家でも再現しやすい形で解説します。テーマはオリジナルで、初心者の方でも手順通りに進めれば再現可能な実務フローを提示します。具体例、チェックリスト、簡易コード例(MQL4とPine補足)まで用意しました。なお、本記事は情報提供を目的とした教育コンテンツであり、特定銘柄の推奨ではありません。

ポイントは次の3つです。

  1. インフラ由来の歪み:決済サイクル(T+2)、権利付最終日、指数リバランスなど「日にちが決まっている」イベントは、フローを前倒し・後倒しに誘導し、短期的な偏りを作ります。
  2. 観測はシンプル:寄り前の板・前日VWAP乖離・出来高急増・ニュースの有無という基本セットで十分戦えます。
  3. 管理の徹底:勝率ではなく、イベント当日限定の「想定外のトレンド」への損切り速度が、最終損益を決めます。

なぜT+2が効くのか(超入門)

T+2は「約定から2営業日後に資金と株券が実際に受け渡される」というルールです。月末や四半期末の残高を基準に報告・評価が行われる運用機関は、受渡日ベースで残高を整える必要があり、月末直前の約定が月内に受け渡しできるかどうかを意識します。これが売買の前倒しや、当日のVWAP志向(出来るだけ平均価格に寄せる行動)を生み、終日や寄り直後に特有のバイアスを残します。

配当についても同様です。権利付最終日と権利落ち日の間は、短期の需給が大きく動きます。権利取りの買い、ヘッジの売り、クロス解消など、受渡し日に整うようにフローが連鎖して、翌営業日や当日の寄りにギャップが出やすくなります。

本記事で狙う3つのシナリオ

  1. シナリオA:月末・四半期末のT+2需給反転デイ…月末の2~3営業日前からの前倒しフローが、イベント当日に一時反転しやすい。
  2. シナリオB:配当権利落ちの「過剰ギャップ埋め」スイング…理論落ち分以上に下落した銘柄の、1~5営業日での平均回帰。
  3. シナリオC:指数リバランス日(例:月末)VWAPバイアス…当日の終日でVWAP回帰性が高まり、引け前の偏りをショートレンジで拾う。

準備する無料ツールとデータ

  • 証券口座(成行・指値・逆指値・逆指値成行が使えること)
  • チャート(1分~5分足、VWAP表示、前日高安・当日高安、出来高)
  • 銘柄監視リスト(TOPIX Core30、日経225、流動性上位ETFなど20~50銘柄)
  • カレンダー(営業日カウントで月末・四半期末・権利付最終日・権利落ち日を可視化)

これだけで十分始められます。最初は上場企業の大型株や流動性の高いETFに限定するのが安全です。

シナリオA:月末・四半期末のT+2需給反転デイ

狙い:前日まで「買われ過ぎ(または売られ過ぎ)」だった銘柄が、イベント当日序盤に逆方向へ短期反転する現象を取りに行きます。

観測シグナル

  1. 前日終値のVWAP乖離が±1%以上(大型銘柄基準の一例)
  2. イベント当日の寄り直後に出来高急増(5分合計が平均の1.5~2倍など)
  3. 寄り付近のスプレッドが安定(板の薄さでスリッページが大きくない)

エントリー

  • 寄りから5~15分の間に、前日方向と逆向きのプルバックで小口約定を複数回に分けて執行。
  • 当日VWAPを背に、小さく損切り(VWAPから0.3~0.5%逆行で機械的に撤退)。

イグジット

  • 当日VWAPタッチで半分利確、残りは当日高安の半値戻しまたは引けで手仕舞い。

ポジションサイズ目安:1トレードあたり口座残高の0.5~1.0%リスク。損切り幅0.5%なら、最大損失が残高の0.5~1.0%となる数量に調整します。

実例(仮想)

月末が金曜日である週の水曜日がT-2。火・水に買いが先行した大型株Aが+3%、VWAP+1.2%。金曜寄りでギャップアップ後に5分で反転。VWAPを背にショートを薄く分割で作り、VWAPタッチで半利確、残りは前日終値付近で手仕舞い、という流れです。

