キャッシュセキュアドプット売り:安く買う権利を売ってプレミアムを積み上げる実践ガイド

オプション戦略

「指定した価格まで下がったら買ってもよい」と考える銘柄に対して、プットオプションを売り、必要な現金をあらかじめ確保しておくのがキャッシュセキュアドプット(Cash-Secured Put, CSP)です。約定すれば安く現物を取得、約定しなければプレミアム(受取保険料)が利益として残ります。株式でも暗号資産でも応用でき、裁量とルールを組み合わせることで再現性のあるインカム戦略になります。

本稿では、仕組み・損益構造・設計の基準値・実運用の手順・よくある失敗と回避策・継続運用(ロール)の型・簡易検証の考え方まで、実務レベルで使える形に落とし込みます。初心者が最初の1トレードを安全に設計できるよう、手順は具体的に、判断基準は数値化します。

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戦略の定義と前提

キャッシュセキュアドプットは、現物を買う意思のある価格(=権利行使価格)に対してプットを売る戦略です。約定(割当/アサイン)された場合に備え、行使に必要な全額の現金を証券口座・取引口座に確保しておきます。これにより強制ロスカットのリスクを避け、レバレッジを掛けない保守的運用が可能です。

  • 想定銘柄:日本株・米株・指数・ビットコイン/イーサリアムのオプション(例:CBOE/NYSE/JPX/Deribitなど)
  • 前提:単元株の約定資金、または暗号資産の原資産取得資金を口座に確保
  • 目的:①狙った価格で現物を割安取得、②約定しない場合は受取プレミアムで収益化

損益構造(数式と直観)

建玉1枚(株式なら100株単位など)のとき、満期時の損益は概ね下式で表せます。

損益 = 受取プレミアム − max(0, 行使価格 − 満期スポット) × 枚数

約定(割当)されれば、実質取得価格 = 行使価格 − 受取プレミアム/株(または単位)。つまり、現物のナンピン買いをプレミアム分だけ有利に行っているのと同義です。約定しなければ、受取プレミアムが確定利益になります。

ギリシャ指標の要点

  • Δ(デルタ):権利行使価格の遠さの目安。|Δ|が小さいほど約定確率は低いが受取プレミアムも小さい。
  • Θ(セータ):時間経過でプレミアムが減価。売り手は有利。
  • V(ボラティリティ):IV上昇でプット価格は上がる。IVが高い局面で売るほうが期待値は上がりやすい。

設計の基準値(実務ベンチマーク)

  • 満期(DTE):7〜45日を中心に設計。短期(7〜14日)は回転効率、中期(30〜45日)はプレミアム厚み。
  • 行使価格の選定:ATMからΔ≒−0.10〜−0.20あたりのOTMを第一候補。イベント前はやや遠め。
  • 銘柄:板厚・出来高・スプレッドが狭いことが最優先。流動性はリスク管理です。
  • サイズ:1回の約定で口座純資産の10〜20%以内に抑制。複数銘柄・満期に分散。
  • エントリー基準:IVが過去分位で上位(例:IVパーセンタイル60%以上)で新規、もしくは急落の初動後に指値で。
  • エグジット基準:受取額の50%利確または残存3〜5営業日でロール判断。急騰でディープITM化なら早期に現物受渡へ切替。

株式の具体例(日本株の単元株)

例:株価1,950円の銘柄に対して、行使価格1,800円・満期14日のプットを1枚(=100株)売る。受取プレミアムが1株あたり45円なら、受取総額は4,500円。必要現金は180,000円(手数料等除く)。

  • 満期に株価が1,800円以上:約定せず、4,500円が確定利益
  • 満期に株価が1,760円:100株割当。実質取得価格は1,800−45=1,755円。下落でも取得コストはプレミアム分だけ軽い。
  • 想定外の急落時:割当後は長期保有×カバードコールへ切替え、平均回収速度を上げる。

板が薄い銘柄ではスプレッドと約定効率が悪化するため、指値・分割発注・時間帯(寄り/引け)を使い分けるのが肝要です。

暗号資産の具体例(BTC/ETHのプット売り)

例:BTC価格が9,800,000円のとき、行使価格9,000,000円・満期7日のプットを売る。受取プレミアムが0.009 BTC相当なら、割当時の実質取得価格は9,000,000円 − プレミアム相当額。現物を安く仕込め、約定しなければプレミアムが利益。

