オンチェーン分析プレイブック:小口でも勝てる資金フロー読解と実装

オンチェーン分析

価格だけを見ていると「上がった・下がった」の結果論に陥りがちです。オンチェーン分析は、資金がどこから来てどこへ向かっているかを直接観測し、相場の原因に迫る手法です。本稿は、難しい数式や専門用語を極力避け、無料〜低コストのツールでも再現できる実践的プレイブックとしてまとめました。特別な環境は不要で、今日から運用に組み込めます。

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オンチェーン分析が機能する理由

株式市場では「出来高の質」を測ることが難しい一方、パブリックブロックチェーンではトランザクションやアドレス残高が原則公開されています。取引所流入出、クジラの移動、ステーブルコインの発行・償還、DEXやL2ブリッジの資金滞留など、需給の変化を価格より先に捉えることが可能です。特にビットコインとイーサリアムはデータが豊富で、アルトやDeFiの循環にも波及します。

基礎:2つのアーキテクチャを押さえる

UTXO型(例:ビットコイン)は「未使用トランザクション出力」の集合として残高が定義されます。コインが“入れ替わる”タイミング(リアライズドプライスやSOPRと相性が良い)を追いやすい一方、アドレスの実体(個人・取引所・マイナー等)把握にはラベルが要ります。

アカウント型(例:イーサリアム)はアドレス残高がそのまま状態を持ち、ERC-20やNFT、ステーキング、L2ブリッジ、MEV等の多層構造を追跡できます。コスト(ガス)やメモリプール状況、DEX流動性の変化も併せて観察可能です。

必須データと読み方

① 取引所流入出(Exchange Netflow):取引所への流入増は売り圧の潜在増加、流出増は長期保管・自己管理への移行を示しやすい。価格が上がっているのに流入が加速していれば「利確圧力の先行シグナル」になり得ます。

② ステーブルコイン供給とドミナンス:USDT/USDC等の純発行増は新規購買余力の増加を示唆。逆に償還やバーンが続けば「資金回収」。ビットコインやETHの時価総額に対するステーブル供給比率の変化は、短期のリスク許容度を測るのに有効です。

③ クジラ・スマートマネーの移動:大口がCEXへ送金→短期での売り可能性、自己保管→保有継続の示唆。イーサリアムではコントラクト相互の資金移動(LST/LRT、L2橋渡し、DEX LP)やメイカーアドレスを追うと、循環の始点を掴みやすい。

④ DEX流動性とプールの再配置:Uniswap v3の集中流動性帯が厚い価格帯はレンジ想定、薄い帯はスリップ大・ブレイク候補。LP撤退→価格変動拡大、LP流入→ボラ縮小を示唆します。

⑤ 先物ポジションとチェーンの整合:建玉・資金調達率(ファンディング)だけでなく、オンチェーンでの担保増減(例:ETHを担保に借入→レバロング)を併読。価格上昇+担保増+取引所流入減は強い需給。

⑥ L2・ブリッジ・ステーキング:L2への一方向フロー偏りは、そのエコシステム内のアルト循環を示すことがある。ステーキングの入出金キューや解除済みETHの再配置先(CEX/DEX/他チェーン)も短期フローの手掛かり。

シグナル設計:価格と資金フローの「乖離」を獲る

ダイバージェンス型:価格が上昇するのに取引所純流入が増加している時は利確圧を警戒。逆に価格が下落でも純流出継続なら押し目候補。これをBTC・ETH・主要ステーブルで同時確認します。

ドミナンス型:ステーブル供給比率が短期で上昇→リスク回避、低下→リスク選好。ここにDEXのLP帯と先物の資金調達を重ね、押し目買い or リバ取り or 逆張りヘッジの優先度を機械的に決めます。

循環検知型:CEX→ETH→L2→DeFi→アルト→CEXという資金の巡回が起きるケースがある。ブリッジ残高・L2 TVL・DEX出来高がセットで増え、かつ取引所のアルト入金が増え始めたらアルト循環初動を疑います。

具体的な運用手順(ワークフロー)

  1. ダッシュボードを用意:BTC/ETHの取引所純流入出、ステーブル純発行、クジラ移動、先物資金調達、DEX LP帯、L2ブリッジ残高を1画面に集約。毎日同時刻にスナップショットを取る。
  2. ルール化:例)「BTC価格上昇かつ純流出・ステーブル純発行増・先物ショート優勢」→現物継続+押し目追加。「価格揉み合い・LP帯厚・ステーブル増減なし」→デリバのガンマ売りは回避。
  3. サイズ管理:確度の高い合流(複数指標が同じ方向)だけ玉を増やす。指標が分裂したら即縮小。
  4. 事後検証:合流数、エントリー/エグジット、保有日数、最大DD、PF、勝率を月次で集計。うまく機能していない指標は破棄。

