PTS夜間×寄り付きギャップ・リバーサル入門:日本株で始める実践メソッド

投資入門

本稿では、日本株の夜間PTS(私設取引システム)の価格と、翌朝の東証寄り付きに生じる「ギャップ(前日終値との差)」を組み合わせた、初心者向けの短期リバーサル戦略を解説します。専門用語をできるだけ平易にし、口座開設から銘柄抽出、注文の置き方、エグジット設計、検証方法、リスク管理まで、実務の手順で整理します。再現性を重視し、裁量に依存しすぎないシンプルなルールで構成します。

リバーサル戦略とは、短時間に過度に動いた価格が平均回帰しやすい性質を狙う手法です。夜間PTSは参加者が限られ流動性が薄いため、ニュースや需給に対して過敏に反応して価格が振れやすい一方、翌朝の寄り付きでは参加者が増えて価格が調整されることが少なくありません。この「行き過ぎ→戻り」の動きを構造的に狙います。

スポンサーリンク

戦略の全体像(30秒で理解)

①前日終値に対して夜間PTSが一定以上乖離した銘柄を抽出します。②翌朝の寄り前気配や売買代金見込みで過剰反応の可能性を評価します。③寄り付き(または初動の確定)で逆張り方向にポジションを取り、④短時間の平均回帰で利確する、という流れです。ショートを使わず、ギャップダウンに対する買いのみの運用から始めると、初心者でも取り組みやすいです。

基礎知識:PTS・寄り付き・ギャップ

PTSとは

PTSは証券取引所の外で株式を売買できる私設のマーケットです。日中の取引時間外でも売買できるため、引け後の決算やニュースに対する初期反応が表れやすい一方、参加者が少なくスプレッドが広がりやすい特徴があります。出来高が薄い時間帯の約定は、価格の歪み(フェアバリューからの乖離)を生みやすいです。

寄り付きと板寄せ

東証の寄り付きは「板寄せ」という方式で始まります。市場開始時点の成行・指値注文を突き合わせ、最も約定数量が大きくなる価格でマッチングが行われます。寄り付き前の「気配値」は仮の均衡価格であり、直前に成行注文が流入すると均衡が一気に変わることもあります。このため、寄り直前の板の厚みと成行比率は重要な観察ポイントになります。

ギャップの定義

本稿では「ギャップ」を、前日終値に対する翌朝寄り付きの乖離率として定義します。一方で「PTSギャップ」は、前日終値に対する夜間PTS終値(または終盤の約定価格)の乖離率です。PTSギャップが大きいのに対し、市場参加者が増える寄り付きでその乖離が縮小するなら、平均回帰の余地があると考えます。

口座開設と環境整備

まずは、PTSに対応している証券口座が必要です。国内主要ネット証券の多くがPTSに対応していますが、取り扱い市場や時間帯、手数料体系、手数料の割引条件、アルゴ注文の可否、スマホアプリの板情報の見やすさなどが異なります。複数口座を用意すると fills(約定機会)を逃しにくくなりますが、最初はメインの1口座で十分です。

開設手順の概略

1) 本人確認(eKYC)とマイナンバー提出、2) 銀行口座の登録、3) 入金テスト、4) 取引アプリのセットアップ、5) PTS取引の利用設定と時間帯の確認、という順で進めます。ついでに信用口座を同時申請しておくと、将来的にショート戦略へ拡張しやすくなります(最初は現物買いのみで構いません)。

情報画面の必須チェック項目

・前日終値と当日の日中現物市場の終値(比較基準)/・夜間PTSの価格・出来高・気配/・寄り前の気配値と出来高見込み/・直近の材料(決算、開示、レーティング)/・貸借銘柄かどうか(将来の拡張を見据え)。

戦略ルール(初心者向けロング限定版)

はじめは「ギャップダウンのリバーサル買い」に限定するのが安全です。以下は最小限のルールセットです。各ルールの背景・例外・代替案も後続の章で詳述します。

抽出(前日のスクリーニング)

