『ナイトブリッジ戦略』入門:PTS夜間×東証の価格乖離を使って小さく勝ちを積む実践ガイド

投資入門

本記事では、東証の立会時間外に稼働するPTS(私設取引システム)の夜間価格と、翌営業日の東証寄付き価格の「橋渡し(ブリッジ)」で生まれる乖離を小さく狙う手法を、投資初心者でも安全サイドで取り組めるよう体系的に解説します。専門的な数式は極力避け、手順と判断軸を具体化し、実務で迷わないように設計しています。

戦略の要点(まず結論)

「ナイトブリッジ戦略」は、東証引け値を起点に、夜間PTSの価格乖離を観察し、翌日の東証寄付きで確定させる超短期(オーバーナイト)戦略です。狙いは大きな値幅ではなく、統計的に再現しやすい小さな歪みの回収です。勝率や利益幅を“盛る”のではなく、再現性・執行容易性・資金効率の3点を重視します。

  • 取引対象:東証の主要銘柄(出来高・板厚が十分で、PTSでも一定の約定が見込める銘柄)
  • 想定保有:夜間〜翌朝寄りまでのオーバーナイトのみ(原則デイトレの延長)
  • 入口条件:東証引け値に対するPTSの乖離率が、過去分布に対して統計的に「外れ値」寄り
  • 出口条件:翌日の東証寄り(原則成行または寄付成行同等)で一括クローズ
  • 利益源泉:夜間流動性の希薄化と情報の不完全反映により生じる価格調整
  • 最大のリスク:夜間〜翌朝に発生する新規ニュース・ギャップ・先物急変

PTS夜間取引とは何か(超要約)

PTSは証券取引所とは別の売買システムで、夕方〜夜間にも取引が可能です。東証の板よりも流動性が薄く、スプレッドが広がりやすい一方、ニュースや先物の動きに反応して素早く価格が動くことがあります。これが翌朝の東証寄りで再調整されることが多く、その過程に小さな「歪み」が生まれます。

ポイントは次の3つです。第一に、流動性の差が価格のぶれ幅を拡大します。第二に、参加者の偏り(夜間は主体が限定されがち)が、需給バランスを傾けます。第三に、情報反映の時間差が、翌朝の寄り付きで一気に解消されることがある、という点です。

必要な準備(口座・設定・画面)

本戦略は難しいツールを前提としません。以下の準備を満たせば開始できます。

  1. 国内証券口座の開設:特定口座(源泉徴収あり)を推奨します。オンライン本人確認に対応した総合証券を選ぶと手続きが速い傾向があります。
  2. PTS取引の有効化:口座開設後、取引チャネルの設定でPTSが有効になっているか確認します。夜間の取引時間や手数料体系は証券会社ごとに異なるため、アプリ内の最新表を確認しましょう。
  3. 板情報の確認:夜間の板は薄く、見かけの出来高でミスリードされがちです。気配値と数量、歩み値(約定履歴)が同時に見られる画面が望ましいです。
  4. 指値の初期値テンプレート:成行はスリッページを招きやすいので、基本は指値から始め、寄り前に「寄付成行」に切り替える運用が無難です。
  5. ニュースアラート:夜間のIR、為替・先物、海外指数の急変をスマホで即時プッシュ取得できるように設定します。

戦略ロジックを最小実装に分解する

初心者でも運用できるよう、判断式を最小限に絞ります。

基準価格:東証の引け値(終値)または当日のVWAP。
乖離率(PTS現在値 − 基準価格) ÷ 基準価格

入口(買い)の例:乖離率が−1.2%以下で、夜間の出来高が「普段より増えている」かつ直近の悪材料が未確認。
入口(売り)の例:乖離率が+1.2%以上で、夜間の出来高が「普段より増えている」かつ材料が薄い。

しきい値1.2%は一例です。銘柄のボラや手数料を加味して最適化します。重要なのは「コストを引いたのちに残るエッジ」だけを狙うことです。

執行ルール(エントリー〜手仕舞い)

  1. 想定コストを先に差し引いて判断:売買手数料、PTSのスプレッド、翌朝の寄付成行スリッページを、合算で0.30%相当と仮置きします(各社の最新コストを確認前提)。
  2. 夜間は必ず指値スタート:歩み値の連続性を見ながら、厚めの板の少し内側に待機。飛びつきは厳禁です。
  3. 約定後は数量を増やさない:ナンピンは避け、想定リスクを固定します。約定しなければ「縁がなかった」と割り切ります。
  4. 翌朝の寄りでクローズ:原則として寄付で全決済。例外は、大型ポジションで寄付き前気配が極端に逆行している場合のみ、寄り直後の板の戻りを確認してから分割クローズ。
  5. 同一銘柄の連戦を避ける:同じ銘柄で連日同じ方向に張ると、需給偏りに巻き込まれます。銘柄ローテーションを採用します。

具体的なケーススタディ

ケースA:良材料ニュースでPTSが急騰
引け後18時に中期計画の上方修正が発表。東証引け1,000円に対して、PTSが1,045円(+4.5%)。歩み値は細かく続くが、板は薄い。
判断軸:材料が翌朝の寄りでさらに買いを呼ぶ「本物」か、夜間の流動性不足が作った「行き過ぎ」か。
初心者の型:売りからは入らない。ニュース判定に自信がなければスルー。代わりに「翌朝の寄り付きで強気なら見送る・寄り天の気配なら小さく逆張りで取りに行く」など、夜間で無理をしないのが基本です。