3つの戦略テンプレート

テンプレ1:現物タイミング最適化(BTC/ETH)
ルール例:価格上昇取引所純流出ステーブル純発行増先物ショート優勢→段階的に買い増し。いずれか2つが崩れたら利食い。期待値の高い週のみエクスポージャー拡大。

テンプレ2:アルト回転(ETH主導→L2→DeFi)
ルール例:L2ブリッジ残高増DEX出来高上昇ETH/BTCレシオ上昇→時価総額上位アルトにローテーション。CEXの当該アルト入金増が出始めたら利食い優先。

テンプレ3:リスクヘッジ(先物・パーペチュアル)
ルール例:価格上昇取引所純流入増ステーブル償還→ショック警戒。保有現物の一定割合を先物でヘッジ。ファンディングの片寄りが極端ならサイズを抑える。

実装のリアル:無料〜低コストでやる

  • ブロックエクスプローラ:アドレス/トランザクションの基本確認。取引所・ブリッジ・ステーブル発行アドレスのラベルを自作スプレッドシートで管理。
  • データアグリゲータ:取引所フロー、ステーブル供給、先物建玉、資金調達等をまとめて見られるサービスを組み合わせる。無料枠は更新頻度が遅いので、日次の同時刻観測で十分使える。
  • 自前メモ:毎日の観測値を「価格・純流出入・ステーブル純発行・先物ポジ・LP帯」の5点で表に記録。1か月で相関が見えてくる。

ケーススタディ:ダイバージェンスを掘り当てる

ある週、BTCが堅調に推移しているのに、取引所への純流入が連日増加、USDTの純発行が停滞、先物のロング過多が観測されたとします。これは「楽観のピーク+利確圧接近」の合図になりがちです。この局面で新規の現物買いは避け、保有分の一部に先物ヘッジを当てる判断が合理的でした。数日後に下落が始まった場合、ヘッジが損失の分散を担います。

逆に、価格が下落気味でも純流出が継続し、USDCの純発行が拡大、先物がショート過多なら、需給が底堅い可能性。小さく買い始めて、翌日に確認できたら段階的に増やす、といった運用が有効です。

よくある落とし穴

  • 単一指標の盲信:Netflowだけ、ファンディングだけ──は禁物。最低でも3指標の合流を待つ。
  • ラベル誤認:取引所ウォレットとカストディ事業者は混同されやすい。複数ソースで突合する。
  • 低流動アルトへの過度な一般化:オンチェーンで動きが見えても、板が薄ければ滑る。サイズを厳格に制限。
  • イベント日程の無視:大型ロック解除、ハードフォーク、マクロイベントはフローを歪める。カレンダー連動で警戒度を自動で上げる。

リスク管理と実務オペレーション

ポジション寸法:合流スコア(0〜5)を作り、スコア3未満は見送り、4で通常ロット、5で最大ロット。
損切り・利食い:エントリー時に固定の損切り幅と、指標崩れ(例:純流出→純流入転換)の条件付き手仕舞いを同時設定。
先物・パーペチュアル:資金調達が極端に片寄ると一時的な踏み上げが起きやすい。サイズを落とし、ヘッジ前提で使う。

ダッシュボード項目の雛形

  • BTC/ETH 価格(現物・先物基差)
  • 取引所純流入出(24h、7d、14d)
  • USDT/USDC 純発行(7d変化率)
  • 先物資金調達率・建玉・ロング/ショート比
  • Uniswap v3 流動性分布とLP増減
  • L2ブリッジ残高・ブリッジ方向性
  • クジラのCEX入出金トラッキング

運用チェックリスト(毎朝2分)

  1. 価格と先物基差:乖離の拡大/縮小をメモ
  2. 取引所Netflow:増減の方向だけ素早く確認
  3. ステーブル純発行:増えているか、止まっているか
  4. LP帯:厚い(レンジ)か、薄い(ブレイク)か
  5. 合流スコアを更新:3未満はノートレ、4以上のみ実行

まとめ

オンチェーン分析の本質は、価格より前に「資金の動き」を捉えることです。指標は単体で当てにせず、複数の合流を待って淡々と実行。無料〜低コストの仕組みで十分に効果は出ます。チャートの“結果”に反応するのではなく、資金フローという“原因”に指を当てる──それが小口でも勝率を底上げする近道です。

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