①売買代金の大きい銘柄(例:日中平均出来高が上位の銘柄群)に絞ります。②引け後〜夜間でPTS終値が前日終値より−2%〜−6%ほど下落している銘柄を候補とします。③夜間の出来高が極端に薄すぎる場合は除外します(数十株・数百株の約定で動いた価格はノイズになりやすいからです)。

寄り前の確認

④寄り前の気配値がPTS終値と同水準またはそれよりやや上で、成行売りが一巡すれば均衡しやすい板構造になっているかを見ます。⑤直近に悪材料の継続性がないか(増資、業績急変の下方修正など)を確認します。短期の需給で説明できる仮説を優先します。

エントリー

⑥寄り付き成行ではなく、寄り後の初動で「下振れが止まったのを確認してから」指値で拾うのが無難です。具体的には、寄り付きから最初の1〜3分の安値を更新しなくなったタイミングで、出来高が縮小し始めたら小さく分割で指します。スプレッドが広い銘柄は無理に追いかけません。

エグジット

⑦目標は当日内の平均回帰です。利確は「VWAP付近」「寄り付き価格からの+0.8%〜+1.5%」「10:00までに戻らなければ撤退」などの時間・価格・出来高基準を併用します。損切りは「エントリー後に最安値を更新」「出来高を伴って陰線が続く」など明確な否定シグナルで即時実行します。

サイズと分割

⑧1トレードあたりの想定損失が口座残高の0.5〜1.0%を超えないサイズに抑え、3〜5回に分割して入ると、最初の一撃で掴むリスクを回避できます。平均取得単価を意識し、逆行時は早めに撤退します。

拡張:ショートを含む両建て版

経験を積んだら、ギャップアップに対するショート(空売り)も検討できます。空売りは制度上の制約(貸株の有無、価格規制など)が多く、損失が理論上無限になるため、必ず小さなサイズから始めます。ルールはロングの鏡像です。PTSで+2%〜+6%の上振れ、寄り前に成行買いが厚いが、直近材料が一過性(過大反応)の可能性が高いとき、寄り付き後の戻りを待って逆張りします。踏み上げリスクが高いので時間撤退をより厳格にします。

なぜ機能し得るのか:行動ファイナンスと市場構造

夜間PTSは参加者が限定され、情報の非対称性が強く、かつ流動性プロバイダーが少ないため、価格インパクトが大きくなりがちです。情報の鮮度に敏感な投資家が早期に反応し、連鎖的に価格が振れます。一方、翌朝の寄り付きには流動性が流入し、過剰反応が是正されやすくなります。これは「過剰反応と平均回帰」「流動性ショックの反転」という行動ファイナンス・市場マイクロストラクチャの古典的な現象です。戦略のエッジは、薄い市場と厚い市場の切り替わりに着目する点にあります。

実務ワークフロー(朝の60分)

前日〜夜間

1) ニュース・開示を一読し、決算・材料の強弱を大まかに把握します。2) PTSの値動きと出来高を記録します。3) 候補銘柄のPTS乖離率を算出し、乖離が大きく出来高が伴う銘柄をショートリスト化します。

市場開始前(8:00〜)

4) 寄り前の気配で、成行比率と板の厚みを確認します。5) 日経先物・セクターETFの気配で地合いを点検します。6) ルールに合致した場合のみ、エントリー価格帯と撤退基準をメモに固定します。

寄り〜前場

7) 初動の方向と出来高を見て、逆行の勢いが衰えたタイミングで分割して入ります。8) 戻り局面では、VWAPや寄り値付近で部分利確します。9) 想定シナリオが崩れたら、時間・価格・出来高のいずれかで潔く撤退します。

具体例(数値シミュレーション)

仮に銘柄Aの前日終値が1,000円、夜間PTS終値が950円(−5%)まで下落したとします。寄り前の気配は960円前後で、成行売りが多いものの気配は次第に上がっています。寄り付きは958円。寄り後に955円まで一瞬下振れした後に反発し、出来高が落ち着き始めました。950〜955円の厚い買い板が観察できたため、955円で1単位、953円で1単位と分割でエントリーします。戻りでVWAPが967円、寄り値が958円でした。VWAP付近の967円で半分、寄り値付近の958〜960円で残りを利確し、平均売却962円、平均取得954円、+0.8%の利益となりました。一方でシナリオ否定のサイン(出来高を伴う陰線継続)が出た場合は、952円割れで即撤退というルールを事前に固定しておきます。

