本記事では、日本株のIPOで設定される「ロックアップ解除日」を核にしたイベントドリブン投資について、初めての方でも実践できるように徹底解説します。ロックアップは需給に強く作用します。解除日には売り圧力が噴き出しやすく、価格が一時的に過剰反応しやすいという特徴があります。この「一時的な歪み」を、事前準備と手順化された発注で着実に拾うのが本稿の狙いです。
なぜ「ロックアップ解除」を狙うのか
IPO直後は既存株主(ベンチャーキャピタル、経営陣、従業員、個人投資家など)に一定期間の売却制限が掛かります。解除日を迎えると、理論的には市場に新たな売り圧力が解放されます。需給悪化は短期的な株価下落要因ですが、市場はしばしば「過剰に」織り込みます。つまり、合理性を超えた行き過ぎが発生し、これがリバウンドやトレンド継続のエッジを生みます。
重要なのは、解除日は「事前に確定しているイベント」であることです。決算サプライズのように中身が読みにくいものと比べ、カレンダー化が容易で、準備優位性を取りやすい点が投資初心者にも向いています。
ロックアップ解除の基礎
ロックアップとは
IPO時に主要株主やベンチャーキャピタルなどが株式を一定期間売却しないと約束する取り決めです。一般的には上場日から90日、180日などの期間指定、または株価条件(いわゆる「解除条項」)が付く場合があります。株価条件付きとは、たとえば公開価格の1.5倍以上で一定期間推移すると解除される、といった条項です。
解除日が株価に与える基本的影響
解除日前後は以下の需給変化が起きやすいです。
- 事前:売り手控えと警戒感から出来高減少とボラティリティ低下、または思惑売りでのじり安。
- 当日:寄り付きの売り圧力増加、前場の下押し、過度な板気配の悪化。
- 直後:過剰な売りが一巡したあとに「売り切り感」からの反発、もしくは需給悪化が続いてのトレンド継続。
勝ち筋は大きく3つだけ
1)過剰投げ後のリバウンド(逆張り短期)
解除日当日の寄り付きから前場にかけて、出来高を伴った急落が出たあと、分足での「売り枯れ」や「VWAP回復」を確認してからの押し目買いを狙います。エントリーは、①前場の安値を付けてからの出来高減少+下ヒゲ確認、②VWAP上抜け、③5分足での直近戻り高値更新、のいずれかを条件化します。利確はVWAP上+0.5〜1.0%刻みの分割。損切りは5分足直近安値の下に機械的に置きます。
2)需給悪化のトレンド継続(順張り)
解除日に寄り天・陰線引けとなり、翌営業日もギャップダウンで始まる場合、需給悪化が数日継続することがあります。日足で5日線が下向き、出来高増加、前日安値割れを条件に寄り成りまたは寄り後の戻り売りを徹底します。利確はATRの0.8倍、または日足支持線到達で半分、引けで残りを手仕舞い。損切りは前日終値+0.5〜1.0%に逆指値。
3)価格条件付き解除の「条件未達→再評価」
株価条件付きの解除が「条件未達」で通過した場合、市場は警戒していた売り圧力が出ないことを再評価します。このときは出来高を確認しつつ下値固めからの上昇トレンド転換を狙います。エントリーは日足での高値切り上げ+25日線回復、または日中足でのレンジ上放れ。利確は直近戻り高値付近で半分、残りはトレailing。
銘柄の探し方:カレンダー化のワークフロー
- IPO目論見書や上場時資料を確認し、主要株主のロックアップ期間、解除日、価格条件の有無を控えます。
- 解除日をカレンダー化します。Googleカレンダー等でイベント名に「銘柄名・証券コード・90日/180日・価格条件有無」を明記します。
- フラグ付け:時価総額(小〜中型が効きやすい)、浮動株比率、信用区分(貸借銘柄か否か)、直近の出来高トレンドをタグ化します。
- 前日準備:板の厚さ、過去10日間のVWAP、当日のレジサポ(直近安値・高値)、ATRをメモ。リバウンド狙いと順張り狙いの両方のシナリオを事前に文章化します。
- 当日朝:寄り前気配で板気配の歪み(特別売り気配、気配値と出来高の乖離)をチェックし、初動方向を仮決めします。
発注実務:現物・信用・PTSの使い分け
現物のみで始める
初心者は現物からで十分です。寄り付き直後の成行は避け、5分〜15分の初動が出たのち、指値で丁寧に拾います。逆張りなら「前場の下ヒゲ安値−0.3%」に逆指値を置き、順張りなら「前日終値+0.5%」に損切りを置くなど、価格と時間でルールを固定します。
信用取引(制度信用)の最小活用
貸借銘柄で空売りが可能な場合、順張りのトレンド継続に有効です。ただし建玉は口座余力の30%以内、同時保有は最大2銘柄までに制限します。返済期限に注意し、デイまたはスイング2〜3日で完結させます。
PTSの役割
解除日引け後に材料が出た場合、PTSで初動を観測できます。引け成り決済後にPTSでの需給バランスを確認し、翌日の戦略(継続か反転か)を微調整します。無理な追随は避け、翌日の寄り付き計画を優先します。
