本稿は、SBI証券の外貨預り金(USD)を前提に、米国株の買付タイミングを逃さず、かつ無利息放置による機会損失を最小化する待機資金の最適設計を、実務レベルで徹底解説します。要点はシンプルです。結論としては、中核を米ドルMMFに置き、翌日現金化で問題ない余裕枠に短期債ETF(BIL/SGOV/SHV)を併用し、さらに当面使わない超余裕資金にT-Billを活用する三層構造が最も合理的です。
なぜ外貨預り金の放置が非効率なのか
外貨預り金は金利がつきません。インフレと米国の政策金利環境を考えると、現金を金利ゼロで持つことは実質的な価値の棄損につながります。待機資金であっても、流動性を犠牲にしない範囲で金利を取りにいくことが合理的です。
本ガイドの前提と評価軸
- プラットフォームはSBI証券(米株取引を行う前提)。
- 評価軸は余力反映速度・流動性・安全性・利回りの4つ。
- 記事中の「即日」「翌営業日(T+1)」は一般的な受渡フローを前提とした運用目安です。
余力反映が早い順の総覧
| 順位 | 手段 | 余力反映目安 | 位置づけ | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 米ドル預り金(現金) | 即時 | 最速発射弾 | そのまま買付できるが金利ゼロ |
| 2 | 米ドルMMF売却 | 当日中(即日) | 実質現金同等 | 注文後、当日中に米ドル買付余力へ反映 |
| 3 | 短期債ETF(BIL/SGOV/SHV)売却 | T+1(翌営業日) | 一泊の弾薬庫 | 市場受渡後に余力化。流動性は非常に高い |
| 4 | 米国短期国債(T-Bill)途中売却 | T+1〜T+2 | 余裕資金 | 途中売却は価格変動リスクと時間的遅延 |
ワンフレーズで言えば、「秒で撃つ=現金、当日で十分=MMF、翌日でOK=短期債ETF、余った資金=T-Bill」です。
米ドルMMF(外貨MMF):待機の“標準解”
MMFは短期国債や高格付けCP等へ分散投資するファンドで、価格変動は歴史的に極小です。SBI証券では売却代金が当日中に米ドル買付余力へ反映されるため、機動性は実務上「現金同等」と評価できます。無利息放置を避けつつ、買付チャンスに即応できるため、待機資金のコアに最適です。
- 利点:高い安全性/当日余力化/米ドルのまま運用/操作が簡便
- 留意:元本保証ではない(ただし変動は極小)。信託報酬は運用内包
短期債ETF(BIL・SGOV・SHV):翌日でよい余裕枠の利回り底上げ
短期債ETFは、超短期の米国債にロール運用で投資する上場投資信託です。特にBIL(1–3ヶ月T-Bill)、SGOV(0–3ヶ月T-Bill)は、現金同等資産に極めて近い値動きで、高い流動性を持ちます。受渡がT+1のため当日中の即応性はMMFに劣りますが、待機資金の「翌日で足りる枠」に対しては有力な選択肢です。
| ティッカー | 主な対象 | 期間感 | 性質 | 使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| BIL | 米国1–3ヶ月T-Bill | 極短期 | ほぼキャッシュ | 待機+高流動性 |
| SGOV | 米国0–3ヶ月T-Bill | 超短期 | 実質キャッシュ | 効率的待機の定番 |
| SHV | 米国1年未満の短期国債 | 短期 | わずかに価格変動 | 待機+やや利回り追求 |
- 利点:市場時間中いつでも売買/超高流動性/信用リスク極小(米国政府債)/配当で利回り可視化
- 弱点:当日余力化は不可(T+1)/イベント時に微小な価格変動
米国短期国債(T-Bill):満期保有で利回り確定。ただし途中売却は即応性に欠ける
T-Billは満期保有で利回りが確定し、信用リスクは実質的に最小ですが、途中売却は受渡T+1〜T+2で、金利水準の変化に伴う価格変動リスクも生じます。よって「当面使わない超余裕資金」に限定して活用するのが合理的です。
配分モデル:機動性を最優先しつつ利回りを取りにいく
| 資産 | 推奨比率レンジ | 目的と運用意図 |
|---|---|---|
| 米ドルMMF | 70%〜100% | 基本待機(当日余力化)+金利の取りこぼし回避 |
| 米ドル預り金 | 0%〜30% | 「秒で撃つ」超短期弾。イベント直前などに増やす |
| 短期債ETF(BIL/SGOV/SHV) | 0%〜30% | 翌日でも良い余裕枠の利回り底上げ |
| T-Bill(3〜6ヶ月) | 0%〜30% | 使途未定の余剰ドル。価格変動を抑えたいなら満期保有 |
高金利局面では「MMF+短期債ETF」の二本立てが合理的です。イベント前はMMF比率を高め、通常時はETF比率で利回りを底上げするなど、状況に応じた機動調整が有効です。
イベント対応フォーメーション
- FOMC・雇用統計・CPIの直前直後:MMF比率を引き上げ、即応性を最優先。短期債ETFは据え置きか一部縮小。
- 相場急落待ちの構え:MMFを常時30%程度キープ。下落時にはMMFから即時発射、ETFは必要に応じて一部売却(T+1)で追撃。
- 利下げ転換局面:短期債の利回りは徐々に低下。待機資金の即応性維持を前提に、余力の一部で中期債へのシフト検討も選択肢。
SBI証券での運用フロー(実務手順)
- 外貨預り金 → 米ドルMMFへ振替(買付)。金利を取りながら待機します。
- 買付タイミング到来:MMFを売却。当日中に米ドル買付余力へ反映されます。
- 短期債ETFを使う場合:平常時は保有し、必要に応じて売却(T+1)で翌営業日に余力化して追随します。
- T-Bill:当面使わない枠のみ。基本は満期保有で利回り確定、途中売却は例外対応。
チェックリスト(運用の品質管理)
- 外貨預り金に長期滞留がないか(金利ゼロの放置を回避)。
- イベント前にMMF比率を引き上げ、即応性を確保しているか。
- 翌日で十分な枠は短期債ETFで利回り底上げできているか。
- 当面使わないドルをT-Billに振り分け、満期保有で利回り確定を狙えているか。
- 売却→受渡のスケジュール(当日/T+1/T+2)をカレンダーで可視化しているか。
よくある質問
Q. MMFは本当に当日中に余力化されますか?
A. はい。売却代金は当日中に米ドル買付余力へ反映されます。実務上、現金同等の機動力です。
Q. 短期債ETFはMMFより有利ですか?
A. 受渡がT+1である点を許容できる「翌日枠」に対しては有利となることが多いです。即日対応が必要なコア待機にはMMFを優先します。
Q. T-Billは安全なのに、なぜコアにしないのですか?
A. 途中売却の時間的遅延と価格変動リスクがあるためです。待機資金は即応性が命であり、コアにはMMFが適しています。
リスクと留意点
- MMF・ETFは元本保証ではありません(ただし短期ゾーンは価格変動が極小)。
- 米ドル保有である以上、円換算の為替リスクは常に内在します。
- ETFはスプレッド・分配金課税・受渡スケジュールに留意してください。
まとめ
待機資金の最適解は、「コア:米ドルMMF」「サブ:短期債ETF(BIL/SGOV/SHV)」「超余裕:T-Bill」という三層構造です。外貨預り金の無利息放置は避け、金利を取りながらも米国株の買付機動力を常に維持する設計に切り替えましょう。

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