はじめに:配当でもなく、成長株でもない「第三の収益源」
個人投資家が株式投資でリターンを得る手段は、一般に次の2つに分類されます。
- 株価の上昇(キャピタルゲイン)
- 配当金(インカムゲイン)
しかし、これら以外にも市場から利益を引き出す方法があります。それが「オプションプレミアムの獲得」です。中でもカバードコール戦略(Covered Call)は、株を保有しながらコールオプションを売ることで定期的な収入を得るシンプルかつ実用的な戦略です。
本稿では、個人投資家がこの戦略を理解し、運用に取り入れるためのすべてを解説します。
カバードコール戦略の基本構造
カバードコールとは何か?
カバードコール戦略は以下の2つのポジションで構成されます。
- ロング株式ポジション:ある銘柄を100株(1単位)保有
- ショートコールオプション:保有株と同数のコールオプションを売る
オプション売却により得たプレミアム(=保険料)が、固定収益源となります。
なぜ「カバード」と呼ばれるのか?
「カバード=保有株でカバーされている」ため、リスクが制限されていることを意味します。株を持たずにコールを売る戦略は「ベア・コール」と呼ばれ、無限の損失リスクを伴います。対してカバードコールは、最悪でも株を売られるだけで済むという「上限付きリスク」が特長です。
具体例:戦略のシミュレーション
ケーススタディ:任天堂(7974)を用いた戦略
- 株価:7,000円
- 保有:100株(70万円)
- 権利行使価格:7,500円
- 満期:1ヶ月後
- プレミアム:1株あたり150円 → 合計15,000円
シナリオA:満期時株価が7,300円
- 株は7,300円だが、オプションの行使価格(7,500円)に達していないため権利行使されない
- 保有株式は継続
- プレミアム15,000円がそのまま利益
シナリオB:満期時株価が7,700円
- 株式は7,500円で売却される(行使される)
- 売却益:7,500円 − 7,000円 = 500円 × 100株 = 50,000円
- プレミアム:15,000円
- 合計利益:65,000円
- しかし、7,500円超の利益は得られない(株価がさらに上がっても限定的)
プレミアムの構成要素
インプライド・ボラティリティ(IV)
オプション価格を決める最重要因子。IVが高いとプレミアムも上昇し、カバードコールに有利です。逆にIVが低いと収益性は落ちます。
例:
- 日経225先物のオプションはIVが比較的高く、プレミアムが厚い
- 大型安定株(JTやKDDIなど)はIVが低く、プレミアムも薄い傾向
満期までの期間(Theta decay)
オプションは時間の経過とともに価値を失います(時間価値の減少)。満期直前のオプションは「腐っていく果物」のように減価しやすくなります。この時間的減価(セータ)も戦略の収益源です。
カバードコールの戦術的活用法
1. サイドウェイ相場での活用
株価が一定レンジを上下している相場(ボックス相場)では、株をホールドしつつ繰り返しプレミアムを得ることが可能。最も収益性が高まるパターン。
2. 長期保有銘柄の利回り向上策
配当利回り3%の株でも、毎月1%のプレミアムが得られれば年間合計15%以上のトータルリターンも狙えます。これが配当+カバードコールのハイブリッド戦略です。
3. 権利付き最終日直前の短期戦略
配当狙いで株が買われる前にプレミアムが膨らむケースもあり、イベントドリブンで一時的にカバードコールを仕掛ける戦法も有効。
リスクとその対応策
リスク | 内容 | 対応策 |
---|---|---|
株価の大幅下落 | 保有株の評価損が大きくなる | 逆指値・損切り・プロテクティブプット |
株価の急騰 | 権利行使で株を安値で手放す | ITMではなくOTMのコールを売る |
プレミアム減価 | IV低下や市場停滞 | 売買銘柄の変更、満期短縮 |
税制と運用上の注意
- 株式譲渡益とオプション売却益はともに譲渡所得(申告分離課税20.315%)
- プレミアムは満期到来時に実現益として認識される
- 法人口座では期末時の未決済ポジション評価が必要(含み益課税)
運用スタイル別の応用
長期インカム投資家向け
→ 高配当+低ボラ株で構成されたポートフォリオに月次でカバードコールを仕掛け、利回りを底上げ
アクティブトレーダー向け
→ 短期イベント(決算発表、ETF配当再投資日など)でIVが膨らむ前に仕掛け、IVクラッシュを狙う
ヘッジファンド型運用
→ 「デルタニュートラル・カバードコール」や、「ストラングル売り」との組合せでバランス戦略を構築
まとめ:”利回りを上書きする”個人投資家の新定番
カバードコール戦略は、単にオプションを売るだけの戦術ではなく、リスクを管理しながら保有株の「稼働率」を最大化する方法です。毎月のインカムゲインを設計することで、配当やキャピタルゲインに依存しない「第三の収益源」として確立できます。
市場が停滞しても、「動かなくても稼げる」という点が最大の魅力です。インデックス連動型のETFや、REITなどとの組み合わせも有効で、ポートフォリオ全体の安定化にも貢献します。
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