要旨:本稿は、オンチェーン指標の中でも「価格に先行しやすい資金フロー」を軸に、現物とデリバティブのデータを統合して勝率の高いエントリーを狙う具体的な手順を提示します。初心者でも再現できるよう、無料(または低コスト)で見られる代替データの探し方、数値の読み方、チェックの順番、売買ルール化の考え方まで、感覚ではなくロジックで説明します。
前提と姿勢:オンチェーン分析は「万能な予言」ではありません。価格は先物建玉(OI)、清算、ファンディングレート、板厚(流動性)、マーケットメイクの動きにも強く影響されます。よって、オンチェーン×デリバティブ×板・清算データの三点合意(複数シグナルが同時に点灯)でのみ行動し、単独シグナルには賭けないことを基本方針とします。
コアとなる5つの指標
- 取引所フロー(Exchange Netflow):取引所への純流入増は売り圧の予兆、純流出増は現物の供給逼迫の兆候になりやすい。短期ノイズを避けるため、1時間〜4時間足と日足でコンファームします。
- MVRV(時価総額/実現時価):市場全体の含み益/含み損の強度を測る指標。極端な高位は利確圧力、極端な低位は逆張り妙味。
- SOPR(Spent Output Profit Ratio)/ aSOPR:コインが利益で移動しているか(>1)損失で移動しているか(<1)。1の奪回や割れはトレンド転換の節目になりやすい。
- デリバティブ建玉(Open Interest, OI)と清算ヒートマップ:過剰レバレッジの側(ロングorショート)を把握し、逆方向への清算ラッシュを狙う。
- ステーブルコイン供給・CEXリザーブ:買付余力の代理変数。増加はリスクオンの下地、減少はリスクオフの予兆になりやすい。
必須ツール(無料中心の代替案):公式の高級ツールがなくても代替可能です。例:取引所フロー・ステーブル供給は無料ダッシュボード(各種オンチェーンサイトやDuneの公開ダッシュボード等)、OI・清算は先物所の公開板・清算マップ、板流動性は主要取引所の成行深度/気配、価格は任意のチャートで代用できます。
統合チェックリスト(5分ルーチン)
- 市場の体温確認:ビットコインとイーサリアムの日足でMVRV・SOPRの位置を把握。極端ゾーン(過熱/冷え込み)かどうか。
- 短期フロー:直近24時間の取引所純流入/純流出と、ステーブルコインの流入状況をチェック。
- レバレッジ状況:主要取引所のOI変化、資金調達率(Funding)リセットの有無、清算ヒートの偏り。
- 板と流動性:近接流動性の偏り(厚い買い板/売り板)。特定価格帯での吸収やスリップの出やすさ。
- ニュース/イベント:マクロ指標やオンチェーン特有のイベント(大口アンロック、バグ、アップグレード進行)を確認。
プレイブックA:現物吸い上げ(供給逼迫)型の上昇初動を拾う
- セットアップ:
- 取引所純流出が拡大(現物の外部保管/長期保有移行)。
- SOPRが1超で安定または1を下回っても即座に奪回。
- OIは過熱していない(極端なレバ片寄りなし)。
- ステーブル供給が漸増(買付余力増加)。
- エントリー:4時間足で押し目(移動平均・VWAP・前日高安の再テスト)。半分だけ成行、残りは押し目指値。
- リスク:直近スイング安値の外側に機械的ストップ。価格が伸びずに取引所純流入へ転換したら撤退。
- 利確:短期では清算バンド到達で半分利確、残りは日足トレーリング。
プレイブックB:レバ偏りの反転(清算起点の反射)を狙う
- セットアップ:Fundingが極端にプラス(ロング有利)かマイナス(ショート有利)に張り付く。清算ヒートが一方向に厚い。
- トリガー:逆方向の初動で連鎖清算が始まる瞬間を1分〜15分足で捕捉。
- エントリー:清算連鎖の2波目の戻りで入る(初動追いは滑りやすい)。
- フィルター:同時に取引所フローが反転(例:ロング片寄り時に純流出→純流入)していれば確度が増す。
- 利確/撤退:清算厚みの次の節で部分利確、Fundingが中立化/OI縮小で残りを巻き取る。
プレイブックC:MVRV極端ゾーンの逆張り
- 条件:MVRVが過去1〜2年の上位/下位バンドにタッチ、SOPRが極端に伸びきる/沈み込む。
- 実行:段階的に逆張り(3分割以上)。短期では過熱是正のスイング狙い、長期枠はMVRVのバンド回帰まで保有。
- 注意:極端ゾーンはしばらく続く可能性があるため、玉の小分けとストップの徹底が必須。
具体的な売買ルール化(例)
IF 取引所純流出(24h) > +Xσ AND aSOPR > 1.0 AND Funding 近中立
AND OI 直近24hの増減が±Y%以内 THEN
4Hの押し目で現物/パーペチュアルを分割買い
初期ストップ = 直近スイング安値-α
1R到達で半分利確、残りはトレーリング (ATR基準)
ELSE NO TRADE
再現性を高めるログの付け方
- 毎日のスクショ(取引所フロー、MVRV/SOPR、Funding/OI、価格)。
- 「三点合意」の有無(Yes/No)と、不一致時の理由。
- 入出金の異常スパイクは必ず画像保存。後から検証。
- 勝ちトレード/負けトレードの共通前提を数で把握(体感に頼らない)。
よくある誤解と回避策
- 誤解:「オンチェーンは長期投資だけの道具」。
→ 回避:短期でも資金フローの異常は先行信号になり得る。4H/1Hの多時間足で使う。 - 誤解:「取引所純流出=必ず上昇」。
→ 回避:同時にが逆行していないかを確認し、単独シグナルで賭けない。 - 誤解:「MVRVが高い=すぐ天井」。
→ 回避:トレンド相場では高止まりが続く。清算バンドと合わせて利確の順序を決める。
ケーススタディ(仮想例)
ビットコインがレンジ上限を試す局面。直近24時間で取引所純流出が急増、aSOPRが1.01で安定、Fundingが中立に回帰、OIは横ばい。4時間足でブレイク後の再テストが入り、買い板厚が確認できる。ここで半分成行・半分指値。次の清算バンド到達で半分利確、日足の直近安値割れで撤退。結果、伸びても縮んでもリスク1に対するリターン2〜3を狙える設計。
資金管理のミニマム
- 1トレードの損失上限=口座の1〜2%に固定。
- 同一ロジックの同時ポジションは最大2つまで。
- 重大イベント前後はロットを半減。
- レバレッジはストップの距離で決める(先にロスカット価格を置き、逆算で枚数を出す)。
実装メモ(半裁量→半自動)
- IFTTT/スクリプトで「純流出スパイク」「Fundingリセット」「OI急変」を通知。
- チャートはアラートライン(前日高安・VWAP・清算帯)に触れたら携帯へ通知。
- エントリーは成行+指値の二段構えで滑りを抑制。
まとめ:勝率の源泉は「複数の異種データの同時点灯」です。取引所フロー、MVRV/SOPR、Funding/OI、板・清算のいずれか一つに依存せず、整合した瞬間だけ資金を出す。この原則を守れば、オンチェーン分析は初心者でも再現可能な武器になります。
コメント