PTS×寄り付きオークションで狙う『ギャップ・メイク戦略』入門——現実的手順と検証方法

トレード戦略
本稿では、夜間PTS(私設取引システム)で形成された価格と出来高の情報を手掛かりに、翌営業日の寄り付きオークション(板寄せ方式)で統計的に優位性のあるエントリーを狙う「ギャップ・メイク戦略」を解説します。初心者が実務で使えるよう、発注方法、銘柄スクリーニング、ルール設計、バックテストの具体手順、想定されるリスク、運用時のチェックリストまで網羅します。

対象は日本株(東証)を主としつつ、米国株など板寄せオープン/クローズを持つ市場にも一般化できる考え方を示します。本稿は情報提供であり、特定の銘柄売買や利益を保証するものではありません。

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戦略の狙い——なぜ「夜間の価格形成」は翌朝の寄りに効くのか

夜間PTSでは、引け後に開示される決算・適時開示・業績修正・大型受注・規制ニュース・為替の変動などを受け、投資家が先行して売買します。これにより、本取引(立会)開始前に「仮の均衡価格」が市場の一部で形成されます。翌朝の寄り付きは板寄せ方式で需給を一度集約し、価格を一本のみ生成します。したがって、夜間に大きな価格乖離と十分な出来高が観測できる場合、翌朝の寄り付きでも方向性の継続(トレンドフォロー)または過剰反応の修正(リバーサル)のいずれかが起こりやすいという経験則が存在します。

本戦略は、その経験則を定量化し、ルール化して再現性を持たせることを目的とします。重要なのは「どの条件下で優位性が生まれ、どの条件下で消えるか」を境界まで明確にすることです。

必要な準備と口座面の留意点

  1. 夜間PTSの気配・歩み値・出来高を参照できる取引ツールを用意します。最小要件は「前日終値」「PTS約定価格(終盤の価格帯)」「出来高」「翌朝の寄り付き価格」の取得です。
  2. 現物のみでも運用可能ですが、リスク管理上は信用取引口座があると柔軟性が高まります(空売り・ヘッジ・資金効率)。無理のない範囲で構いません。
  3. 成行・寄成・寄指・逆指値・OCOなど、寄り前に有効な発注種別を確認します。市場や証券会社ごとに可否・締切時刻・訂正ルールが異なります。
  4. 売買手数料・貸株料・金利・逆日歩の発生条件を把握します。小型株中心の戦略ほどコスト感度が高くなります。

なお、具体的な口座開設は、本人確認書類と個人番号の提出、規約同意、審査とID発行の一般的な流れです。口座種別(一般・特定・NISA)や信用口座の申込みの有無は、投資目的と税務の取り扱いに応じて選択します。

マーケット・メカニクスの基礎(初心者向け)

板寄せ方式と寄り付き

寄り付きは、蓄積された指値・成行注文をいったん集約し、もっとも多く約定できる価格で一度だけ売買を成立させる仕組みです。通常、始値はその日の最初の一本足としてチャートに表示されます。大量の成行が同方向に偏ると、特別気配と呼ばれる仕組みで値幅を拡大しながら均衡を探る場合があります。

PTS(私設取引システム)

夜間も取引が可能な場内相対市場です。上場市場の立会外ですが、参加者が価格発見を行うため、ニュース後の初期反応を観測するのに有用です。ただし、流動性にムラがあり、スプレッドが広がることがあるため、出来高の閾値を設定してノイズを除去します。

戦略の骨子(3つのアプローチ)

  1. リバーサル型:PTS終盤で前日終値に対して乖離率が大きく、出来高が一時的に集中しているが、材料が軽微または限定的な場合、翌朝に半分程度の修正が起きやすい。
  2. トレンドフォロー型:決算やガイダンス上方修正など材料が強い場合、ギャップ方向に寄り後も継続しやすい。寄り成行または寄指→順張り継続。
  3. バンド抜け反応の持ち越し型:テクニカルに日中終値がボリンジャー上限/下限を明確にブレイクし、夜間PTSも同方向で追随するケースでは、翌朝にもう一段の追随が起きやすい。

どれを採用するかは、材料の質・PTS出来高の質・スプレッド・価格帯・ボラティリティの組み合わせで分岐させます。

実務ルール設計(例)

以下は、初心者でも再現可能な標準ルール雛形です。実運用前に必ず紙上・過去データで検証してください。

共通の前提

  • 対象:売買代金が一定以上の主力~準主力銘柄。極端な低流動性は除外。
  • PTS観測:前日終値に対する乖離率(%)PTS出来高終盤(例:21:00-23:00)のVWAPを記録。
  • 除外日:決算発表当日、上場廃止・管理銘柄・値幅制限拡大銘柄など。

リバーサル型ルール(例)