検証(バックテストとフォワードテスト)

データの取り方

最小限の検証でも、以下をCSVで蓄積します。銘柄コード/日付/前日終値/PTS終値(または最終約定)/PTS乖離率/寄り付き価格/寄り付きからの最安値・最高値/当日VWAP/出来高要約/ニュースの有無。5つの指標(PTS乖離、夜間出来高、寄り前成行比率、ギャップの方向、セクター地合い)のうち、どれが勝率に寄与しているかを集計します。

ルールの固定

検証結果に基づいて「採用ルール」を固定します。例えば、PTS乖離−3%〜−6%かつ夜間出来高が日中平均の5%以上、寄り前の成行売り比率が60%未満など、具体的な閾値で条件を定義し、裁量判断を最小化します。勝率・期待値・最大ドローダウン・1トレードの平均保有時間を併記しておきます。

フォワードテスト

紙トレード(シミュレーション)で2〜4週間、日々のルール適合銘柄を記録し、実行可能性(スリッページや約定性)を確認します。実弾移行は最低サイズで開始し、勝率・平均損益・ヒット率が検証と大きく乖離しないことを確かめてからロットを上げます。

注文設計の実務:スリッページと約定性

短期戦略では「入れる価格で入る」のが最優先です。成行は約定性が高い一方、ギャップが拡大して不利な価格を掴むリスクがあります。基本は「寄り後に下げ止まりを確認して指値」「薄い板には分割」「約定後すぐ逆行ならいったん逃げる」です。出来高の多い銘柄・時間帯を選ぶことが、戦略そのもののエッジと同じくらい重要です。

リスク管理:守るための8原則

1) ニュースの継続性を軽視しない(構造的な悪材料は平均回帰しにくい)。2) 出来高のないPTSはノイズと割り切る。3) 1トレードの損失上限を資産の1%以内に固定する。4) 連敗時は自動でサイズを半減する。5) シナリオ否定のシグナル(出来高を伴う新安値・新高値)でためらわず撤退。6) 同一セクターにポジションを集中させない。7) 決算発表の直後は時間撤退を短くする。8) 記録を毎日つけ、毎週見直す。

よくある失敗と回避策

・PTSの最終約定だけを信じてしまう:終盤の1ティックに引っ張られないよう、加重平均や出来高の伴い方も確認します。・寄り成行で全量を掴む:最小ロットで初回テスト、様子を見ながら段階的に追加します。・悪材料の本質を見誤る:一過性か構造的か、決算の定性的な説明にも目を通します。・利確を引っ張り過ぎる:当日内の平均回帰を狙う戦略では、伸ばし過ぎずに計画通りのゾーンで手仕舞います。

戦略の拡張と応用

・セクターの地合いフィルター:同業種ETFや先物の気配で地合いが逆風のときは見送ります。・ボラティリティ連動ロット:前日または当日の実現ボラに応じてポジションサイズを調整します。・イベント回避:大型のマクロイベント(政策金利、要人発言)や指数リバランス日は、ノイズが多いので見送ります。・組み合わせ:デイ終盤のリバーサル(大引け前の戻り)と合わせると、一日の中で複数の平均回帰ポイントを狙えます。

用語集(初心者向け)

PTS:私設取引システム。取引所外での売買市場です。
寄り付き:市場開始時の最初の約定価格。板寄せ方式で決まります。
ギャップ:前日終値と翌朝寄り付きの価格差(乖離率)。
VWAP:出来高加重平均価格。平均回帰の目安に使います。
成行・指値:価格を指定しない注文と、指定する注文。約定性と価格の確実性のトレードオフです。

チェックリスト(印刷して使えます)

