本記事では、日本株のPTS夜間取引と決算サプライズを組み合わせ、翌日の寄り付きから前場にかけて生じやすい価格ギャップ(gap)を狙うデイトレード手法を、初心者の方でも取り組めるレベルで具体的に解説します。いわゆる「当日PTSの材料→翌日ギャップ」の流れを定義化し、準備・情報収集・売買手順・リスク管理・検証まで一気通貫で学べます。一般論ではなく、実務に即したノウハウを丁寧に記述します。
- 前提:PTSとギャップの基礎
- 戦略の骨子(全体像)
- 必要な準備(口座・情報・画面)
- 口座開設の実務(初心者向け)
- データの拾い方と一次判定
- シグナル定義(継続狙い/窓埋め狙い)
- 売買手順(当日PTS → 翌日寄り~前場)
- 損切りとポジションサイズ(数式で明確化)
- 実例(架空データで計算過程を可視化)
- 検証手順(初学者でもできるスプレッドシート検証)
- 板読み・歩み値で見る継続性チェック
- ニュースの読み方(短時間評価のコツ)
- 二つのプレイブック(具体的な発注例)
- よくある失敗と対策
- 実装チェックリスト(当日~翌朝)
- FAQ(初心者の疑問)
- 用語ミニ解説
- まとめ
- 追加:監視リストとテンプレートの作り方
- 追加:初心者のための板画面の読み方(超要約)
- 追加:ミニ・チェックポイント(エントリー直前)
前提:PTSとギャップの基礎
PTS(私設取引システム)は、証券取引所の立会時間外に投資家同士が株式を売買できる仕組みです。国内主要ネット証券の多くが対応しており、通常の東証立会終了後(15:00以降)に決算発表や重要IRが出た場合でも、夜間の早い段階から価格が先に動くことがあります。これが翌日の寄り付き価格に影響し、終値との差がギャップとして現れます。
ギャップには上方向(ギャップアップ)と下方向(ギャップダウン)があり、材料の強弱・PTSでの出来高・翌朝の寄り気配の偏りなどによって、「継続(続伸・続落)」か「反転(窓埋め)」のパターンに分岐します。本戦略では、継続を狙う型と反転(窓埋め)を狙う型の2系統を定義し、状況に応じて使い分けます。
戦略の骨子(全体像)
この戦略は以下の3要素で構成します。
- トリガー:決算サプライズや重要IR(上方修正・受注大型案件・買収・資本業務提携など)
- 流動性の先行:PTSでの価格と出来高の変化(終値比±3~5%超の動きと分時出来高の拡大)
- 翌日の実行:寄り付きの成り行き・指値の使い分け、初動5~30分の板と歩み値観察、逆指値での迅速な撤退
ポイントは、材料の質(定量+定性)とPTSの出来高質(細切れ約定か大口連続か)を必ず同時に見ることです。ニュースが強くても出来高が伴わない場合は「打ち上げ花火」になりやすい一方、平凡な材料でも継続的な買い需要(または売り需要)が付けばトレンド化します。
必要な準備(口座・情報・画面)
実務では以下を事前に整えます。
- PTS対応の証券口座:主要ネット証券の多くが対応しています。口座開設後、PTS取引の利用申込をオンにします。
- 適時開示(決算)とニュースの監視:決算短信、業績修正、開示の予定時刻を一覧化します。IR配信のアラート機能を活用すると取りこぼしが減ります。
- 板・歩み値の確認環境:価格だけでなく、直近の約定連や指値の厚みを見ることで、短期の継続性を推定します。
- リスク管理テンプレート:損切り幅、1回当たり許容損失、連敗時のドローダウン制限を事前に数値化します。
口座開設の実務(初心者向け)
初心者の方は、まず手数料体系が明快でPTSに対応したネット証券を選びます。一般的な手順は次のとおりです。
- Webで新規口座申込(本人確認・マイナンバーの送付)
- 審査完了後、ログイン設定と2段階認証を有効化
- 入金方法(即時入金・振込)をテストし、少額で入金動作を確認
- 取引ツールのインストールまたはWeb画面のレイアウト保存
- PTS取引を有効化し、売買単位や注文種別(成行・指値・逆指値)をテスト
最初は極小ロットで操作感を掴み、板や歩み値の見方に慣れてからサイズを上げます。
データの拾い方と一次判定
本戦略で重要なのは、材料の質を短時間で評価することです。以下の簡易スクリーニングで一次判定を行います。
- 定量面:会社計画比の乖離、売上・営業利益・最終利益の伸び率、来期ガイダンスの方向性。
- 定性面:一過性でないか、収益構造を変えるインパクトか、競争優位性に直結するか。
- PTSの足取り:終値比±5%超の価格変化、分単位の連続約定と出来高増加、気配の厚み。
一次判定の段階では、「強い・弱い・不明」の三択で十分です。不明の場合は見送ります。見送りの速さが勝率の下支えになります。
シグナル定義(継続狙い/窓埋め狙い)
継続狙い(上方向の例)
- 材料が構造的(例:累積的な受注拡大、粗利率改善が持続)
