LPトークンの収益構造を徹底解剖:インパーマネントロスを“味方”に変える実務ガイド

DeFi

本稿では、分散型取引所(DEX)に流動性提供(LP)した際にもらえる「LPトークン」の正体と、収益がどのように生まれ、どこで減るのかを、抽象論ではなく“実務の手順”として解きほぐします。対象はAMM(自動マーケットメイカー)型のプール、とくにUniswap v2/v3系です。読了後には、インパーマネントロス(IL)を手数料で上回る設計フロー、適切なレンジ幅、再配分(リバランス)頻度、簡易デルタヘッジの考え方まで、明日から実践できるレベルで理解できます。

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LPトークンとは何か——“権利の束”として理解する

LPトークンは、プール内資産の持分(シェア)+発生手数料の請求権を表すトークンです。価格が動くとプール内の資産比率が自動で入れ替わり、あなたの持分の構成も連動して変わります。LPトークンの評価額=あなたのシェア×(プールの時価総額+未請求手数料)で概ね表せます。重要なのは、価格変動で現物構成が勝手に変わること、そして出来高×手数料率×あなたのシェアに比例して手数料が積み上がることです。

AMMの基礎式とインパーマネントロス(IL)

定数積型(v2系)の基本は x×y=k。価格比 r=P1/P0(開始価格に対する現在価格)とすると、IL(相対的な目減り)は次式で近似できます:

IL(r) = 2 * sqrt(r) / (1 + r) - 1   (v2の代表的近似)

たとえばETH/USDCで、開始時にETH=2,000USDC、現在2,600USDC(r=1.3)の場合、
sqrt(1.3)=1.1402*1.140/(1+1.3)=2.280/2.3=0.991IL≈-0.9%。つまり、単純にETHをHODLした場合より、LP構成にしたほうが約0.9%目減りしています。逆に価格が下がる場合も同様に相対的な目減りが生じます。

“損”ではなく“交換コスト”と捉える

ILはしばしば「損」と誤解されますが、実体は価格変動に応じて自動的に両替を繰り返した結果の差分です。したがって、出来高が高く手数料が十分に取れる設計や、価格の往復(レンジ内の回帰)が期待できる市場では、手数料収入でILを上回ることが可能です。

手数料でILを上回る“勝ち筋”の定式化

まず、1日の出来高 V(プール建て)、手数料率 f(例:0.3%=0.003)、あなたの平均シェア s とすると、日次手数料は概ね Fee_day ≈ V × f × s。一方、価格が r だけ動いた日のILコストの近似は IL_cost_day ≈ TVL × |IL(r)| × s とみなせます(TVLはプール時価)。ブレークイーブン条件

V × f × s  >=  TVL × |IL(r)| × s
⇔  V / TVL  >=  |IL(r)| / f

右辺が小さいほど勝ちやすい。つまり、(1)出来高/TVL比(回転率)が高いプール(2)手数料率が適切(高すぎず低すぎず)(3)ボラティリティが過度でない(またはレンジに回帰しやすい)ほど有利です。

Uniswap v3の“集中流動性”で何が変わるか

v3では価格帯に流動性を集中できます。レンジ内はv2より高い資本効率で手数料を稼げる一方、価格がレンジ外へ出ると実質ポジションは片張りになります。設計は次の二択が基本です。

  • レンジ広め(堅実):外れにくいが資本効率は控えめ
  • レンジ狭め(攻め):当たれば高効率だが外れると“死んだ資産”化しやすい

実務では、ボラティリティ×期待出来高×再配分コストを勘案したレンジ幅を選び、「外れたらどう戻すか」を先に決めておくのが肝です。

実務フロー:ゼロからLP設計

ステップ1:市場選定

  • 片側がステーブルのプール(例:ETH/USDC)は、価格変動の影響を見えやすく初心者に扱いやすい。
  • 出来高/TVLが継続的に高いか(回転率>30%/日が目安だと手数料期待が立てやすい)。
  • 手数料ティア(0.01%/0.05%/0.3%/1%など)が市場実情と合っているか。

ステップ2:レンジ決定(v3)

次の“3点セット”を事前に紙に書き出します。

  1. コアレンジ:現在価格の±α%(例:±10%)。ここに主力を置く。
  2. セーフティレンジ:±β%(例:±25%)。外れ対策の予備枠。
  3. 退出条件:ローソク終値がセーフティ外で2本連続なら撤退/再構築、など。

