この記事では、オンチェーンの基礎4指標(実現価格・MVRV・SOPR・供給ショック)を組み合わせて、ビットコインの循環に沿った売買ルールを構築する方法を解説します。テクニカル指標だけに頼らず、保有者の損益状態や長期保有者の供給動向を取り入れることで、過度な高値掴みを避け、押し目を粘り強く拾う設計にできます。初心者でも段階的に実行できるよう、データ取得、ルール設定、注文方法、資金管理、検証の順に手順化します。
この記事のゴール
以下の3点を満たす運用手順を作ります。
- 相場の循環(過熱・冷え込み)に合わせてポジションを増減できること
- 明確な数値ルールに基づき、迷いなく発注できること
- 損失の上限と想定ボラティリティをあらかじめ定義し、破綻リスクを抑えること
前提知識と用語の整理
実現価格(Realized Price)
全コインの最終移動時の価格を時価総額として集計し、それを供給量で割って平均取得単価に近い値を推定したものです。市場価格が実現価格を下回る局面は、保有者の多くが含み損になりやすく、売り圧が一巡しやすいゾーンになりやすいと考えられます。
MVRV
時価総額(Market Value)と実現時価総額(Realized Value)の比率です。おおむね「1付近=公平価値」「高値圏=加熱」「低値圏=割安感」という解釈を行います。単独での売買は危険ですが、他指標と合わせて閾値運用に向きます。
SOPR
売却コインの平均損益率を表します。1.0を境に損益が切り替わります。強い上昇相場では1.0付近での反発(利確圧の吸収)を確認して押し目買いのトリガーとして活用します。
供給ショック(Supply Shock)
長期保有者・非流動供給の比率が上がることで、取引所に出回る流通在庫が細る現象を指します。非流動供給/流動供給や、長期保有者供給の増減トレンドを用いて「買いが優勢になりやすい地合い」を評価します。
データの入手と更新頻度
オンチェーン指標は日次確報ベースで十分に運用できます。無料・有料の分析サイトやAPIから取得し、日次でスプレッドシートに取り込み、基準値を自動計算する体制を整えると管理が容易です。取引所価格は主要CEX/DEXの加重平均や、利用している取引所の終値で統一します。
4指標を組み合わせたコア・ルール
① エントリー(分割購入)
- バリュエーション条件: 現値 ≤ 実現価格 × 0.98 で第1回25%、≤ 0.95 で第2回25%、≤ 0.90 で第3回25%を目安に分割で現物を積み増します。
- 循環確認: MVRV ≤ 1.2 を満たす場合は積み増しを許容し、1.2 < MVRV ≤ 1.5 は様子見、> 1.5 は積み増し停止とします。
- 押し目の質: 上昇相場で SOPR ≥ 1.0 への回帰(1.0±0.02)を確認できた日の終値で追加しやすいです。
- 地合い判定: 供給ショック比率(非流動供給の移動平均比)が上向きで、直近30日回帰トレンドがプラスの場合、分割幅をやや積極化します。
② イグジット(利確・縮小)
- 過熱基準: MVRV ≥ 2.5 で現物の20〜30%を機械的に利確します。≥ 3.0 到達でさらに20%を利確します。
- 勢い失速: SOPR が 1.0 を割り込み(0.99未満)且つ終値が20日移動平均を明確に割れた場合、10〜20%縮小します。
- 供給ショック反転: 非流動供給のトレンドが横ばい→下向きに転じたら新規積み増しを停止し、上記の過熱・失速条件を優先します。
③ 先物・永続先物でのヘッジ(任意)
強い過熱局面では、現物の一部に対して等価のショートを重ねてデルタを落とします。資金調達率が高止まりしているときは、ヘッジで得られる金利も考慮できます。ヘッジ比率は最大で現物評価額の50%までにとどめ、清算余力を十分に確保します。
資金管理:サイズと許容ドローダウン
- リスクバジェット: 税引前基準で月次−5%の最大ドローダウンを上限とし、想定ボラ(30日年率換算)に応じてポジションサイズを調整します。
- ボラ・ターゲティング: 目標ボラを年率25%に固定し、実測ボラが50%ならエクスポージャを半分にします。
- トレーリング・ストップ: 直近高値から−12〜15%で警戒、−18〜20%で機械縮小。現物は全利食いではなく、縮小中心で回転します。
注文と執行の実務的ポイント
- 指値の基本: 板の厚みを見て分割指値を置きます。広いスプレッド時は成行を避け、TWAPのように時間分散で約定させます。
- OCO活用: 新規指値と同時に利確指値と逆指値を置き、想定外の急変に備えます。
- スリッページ管理: 大口約定が頻発する時間帯を外す、または小口に分割します。
バックテストと前向き検証(ウォークフォワード)
各指標の閾値は銘柄・期間依存です。過去10年程度の週次データでルールを検証し、その後の1年を未学習期間として前向き評価します。過学習を避けるため、閾値は端数を排してシンプルに保ちます。
ケーススタディ(仮想例)
仮にある局面で、現値が実現価格の0.95倍、MVRVが1.1、SOPRが0.99→1.0復帰、供給ショック比が上向きだったとします。このとき第1〜第2回の分割購入を実施し、20日移動平均回復を確認して第3回を追加します。上昇が進みMVRVが2.6に到達した時点で保有の30%を利確し、SOPRが1.0割れかつトレンド失速が見えればさらに10〜20%を縮小します。こうした機械的運用で感情のブレを抑えます。
チェックリスト(毎日3分)
- 価格と実現価格の比率(0.98/0.95/0.90)
- MVRVのレンジ(≦1.2/1.2〜1.5/≧2.5)
- SOPRの位置(1.0割れ→警戒、1.0回復→押し目候補)
- 非流動供給の傾き(上向き=強気、下向き=慎重)
- ポジション比率と想定ボラの整合
よくある失敗と回避策
- 単一指標の盲信: 必ず複数指標を束ね、相反サインのときは待機します。
- サイズ過大: ボラに見合うサイズで運用します。想定ボラ急上昇時は自動的に縮小します。
- ルール逸脱: 例外を作らず、週次に一度だけルール見直し時間を設けます。
実装テンプレート(最短手順)
- データ取得:価格、実現価格、MVRV、SOPR、非流動供給を日次で表にします。
- 閾値判定:シートで「買い/中立/売り」の信号を自動判定します。
- 発注:信号に応じて分割指値・OCOを配置します。
- 管理:日次でチェックリストを実施し、週次でサイズ最適化を行います。
付録:指標の簡易式
- 実現価格 ≒ 実現時価総額 ÷ 発行済み供給
- MVRV = 時価総額 ÷ 実現時価総額
- SOPR = 売却時の取得コスト比(1.0が損益分岐)
- 供給ショック比 ≒ 非流動供給 ÷ 流動供給(または非流動供給のトレンド)
まとめ
実現価格・MVRV・SOPR・供給ショックを束ねると、バリュエーション・循環・保有者行動の3視点を同時に取り込めます。定義済みの分割ルールとサイズ管理を徹底することで、過度な裁量を排しながら、循環のうねりを素直に取りにいけます。まずは小さく運用し、記録と検証を積み重ねて完成度を高めていきましょう。


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