夜間PTS×翌日ギャップ戦略:個人投資家のための実践ガイド(日本株)

戦略トレード

結論:夜間のPTS(私設取引システム)で形成された価格は、翌日の寄り付きにおける需要・供給の初動を事前に示唆することが多く、終値対比の乖離率出来高・約定回数でノイズを間引くことで、翌日の寄り〜前場に統計的優位が生まれやすい銘柄群を抽出できます。本稿は、初心者でもミスなく運用できる手順に落とし込み、データ定義・売買ルール・検証・運用フローまで実務視点で解説します。

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この記事で得られること

・夜間PTSと翌日ギャップのメカニズムの理解/・必要データと指標定義/・3つの基本戦略(フォロー・リバーサル・ノータッチ)の具体ルール/・最低限のバックテスト方法/・実運用オペレーションと注意点/・拡張アイデア(先物・ADR・ニュース連動)

1. 戦略の発想と市場背景

日中取引が終了した後も、国内では一部の証券会社経由で夜間のPTS取引が継続します。ここでの価格や出来高は、翌日の寄り付きで市場参加者がどこまで買い(売り)に傾いているかの初期コンセンサスとして機能します。特に材料(決算・ガイダンス・業績修正・大型受注・行政処分・新製品・提携など)が引け後に出た場合、PTSで素早く価格調整が始まり、翌朝の寄り付きでその方向へ「ギャップ(窓)」が開きやすくなります。

ただし、夜間PTSは流動性が薄く、一過性の大口アルゴの見せ玉で価格が大きく振れやすいという弱点があります。よって、単に「PTSで上がったから買う」ではなく、①終値対比の乖離率に加えて②出来高・約定回数③スプレッド④気配の継続性を併せて評価し、ノイズを排除する必要があります。

2. PTSの基礎と準備

2-1. 口座と取引環境

夜間PTSの取扱いは証券会社ごとに異なります。まずは「夜間PTSの発注・約定が可能」「夜間データ(価格・出来高・約成回数)を板やアプリで確認できる」「売買手数料・金利体系が明確」であることを確認しましょう。スマホ完結でも始められますが、スクリーニングや指値・逆指値の精度を上げるため、PCの取引画面を基本とするほうが実務ミスが減ります。

2-2. データの収集と記録

最低限、以下の時系列を記録します。Excelやスプレッドシートでも構いません。

  • 当日終値(終日市場)
  • 夜間PTSの終盤価格(例:取引終了前の代表値)
  • 夜間PTS出来高と約定回数(バー当たりでも可)
  • スプレッド(最良気配の買気配・売気配)
  • 材料の有無(決算、適時開示、ニュースの種類と時間帯)

これらに加え、指標株先物(指数先物)や米主要指数の先物が大きく動いた夜は、市場全体要因として寄り付きギャップが拡大しやすいため、メモ欄に残しておくと後の検証で役立ちます。

3. 指標の定義(コアKPI)

戦略の核となる指標を明確にします。曖昧な指標は過剰最適化の温床になり、実運用で崩れやすくなります。

3-1. 乖離率

PTS乖離率 = (夜間PTS代表値 − 当日終値) / 当日終値

代表値は、夜間終盤の加重平均やVWAP、もしくは出来高が最も集中的に出た価格帯の中央値など、極端値を拾いにくい定義で固定します。

3-2. 流動性フィルタ

  • 夜間PTS出来高が日中平均出来高のX%以上
  • 約定回数が一定以上(例:20回以上)
  • スプレッド(最良気配の幅)が発注単位のnティック以内

具体値は後述の簡易バックテストで決めます。重要なのは「薄商いで偶然ついただけの値段」を排除することです。

3-3. 継続性(トレンド性)

夜間の時間推移が重要です。序盤の突発的な急騰・急落が消えて、終盤にかけて高値圏(安値圏)で張り付くパターンは翌日のフォローが強まりやすい一方、V字反転で終わる場合は翌朝の反動を招きやすい、という経験則がよく見られます。

4. 3つの基本戦略と売買ルール

4-1. フォロー型(順張り)

狙い:夜間PTSで材料買い(売り)が継続しており、翌朝の寄りでギャップが拡大しやすい銘柄を順張りで取る。

抽出条件(例):