  • 資金管理:暗号資産は価格変動が大きい。価格×契約乗数ぶんの法定通貨建て現金または安定資産を確保。
  • イベント:CPI/FOMCや半減期前後はIVが跳ねる。IV高止まりでの新規売り→時間低下で利確が狙いやすい。
  • リスク:ギャップダウンで深いITM化。先物の短期ショートでヘッジしてデルタを調整する選択肢も有効。

発注・執行の最適化

  • 指値の置き方:ビッド/アスクの中間からスタート。板気配と約定履歴を見て1ティックずつ改善
  • 時間帯:板が厚く参加者が多い時間を優先。株式は寄り後の落ち着き、暗号資産は主要市場の重なる時間帯。
  • ルーティング:アグリゲータやスマートルーティングが使える環境ではスリッページ縮小効果。

ロール戦略(継続運用の型)

時間価値の収穫は回転数が効くため、「半分利確で即建て直し」が王道。ITM化した際は下記を基準に選択します。

  • ロールダウン&アウト:行使価格を下げ、満期を延長。受取額を追加してブレークイーブンを下げる。
  • 受渡に切替:現物を受け取り、そのままカバードコールで回収を加速。
  • デルタヘッジ:先物/パーペチュアルで部分的にショートし、急落時のドローダウンを緩和。

リスク管理(落とし穴の先回り)

  • 単一イベント集中:決算・CPI/FOMC・重要アップグレード直前はサイズ半減。IVスパイク後に仕掛ける。
  • 約定資金の不足:常に行使に必要な全額を別枠管理。余力が足りないロールは破綻の温床。
  • 板の薄さ:広いスプレッドは実質コスト。銘柄選別と指値徹底でコストを削る。
  • 過度な遠いOTM:約定確率が低すぎると年率換算収益が伸びない。Δ−0.10〜−0.20を軸に調整。
  • 急落ギャップ:ブラックスワン対策として、安価なロングPUTでプロテクティブ化(コラープット/ダイアゴナル等)。

期待値の見積りとサイズ最適化

単発勝率ではなく、収益/リスク比ドローダウン耐性で設計します。

  • 年率化プレミアム受取額 / 必要現金 × (365 / DTE) を目安に銘柄・満期を比較。
  • ボラターゲティング:過去の満期別PLから年率ボラを推計し、狙いの年率ボラに合わせて枚数を調整。
  • ケリー分数(保守版):推定勝率・平均利得/損失からサイズ上限を算出し、その半分以下で運用。

税務の考え方(概要)

プレミアム受取は原則として決済時点で損益認識されます。株式で割当が起きた場合は取得原価調整の考え方、暗号資産では取引所・商品仕様に応じた損益区分・計算方法が異なる点に留意します。詳細は各市場・商品仕様・国のルールに依存するため、具体的な申告作業は各自の状況に合わせて整理してください。

チェックリスト

  • 対象は板が厚くスプレッドが狭い銘柄か?
  • エントリー時のIVパーセンタイルは高めか?
  • DTE 7〜45の範囲で無理のない行使価格か?(Δ−0.10〜−0.20
  • 受取額50%利確ルールとロールの方針を事前に決めたか?
  • 約定資金は別枠で確保したか?
  • 急落時のヘッジ手段(先物・ロングPUT)の手順は明文化したか?

よくある失敗と回避策

  • イベント直前にサイズを張る:IVクラッシュで早期利確できる局面を狙う。直前はサイズを抑える。
  • ロールを後手に回す:残存価値が薄い段階で素早く意思決定。アウト&ダウンを基本形に。
  • 板薄・広スプレッド:実質手数料が跳ね上がる。銘柄切替・時間帯調整・分割指値で対応。

簡易検証(手動バックテストの型)

  1. 対象銘柄の過去価格とIVを取得(終値・週次でも可)。
  2. 各日について、Δ−0.15付近・DTE14のOTMプット理論価格を近似。
  3. 満期損益(利確・ロールルール込み)を集計し、年率リターンと最大ドローダウンを算出。
  4. 複数銘柄・複数DTEで横比較。「勝てる型」を抽出する。

まとめ

キャッシュセキュアドプットは、割安で現物を取得したい投資家と、安定収益を積み上げたい運用者の双方に適合する戦略です。IVが高い局面で売る・Δ−0.10〜−0.20・DTE 7〜45・50%利確・早期ロールという型を守れば、相場に長く居続けながら収穫を繰り返す仕組み化が可能です。

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