シナリオB:配当権利落ちの「過剰ギャップ埋め」スイング

狙い:権利落ち日に理論落ち(配当分)を超えて過剰に下げた銘柄が、1~5営業日で平均回帰する動きを狙います。当日終値~翌日寄りのギャップまで含めて検討します。

観測シグナル

  1. 権利落ち日の終値時点での下落幅が理論落ち分+α(例:配当1.0%に対し、下落1.8~2.5%)
  2. ニュースで構造悪化がない(減配、業績下方修正などは除外)
  3. 出来高は平常の2倍前後で過熱しすぎない(パニック売りは除く)

エントリー:権利落ち当日の引け成り、または翌営業日寄りで半分ずつ。過熱が強い場合は3分割

イグジット:反発1.0~1.5%で半利確、5営業日経過で残り自動手仕舞い(時間の分散)。

注意:税率や配当課税の扱い、配当再投資タイミングは人により異なります。本手法は価格の平均回帰だけを対象にします。

シナリオC:指数リバランス日のVWAPバイアス

狙い:指数連動ファンドは当日出来るだけVWAPに近い価格で執行したいと考えがちです。結果として、引けにかけて一方向に偏った需給が、短時間の平均回帰を生みます。

手順

  1. 当日朝に監視銘柄の前日乖離、ギャップ方向、出来高ペースを確認。
  2. 14:30以降、VWAPからの乖離が±0.8~1.2%のレンジで推移する銘柄を抽出。
  3. 15:00に向けて乖離縮小が続くなら、VWAP方向に短期エントリー。15:00の引け成りで手仕舞い。

損切り:逆行0.4~0.6%で即時撤退。引け間際の連続約定気配悪化には特に注意します。

監視リストの作り方(初心者向け最小セット)

  1. 流動性上位の大型株・ETFから20~30銘柄を選定。
  2. 毎朝、前日VWAP乖離当日ギャップ前場出来高で色付け(例:乖離1%超=黄色)。
  3. イベントカレンダーに「月末」「四半期末」「権利付最終日」「権利落ち日」を登録し、営業日ベースでT+2の関係をメモ。

この3点を一枚のシートにまとめるだけで、かなり戦いやすくなります。

具体例:四半期末が金曜日のケース

四半期末が金曜(月末と同日)の場合、受渡しを考えると水曜・木曜にフローが集中しやすく、金曜当日の序盤に反転が起きやすい、という仮説が成り立ちます。水木に買われた銘柄を金曜序盤で逆方向にデイで取り、当日VWAPで半分利確、引けまで伸ばす、という運用が典型です。

実装:Excel/スプレッドシートの設定例

営業日カウントとT+2の自動算出だけで、精度が一段上がります。

<!-- 疑似的な関数例 -->
=WORKDAY(期末日, -2)   <!-- T-2(受渡し考慮での最終安全約定日) -->
=IF(当日が期末, "VWAP回帰監視", "")

銘柄ごとのシグナルは、前日VWAP乖離・当日出来高ペースを閾値化して色付けすればOKです。

最小バックテスト(手作業ベース)

  1. 監視20銘柄で、直近12ヶ月の「期末当日」を抽出(12サンプル)。
  2. 各日で「前日まで一方向に+/-2%以上進んだ銘柄」を最大3つ選ぶ。
  3. 寄り後10分の反転でVWAP方向にエントリー、逆行0.5%で損切り、VWAPタッチで半分利確、引けで残り手仕舞い。
  4. 勝率と平均損益を集計。

まずは手でやってみて、感触を掴んでから自動化に進むのが安全です。

よくある失敗と対処

  • ニュース無視:悪材料の本質を見落とすと、イベント歪みよりニュースドリブンが勝って損切り連発。必ずヘッドライン確認。
  • 板が薄すぎ:スリッページで優位性が消滅。最初は大型株・ETFに限定。
  • 損切りの遅れ:「VWAPを背にした損切り」を機械化。逆行0.4~0.6%で自動撤退。
  • 過度な同時保有:イベントは相関が強くなりがち。2~3銘柄に限定、総リスクを一定に。