  • PTS乖離率 ≥ +2.0%(ショートの場合は ≤ −2.0%)
  • 夜間PTS出来高 ≥ 日中平均出来高の3%
  • 約定回数 ≥ 30、スプレッド ≤ 4ティック
  • 終盤30分で高値圏維持(高値−終値の幅が当日終値の0.5%以内)

エントリー:翌日寄り成で買い(乖離率プラスの場合)。ショートは制度信用や代用有価証券の要件に注意し、売建可能銘柄のみ対象にします。

エグジット:前場引けで成行決済、または寄りから+1.5〜2.5%到達で利確。寄り直後に−1.0%逆行したら機械的にカット。

想定ミス:寄り天・寄り底で反転した場合。「寄り後5分の実体足で反対側に包まれたら即撤退」のような時間ベースのストップを併用するとダメージが小さくなります。

4-2. リバーサル型(逆張り)

狙い:夜間PTSのオーバーシュートを、翌朝の寄りで反転(窓埋め)狙い。材料の過度反応や、夜間の流動性薄を突いた価格歪みを取りにいきます。

抽出条件(例):

  • PTS乖離率 ≥ +5%(または ≤ −5%)
  • 終盤で上髭(下髭)が長く、価格が中心に回帰して終える
  • スプレッドが広い、約定回数が少なすぎるなどの歪みも同時に観測

エントリー:翌日、寄り付き直後の最初の戻り(または押し)で逆張り。成行ではなく、寄り値±0.3〜0.6%指値+逆指値で機械化します。

エグジット:窓の50〜80%を埋めたところで利確、寄り値からの逆行1.0%で損切り。

想定ミス:新規の強材料(IRやガイダンス)で続伸・続落した場合。「正式な材料フラグがある銘柄は逆張りを禁止」とするルールで回避します。

4-3. ノータッチ判定

「夜間PTSで動いたが、翌朝優位性が乏しい」ケースを機械的に除外します。例えば、乖離率が小さいのに出来高だけ多い乖離が大きくても約定回数が極端に少ないスプレッドが広すぎるなどです。ノータッチの明文化は、実運用でのムダ撃ちを劇的に減らします。

5. 簡易バックテストの設計

専門言語を使わず、スプレッドシートだけで実現できるルール検証の骨子を示します。

  1. 対象銘柄ユニバースを決める(例:TOPIX Core30、または時価総額上位500銘柄)。
  2. 各日について、当日終値と夜間PTS代表値から乖離率を計算。
  3. 出来高・約定回数・スプレッドでフィルタ。
  4. 翌日の寄り、5分足、前場引けの価格を取得し、寄り成→前場引け(フォロー型)、寄りから指値逆張り→窓埋め(リバーサル型)などシナリオ別に損益を集計。
  5. 週次・月次でドローダウン、勝率、PF(総利益/総損失)、平均リスクリワード、連敗数を記録。

注意点として、夜間データは欠損や外れ値が混じりやすいので、外れ値除外ルール(3σ超、出来高下位パーセンタイル除外など)を検証前に固定し、検証期間を十分に長く取ることが重要です。

6. スクリーニング設計(テンプレート)

以下は運用前夜のスクリーニング例です。数値は一例なので、各自の検証で最適化してください。

  • 乖離率の絶対値 ≥ 2.0%
  • 夜間PTS出来高 ≥ 日中平均出来高の3%
  • 約定回数 ≥ 20
  • スプレッド ≤ 4ティック
  • 終盤30分での価格位置が当日終値からの有利側に張り付き
  • 重大材料の有無をフラグ化(逆張り禁止/順張り優先の切替)

抽出後は、銘柄ごとの過去相性も参照しましょう。例えば同じ乖離率でも、ギャップを拡大しやすい銘柄すぐに窓埋めする銘柄があります。銘柄プロファイル(ギャップ後の平均推移)を作ると、裁量の入りどころが安定します。

7. エントリーと発注の実務

7-1. エントリータイミング

寄り付き直後の1〜2本(1分足ないし5分足)の方向確認を推奨します。順張りは「寄りの初動に付く」よりも「初動確認後の押し目・戻り」で追随したほうが、寄り天・寄り底の罠を回避できます。

7-2. 発注の基本形

  • 寄り成を避け、寄り値±0.2〜0.5%の指値(優位側)をセット
  • 同時に逆指値(寄り値からの逆行0.8〜1.0%)を置く
  • 利確は寄り値からの伸び+1.5〜2.5%または前場引けの時間指示