□ PTS乖離率が閾値内か(−3%〜−6%など)。□ 夜間出来高は十分か。□ 寄り前の成行比率と板の厚みは許容か。□ 材料は一過性か。□ エントリー価格帯と撤退基準を事前に固定したか。□ ロットは損失上限1%以内か。□ エントリー後に最安値更新→即撤退の準備はあるか。□ 10:00までに戻らなければ時間撤退か。

まとめ

夜間PTSは流動性が薄く、価格が振れやすいがゆえに、翌朝の寄り付きで平均回帰が起きやすい場面が生まれます。本稿のルールは、初心者が過度な裁量に頼らずに実行できるよう、銘柄抽出・寄り前の確認・分割エントリー・時間撤退・損失上限という堅実な枠組みで構成しました。小さく始め、データで振り返り、少しずつ改良を重ねていくことで、再現性のある短期手法へと育てることができます。

付録:簡易スプレッドシート設計図

列例:日付/コード/銘柄/前日終値/PTS終値/PTS乖離%/寄り付き/当日安値/当日高値/当日VWAP/ニュースの有無/寄り前成行比率/結果(勝ち・負け)/損益%。関数例:=IF(AND(PTS乖離%<=-0.03, 夜間出来高>=閾値, 成行比率<=0.6), “エントリー候補”, “”)。週次でピボットを作り、条件ごとの勝率・平均損益・最大DDを確認します。

ケーススタディ(追加)

ここでは、過去の相場環境を想定した3つのパターンを丁寧に追跡します。まず「地合い逆風のギャップダウン」です。前日終値からの下落が−4.2%で夜間PTSはさらに売られていましたが、寄り前の成行売り比率は高く、板は薄く、地合いも弱い状況でした。こうした場面では無理をせず、寄り直後の売り一巡を確認してから最小ロットで試し、すぐにVWAPに接近したところで薄利撤退とします。次に「地合い追い風のギャップダウン」です。PTSの下げに対して先物やセクターETFは底堅く、寄り後は買い板が厚く形成され、出来高が減少しながら価格がじわりと戻る展開でした。このときは分割で買い下がり、平均取得単価を調整し、寄り値やVWAPで段階的に利確していきます。最後に「ギャップアップの過熱反転(上級編)」です。空売りが可能な口座であっても、踏み上げや価格規制のリスクが高いため、戻り待ちの指値と時間撤退の厳格運用が肝要です。

各ケースで重要なのは、事前に「やらない条件」を言語化しておくことです。例えば、連続ストップ安・ストップ高の翌日、希薄化を伴う大型の資本政策、経営破綻関連、監理・整理銘柄などは、初心者のうちは一律で回避します。また、寄り付き直後の出来高が極端に少ない場合は、平均回帰のシナリオ自体が成立しにくいため、見送りが賢明です。

ミニFAQ

Q. 何銘柄くらい監視すべきですか? A. はじめは3〜5銘柄で十分です。観察の質が落ちるほど成果が不安定になります。
Q. ニュースはどこまで読むべき? A. タイトルと要点だけでも構いませんが、定性的な説明文に「一過性か構造的か」を判断するヒントが隠れています。
Q. 自動化できますか? A. 乖離率の計算や候補抽出はスプレッドシートで容易に自動化できます。発注は最初は手動のままにし、再現性が確認できたら段階的に省力化します。
Q. どのくらいの資金規模から可能? A. 取引単位の小さい銘柄を選べば、数十万円からでも運用可能です。まずは損失上限を厳格に守れるサイズから始めます。

運用日誌の書き方

トレードの直後に、仮説・観察・決定・結果・改善点の5行で日誌をつけます。特に「撤退のトリガー」がルール通りだったかを毎回確認します。週末には勝ち負けだけでなく、どの条件でエントリー回避できたかを振り返ると、無駄な損失を減らす効果が大きくなります。

行動原則(初心者のうちに身につけたいこと)

・最小サイズから始める/・分割を徹底する/・時間撤退を怠らない/・毎回の仮説を言語化する/・実行後すぐに記録する/・週次で小さく改良する。これらは将来、戦略を増やしたときにも通用する普遍的な原則です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました