この記事では、日本証券金融(以下、日証金)が公表する「信用評価損益率(概算)」を用いたコントラリアン(逆張り)戦略を、完全初心者でも実装できる水準まで落とし込みます。必要なデータの入手方法、売買ルール、リスク管理、スプレッドシートでの検証、実務の運用フローに至るまで、今日から運用できる粒度で解説します。
結論はシンプルです。信用評価損益率がマイナスに深く振れた局面(例:−10%以下、−15%以下など)では、短期的な行き過ぎが起きやすく、指数や流動性の高いETFに対して統計的に優位な反発確率が生まれやすいという仮説に基づきます。あくまで過去データに基づく傾向であり、将来を保証するものではありませんが、明確な再現手順と堅実なリスク管理を組み合わせれば、初心者でもブレの少ない意思決定を行いやすくなります。
- 1. 信用評価損益率とは何か
- 2. この戦略が初心者に向く理由
- 3. どこでデータを確認するか(概略)
- 4. 売買ルール(ベーシック版)
- 5. 応用ルール(変化率とプルバックの併用)
- 6. リスク管理:必ず決めてから入る
- 7. スプレッドシートでの実装(Google Sheets想定)
- 8. 簡易バックテスト(手順)
- 9. 具体的な運用例(シミュレーション)
- 10. 個別株での応用は可能か
- 11. 実務オペレーション(毎日のルーチン)
- 12. 証券口座の開設(要点)
- 13. 用語ミニ解説
- 14. よくある失敗と対策
- 15. チェックリスト(印刷推奨)
- 16. まとめ
- 付録:FAQと運用Tips
- 付録:テンプレート(約定計画シート記入例)
1. 信用評価損益率とは何か
信用評価損益率は、信用取引残高に対して投資家が抱えている評価損益の平均的な割合を推定した指標です。数値がプラスなら信用買いの多くが含み益、マイナスなら含み損が優勢であることを示唆します。市場全体の投資家心理を簡潔に可視化できるため、過度な弱気が広がった瞬間を捉える逆張りの温度計として機能します。
直感的には、信用評価損益率が−10%、−15%、−20%などと深く沈むのは、多くの参加者が苦しいポジションを抱えている状態です。追証やロスカットが発生しやすく、投げ売り(投資家のポジション解消)が進むことで短期的なオーバーシュートが起こり、やがて需給が軽くなって自発的な自律反発が生じやすい、という読みです。
重要なのは、これは「水準」と「変化」の両方を見るべき指標である点です。単に−15%という水準に到達しただけでなく、直近に比べて急低下(悪化)したモメンタムを伴う場合、反転の確率が高まりやすい傾向があります。
2. この戦略が初心者に向く理由
- データが無料で得られる可能性が高い:日証金の公表値や証券会社のマーケット情報を活用できます。
- ルールが明快:特定の閾値(例:−10%、−15%)を用いた機械的判断が可能です。
- 対象が指数・ETFで十分:個別銘柄よりもノイズが少なく、板の厚い商品で実装しやすいです。
- 短期・中期どちらにも応用可能:数日〜数週間の保有で設計でき、生活リズムに合わせやすいです。
3. どこでデータを確認するか(概略)
信用評価損益率(概算)は、一般に日証金のウェブサイト等で公表される統計資料に含まれます。名称や掲載場所は時期により変動する場合があるため、最新の公表情報や主要証券会社のマーケット情報ページを確認してください。日次更新であることが多く、前営業日ベースの数値が掲載されます。
指数連動の取引対象としては、例としてTOPIX連動ETF(例:1306
、1550
等)、日経225連動ETF(例:1321
、1329
等)があります。売買はご自身の口座で取り扱いのある商品・市場・手数料体系をご確認のうえ選択してください。
4. 売買ルール(ベーシック版)
まずは「指数ETFを用いた短期コントラリアン」の最小構成から始めます。以下は一例です。
- 監視指標:市場全体の信用評価損益率(概算)。
- 買い準備:指標が−10%以下になったら、買い検討のウォッチリストに入れる。
- エントリー:−15%以下に到達した翌営業日の寄付〜前場にかけて、指数ETFを3分割で買い下がり(例:−15%、−17%、−20%)を想定。
- 手仕舞いA(時間基準):保有後5営業日経過で一旦全て利確または半分利確。
- 手仕舞いB(値基準):評価益が+2%到達で半分利確、+3.5〜4%で全て利確。
- 損切り:ポジション全体で−3%の含み損でクローズ。
- 上限:この戦略に充てる資金は総資産の10〜20%を上限(目安)。
上記は最小限の型です。まずは小さく運用し、実運用の履歴を蓄積しながら、ご自身のボラ耐性や生活リズムに合わせてパラメータを微調整してください。
5. 応用ルール(変化率とプルバックの併用)
水準だけでなく「変化率(前日比の悪化幅)」を加えると、質の高いエントリーが得られる場合があります。
- シグナル強化:水準が−15%以下、かつ前日比で悪化している日に第1分割を小さく建てる。
- プルバック待ち:翌営業日の寄付でギャップダウン(窓開け)なら、寄付後15〜30分のプルバック(戻り)を待ってから約定させる。
- RCI/VWAP補助:分足のRCIやVWAPからの乖離を補助指標にし、逆行の勢いが鈍化したタイミングで追加エントリー。
ポイントは、勢いの「鈍化」を待つことです。捕まっている投資家の投げが一巡するまで慌てて飛び込まず、約定の質を高める工夫を入れます。
6. リスク管理:必ず決めてから入る
- ギャップ・リスク:指数は海外ニュースで大きくギャップします。前夜の先物の値動きを確認し、寄付直後の約定は分割を小さく。
- 地合いの見極め:金融危機や制度変更など構造的ショックでは逆張りの期待値が低下することがあります。「いつもと違う」と感じたら縮小運用。
- レバレッジの節度:レバETFや信用買いは原資管理を厳密に。初心者はまず現物ETFで。
- 時間の分散:最大建玉に至るまで最低3段階、できれば5段階で時間分散。
- ルール外約定の禁止:感情トレードを避け、前日夜に翌日の約定条件を紙で宣言してから臨む。
7. スプレッドシートでの実装(Google Sheets想定)
無料のスプレッドシートで監視・約定・評価まで一気通貫に管理できます。以下は設計例です。
7.1 シート構成
- Raw:信用評価損益率の履歴(手入力でもCSV取込でも可)。列:
Date
,LossRate
。 - Signal:シグナル判定。
=IF(B2<=-0.15, "BUY", "")
など。 - Trade:建玉履歴。約定日、数量、価格、手数料、理由(−15%到達など)。
- PnL:評価損益、勝率、PF、平均保有日数などの集計。
7.2 代表的な関数例
<!-- 例:前日比変化 -->
=IF(ROW(B2)=2, , B2 - B1)
<!-- 例:買い条件 -->
=IF(AND(B2<=-0.15, C2<0), "BUY1", "")
<!-- 例:損益 -->
=IF(Position<>0, (Close-AvgPrice)*Qty - Fee, )
最初は手入力で十分です。公表タイミングの翌朝に前営業日の数値を追加し、シグナル列が点灯したら約定計画を見直します。
8. 簡易バックテスト(手順)
- 対象:TOPIX連動ETF(例)。
- 期間:5〜10年程度を目安に、入手できる範囲で。
- ルール:本文4章のベーシック版。手仕舞いは「5営業日経過」か「+3.5%到達」の早い方。
- 手数料・スリッページ:往復0.1%〜0.2%を控えめに見積もる。
- 結果の見方:勝率、平均損益、PF、最大ドローダウン、連敗数。
信用評価損益率が−15%以下に沈む日は年にそれほど多くありません。シグナル頻度が低いからこそ、1回あたりの期待値を重視し、無理に取引回数を増やさないことが大切です。
なお、相場急落の局面では短期反発を挟みながら下値試しを繰り返すことがあります。「時間の分散」と「早めの部分利確」を組み合わせ、戻り売りに押されてもメンタルを崩さない設計にしておきます。
9. 具体的な運用例(シミュレーション)
以下は架空データによる一例です。
- 前営業日時点の信用評価損益率:−17.2%(前日比 −2.5%)。
- 当日寄付:前日比 −0.8%でスタート。
- 約定計画:寄付後15分の戻り待ち、VWAPタッチで第1分割。−1.5%で第2分割。さらに時間分散で引け成行で第3分割。
- 手仕舞い:翌日+1.8%で半分利確、3日目に+3.6%で全利確。
- 結果:手数料控除後の総合計+2.9%(3分割合算)。
同様のフレームで、−20%台が出現した場合は保有日数の上限を5→7〜10営業日に延長するなど、シグナル強度に応じて利確・撤退の窓を広げる設計も有効です。
10. 個別株での応用は可能か
信用評価損益率は市場全体の温度計として非常に有用ですが、個別銘柄の指標としては一般公開の網羅性が限られるのが実情です。個別銘柄に応用する場合は、代替として以下を併用します。
- 信用残(買い残/売り残)と信用倍率:需給の偏りを把握。
- 出来高急増・長い下ヒゲ:投げ売りの初期サイン。
- 価格のスナップバック:日中でのVWAP回復・5日移動平均への復帰。
ただし、個別はニュースや決算でギャップが極端になりやすく、初心者には指数・大型ETFから入ることを強く推奨します。
11. 実務オペレーション(毎日のルーチン)
- 前夜:指標の最新値(前営業日分)をシートに入力し、翌日の約定条件(価格、時間、数量)を紙で宣言。
- 寄付:ギャップ方向と先物の地合いを確認。第1分割は小さく。
- 前場:VWAP・出来高を監視。追加は勢い鈍化を待つ。
- 引け:日中に約定できなければ引けで時間分散の一部を執行。
- 翌朝:評価益が規定値に達していれば部分利確。5営業日経過で原則クローズ。
- 週末:勝敗に関係なく、ジャーナルに「事前宣言との乖離」「感情トレードの有無」を記録。
12. 証券口座の開設(要点)
指数ETFの売買だけなら、一般的なネット証券の口座で対応できます。初心者の方は、以下の流れを押さえておけば問題ありません。
- 口座申込:本人確認書類・マイナンバーを用意し、オンラインで申込。
- 入金:即時入金や振込で資金を準備。
- 売買設定:現物スタートを推奨。指値・成行、逆指値の基本を確認。
- 手数料体系:1約定ごとか定額制かを選択。デイトレ頻度が低いなら1約定型で十分なことが多いです。
- 取引時間:東証の前場・後場の時間、夜間PTSの有無を把握。
13. 用語ミニ解説
- 信用評価損益率
- 信用取引残に対する含み損益の推定割合。マイナスが深いほど市場心理は弱い。
- 逆張り
- 短期的な行き過ぎに対して反対売買を行う手法。大局のトレンドに逆らうこともあるため、時間分散と損切りが必須。
- VWAP
- 出来高加重平均価格。日中の「公正価格」の目安として使われる。
- ギャップ
- 寄付価格が前日の終値から大きく離れて始まる現象。
14. よくある失敗と対策
- すべて一度に買う:分割と時間分散がコントラリアンの生命線です。
- 損切りの遅れ:指数の急落は続くことがあります。金額で損切りを宣言してから臨む。
- ニュース無視:制度変更や大規模イベントは期待値を変えます。カレンダーを事前に確認。
- レバETFで過剰サイズ:値動きが3倍になると感情的になりやすく、ルール逸脱の確率が飛躍的に上がります。
15. チェックリスト(印刷推奨)
- 今日の信用評価損益率(水準/前日比)は?
- 第1分割・第2分割・第3分割の価格・時間は紙に書いたか?
- 損切りは金額で宣言したか?
- 利確の時間基準/値基準を決めたか?
- 約定後30分の行動(増し玉/保留/撤退)の条件は明文化したか?
- 週末のジャーナルに、事前宣言との乖離を記録したか?
16. まとめ
信用評価損益率は、個人投資家の心理と需給の偏りを簡潔に可視化する優れた逆張りコンパスです。深いマイナス水準+悪化モメンタムという二条件を満たす日に限定し、指数ETFで小さく分割・時間分散・早めの部分利確という基本を徹底すれば、初心者でも再現性のある意思決定を習慣化できます。最初の目的は「勝つこと」ではなく、ルール通りにやり切ることです。勝敗はサンプルが増えるほど実力に収れんします。今日から丁寧に積み上げていきましょう。
付録:FAQと運用Tips
Q1. 指数はTOPIXと日経どちらが良いですか?
流動性・分散の観点ではTOPIX連動ETFが扱いやすい場面が多いです。日経225は値がさ株の影響が大きく、良くも悪くもボラが出やすい特徴があります。まずは一方に統一し、慣れてから分散を検討すると良いでしょう。
Q2. シグナルが出てから反発まで待てません。
約定を「時間で分割」することを最優先にしてください。寄付で小さく建て、前場のVWAPタッチで追加、引けで時間分散の最後を執行するといったルーチンにすると、感情に流されにくくなります。
Q3. 急落が続く相場ではどうするべき?
シグナル強度が高いほどリバウンド確率は上がる傾向にありますが、「続落」も当然起こり得ます。想定外の連鎖が見えた場合は、予定より早く撤退し、もう一段深いシグナル(例:−20%)まで待ち直すのも有効です。
Q4. レバレッジは使っていい?
初心者は現物ETFでの実装を推奨します。レバレッジは期待値を増幅する一方で、実装ミスと感情トレードのリスクを劇的に高めます。まずは現物で1サイクルの運用・検証を終えてから、段階的に検討してください。
Q5. ストップ注文は成行と指値どちら?
ギャップの大きい日に成行ストップだと約定滑りが大きくなる場合があります。約定の品質を重視するなら指値系の逆指値(トリガー+指値)を検討してください。
Q6. 監視頻度は?
公表は通常前営業日ベースなので、毎朝1回の更新チェックで十分です。日中は価格と出来高、VWAPを中心に見守りましょう。
Q7. 他の逆張り指標と組み合わせたい。
騰落レシオ(25日)、RSI(14)、ボリンジャーバンド(−2σ)、先物の投機ポジション動向などを補助に使うのは有効です。ただし指標を増やし過ぎると判断が遅れます。最多でも3つまでに限定してください。
付録:テンプレート(約定計画シート記入例)
【日付】2025-09-08
【指標】信用評価損益率 -16.8%(前日比 -1.9%)
【対象】TOPIX連動ETF
【建玉】最大300口を5分割(60/60/60/60/60)
【条件】
- 第1分割:寄付後15分、VWAPタッチで成行
- 第2分割:前日比 -1.0%で指値
- 第3分割:引け成行(時間分散)
- 第4・5分割:翌営業日の寄付と前場VWAP
【手仕舞い】+2%で半分、+3.8%で全利確/5営業日経過で強制クローズ
【損切り】総額 -3.0%でクローズ(逆指値)
【禁止事項】ルール外エントリー、時間分散の省略、情報ベースの飛び付き
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