機械的なOCO(利確+損切り)により、判断の遅れやメンタルバイアスを排除します。

8. リスク管理の要点

  • ポジションサイズ:1銘柄あたり口座の1〜3%。同時保有は3〜5銘柄まで。
  • イベント日:指数寄与度の大きい銘柄は、指数先物の寄与方向を確認。
  • 逆日歩・規制:売建時は規制・品貸料・貸借動向を事前チェック。
  • ギャップの偏り:地合い急変(先物急伸・急落)の日は個別優位性が薄れるため、市場要因フラグで減速運用。
  • 約定品質:スプレッド拡大・板薄はルールで自動棄却

9. ミニ検証の具体例(考え方の雛形)

例として、過去2年の時価総額上位500銘柄を対象に、以下の簡易ルールで検証したと仮定します。

  • 抽出:乖離率の絶対値 ≥ 2%、夜間出来高 ≥ 日中平均の3%、約定回数 ≥ 20、スプレッド ≤ 4ティック。
  • 順張り:翌日、寄りから+2%到達で利確、−1%で損切り、前場引けまでに未達なら成り決済。
  • 逆張り:乖離率の絶対値 ≥ 5%かつ終盤反転サイン。寄り±0.5%指値→窓の70%埋めで利確、−1%で損切り。

このようなシンプルな枠組みでも、ギャップ拡大・縮小の傾向差から、一定の優位を拾えることが多いです。重要なのは、ルールの固定化外れ値の粛々除外です。

10. 実運用フロー(チェックリスト)

  1. 【引け後】材料カレンダーを確認(決算・開示・ガイダンス)。
  2. 【夜間】PTSの乖離率・出来高・約定回数・スプレッド・時間推移を記録。
  3. 【選定】スクリーニング条件を満たす銘柄を抽出。材料フラグで順張り/逆張り/ノータッチを自動判定。
  4. 【翌朝】指数先物と地合いフラグをチェック。寄り直後に方向確認。
  5. 【発注】指値+逆指値のOCOで機械的に運用。約定品質が悪化したら撤退。
  6. 【記録】トレードごとに理由・KPI・損益・改善点を短文でログ。
  7. 【振り返り】週次でメトリクス(勝率、PF、最大DD、連敗数)を更新。

11. よくある失敗と対策

  • 失敗:薄商いの一撃で付いただけの価格に飛びつく。対策:約定回数とスプレッドで足切り。
  • 失敗:寄り成で踏まれて狼狽。対策:寄り後の初動確認+OCO指値。
  • 失敗:地合い急変日にフルサイズで突っ込む。対策:市場要因フラグでサイズ半減。
  • 失敗:逆張りで材料継続銘柄を触る。対策:材料フラグで逆張り禁止

12. 拡張アイデア

  • 指数先物連動:指数先物の夜間変動とセクター寄与で順張り優先度を切替。
  • ADR・海外同業:海外時間に動いた同業の価格変動を説明変数として加える。
  • ニューススコア:開示のポジ/ネガを機械的に符号化(手作業でも可)。
  • 出来高プロファイル:個別銘柄の「ギャップ後の平均推移」を銘柄別に蓄積。

13. まとめ

夜間PTSはノイズが多い一方で、条件を正しく設計すれば翌日の寄り付きに統計的なズレを残します。乖離率だけに依らず、出来高・約定回数・スプレッド・時間推移の複合評価を徹底し、順張り・逆張り・ノータッチの判定を機械化してください。検証と運用のループを回し、過剰最適化を避けつつ、小さく堅く積み上げることが長期的な成果につながります。

付録A:用語ミニ解説

  • PTS(私設取引システム):証券取引所外で売買をマッチングするシステム。取扱い時間や銘柄は場・証券会社ごとに異なります。
  • ギャップ:翌日の寄り付きが前日の終値から飛んで始まること。
  • スプレッド:最良買気配と最良売気配の価格差。
  • OCO:利確と損切りの同時注文。

付録B:最小実装チェックリスト(コピペ用)

・ユニバース固定/・乖離率指標固定/・外れ値除外ルール固定/・スクリーニング基準固定/・OCO発注テンプレ化/・記録テンプレ化/・週次レビュー固定

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