オンチェーン分析で掴む売買タイミング:アドレス・コホートとリアライズドプライス、SOPRの実践活用

オンチェーン分析

本稿は、オンチェーン分析を用いて暗号資産の売買タイミングを定量化するための実践ガイドです。対象は主にビットコインとイーサリアムですが、指標の読み方そのものは多くのチェーンに応用できます。価格チャートに現れない内部状態――保有者構成、コインの年齢、実現損益の偏り――を読み解くことで、トレンドの転換点を事前に察知することが狙いです。

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なぜオンチェーンか:価格に先行しうる内部データ

オンチェーン指標の強みは、取引所の板やテクニカルでは捉えづらい「保有者側の体温」を直接測れる点にあります。具体的には、(1) 誰がどれだけ保有しているか(アドレス・コホート)、(2) そのコインの取得原価の分布(リアライズドプライス関連)、(3) 直近の売買が利益確定優勢か損切り優勢か(SOPR)、(4) 眠っていたコインが動き出しているか(コイン・エイジ/CDD)などです。これらを重ね合わせることで、天井圏・底値圏の特徴的な“型”が見えてきます。

コア概念1:アドレス・コホート(保有量別グループ)

アドレス・コホートは、保有残高の規模によってアドレスを群分けし、グループごとの保有量の増減を追う手法です。ビットコインであれば、例として「<1BTC」「1–10BTC」「10–100BTC」「100–1,000BTC」「1,000BTC以上」などの帯域で観測します。価格が大きく上昇する前には中規模~大規模帯(10–1,000BTC)が静かに積み増し、天井圏では反対に分配が進みやすい、というパターンがしばしば観察されます。

実務では、(A) 中規模帯の“連続的な純増”と(B) 小口帯の“急増”の同時発生をチェックします。Aはプロ~準プロの回収局面、Bはニュース・モメンタムで流入したリテールの盛り上がりのサインになりやすく、両者が重なると加速相場が出やすい一方、ピーク接近の警戒も必要になります。

運用ルール化の例:10–1,000BTC帯の保有量が20営業日移動平均を上回る増加トレンド、かつ <1BTC帯の保有アドレス数が2週間で+3%超の増勢 → スイングの買いエントリー候補。逆に、10–1,000BTC帯が3週間続落、かつ <1BTC帯アドレス数が高止まり → リスク低減または部分利確の検討。

コア概念2:リアライズドプライス(実現価格)と分布帯

リアライズドプライスは、ネットワーク全体の“平均取得単価”に近い指標です。価格がリアライズドプライスを明確に上回る局面では、平均的に含み益が広がり、投げ売りが出にくくなります。逆に下回ると含み損が拡大し、反発は出るものの戻り売りに抑えられやすくなります。

さらに有用なのが、取得価額のヒストグラム分布(UTXO年齢別・価格帯別にどれだけコインが滞留しているか)。密度の高い価格帯は“岩盤サポート/レジスタンス”として機能しやすく、相場はこれらの帯をブレイクすると大きく走りやすくなります。

運用ルール化の例:現値がリアライズドプライスの+5~+12%上にあり、かつ直下の取得価額分布に厚い帯(保有量比率が全体の7%以上)が控える場合、押し目買い戦略の優先度を上げる。一方、現値がリアライズドプライスから+35%を超過し、過去4週間で分布帯のシフト(高値側への再滞留)が弱い場合は、過熱判定を強める。

コア概念3:SOPR(Spent Output Profit Ratio)

SOPRは、オンチェーンで動いたコインが平均して“利益で売られたか/損失で売られたか”を示す比率です。1.0がブレークイーブン、1.0超は利益確定優勢、1.0未満は損切り優勢。上昇トレンド中は1.0付近が押し目の支えになりやすく、下降トレンド中は1.0が戻り売りの天井として意識されやすい、という性質があります。

運用ルール化の例:デイリーSOPRが1.0割れからのV字回復(2~3日以内に1.02超へ復帰)+価格は20日移動平均の上 → 押し目買い。逆に、SOPRが1.15超まで急伸し、その後3営業日連続で低下(利益確定の伸びが鈍化)+価格はボリンジャー+2σからの内側回帰 → 短期の利確またはヘッジを検討。

シグナルの“組み合わせ”設計

単一指標のシグナルはノイズが多く、ダマシに弱いのが欠点です。そこで、(1) コホート、(2) リアライズドプライス、(3) SOPR の三点合意を取るコンフルエンス設計が有効です。

  • 強気コンフルエンス:中~大口帯が純増、現値がリアライズドプライスの+5~+12%上、SOPRが1.0~1.05ゾーンで上向き。
  • 警戒コンフルエンス:中~大口帯が純減、現値がリアライズドプライスの+30%超、SOPRが1.12超で鈍化。

この組み合わせは、短期の逆風やニュースショックでも崩れにくく、勝率の安定化に寄与します。バックテストでは、シグナル発生から5~15営業日のスイングを基本に、巡航時は追随、過熱時は半分利確+トレーリングで利益の取りこぼしを抑制します。

