アーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)は、2025年5月15日のエッセイ『Fatty Fatty Boom Boom』において、アメリカの身体的肥満と経済的肥満の類似性を巧みに描き出し、現代の金融政策、社会構造、そして個人投資家の立場からの鋭い問題提起を行っています。本記事では、その内容を深堀りしながら、日本の個人投資家にとっての実践的示唆を抽出していきます。
Arthur Hayesの警鐘
加工食品 vs 金融政策:利益優先の構造的問題
ヘイズは冒頭で、アメリカにおける肥満の問題と経済システムの歪みの共通点として、「企業利益の極大化に伴う弊害」を挙げています。
- Big Ag(巨大農業産業) は栄養価の低いが中毒性のある加工食品を大量生産し、国民の健康を蝕んでいます。
- Big Pharma(巨大製薬業界) はその結果生じた糖尿病や高血圧といった疾患に対して薬を提供し、さらに利益を得る構図です。
これはまさに、貨幣供給を無制限に増やすことに依存した現在の金融政策と同じ構図であり、
- 中央銀行が低金利とQE(量的緩和)を通じて市場に過剰流動性を提供する
- 株式や不動産価格が上昇し富裕層が資産を増やす
- 一方で中間層以下の購買力はインフレで削がれ、相対的に貧しくなる
という経済の「カロリー過多状態」と重なります。
資本規制(Capital Controls)という次の一手
ヘイズが示唆する重要な政策転換の一つが「資本規制(capital controls)」です。これは、外国資本に対して規制や課税を設けることで、米国内への資本流入を抑制する施策です。
現在、アメリカは対中貿易戦争などを通じて製造業の国内回帰を進めており、そのための財源確保として以下のような構想が浮上しています:
- 外国人が保有する米国資産(国債・不動産・株式)への課税
- 得られた税収によって、国内製造業支援や中間層減税を実現
しかしこの政策には副作用も大きい。
- 外国資本の米国離れ:資産課税により米国債や株式市場からの資本流出が加速
- 金利上昇圧力:外国が米国債の保有を減らすことで、金利が上昇
- 株式市場の下落:バリュエーション調整とリスクプレミアムの増加
結果として、資本規制はドルの信認を損なう可能性があり、より大きな金融不安を引き起こす引き金となり得ます。
ヘイズのBTC強気予測:2028年に100万ドルへ
これらの経済政策の流れを受け、ヘイズはビットコイン(BTC)の中長期的価値について明確なポジションを取っています。
「2028年までにBTCは100万ドルに達するだろう」
と彼は断言します。その根拠は以下の通り:
- 資本規制によるドル流動性の崩壊
- 株・債券・不動産といった伝統資産の魅力低下
- 自国通貨への信認低下による分散型通貨への資本逃避
- スマートマネーによるBTC現物蓄積の増加
この見立ては、過去の金本位制の崩壊後に金が再評価された経緯と類似しています。すなわち、「信用を担保としないデジタル金」としてのBTCです。
短期 vs 長期:ヘイズのポートフォリオ戦略
ヘイズは短期的な相場の不安定性を認識しながらも、以下のように投資スタンスを明確に示しています。
- 短期的戦術:USDT・USDCといったステーブルコインでリスクを限定しつつ、ヘッジポジションも併用
- 長期的ポジション:
- $BTC(現物)
- $PENDLE(利回りトークン化)
- $ETHFI(EigenLayer系)
彼はこれらの資産を「インフレ・通貨切り下げ時代における防衛的ポジション」と位置づけています。
個人投資家が学ぶべき教訓
Arthur Hayesのエッセイは、単なる金融論ではなく、構造的・文明論的な警鐘です。そこから日本の個人投資家が学ぶべきことは以下の通り:
- 通貨は無限に安全ではない:資産の一部はBTCや金など「非中央集権型」のものに分散する必要がある
- 政策リスクは無視できない:資本規制や金融抑圧のリスクを想定したポートフォリオ構築
- 米国一強時代の終焉を見据える:新興国、非米ドル建て資産の取り込み
結論:肥満した金融体制に抗う投資の構え
『Fatty Fatty Boom Boom』は、アメリカの過剰な信用創造と政策的歪みによって引き起こされる未来図を、あえて身体的肥満と重ねることで、その深刻さを比喩的に訴えました。
日本の個人投資家として、このメッセージを「他人事」とせず、
- 自分の資産ポートフォリオの健全性を再検証し、
- ビットコインのような代替資産の必要性を見直し、
- グローバルな資本政策の変化に敏感であること
が求められる時代に突入したと言えます。
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