本稿では、暗号資産デリバティブの中でも最も回転速度が速い分野のひとつである「お削りスキャルピング」を、ビットコイン(BTC)およびイーサリアム(ETH)のパーペチュアル先物を前提に、板(オーダーブック)とラウンドナンバーを軸にした超短期エントリーで日次の期待値を積み上げる実践手順として解説します。目的は大勝ではなく「日々の微益の積み上げ」。勝率と損小利小の両立、そして何よりもドローダウンの浅さを重視します。
- お削りの定義と到達目標
- マーケットの前提:BTCとETHの板特性
- 準備:板・出来高・ファンディング・ラウンドの4面見る環境
- コアルール:5つの厳守事項
- セットアップA:ラウンドナンバーの押し出し
- セットアップB:板の偏り修正(吸収リバウンド)
- セットアップC:ファンディング歪みの瞬間利用
- 実行手順:ミリ秒オペレーションの標準化
- 数量設計:損小利小でも日次PLを作る
- 時間帯選定:アジア午前・ロンドン前半・NY初動
- リスク管理:4つのガードレール
- ミクロ統計の取り方:自分の市場だけを観る
- 実例:BTCの0ラウンド押し出し
- 実例:ETHの板偏り修正
- 実装チェックリスト
- やってはいけないこと
- 日次ルーティン:開始前5分・終了後10分
- 小資金からの拡張
- まとめ
お削りの定義と到達目標
お削りとは、1~5ティック程度の薄いエッジを高頻度に取りにいくスキャルピング手法です。板厚、約定フロー、ラウンドナンバー(例:$100、$500、$1000などのキリ番)をテコに、微小な不均衡が解消される瞬間に同方向へ素早く乗り、解消と同時に手仕舞いします。日次のKPIは以下の通りです。
- 平均獲得ティック:+1.2~+2.5
- ヒット率(手仕舞いまで到達):55~65%
- 1日あたりの完結トレード数:40~120
- 日次最大許容ドローダウン(実現損):-0.8%(証拠金ベース)
マーケットの前提:BTCとETHの板特性
BTCは厚めの板と高速な反復を持ち、スプレッドはタイトになりやすい一方でラージオーダーの吸収に時間がかかる場面があります。ETHはミッドの跳ね返りが機敏で、板抜け→即戻りの「フェイク」も出やすいのが特徴です。お削りでは「厚い側に便乗して1~3ティック先で逃げる」「薄い側では追わない」を徹底します。
準備:板・出来高・ファンディング・ラウンドの4面見る環境
最低限、以下4枚のパネルを常時可視にします。
- オーダーブック(上位10~20段)と累積板厚
- テープ(約定フロー、秒足の出来高)
- 資金調達率(Funding)の推移と直近の乖離
- 価格チャネルとラウンドナンバー($50/100刻みの水平線)
秒足やティック足チャートは「雰囲気」を掴むためではなく、ミクロなプルバック幅と平均伸び代の統計を測るために使います。
コアルール:5つの厳守事項
- 一回の狙いは1~3ティック。 伸びたらラッキー、基本は即逃げ。
- 厚い側→薄い側に抜ける直前のみ。 反対はやらない。
- 負けは最小化。 板反転のサインが出た瞬間にクイック損切り。
- トレード密度の維持。 良い局面のみ連打、悪い局面は完全休止。
- 日次DDリミット厳守。 到達時点でその日は終了。
セットアップA:ラウンドナンバーの押し出し
価格がラウンドナンバーに接近し、買い板の累積厚が売り板を1.5倍以上かつテープで買い連打が確認できる局面を待ちます。条件成立で成行買い→+2ティックで利確指値、-2ティックで損切り。逆に上から潜ってくるときは「売り厚>買い厚」を条件に対称運用します。
失敗パターン: ラウンドを一瞬抜けても、テープの勢いが細り板が薄くなったら即逃げ。欲張って伸ばさないこと。
セットアップB:板の偏り修正(吸収リバウンド)
片側に極端な厚み(例:売り板が急に3倍)が出現した直後、テープに反対側の成行が走り、厚みが削られていく局面を狙います。最初の吸収が入った瞬間の同方向エントリー→+1~2ティックで手仕舞い。吸収が止まったら即撤退。
セットアップC:ファンディング歪みの瞬間利用
資金調達率が短時間に急拡大(例:+0.02%→+0.08%)した直後は、同方向の追随成行が入りやすいため、お削りの成功確率が上がります。とはいえ狙いはあくまで1~2ティック。極端に偏った瞬間だけを拾い、平均回帰の反動が出る前に畳みます。
実行手順:ミリ秒オペレーションの標準化
