本記事では、夜間のPTS取引で材料ニュースに反応した銘柄を素早く把握し、翌日の寄り付きギャップ(ギャップアップ/ギャップダウン)を狙って利益機会を獲得する「ニュース初動トレード」を、初心者の方でも現物取引だけで実践できるように体系化します。複雑なアルゴリズムや信用取引は不要です。準備・手順・ルール・検証方法・リスク管理まで、実務フローとして落とし込みます。
注意点として、ここで述べる手法は特定銘柄の推奨ではなく、教育的な情報整理です。価格変動・流動性・約定スリッページなどの市場リスクを必ず伴います。ご自身の判断と自己責任で実践範囲を設計してください。
この戦略のゴールと前提
狙いはシンプルです。「夜間PTSで材料が出た銘柄を抽出 → 翌朝の寄り付きまでの需給の歪み(注文厚の偏りや気配)を確認 → リスクリワードが合う場合のみ小さく参入 → ルール通りに手仕舞い」という一連の意思決定を、毎晩~翌朝の短い時間で標準化します。初心者の方でも、以下の3点を満たせば再現できます。
- 現物株の口座とPTS取引の利用設定が完了していること
- 夜間ニュースの収集と「材料の強弱」を仕分ける簡易基準を持つこと
- 翌朝の寄り前気配と板の厚みを定量的にチェックする習慣を持つこと
PTSとは(超要点)
PTS(私設取引システム)は、取引所(東証)と別の私設市場で行われる株式売買です。証券会社経由で参加でき、一般的に日中の場がクローズした後も一定時間の売買が可能です。夜間に企業の決算や開示、業務提携、規制ニュースなどが出た場合、PTSで先に価格調整が進むことがあります。翌朝の寄り付きは、PTSでの需給・ニュースの評価・市場全体の地合いを織り込んでギャップを形成しやすくなります。
重要な実務ポイントは次の3つです。
- 流動性は銘柄によって大きく異なる:約定できないリスク、スプレッド拡大、指値の飛びに注意します。
- 取引時間・ルールは証券会社やPTS運営により若干異なる:お使いの口座の取引ガイドを必ず確認してください。
- 指値の徹底:成行は思わぬ価格で約定する恐れがあります。夜間は特に慎重に指値を使います。
準備①:証券口座の開設とPTS利用設定
一般的なネット証券では、オンラインで本人確認書類とマイナンバーを提出し、口座開設完了後にPTSの利用申込(無料)を行います。具体的な手順は各社でほぼ共通です。
- 総合証券口座を開設(特定口座源泉徴収ありを推奨、確定申告の手間を軽減できます)。
- 入金手段(即時入金サービス)を設定。
- PTS取引の利用申請をオン(取引ルール・手数料・注意事項に同意)。
- スマホアプリとPCツールの両方で板・歩み値・気配表示を確認できるようにする。
- アラート(価格・出来高・ニュース)通知を設定。
口座開設自体は一度きりの作業ですが、「使う画面を固定して操作手順を体に覚えさせる」ことがパフォーマンスに直結します。夜間~翌朝の短時間で判断するため、クリック回数を最小化したレイアウトを自分用に整えておきます。
準備②:ニュースの強弱を仕分ける基準
夜間ニュースは玉石混交です。初心者の方でも再現できるよう、まずは以下の三段階評価で十分です。
- A級(需給を大きく動かしやすい):通期業績の上方修正、サプライズな黒字転換、主力製品の大型受注、規制承認、株主還元の明確な強化(増配・自己株式取得の規模が大きい等)。
- B級(限定的に反応しやすい):四半期での改善、提携発表(規模・収益貢献が定量的に示される場合)、ターゲット市場のポジティブデータ。
- C級(場中の地合い次第):定性的な将来方針、規模や時期が不明瞭なメモランダム、既出情報の再掲。
同じニュースでも時価総額・浮動株比率・直近のトレンドで反応度は変わります。小型で浮動株が少ない銘柄は、需給が偏るとギャップが大きくなりやすい一方、戻りも早い傾向があるためリスク管理を厚くします。