  1. 条件A:前日終値比でPTS終盤VWAPの乖離率が+4%超または-4%未満
  2. 条件B:PTS出来高が日中平均の10%以上(目安)で、スプレッドが極端に広くない
  3. 条件C:材料が軽微(例:報道噂・小型受注・アナリスト評価変更の一部など)。
  4. エントリー:翌朝の寄り付きで逆方向に寄指または寄成でエントリー。
  5. 利益確定:寄り値から0.8〜1.5%の戻りを利確目標。逆指値は-0.6〜-0.9%

トレンドフォロー型ルール(例)

  1. 条件A:PTS終盤VWAP乖離率が+3%超(上方)/ -3%未満(下方)で、かつ出来高が厚い。
  2. 条件B:材料が決算サプライズ(質の高い増益・ガイダンス上方)や明確な需給改善(自己株式取得発表など)。
  3. エントリー:寄り付きでギャップ方向に寄成。寄り後は高値更新(または安値割れ)で追随、反対側レンジに戻れば撤退。
  4. 利益確定:リスクリワード1:1以上が確保できる直近抵抗/支持まで。

フィルター

  • 為替・先物が夜間で同方向に動いているか。
  • ボラティリティ・レジーム(指数のATR、恐怖指数など)。
  • 翌日の重要イベント(CPI、雇用統計、FOMCなど)。

発注設計の要点

  • 寄成は確実に寄りで約定しますが、ギャップ拡大時はスリッページが増えます。
  • 寄指は価格を限定できますが、約定しないリスクがあります。約定優先度は価格→成行→時間の順序に依存します。
  • 逆指値・OCOを同時に設計し、寄り後の想定外の踏み上げ/投げに備えます。
  • 板の気配に特別気配が出た場合、寄り時間が延びるため、訂正・取消のルールを事前に確認しましょう。

具体例(ケーススタディ)

仮想事例として、銘柄Aが引け後に小型の受注ニュースを開示し、夜間PTSで前日終値比+6%、終盤VWAPは+5.2%、出来高は日中平均の12%に達したとします。材料が軽微であると判断した場合、翌朝寄りでリバーサル型を選びます。寄成で売り、逆指値を+0.8%、利確を-1.2%に設定。結果、寄り後に+3%まで買われたのち、前日比+2%付近まで押し戻され、利確がヒット——といったシナリオです。

反対に、銘柄Bが大幅な上方修正を発表し、PTSで+8%・出来高厚めの場合は、トレンドフォローの方が期待値が高いと考えます。寄成で買い、直近の抵抗帯手前で部分利確、逆指値は寄り値から-1.0%〜-1.5%に置く設計です。

バックテスト(手作業でも可能)

カスタム指標が多くても、まずはExcel/スプレッドシートで十分です。以下を最低限の列として整えます。

  1. 日付
  2. 前日終値
  3. 夜間PTS終盤VWAP(または終値近辺の加重平均)
  4. 乖離率(%)
  5. PTS出来高(相対指標でも可:日中平均比)
  6. 翌日寄り値
  7. エントリー方向と根拠(リバーサル/フォロー)
  8. 初期逆指値(%)・利確目標(%)
  9. 当日高値・安値・終値
  10. 損益(円/%)

20〜30銘柄×3ヶ月分程度でも、優位性の有無は見えます。勝率だけでなく、平均損益・最大ドローダウン・ポジションあたりの期待値で評価しましょう。

リスク管理と想定外

  • 本物の材料(通期上方修正、増配、TOBなど)はリバーサルの期待が弱く、順張り優位になりがちです。
  • 極端な低流動性はスプレッド拡大と滑りで期待値を毀損します。出来高フィルターを厳しめに。
  • 値幅制限に到達すると、寄り付きや寄り後の自由度が下がります。
  • 翌朝の先物・為替ギャップが夜間PTSの方向と逆行した場合、期待値が低下します。
  • 信用売りの貸株・逆日歩条件を事前に確認します。

実運用のチェックリスト(朝の5分)

  1. 監視リストで夜間PTS乖離上位を抽出(乖離率・出来高・終盤VWAP)。
  2. 材料の質を素早く判定(開示本文・タイトルだけでなく中身)。
  3. 先物・為替の方向と相関を確認。
  4. 寄りの特別気配の有無、板の厚み、スプレッドを確認。
  5. 発注(寄成/寄指)と同時にOCOを設定。

初心者のよくあるつまづき

  • 「出来高が薄いのに価格だけ動いた銘柄」を対象にしてしまう。
  • 寄り前の訂正期限を過ぎ、約定後に逆指値を入れ忘れる。
  • 一つの材料テンプレを過信し、強材料と弱材料の区別を怠る。
  • 損切りの絶対幅が広すぎ、リスクリワードが崩れる。