- PTSで終値比+5~+10%の上昇、分時出来高が波状的に増加
- 上値板が薄く、買い板が厚い(気配の偏り)
- 翌朝の寄り前気配が上方向で、気配値近辺に厚い買い数量
上記を満たせば、寄り付き~初動10分の押しを指値で拾う、あるいは寄成で小ロット→押しで増し玉の戦術を使います。
窓埋め狙い(下方向からの反発も含む)
- 材料が一過性(例:単発の軽量IR、短期的な供給制約)
- PTSで価格は大きく動いたが、出来高が細切れで継続性に乏しい
- 翌朝の気配が過度に偏り、寄り付きで行き過ぎが想定される
この場合、寄り天・寄り底の反転を狙い、寄り直後の反対側ブレイクでエントリー、直近高安にタイトな逆指値を置きます。
売買手順(当日PTS → 翌日寄り~前場)
- 15:00~:決算やIRを収集し、一次判定(強・弱・不明)を付与。監視リストにフラグ。
- 17:00~:PTS気配と出来高を確認。「強×出来高あり」に絞る。
- 前夜:シナリオを二本化(継続/窓埋め)。想定される寄り値からの許容損切り幅を数値化。
- 翌朝の寄り前:板の厚み・気配の偏り・成行買い(売り)の数量を再点検。
- 寄り~10分:初動の方向と出来高を見て、小→中→大の段階的エントリー。逆指値は最初から発注。
- 10~30分:VWAPや直近の押し目・戻り目に注目し、半分利益確定+建値ストップへ引き上げ。
- 30~引け:当日デイトレに徹し、持ち越しは原則しない(初心者は特に)。
板の「厚み」の変化と歩み値の連続性が崩れたら即時撤退します。撤退の速さがトータルのパフォーマンスを決めます。
損切りとポジションサイズ(数式で明確化)
資金100万円、1回あたりの許容損失を口座資金の0.5%(5,000円)に固定する例を示します。許容損失=リスク額、損切り幅=距離(エントリー価格と逆指値の差)とすると、株数=リスク額÷距離で算出します。
例:エントリー1,000円、逆指値950円(距離50円)の場合、株数=5,000÷50=100株。これ以上は買いません。距離が30円なら株数=166株(端数切り捨てで100~200株)。リスク額は一定なので、ボラティリティが大きい銘柄ほど保有株数は小さくなります。
連敗対策:日次の最大許容ドローダウンを1.5%(15,000円)などに設定し、到達したら即終了します。勝てない時間帯は「参加しない」が最適です。
実例(架空データで計算過程を可視化)
以下は完全な架空データです。計算プロセスの理解に使ってください。
状況:終値1,200円。15:10に決算短信が開示され、営業利益が会社計画比+18%の上振れ、来期ガイダンスも+10%。PTSは17:15から出来高が増え、1,260→1,320→1,350円と推移、分時出来高が連続的に増加。
前夜の想定:翌朝の寄りは1,320~1,360円レンジと見積り。継続狙いを第一、窓埋めを第二シナリオに設定。
翌朝:寄り気配1,340円、買い板が厚く、成行買い数量も多い。寄り後、1,332円まで一瞬押す。
エントリー:1,335円で100株、逆指値1,295円(距離40円)。リスク額4,000円。
展開:5分で1,360円、10分で1,378円。半分を1,370円で利確(+3,500円)。残りは建値ストップに引き上げ。
結果:残りも1,392円で利確。合計損益はおよそ+9,700円(スリッページ・手数料等は簡略化)。
このように、入口(材料×出来高)と出口(半利確+建値ストップ)を定型化すると、感情に流されにくくなります。
検証手順(初学者でもできるスプレッドシート検証)
- 過去四半期の決算発表日をリスト化(10~30社程度で十分)。
- 各日の終値、PTS高安、翌日の寄り値・前場高安を取得。
- 材料の質を3段階でメモ(強・弱・不明)。
- シナリオ(継続/窓埋め)ごとに仮エントリーを記録し、同一ルールで損益を集計。
- 勝率、平均損益、プロフィットファクター、最大DDを算出。
- ロットを固定のまま、損切り幅だけを最適化し、過学習を避けるためにルールの数は絞る。
重要なのは、ルールは少数・数値は固定にして、銘柄や時期に依存しすぎないことです。検証の一貫性が実弾投入時の再現性につながります。
板読み・歩み値で見る継続性チェック
短期継続の可能性は、歩み値の連続性と指値の厚みの移動に現れます。たとえば買い板が徐々に上に移動し、下の買い板が薄くならない場合は需要が分厚い可能性があります。一方、上値板が一気に厚くなるのは「蓋」の出現で、上げ止まりの予兆です。
約定が「大口→小口→大口」とリズムよく続くときは、アルゴや裁量の買い需要が混在している可能性があり、初動の勢いが継続しやすい傾向があります。
ニュースの読み方(短時間評価のコツ)
- ガイダンスの方向性:来期予想の増減率と、当期のサプライズ方向が一致しているか。