- 待ち:条件が同時に2つ以上揃うまでエントリー禁止。
- 発注:成行メイン。スプレッドが広いときのみ浅い指値。
- 利確:常に固定ティック(+1~+3)。可変にしない。
- 損切り:板反転・テープ鈍化・ラウンド割れ(抜け返し)で即切り。
- 再現:同条件が続く限り連打。止まったら完全休止。
数量設計:損小利小でも日次PLを作る
1トレードの期待値は小さくても、回転数×命中率×滑り最小化で日次PLを作れます。具体例として、1ティック$0.5、命中率60%、平均取り+1.6ティック、平均ロス-1.8ティック、手数100回で試算すると、日次期待値はおよそ+20~+40ティック相当になります。杖は「ロットの無理な増加よりも、条件が良い時間帯だけ密度を高める」ことです。
時間帯選定:アジア午前・ロンドン前半・NY初動
お削りは板が薄すぎても厚すぎても難易度が上がります。アジア午前後半(10:00~11:30JST)、ロンドン前半(17:00~19:00JST)、NY初動(22:30~24:00JST)に「板厚はそこそこ、テープは軽快」な時間帯が出やすいです。雇用統計などのイベント直後は、スプレッド拡大と滑りでエッジが不安定になりやすいため、最初の数分は見送りが無難です。
リスク管理:4つのガードレール
- 日次DDリミット:-0.8%で終了。
- 連敗ストップ:5連敗、もしくは-15ティックで10分間のクールダウン。
- スリッページ監視:平均滑りが規定値(例:0.4ティック)を超えたら、当日中止。
- 週次見直し:曜日×時間帯で勝率と平均伸びをヒートマップ化、翌週の稼働窓を最適化。
ミクロ統計の取り方:自分の市場だけを観る
公開インジケータではなく、自分の約定履歴とその直前の板・テープから「伸び始め→利確到達」までの平均ティック幅、反転損切りまでの平均ティック幅、利確到達にかかった秒数の分布を出します。勝ちの中央値が+1.8、負けの中央値が-1.6、到達時間中央値が4.2秒など、自分専用のミクロ統計に基づいて利確幅と損切り幅を固定し、日中は一切いじりません。
実例:BTCの0ラウンド押し出し
価格が$60,000に接近。買い累積厚が売りの約1.8倍、テープは買い連打。成行買いで参加し、+2ティックで即利確。直後に買い勢いが鈍って反転しかけたが、すでにクローズ済み。数十秒後に深く押したが、再度の買い偏りが出るまでノーエントリーを維持。「一回で満足しない、再現性のある瞬間だけ拾う」が重要です。
実例:ETHの板偏り修正
売り板が急に3倍に膨らむニュースなしの局面。直後に逆サイド(買い)の成行が走り、厚い売り板が削られ始める。最初の吸収で同方向エントリー→+1.5ティックで即逃げ。吸収が止まれば買いは終了。ETHは戻りが速いので、伸ばすよりも「最初の一口」が基本です。
実装チェックリスト
- 成行ショートカットとクイッククローズのキー割り当て
- 板厚の比率計算(買い/売り)を自動表示
- ラウンド水平線の自動描画($50/$100)
- ファンディングの短期乖離アラート
- スリッページの自動記録と直近平均
やってはいけないこと
- 「伸びたから」利確幅をその場で拡張する(ルール破りは長期期待値を壊します)。
- 指標発表直後の最初の飛びつき(板が機能せず滑るだけ)。
- 薄い側に逆張りで入る(板の支えがない)。
- 連敗でロットを増やす(復讐トレードの温床)。
日次ルーティン:開始前5分・終了後10分
開始前5分: 主要ラウンドの水平線確認、直近30分の出来高と板厚の平均、当面のファンディングの傾向を把握。
終了後10分: 勝ち/負けの局面スクショと約定ログを紐付け、伸び代・反転幅・到達秒数を更新。熱量ではなく数字で振り返ります。
小資金からの拡張
証拠金が小さいうちはロットを増やすよりも「良い時間帯×良い局面の密度」を上げるのが近道です。週次で安定してプラスが続いたら、ロット1.1倍のように少しずつ引き上げ、スリッページに変化が出たら停止して再計測します。
まとめ
お削りは「小さなエッジを高速で繰り返す」単純な設計ですが、勝ち筋は板とテープとラウンドという目の前の事実にあります。伸ばそうとしない、条件が止まれば何もしない、負けは即切る。この3点を守れば、日次で静かにPLが積み上がります。ルールを変えない勇気こそが、最大の優位性です。
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