問題の本質 ― 「未実現損失」という地雷原

現在、米国銀行は合計4,820億ドルもの**未実現損失(unrealized losses)を保有しています。
これは「国債」と「住宅ローン担保証券(MBS)」に集中しており、主にゼロ金利時代(2020-2021年)**に高値掴みされた資産です。
本来、満期まで保有すれば元本償還されるため、表面的には問題ないように見えます。
しかし、金利上昇によりこれら資産の市場価値は急落しており、潜在的な爆弾となっています。
特筆すべきは、この未実現損失が四半期で33%増という異常なスピードで悪化している点です。
このスピードは2008年の金融危機時をも上回ります。
「未実現損失」が「実現損失」へと転換する5つの引き金
預金流出(資金調達危機)
- 預金者がより高金利の資産(短期国債、マネーマーケットファンド、暗号資産等)へ資金を移動。
- 銀行は流動性確保のため、含み損を抱えた長期資産を強制売却。
- 売却時に多額の実現損失を計上し、自己資本が毀損。
流動性危機(市場圧力)
- インターバンク市場やレポ市場(短期資金市場)が硬直。
- 資産担保に対するディスカウント(ヘアカット)が拡大。
- 現金化のため、さらに不利な価格で債券を売却→損失確定。
規制圧力(強制自己資本積み増し)
- 規制当局(FRB、FDIC等)が銀行に自己資本規制強化を求める。
- 不良資産の売却または引当金増強を強いられる→バランスシート悪化。
M&A・清算(評価損の即時認識)
- 弱体化した銀行が買収または清算対象になると、資産は**時価評価(mark-to-market)**される。
- 「帳簿の裏側」が表に出て、損失が瞬間的に顕在化。
貸倒リスクの増加(資産売却圧力)
- 商業用不動産(CREローン)や消費者ローンでデフォルト増加。
- 引当金補填や流動性確保のため、やはり含み損資産の投げ売り発生。
なぜ今、特に危険なのか?
「未実現損失が無期限に問題化しない」という前提のもと、現在の金融システムはかろうじて維持されています。
しかし、ひとたび火がつけば連鎖崩壊する危ういバランスです。
想定される連鎖:
- 預金流出
- 資産売却による損失計上
- 自己資本不足 → 信用不安拡大
- 銀行株暴落 → 取り付け騒ぎ
- 緊急支援(FRB貸付、合併、国有化)
- 信用収縮(貸し渋り)
- 経済減速・不況入り
2008年との違い ― 今回の危機は「金利リスク」
項目 | 2008年 | 2025年予想 |
---|---|---|
主なリスク | 信用リスク(サブプライムローン) | 金利リスク(良質債券の価格下落) |
破綻メカニズム | 債務不履行・価格暴落 | 資産の強制売却による自己資本毀損 |
影響対象 | 大手金融機関、モーゲージ関連企業 | 地方銀行、中堅商業銀行 |
救済手段 | TARP(公的資金注入) | FRBによる緊急融資、利下げ圧力 |
重要なのは、表面的には安全な資産(米国債、MBS)が、金利変動により「毒」へと化していることです。
つまり「質の悪い資産」ではなく、「買ったタイミングの悪さ」が命取りになる、という新たな形の危機です。
近い将来に注視すべきシグナル
これらの動きが加速すれば、隠されていた地雷が爆発するリスクが高まります。
- 預金流出速度の加速(特に中小銀行)
- 地方銀行株の急落(例:KBW銀行株指数の急落)
- 国債市場の機能不全(取引量減少、価格急変動)
- FRB緊急融資プログラム(BTFP等)の拡大・延長
- 金利の急速な低下(パニック的債券買い戻しの兆候)
これらが出現した時点で、「静かな危機」は「本格的な破壊局面」に移行します。
まとめ
- 「未実現損失」は、ストレス下で一夜にして「破滅リスク」へと変わる。
- 金利リスクと流動性リスクの連鎖は、地方銀行を直撃しやすい。
- 銀行破綻は信用収縮を引き起こし、最終的には実体経済全体を減速させる。
- 今後の局面では、現金流動性、実物資産、オプション性(柔軟な対応力)が絶対条件となる。
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