- 粗利率・販管費:売上の伸び以上に粗利率改善・販管費抑制が効いていると構造的。
- 一過性の判別:スポット案件や補助金依存は一過性の可能性。
- 競争優位:新製品・特許・チャネル拡大など、翌四半期以降に波及するか。
全文を精読する時間は限られるため、上記のチェックポイントをテンプレ化し、60~120秒で一次評価できるようにします。
二つのプレイブック(具体的な発注例)
Playbook A:継続狙い
寄成100株→直後の押し目(±0.5~1.0%)で指値100株→直近押し目割れに逆指値。利益確定は+2~3%で半分、残りはVWAPを割れたら全決済。
Playbook B:窓埋め狙い
寄り直後の反転ブレイクで小ロット→直近高安の外側にタイトな逆指値。+1.0~1.5%で半分利確、建値ストップへ移行。伸びない時は粘らない。
よくある失敗と対策
- 材料だけで突撃:出来高が伴わない場合は様子見。PTSで継続約定があるか確認。
- 逆指値の未設定:設定しないと1回の失敗が大損に直結。最初に置くを習慣化。
- ロット過大:連敗すると冷静さを失う。最初は最小ロットで統計を作る。
- 持ち越し:初心者は当日デイトレに限定。翌日のギャップ逆行は致命傷になりやすい。
- ニュース未確認:掲示板の噂は不十分。一次情報(適時開示)を優先。
- 感情トレード:ルール外の行動は集計不能。検証できないものはやらない。
実装チェックリスト(当日~翌朝)
- 決算カレンダーの確認とアラート設定
- 15:00以降の適時開示を収集し、強・弱・不明でタグ付け
- PTSの気配・出来高推移を観察し、監視リストを3~5銘柄に絞る
- 翌朝の板の厚みと成行数量を確認、シナリオと逆指値を数値化
- 寄り~10分の段階的エントリー、10~30分の半利確と建値ストップ
- 取引終了後に記録(材料、出来高、結果、反省点)
FAQ(初心者の疑問)
Q. ニュースを読む自信がありません。
A. 会社計画比の乖離、ガイダンス方向、粗利率・販管費の3点に絞れば短時間で一次評価できます。迷ったら「不明=見送り」です。
Q. どの銘柄でも通用しますか。
A. 出来高が細い小型株はスリッページが大きく、初心者には不向きです。適度な流動性がある銘柄に限定しましょう。
Q. 夜間PTSで先に買って翌朝寄りで売る方法は?
A. 可能ですが、ニュース解釈違い・気配反転のリスクが大きいです。最初は翌朝の板と出来高を確認してからでも十分です。
Q. 持ち越しはダメですか。
A. 初心者は当日手仕舞いに徹する方が安全です。統計が溜まり、優位性が確認できてから検討してください。
用語ミニ解説
- PTS:取引所外の私設取引システム。夜間に売買が可能。
- ギャップ:前日終値と翌日寄り付きの価格差。
- VWAP:出来高加重平均価格。短期の重心。
- 逆指値:損切りやブレイク狙いに使う条件付き注文。
まとめ
PTS夜間の価格先行と決算サプライズの掛け算で、翌日のギャップと初動トレンドを狙う手法は、情報の速さ×出来高の質×機械的な撤退の三点で優位性を作ります。最初は極小ロットで、見送りの速さ・損切りの速さ・半利確の徹底を体に染み込ませてください。統計が溜まれば、勝ちパターンと負けパターンがはっきりと見えてきます。
追加:監視リストとテンプレートの作り方
決算期には銘柄数が多すぎるため、事前の監視リスト整備が必須です。売上・利益の伸びが続いているセクター、直近でボラティリティが高いセクターを中心に、10~20銘柄を「重点」として登録します。各銘柄に対して、終値、平均出来高、直近高安、直近の材料履歴、来期テーマをメモしておくと、当日の判定が速くなります。
テンプレート例(メモ項目):
・当期実績(売上/営業/最終)と会社計画比
・来期ガイダンス(売上/営業/最終)とコンセンサス比(不明なら会社計画比のみ)
・粗利率と販管費率の推移
・PTSの終値比変化(%)、分時出来高推移、気配の厚み
・翌朝寄り前の成行買い/売り数量、上位板の厚み
・想定シナリオ(継続/窓埋め)と逆指値水準
追加:初心者のための板画面の読み方(超要約)
板の「厚み」は支え・重しの手掛かりですが、厚みは移動します。真に重要なのは、厚みがどちらへ移動しているか、移動速度は速いか遅いかです。上方向へ厚みがスライドし続け、歩み値が連続しているときは継続が期待できます。一方で、厚い売り板が突然出現し、約定が細ると反転のサインになりやすいです。
追加:ミニ・チェックポイント(エントリー直前)
- 出来高は直近5分・10分で上向きか
- 直近の押し目・戻り目を破っていないか
- 逆指値はすでに発注済みか(未発注なら見送り)
- ロットはリスク額から算出したか(感覚で増やしていないか)
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