戦略の全体フロー(夜~翌朝)
以下は毎回同じ順で実行します。時間を決めてルーティン化してください。
- 19:00~23:00:開示・ニュース収集 → A/B/Cに仕分け → 候補リスト化。
- 同時間帯:PTS価格・出来高・スプレッドを確認。A級のみ板監視リストへ。
- 翌朝 8:00頃~寄り前:寄り前気配(気配値・出来高・気配の厚み)と気配の上下動を観察。
- 寄り直前:ルールに合致する場合のみ指値を配置(または見送り)。
- 寄り付き~前場:計画した利確・損切りの実行。エントリーしない選択も一貫して行う。
- 取引後:記録・振り返り・ルールの微調整。
エントリー/エグジットのルール設計
初心者でも守りやすい、現物ショートなし・ナンピン禁止の基本ルールを提示します。各自で微調整してください。
① ロットと許容損失
1銘柄あたりの許容損失(円)=口座資金 × 0.2%(例)。例えば資金100万円なら1トレードの許容損失は2,000円です。ギャップ系は思惑が外れると戻りが弱い場合があるため、想定損失を先に固定します。
② A級ニュースかつPTS出来高が平常時の5倍以上
夜間に「価格だけ上がって出来高が薄い」ケースは寄り天のリスクが高まります。価格×出来高の両面でインパクトを確認します。
③ 寄り前気配の板厚バランス
買い気配の厚み/売り気配の厚み ≥ 1.3(例)を目安にします。比率が明確な優位を示すときのみ参入候補とします。
④ エントリー価格と損切り・利確の初期設定
- エントリー:寄り付き~寄り付き後1~3分の押し目(歩み値が一旦減速して再度出来高が乗る瞬間)に指値。追いかけ成行は避けます。
- 損切り:エントリー価格から -1.2%(例)で逆指値。
- 利確:+2.0%(例)で半分利確、残りはトレーリング幅1.0%で追従。
銘柄のボラティリティに応じて数値は拡縮してください。最初は小さく始め、統計が溜まってから調整します。
⑤ 見送り基準
- 寄り前に買い気配が剥がれ、板の厚み比が1.0付近へ低下。
- 地合い(先物・主要指数)が急反落している。
- 直近に大陰線を複数形成し、上値抵抗が密集している。
「見送る勇気」を定義しておくことで、無駄な損失を避けられます。
具体例シミュレーション(数値で理解する)
仮想銘柄X(終値1,000円、浮動株少なめ)が、夜間に上方修正+増配を発表し、PTSで1,080円(+8%)・出来高平常時の6倍となったとします。翌朝の寄り前、買い気配と売り気配の板厚比は1.6。寄り付きは1,090円で成立しました。
- エントリー:1,085円の指値が寄り後2分で約定。
- 損切り:1,072円(-1.2%)。
- 第一利確:1,107円(+2.0%)で半分。
- 残ポジ:トレーリング1.0%で追従し、上ヒゲ後に1,118円で決済。
平均決済価格は約1,112円、期待値は勝率に依存しますが、「損小利大の形」を保てれば、勝率が5割前後でも損益分岐を上回りやすくなります。重要なのは、負けを早く・一定に切ることです。
銘柄選別の実務チェックリスト
- ニュースのランク(A/B/C)と根拠メモ。
- 時価総額帯(小型/中型/大型)。
- 浮動株の薄さ(目安で可)。
- PTS価格変動率と出来高倍率。
- 寄り前の板厚比とその推移(時系列で3回以上チェック)。
- 直近チャートの抵抗帯(出来高帯や高値ライン)。
- 先物・指数の地合い(リスクオン/オフ)。
よくある失敗と回避策
成行で飛びつく
夜間や寄り付き直後は板が薄く、成行は期待外れの価格で約定しやすいです。基本は指値・逆指値での管理を徹底します。
ニュースの読み違い
数字の裏取りが不十分だと、市場の評価とズレます。売上規模・通期見通し・一株当たり利益・還元規模など、定量データを最優先に確認します。
ロット過多