具体例:シミュレーション(架空銘柄)
銘柄A(証券コード1234)、公開価格1,500円、初値2,700円。主要株主のロックアップは180日、株価条件「公開価格の1.5倍以上で解除」。上場3か月後に高値3,000円を付け、その後2,200〜2,400円で推移。解除予定日は上場後180日目。
前日準備:25日線=2,320円、5日線=2,280円、10日平均出来高=120万株、直近安値=2,210円、直近高値=2,560円。戦略は①過剰投げ後リバウンド、②安値割れ順張りの二刀流。
当日朝:寄り前気配は2,230円付近で特別売り気配、気配数量の売り優勢が2:1。寄りは2,220円で成立後に急落、2,180円まで下押し。5分足で出来高ピーク後に下ヒゲ、VWAP2,215円を上回るリバウンド開始。
逆張りエントリー:VWAP上抜け(2,216円)を確認して2,220円で100株。損切りは2,178円(直近安値−0.1%)。利確は2,245円/2,270円/2,300円で分割。結果は後場に2,295円まで上昇、平均2,270円で利確、+50円(+2.25%)。
順張りシナリオ:もし2,178円を割れた場合は戻り2,190〜2,200円で空売り、損切りは2,220円超、利確は2,150円。需給悪化が続くと判断できる指標は「出来高継続増」「5日線下向き維持」「引けにかけて売り板優勢」。
指標とルールを数値化する
- 出来高基準:当日出来高が10日平均の1.5倍以上 → シグナル強度「強」。
- ボラ基準:当日高安レンジがATR(14)の1.2倍以上 → 過熱注意で分割利確を早める。
- 時間基準:初動のピークは寄り後30〜60分に出やすい → 11:00以降は新規エントリーを抑える。
- 損切り基準:5分足直近安値/高値の0.1〜0.3%外側に逆指値。
チェックリスト(当日用)
- 解除日・価格条件の再確認(カレンダー)
- 寄り前気配の歪み(売り優勢/買い優勢の比率)
- 初動の出来高ピークとVWAP位置
- 逆張りか順張りかの主戦略を一本化
- 損切り逆指値の価格・数量・有効期限
- 分割利確の価格帯(3段)
- 引け間際の持ち越し判断(材料・出来高・日足位置)
口座開設の超要約(これだけで開始できます)
(1)ネット証券の公式サイトから申込み → (2)本人確認書類とマイナンバーをアップロード → (3)初期入金 → (4)株式取引の画面で「現物」を選択して板表示・気配・チャートの見方を練習 → (5)逆指値と指値の入れ方をテスト “100株・1注文” から開始します。はじめはデモ注文や少額で、板とVWAPの動きに慣れましょう。
よくある失敗と対策
- 寄り成行の飛びつき:初動のボラに巻き込まれます。5〜15分は観察をルール化します。
- 利確を伸ばし過ぎる:リバウンドは短命です。3段の分割利確を機械的に執行します。
- 逆指値の未設定:イベント日は板が薄くなりがちです。必ず逆指値を事前に置きます。
- 一銘柄に固執:当日弱ければ見送ります。カレンダー型戦略の強みは次が必ずあることです。
ポジションサイジングの定石
1取引のリスク(損切り幅×株数)は口座残高の0.5%以内、同時最大ポジションは2つまで。勝率が読みにくい日はロットを半分に落とし、連敗2回で一時停止→振り返り→再開、の運用リズムを固定します。
応用:複合イベントの重なりを狙う
ロックアップ解除が決算発表や指数リバランスと重なると、需給の歪みが拡大します。たとえば「解除日+決算下方修正」は売りが連鎖して順張り優位、「解除日+好決算」は過剰警戒の巻き戻しで逆張り優位、といった具合です。必ず出来高の推移でどちらの力が勝っているかを確認してから入ります。
実務テンプレ(コピペして使ってください)
【銘柄】(コード) 【イベント】ロックアップ解除(90/180日/価格条件あり・なし) 【前日準備】直近安値/高値、VWAP、ATR(14)、5日線/25日線 【当日気配】売り優勢/買い優勢(比率) 【主戦略】逆張りリバウンド or 順張り継続 【エントリー】条件A・B・C 【利確】3段(+0.5% / +1.0% / 伸び代) 【損切り】5分足直近安値/高値−0.1〜0.3% 【持ち越し】可否と根拠(出来高、日足位置、材料)
まとめ
ロックアップ解除は、事前に日付が確定している希少な「読めるイベント」です。解除日の需給悪化を恐れる市場心理は、過剰反応とその反動を生みます。カレンダー化と事前準備、数値化したルール、分割利確・機械的損切りという基本だけで、初心者でも再現性を持って取り組めます。今日からまずは、直近2〜3か月の解除予定銘柄をカレンダーに入力し、板とVWAPを観察するところから始めてみてください。
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