近年、機関投資家が活用するクオンツ投資(数量的投資手法)が注目を集めています。しかし、個人投資家にとっては敷居が高いと感じられることも少なくありません。本記事では、Pythonとオープンデータを活用して、個人でも実装可能なクオンツ投資戦略の構築方法を徹底解説します。
クオンツ投資とは何か
クオンツ(Quantitative)投資とは、感情や直感に頼らず、統計モデルや数理アルゴリズムを用いて売買判断を行う投資手法。機関投資家の専売特許と思われがちだが、Pythonの普及とオープンデータの増加により、個人投資家にも門戸が開かれつつある。
特長:
- 規律的で一貫した判断
- 感情に左右されない
- バックテストによる事前評価が可能
- 再現性の高い戦略構築ができる
個人でも可能な環境構築とデータ取得
Python環境と推奨ライブラリ
環境:Anaconda(もしくはVSCode + pip)
推奨ライブラリ一覧:
用途 | ライブラリ |
---|---|
データ処理 | pandas , numpy |
可視化 | matplotlib , seaborn |
データ取得 | yfinance , quandl |
回帰・機械学習 | sklearn , statsmodels |
数値最適化 | scipy.optimize |
データ取得(例:S&P500銘柄)
pythonコピーする編集するimport yfinance as yf
symbols = ['AAPL', 'MSFT', 'NVDA', 'GOOGL']
data = yf.download(symbols, start="2018-01-01", end="2024-12-31")["Adj Close"]
ファンダメンタル情報の取得(Quandlなど)
pythonコピーする編集するimport quandl
quandl.ApiConfig.api_key = 'YOUR_API_KEY'
eps_data = quandl.get("SF1/AAPL_EPS_DIL")
実践1:ファクター投資戦略の構築
ファクター投資とは、ある「説明変数(ファクター)」が将来のリターンを予測するという前提に立った投資戦略。たとえば、以下のような因子がある:
- Value(割安性):PER, PBR, EV/EBITDA
- Momentum(勢い):3ヶ月〜12ヶ月リターン
- Quality(収益性):ROE, ROIC
- Size(規模):時価総額の逆数
実装例:低PBRファクター戦略
pythonコピーする編集する# ダミーデータによる簡略モデル
import pandas as pd
data = pd.DataFrame({
"ticker": ['AAPL', 'MSFT', 'GOOGL'],
"PBR": [5.2, 10.1, 3.1],
"return_next_month": [0.03, 0.01, 0.07]
})
# PBRが低い銘柄を買う
low_pbr = data.sort_values("PBR").head(2)
expected_return = low_pbr["return_next_month"].mean()
print(f"期待リターン: {expected_return:.2%}")
検証視点:
- ファクターの分布特性
- セクター・バイアスの有無
- 過去5年〜10年の安定性
実践2:モメンタム×バリューの複合戦略
「高モメンタム × 低PBR」のように、複数ファクターを掛け合わせることで、歪みを補正しつつアルファを抽出できる。
pythonコピーする編集する# 各ファクターをz-score化して合成スコアを作成
data['z_momentum'] = (data['momentum'] - data['momentum'].mean()) / data['momentum'].std()
data['z_value'] = (data['PBR'] - data['PBR'].mean()) / data['PBR'].std() * -1
data['composite'] = data['z_momentum'] + data['z_value']
top_picks = data.sort_values('composite', ascending=False).head(5)
複合ファクター戦略の強み
- 一時的なトレンドではなく、構造的な歪みにフォーカス
- 戦略の分散化による安定性向上
- 単一ファクター依存のリスク回避
ポートフォリオ最適化とリスク管理手法
等金額投資 vs リスクパリティ
- 等金額投資:各銘柄に同額を配分(単純だがボラティリティ無視)
- リスクパリティ:各銘柄のリスク寄与を均等化(高ボラ銘柄に少額投資)
最適化:シャープレシオ最大化
pythonコピーする編集するfrom scipy.optimize import minimize
def sharpe_ratio(w, ret, cov):
port_ret = w @ ret
port_vol = (w @ cov @ w.T) ** 0.5
return -port_ret / port_vol # マイナスで最小化
res = minimize(sharpe_ratio, x0=np.ones(len(ret))/len(ret), args=(ret, cov),
constraints={'type': 'eq', 'fun': lambda w: sum(w) - 1})
weights = res.x
戦略のバックテストとパフォーマンス評価
必須指標
- リターン年率(CAGR)
- 最大ドローダウン(Max Drawdown)
- シャープレシオ(Sharpe Ratio)
- ソルティノレシオ(Sortino Ratio)
可視化例
pythonコピーする編集するimport matplotlib.pyplot as plt
portfolio_value = strategy_returns.cumsum().apply(np.exp)
portfolio_value.plot(title="ポートフォリオの推移")
plt.ylabel("資産推移")
plt.show()
よくある失敗と改善アプローチ
失敗パターン | 対策 |
---|---|
過学習(オーバーフィッティング) | out-of-sample評価を徹底する |
ファクターの崩壊 | 経済構造の変化を織り込む(例:金利上昇時代) |
データマイニング偏重 | 理論的根拠がない戦略は排除 |
まとめ:データが示すロジックこそ最大の武器
クオンツ投資は、情報の非対称性ではなく、分析・実装力によって優位性を構築する世界です。個人投資家でも、正しい知識と手法を持てば、ファンダメンタルやテクニカルに依存しない第三の道を進むことができます。
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