用語ミニ解説

板寄せ方式
蓄積した注文を一度にマッチングし、最も多く約定できる価格で成立させる方式。
特別気配
需給が極端に偏った際に値幅を段階的に拡大しながら均衡価格を探る措置。
PTS
私設取引システム。夜間などに売買できる相対市場。
VWAP
出来高加重平均価格。終盤のVWAPは翌朝の寄りを占う参考値。
寄成/寄指
寄り付きでの成行・指値発注。
OCO
利確と損切りを同時に置き、一方が約定すると他方を自動取消する注文。

手動→半自動への段階的移行

最初は手動で運用し、勝ちパターンが固まってから条件注文やルールプリセットを活用して半自動化します。テンプレ化のポイントは、発注票の初期値(数量・逆指値幅・利確幅)と監視リストの並び順です。

まとめ

夜間PTSで観測できる先行需給は、翌朝の寄り付きという一度きりの価格決定に大きく影響します。本戦略は、乖離率×出来高×材料の質というシンプルな3軸で期待値を作りにいく現実的なアプローチです。最小限のデータと手作業の検証からでも十分始められます。まずは小さく、規律を持って取り組みましょう。

実践Q&A(詳細)

Q1. PTS終盤のVWAPはどう算出しますか?
A. 21:00〜23:00など時間帯を区切り、各約定の価格×数量の総和を数量総和で割れば算出できます。証券会社ツールのエクスポート機能があればCSVから集計可能です。

Q2. ニュースの「強弱」はどう判定しますか?
A. 過去の同様の開示と翌日の値動きのサンプルを蓄積し、反応の平均と分散を把握します。ガイダンスの数字が明確に上方/下方へ動いたか、サプライズ幅はどれくらいか、定量でメモします。

Q3. ギャップ方向の継続・反転を見分ける最短の手がかりは?
A. 「出来高の厚み」「スプレッド」「先物・為替の方向一致」「直近の支持抵抗帯」この4点を寄り前に並列で確認します。3/4が継続方向なら順張り優位、2/4以下なら見送り、などの基準を作ります。

Q4. 小型株は対象にすべきですか?
A. ボラティリティは大きい一方、滑りとギャップ拡大で期待値が不安定になりやすいです。まずは主力〜準主力から始め、ルールが機能することを確認してから拡張しましょう。

Q5. 逆指値幅はどのように決めますか?
A. 寄り後の初動ボラを想定して、平均5分足ATRの0.6〜0.9倍を初期値とし、銘柄の癖に合わせて最適化する方法が現実的です。

Q6. 重要指標のある日は?
A. 結果が寄り後すぐに出ない場合は影響が薄いですが、米国指数が朝から大きく動く見込みなら見送りが無難です。

Q7. 同日に複数銘柄を仕掛けても良いですか?
A. 相関の高い業種に偏るとリスク集中になります。業種・テーマの分散を意識し、1日の建玉総リスクを口座残高の一定比率以下に制限します。

Q8. 継続勝率が下がってきたら?
A. 直近30トレードの移動平均で勝率・期待値が閾値を下回ったら自動でサイズを半減するルールを事前に決めます。マーケット・レジーム変化の早期検知に役立ちます。

拡張アイデア(上級者向け、将来の自動化)

  • 終盤VWAPに加えて気配から推定した理論寄付き価格を記録し、寄りでの滑りをモデル化。
  • ニュース分類器(強/弱/中立)をメモルールから段階的に数値化。
  • 当日中の部分利確→トレーリングをルール化し、損益分布の裾を厚くする。
  • 市場間スプレッド(先物・為替・ADR)を説明変数に加え、仕掛け強度を調整。

付録:チェックリスト雛形(コピペして使えます)

以下は監視〜発注〜記録までを一気通貫で回すためのテンプレです。スプレッドシートの1行目に貼り付けて運用してください。

日付 / 銘柄コード / 終値 / PTS終盤VWAP / 乖離率% / PTS出来高(相対) / 材料の質(弱・中・強) / 先物方向(同・逆) / 為替方向(同・逆) / 戦略(リバ・順張り) / 発注(寄成・寄指) / 数量 / 逆指値% / 利確% / 当日高値 / 当日安値 / 終値 / 結果% / 備考

日々の記録が最良のデータベースになります。週末に集計し、勝ちパターンの頻度・期待値・前提条件を定期的に見直しましょう。

付録:初心者が最初の1週間でやること

  1. 取引ツールで夜間PTSの価格・出来高を確認する方法を学ぶ。
  2. 監視リストを作成し、終盤VWAPと乖離率を毎日メモ。
  3. 決算・開示の「強弱」を3段階でメモするルールを作る。
  4. 寄成・寄指・OCOの発注手順を練習口座で反復。
  5. ミニマムサイズで1〜2回、紙上トレードを実施して翌朝の寄りで検証。

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