ミニ自動化:MQL4の超シンプル雛形(学習用)

以下は「月末当日のみ」「当日VWAPを背に短期逆張り」をシミュレーションする学習用EA雛形です。実運用の前にデモ口座で挙動を理解してください。

/*
  学習用EA(概念実装)
  条件:月末当日、当日VWAPから±X%逆張り、逆行で損切り・VWAP回帰で利確
*/
int OnInit(){ return(INIT_SUCCEEDED); }
void OnTick(){
  datetime now = TimeCurrent();
  int day   = TimeDay(now);
  int month = TimeMonth(now);
  int year  = TimeYear(now);
  // 月末判定(翌日が月初かどうかで代用)
  datetime tomorrow = now + 24*60*60;
  bool isMonthEnd = (TimeMonth(tomorrow) != month);

  if(!isMonthEnd) return;

  double vwap = iCustom(Symbol(), PERIOD_M5, "VWAP", 0, 0); // 仮:VWAPインジを想定
  double price = SymbolInfoDouble(Symbol(), SYMBOL_BID);

  double threshold = 0.008; // 0.8%
  double stopPct   = 0.005; // 0.5%

  // 価格がVWAPより上に0.8%離れていればショート試行、下に離れていればロング試行
  if(price > vwap * (1.0 + threshold)) {
    // ショート新規(ポジション数や時間帯チェックは割愛)
    // 逆行0.5%で損切り、VWAPタッチで利確
  } else if(price < vwap * (1.0 - threshold)) {
    // ロング新規
  }
}

学習のねらいは「条件を日付とVWAPに限定」して、イベント日のを身体で覚えることです。実装詳細(ロット計算、スプレッド、時間帯制御など)は段階的に足してください。

Pine補足:監視銘柄のイベント当日アラート

//@version=5
indicator("Month-End VWAP Watch", overlay=true)
isMonthEnd = month != month(time + 24*60*60*1000)
vwap = ta.vwap
plot(vwap, linewidth=2)
alertcondition(isMonthEnd and math.abs(close/vwap - 1) > 0.008, "VWAP±0.8% 逸脱", "VWAP±0.8%を超えました")

スクリーナー感覚で使い、「今日は月末=監視を強化」という習慣化が大切です。

リスク管理の核(初心者こそ徹底)

  • 1トレードの想定損失は口座残高の0.5~1.0%に固定。
  • 最大同時保有は2~3銘柄、イベント日は相関リスクが高い前提。
  • ギャップに巻き込まれたら粘らず撤退。翌営業日で仕切り直す。
  • 毎回、想定と結果の差分を「原因」「対策」「再発防止」に分けて日誌化。

チェックリスト(印刷推奨)

  1. 営業日カレンダーに「月末」「四半期末」「権利付最終」「権利落ち」を登録したか。
  2. 監視リストの前日VWAP乖離と当日出来高ペースを色付けしたか。
  3. ニュースの有無を確認したか(重大材料なら見送り)。
  4. 当日VWAPと損切り幅を先に決めたか(逆行0.4~0.6%)。
  5. 分割エントリーと半利確のルールを守れるか。
  6. トレード後に日誌へ即記入したか。

Q&A

Q. どの市場・どの銘柄でも使えますか?
完全ではありません。流動性・指数採用・ニュース有無で効き方が違います。最初は大型株・ETFに限定してください。

Q. 期間を長く持つほど有利ですか?
本手法は「日付イベント」に依存する短期手法です。期間が長すぎるとニュースや需給の別要因が支配的になります。

Q. テクニカル指標は何を使えば?
VWAP、当日・前日の高安、出来高で十分です。複雑にするほど再現性は下がります。

まとめ

市場インフラ(T+2、権利日、指数リバランス)は、カレンダーで予見できるフローの偏りを生みます。月末・配当前後・リバランス日に絞り、VWAPと出来高だけで監視・実行・管理する。これを習慣化すれば、初心者でも再現性のある小さな期待値を積み上げられます。まずは監視リストとチェックリストを整備し、デモや最小サイズでの運用からスタートしてください。

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