ケースB:悪材料の噂でPTSがジリ安(-1.8%)
未確認情報でPTSが引け値1,000円→982円に下落。ただし歩み値の間隔が広く、出来高も薄い。
初心者の型:買いに傾きやすいが慎重に。IRの有無を公式ページで確認し、噂なら放置。出来高が増えない下げは「薄い板での価格発見」に過ぎないことが多く、翌朝の寄りで戻りやすい一方、戻らない場合の損失も想定します。半分の数量で試し、翌朝の寄りで機械的にクローズします。

サイズ設計と資金管理

初心者は「1銘柄あたりの想定最大損失=口座残高の0.5〜1.0%」を上限とします。寄りでギャップが出ても耐えられる数量に限定し、同時に複数銘柄を持たないのが無難です。

目安式:数量 =(許容損失額)÷(想定最大逆行% × 価格)
想定最大逆行は、過去のギャップ分布(例:95%タイル)を採用します。

エッジの確認:簡易検証のやり方

厳密なティック回帰は不要です。以下の簡易手順で十分に傾向を掴めます。

  1. 対象銘柄を10〜30程度に絞る(大型・主力中心)。
  2. 各銘柄について、東証引け値夜間PTSの終盤価格(例:終盤30分の中値)翌日の東証寄り値を記録します。
  3. 乖離率(PTS vs 引け)と、翌朝のリターン(寄り vs PTS)を散布図にプロットします。
  4. 閾値を±1.0〜1.5%に変化させ、コスト控除後の期待値がプラスになる帯域を特定します。
  5. 勝率だけでなく、下振れ時のロスの深さを必ず確認します。

この作業で重要なのは「やらない帯域を決める」ことです。取らないところを先に決めれば、ムダな約定が減り、コストの累積を抑えられます。

板読み・歩み値の最短チートシート

  • 板厚の偏り:上板が極端に薄いのに、歩み値が小口で連続して上がる時は「誘い」や「薄板ドライブ」の可能性。飛びつかない。
  • 連続約定のテンポ:テンポが速いのに価格が進まない時は「対当フロー」が存在。逆張りは危険。
  • 実需の気配:同じ価格帯に大口の指値が再出現するなら、アルゴ以外の実需がいるサイン。方向に順張りしやすい。

ニュース・先物・為替の読み替え

夜間の価格は、先物や為替の一時的な変動に連動しているだけのことがあります。翌朝の寄りでは、その影響が希釈されることもしばしばです。個別材料がないのに指数だけでPTSがズレたケースは、教科書的なナイトブリッジの狙い目です。

逆に、個別の強烈な材料(決算、下方修正、重大事故など)は、翌朝にさらに拡大することがあります。この場合はエッジが逆転しやすく、初心者は関与しないほうが無難です。

想定損益の現実値

この戦略は「派手さ」がありません。1回あたりの期待値は小さく、薄利多回転が基本です。たとえば、平均的な有効乖離が+0.6〜+1.0%、総コストが0.3%前後だとすると、純粋なエッジは0.3〜0.7%/回のレンジに落ち着きます。月あたりの試行回数と分散(損益のばらつき)を受け入れられるか、先に数字で確認してください。

やってはいけないこと

  1. 「成行」多用:夜間の成行は不利約定の温床です。基本は指値、寄りだけ成行にする。
  2. ニュース未確認での逆張り:噂での値動きに飛びつくのは避けます。
  3. サイズ過多:板に自分の約定が影響する数量は使いません。
  4. 引け→夜間→翌朝の三段階で方向をコロコロ変える:一貫した手順を守ります。

ミニ用語集(本文で使う専門用語を最短で)

PTS(私設取引システム)
取引所と別の売買システム。夕方〜夜間にも約定できる。
寄付(よりつき)
市場が開いた直後の最初の約定価格。寄付成行はこの価格での約定を目指す注文。
スプレッド
最良買い気配と最良売り気配の差。夜間は広がりやすい。
歩み値
直近の約定履歴。テンポやサイズから需給のニュアンスを読む。
VWAP
出来高加重平均価格。当日の「平均コスト」の目安。

初心者のための運用テンプレート

【前提】観察ユニバース:TOPIX Core30+流動性の高い主力10銘柄
【閾値】買い:-1.2%以下 売り:+1.2%以上(要コスト考慮)
【サイズ】1銘柄あたりの最大損失=口座の0.8%
【入口】夜間は指値。約定しなければ追わない。
【出口】翌朝寄付で全決済(原則)。
【フィルタ】個別IRが出ていない、または材料の質が弱い場合を優先。
    

検証と改善の回し方

最初の2週間は「観察のみ」。約定しない勇気を持ちます。観察表に、乖離率、出来高、ニュース有無、翌朝のギャップ、コスト控除後リターンを記録し、週間でレビューします。
次の2週間で最小サイズで実弾テスト。勝ち負けよりも「手順に従えたか」を評価します。1ヶ月後に、閾値や対象銘柄をチューニングし、ムダな帯域を閉じていきます。

Q&A(よくある疑問)

Q. 夜間は板が薄くて怖いです。どうすれば?
A. 最良気配の内側に控えめの指値を置き、歩み値が自分の価格に近づいてから成り代わりで拾うイメージを持つと、スリッページを抑えやすいです。

Q. 翌朝の寄りで逆方向に跳ねたら?
A. ルール通りに一括クローズします。例外運用は経験が蓄積するまで封印します。

Q. どの銘柄がやりやすい?
A. 夜間でも歩み値が途切れない主力株です。テーマ株や超小型株は避けます。

以上が「ナイトブリッジ戦略」の全体像です。派手な値幅は狙いませんが、小さな歪みを規律で積むという投資の基礎体力を養うには最適です。最初は極小サイズで、観察と記録を重ねながら、判断をシンプルに磨いていきましょう。

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