ステップ3:配分と再配分ルール

  • 初期配分:コア:セーフティ=70:30など。
  • 再配分タイミング:制度上の手数料回収タイミング・ガス代・価格乖離を総合で決める(例:週1、もしくは価格が±12%動いたら)。
  • 複利化:回収手数料を同レンジへ再投入するか、別レンジに薄く敷くかの方針を固定。

ステップ4:想定P/Lを紙で検証

以下の簡易シミュレーション枠を使って、1日あたりのP/Lを見積もります。

入力:TVL, 自分の資金W, 市場出来高V, fee率f, 自分の想定シェアs=W/TVL,
      1日の価格変化率ΔP(上・下・往復の3ケース)

手数料収入:Fee = V × f × s
ILコスト(v2近似):IL = TVL × |IL(1+ΔP)| × s
日次P/L ≈ Fee − IL − ガス・再配分コスト

“往復”ケース(レンジ内で上下して戻る)を必ず入れてください。往復は手数料だけ残りやすいため、回帰的な相場に強い設計が可能です。

数値例:5,000 USDCでETH/USDCのコア±10%レンジにLP

前提:TVL=5,000,000USDC、出来高V=1,500,000USDC/日、fee率0.3%、あなたの資金W=5,000USDC(平均シェアs=0.1%)。

  • 日次手数料:1,500,000×0.003×0.001=4.5USDC
  • 価格が+8%→−8%で往復:往復でILは概ね相殺されやすく、手数料4.5USDCがほぼ純増(実務では僅かなILやガスが差し引かれる)。
  • 価格が+20%一方向:近似IL(1.2)≈−1.8%。自分の持分TVL=5,000USDC相当→ILコスト概算=5,000×0.018=90USDC。手数料4.5USDC/日だと20日で埋める水準。“トレンドが強いときは不利”が見える。

狭レンジで回転率が更に高いと、日次手数料が増えブレークイーブンが早まります。ただし、レンジ外に出て放置すると片張りになるため、再配分ルールが肝です。

リスク最小化のテクニック

1)片側ステーブルの安心感を最大化

ボラティリティ起因のILが大きく出ないよう、まずはETH/USDC、BTC/USDCなどから始める。相関の低いアルト同士より、片側ステーブルが設計しやすい。

2)“外れたら終わり”を避ける二層構造

コアの狭レンジ(稼ぐ)+セーフティの広レンジ(守る)を組み合わせ、「外れたらセーフティだけが稼働」という状況を作る。復帰時にコアを敷き直す固定手順を用意。

3)簡易デルタヘッジの考え方

価格上昇でETH偏重になったら、少量の先物ショート(または現物売り)でデルタを中和する方法もあります。ただし、先物の資金調達コストや清算リスクを必ず見積もること。初心者はまずヘッジなしで“レンジと再配分”に集中し、ヘッジは小さく試すのが安全です。

日次運用チェックリスト

  • 価格がコアレンジ内か/外か
  • 出来高/TVLの回転率の変化(直近3日移動平均)
  • 未請求手数料の額と複利投入のタイミング
  • ガス代(再配分の費用対効果を常に計算)
  • ニュース・イベント(急騰急落の前兆)

初心者が踏みがちな落とし穴

  • 狭レンジに“置きっぱなし”:外れて死蔵し、手数料も入らず片張り化。
  • 出来高の少ないプール:手数料が薄く、ILに勝てない。
  • 再配分コストの軽視:少額で頻繁に組み替え、手数料よりガスが高くつく。
  • ヘッジ過多:ヘッジコストが手数料を食い尽くす。

テンプレ:運用ルールを1枚に固定

□ プール:ETH/USDC(fee 0.3%)
□ コア:現値±10%(配分70%)
□ セーフティ:現値±25%(配分30%)
□ 再配分:週1/または価格±12%変動時
□ 未請求手数料:50USDC超で回収→再投入
□ レンジ外れ:終値2本連続でセーフティ外→全面撤退・再構築
□ 監視KPI:出来高/TVL > 30%/日、直近3日平均で維持

学びを“勝ち筋”に昇華するまとめ

LPトークン運用は、(1)市場選定(回転率)→(2)レンジ設計→(3)再配分ルール→(4)複利方針という順番で決めていくと一貫性が生まれます。インパーマネントロスは避けられない“交換コスト”ですが、回帰的な値動き+高出来高+適正feeの組み合わせでは、手数料が優位に働きます。まずは小額で、上記テンプレをそのまま写経し、数字でブレークイーブンを確かめながらスケールしましょう。

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