ギャップ系は勝っているときの気持ちよさが強く、サイズを上げがちです。許容損失=一定額を習慣化し、損切り幅を先に決めて逆算した株数に固定します。
検証不足
数回の成功・失敗で判断せず、最低30サンプルを集めて期待値を推定します。手応えが出てからロットを段階的に増やします。
最低限の手動バックテスト手順(スプレッドシートでOK)
- 期間を1~3か月に設定し、夜間ニュース→PTS反応→翌朝寄り付きの一連を毎日記録。
- 各サンプルで、ニュースの種類、PTS変動率、出来高倍率、寄り前板厚比、寄り付き価格、最大含み益、最大含み損、最終損益を入力。
- 損切り幅・利確幅・トレーリング幅を固定し、仮想エントリーを複数ルールでシミュレーション。
- 期待値(平均損益)と最大ドローダウン、勝率、損益比を集計。
- 最も安定するルールセットだけを採用し、他は捨てます。
この工程を通すと、「感覚ではなくデータで動く」基礎体力がつきます。
実運用テンプレート(コピペして使える)
【毎晩(19:00~23:00)】 ・開示と主要ニュースをチェック。A/B/Cに分類。 ・A級のみPTS板監視。価格変動率、出来高倍率、スプレッドを記録。 ・翌朝用の監視リスト(最大3銘柄)を決定。 【翌朝(寄り前)】 ・板厚比(買い/売り)を3回確認し、平均値を記録。 ・寄り付き直前の気配が弱くなっていれば見送り。 【エントリー&手仕舞い】 ・指値でエントリー。損切り・第一利確・トレーリングを同時設定。 ・計画外のナンピンは禁止。見送りは負けではない。 【振り返り】 ・約定価格、滑り、執行遅延などをログ。改善点を1つだけ決める。
資金管理:初心者の安全装置
- 1日の想定最大損失=口座資金×0.6%(例)。2連敗したら終了。
- 1回の想定損失=口座資金×0.2%(例)。
- 同時保有は最大2銘柄まで。監視・意思決定を正確に保つためです。
- 可処分資金の一部で始め、統計が揃ってからロットを調整します。
発展編:見送りでも稼ぐ視点
本戦略は「機会の厳選」が核です。A級が見当たらない日は何もしないのが最善です。暇を埋めるために別戦略へ手を広げるのではなく、準備・記録・検証に時間を回すと、長期の損益カーブが安定します。
FAQ
夜間の板が薄すぎます。どうすべきですか?
夜間での無理な約定は避け、翌朝の板厚と気配を重視してください。エントリーは寄り付き後の「押し目の再加速」に限定した方が安定します。
ニュースの解釈に自信がありません。
最初はA級の数値が伴うもの(上方修正、黒字転換、増配、自己株式取得の規模明示など)だけに絞ります。慣れてから範囲を広げます。
地合いが悪い日にどうしますか?
指数先物が大きく下落している日は、見送りを基本にします。逆風でのエッジは薄れがちです。
用語ミニ解説
- PTS
- 私設取引システム。取引所外の市場での売買。夜間でも取引可能な時間帯がある。
- 寄り付き(寄り)
- その日の最初の約定価格。前日の情報や夜間の需給が反映される。
- ギャップ
- 前日終値と当日の寄り付きの価格差。ギャップアップ(上方乖離)/ギャップダウン(下方乖離)。
- 板の厚み
- 指定価格帯に並ぶ買い/売り注文量の多さ。偏りが大きいほど寄りの方向性が出やすい。
- スリッページ
- 想定価格と実際の約定価格の差。板が薄いと発生しやすい。
まとめ
ニュース初動トレードは、難しそうに見えて「準備された定型作業」の積み重ねです。夜間の材料を仕分け、翌朝の板と気配で確度を測り、事前に決めたロットと損益幅で機械的に執行する――この反復により、無駄なトレードを減らし、資金曲線の安定化を目指せます。まずは極小ロットで30サンプルの記録を取り、勝ちパターンと負けパターンを自分の数字で掴んでください。
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