BTCとETHでの着眼差

ビットコインではUTXO構造ゆえに“コイン年齢”の情報量が豊富です。古いUTXOが動く(コインデイズ・デストロイドの急伸)ときは分配・再配分の兆しになりやすく、価格の方向性に先行するケースがあります。イーサリアムでは、アカウントベース設計のため、ステーキング関連のオンチェーンフロー(入出金キュー、バーン量、L2ブリッジ流入など)がトレンド判定に効きやすい特徴があります。

実践例(ETH):ベース手数料上昇とバーン加速、L2ブリッジ流入の純増、かつ現値がETHリアライズドプライスの+8~+15%ゾーン → 強気継続。逆に、ステーキング解除キュー膨張+CEXへの純入金増+SOPR急伸(1.12超) → 反落リスク上昇。

データの取得と自動監視

実運用では、ダッシュボード化と自動アラートが必須です。たとえば、(a) コホート別保有の5日変化率、(b) 現値とリアライズドプライスの乖離率、(c) SOPRの5日RSI、(d) CDDの7日合計、(e) 取引所への純フロー を毎日更新し、閾値を超えたら通知。裁量判断を排し、ルールの逸脱を防ぎます。

推奨アラート:乖離率が+30%超で“黄色”、+40%超で“赤色”。コホートでは10–1,000BTC帯が3日連続で−0.25%以下の純減、もしくは+0.5%以上の純増。SOPRは1.0±0.02からの方向性ブレイク。

リスク管理:指標が外れるときの共通点

オンチェーンは“内部”の平均行動を映す一方、マクロや規制、ハッキング、流動性収縮などの“外生ショック”には弱い場面があります。こうした局面ではSOPRやコホートの優位性が薄れ、価格が一方方向に走ることがあるため、(1) ニュース・イベントカレンダー、(2) デリバティブの資金調達率(過度な傾き)、(3) 主要サポート割れ時の強制ロスカ連鎖の兆候(清算ヒートマップ)と併読することでブラインドスポットを縮小します。

損失の上限はルール化しておきます。例:シグナル買い後に現値がリアライズドプライスを3日連続で下回ったら手仕舞い。あるいは、SOPRが1.0割れで2営業日続落したら撤退。ロスカットは“恣意”ではなく“条件”に紐づけます。

バックテスト設計の骨子

(1) 資産:BTC、ETHのUSD建て日足。(2) シグナル:コホート純増/純減の方向、乖離率(現値÷リアライズド−1)、SOPR位置と傾き。(3) ルール:強気コンフルエンスで翌日寄り買い、警戒コンフルエンスで半分利確、逆コンフルエンスで全決済。(4) コスト:スプレッド+手数料0.1%相当。(5) 検証:200週ローリングでPF、勝率、平均保持日数、最大DDを評価。

期待値が最も安定するのは、乖離率が+5~+20%レンジでの押し目買いと、+30%超での部分利確の組合せでした。最大DDの縮小には、SOPRの“鈍化(高止まり→低下)”をトリガーにしたヘッジ導入が効きます。

ケーススタディ:三つのシナリオ

シナリオA(上昇初動):10–1,000BTC帯が2週間純増、現値はリアライズド+8%、SOPRは1.01で上向き。→ 分割で買い、乖離+25%で半分利確、+35%で残りをトレーリング。

シナリオB(過熱):<1BTC帯が3日で+4%急増、10–1,000BTC帯は減少に転じ、SOPRは1.18に急伸。→ 新規買い見送り、既存ポジは1/2利確+ヘッジ短期売り。

シナリオC(反転警戒):リアライズド+32%の高乖離、コホートは横ばい、SOPRのみ高止まりからの鈍化。→ 追随はせず、押し目の出現(SOPR1.02付近復帰、または乖離+15%回帰)を待つ。

実装テンプレ(擬似コード)

# inputs: cohort_change(mid_large), realized_premium, sopr, price_ma20
signal_long = (
  cohort_change(mid_large) >= +0.3  and
  0.05 <= realized_premium <= 0.20   and
  1.00 <= sopr <= 1.05              and
  price >= ma20
)

signal_reduce = (
  realized_premium >= 0.30 or
  sopr >= 1.12
)

signal_exit = (
  price < realized_price for 3 days or
  sopr < 1.0 for 2 days
)
  

しきい値は銘柄ボラティリティに合わせて最適化します。過剰最適化を避けるため、期間をずらしたウォークフォワード検証で汎化性能を確認します。

まとめ:内部の地図を手に入れる

オンチェーンは“内部から見た市場心理”です。コホート、リアライズドプライス、SOPRの三点コンフルエンスを軸に、データの自動監視と厳格なリスク管理を組み合わせれば、短期のノイズに振り回されにくい売買フレームが構築できます。価格の動きに理由を与え、押し目と過熱を数値で見極める。この“地図”を持つか否かが、長期のリターン差となって現れます。

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