カレンダースプレッド徹底ガイド:時間価値とIVで戦う中立戦略の実践法

オプション取引

本記事では、オプション取引の基本戦略の一つである「カレンダースプレッド(Calendar Spread)」を、初めてオプションに触れる投資家でも実践に移せる水準まで徹底的に解説します。価格の方向を当てにいく「ギャンブル」ではなく、時間価値(シータ)とインプライド・ボラティリティ(IV)の構造差を源泉に、統計的に優位性を取りにいく手法です。株・ETF・インデックス・仮想通貨オプション(BTC/ETH)といった複数アセットに応用可能で、横ばい相場や緩やかなトレンドで威力を発揮します。

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1. カレンダースプレッドとは——定義と直感

同じ権利種類(コール or プット)・同じ権利行使価格(ストライク)で、期近(フロント)を売り、期先(バック)を買うスプレッドです。例:XYZが100のとき、期近コール100を売り + 期先コール100を買い。期近の方が時間価値の減少(シータ)速度が速いため、時間の経過が味方になります。また、イベント後にIVが低下しやすい期近を売ることで、IVの時間構造(Term Structure)を収益源とします。

2. 勝ち筋の源泉:時間価値とIVの二軸

  • シータ優位性:期近は残存日数が短く、日々の時間価値減少が大きい。売りから得るシータが、買い(期先)のシータより大きくなりやすい。
  • IV構造差:イベント(決算・雇用統計・FOMC・ETFリバランス等)前は期近IVが上がり、イベント通過後は期近IVが低下しやすい。期近を売り、期先を買うことで「IV低下」を利益にしやすい。

この二つが同時に働く局面(横ばい〜緩やかなトレンド、イベントを跨がない/跨ぐ戦略を明確化)で、期待値が改善します。

3. どんな相場で機能するか

横ばい(レンジ)か、徐々に上・下へ動くが急激ではない相場。急騰・急落のスパイクには弱く、方向性の強いトレンドにはデルタ調整が必要です。BTCのようにIVが跳ねやすいアセットでは、イベント日程とガンマ・ベガの管理が鍵です。

4. 建て方の基本(コール版/プット版)

コール型:短期コール売り + 長期コール買い。市場観:横ばい〜やや強気。
プット型:短期プット売り + 長期プット買い。市場観:横ばい〜やや弱気。
同ストライクが基本(真のカレンダー)。価格の中心(アンダーのスポット近辺)を狙うと、時間価値の消失を取りやすい。

5. 損益の直感(満期時)

期近満期までは二つのオプションが同時に生きているため、P&Lはベガとシータの相殺で滑らかに動きます。期近満期日のクローズで見ると、アンダーがストライク付近にあると最大利益になりやすい(期近の価値が最も減衰)。満期を跨いだら、期近のショートをクローズ or ロールし、バックだけが残る(カレンダーの「更新」)という運用が一般的です。

6. ギリシャのプロファイル

  • デルタ:概ね小さく(方向中立寄り)に設計可能。ただしスポットが大きく動くと偏りやすい。
  • ガンマ:期近ショートの効果で小さく抑えられるが、満期接近で非線形性が増す。
  • シータ:プラス(時間経過が味方)。
  • ベガ:期先ロング>期近ショート になりがちで、ネット・プラス(IV上昇にやや弱い/強いは設計次第)。イベント跨ぎでは注意。

7. 実務フロー(チェックリスト)

  1. 対象選定:出来高・板の厚い銘柄(主要インデックスETF、メガキャップ、BTC/ETH等)。
  2. IV構造の把握:期近と期先のIV差、イベント日程(決算、経済指標、FOMC、半減期等)。
  3. ストライク設計:アンダー近辺(ATM±1〜2段)。横ばい想定ならATM中心。
  4. 期限設計:期近:7〜45日、期先:30〜90日(流動性とコストで調整)。
  5. 発注:デビット(支払い)で入るのが通常。約定はミッド〜ティック改善を狙う。
  6. 管理:期近の時間価値が十分剥げたら利益確定 or ロール。損切りはIV急騰や大幅乖離で。

8. 具体例(数値ケース)

XYZ(現値100)。IVは期近=28%、期先=25%。
構築:期近(14日)コール100 売り期先(45日)コール100 買い
プレミアム:期近=3.20、期先=5.70 → ネット支払い=2.50(デビット)。

想定:

  • 横ばい(95〜105)か、緩やかな上昇(〜103程度)。
  • イベント(決算/指標)は期近満期後に集中。期近IV低下見込み。

14日後(期近満期前日)に、スポットが102、期近IV=22%、期先IV=24%まで低下したと仮定。ざっくりの感触:

  • 期近コール100:内在2.0+時間価値小(IV低下で縮小)→ 約2.10
  • 期先コール100:残存31日、IV24%、時間価値まだ厚い → 約4.40

ネット価値=4.40-2.10=2.30(評価損益=2.30-2.50=-0.20)。横ばい強めでIV低下が小さいと、この程度の逆風は起こりえます。
一方、スポット100付近・期近IVがイベント通過で18%まで低下し、期先は23%に留まるシナリオでは:

  • 期近:ほぼ時間価値消失 → 0.20
  • 期先:IV維持で時間価値厚い → 4.90

ネット=4.90-0.20=4.70 → 評価益=+2.20(対デビット+88%)。こうしたIVの歪み解消が利益ドライバーです。

9. どこで損をするのか(リスク)

  • 急騰・急落:スポットが大きく離れると短期ショートの内在価値が増え、バックのロングで吸収しきれない。
  • IV拡大:イベント前後で期近IVが下がらない/むしろ上がると、ネットで不利。ベガがネットプラスなら特に。
  • 流動性・コスト:スプレッドが広いと期待値を削る。片張り約定(レッグ)も危険。
  • 権利行使・アサイン:期近アメリカン型では配当前の早期行使に注意(コール)。配当落ち、金利要因も考慮。

10. 期待値設計:入るべきところ/外すべきところ

入る:(1)横ばい想定、(2)期近IVがイベント要因で高止まり、(3)期先とのIVスプレッドが一定以上、(4)板が厚くスプレッドが狭い。
外す:(1)ビッグイベント直前直後で板が薄い、(2)ガンマが危険域(期近残1桁日数)に入ったのに監視できない、(3)一方向に強く走るトレンド中。

11. 管理と出口戦略(ロール/利確/損切り)

  • 利確基準:仕掛けデビットの+30〜60%で部分利確。スポットがストライク付近&期近IV低下で到達しやすい。
  • 時間基準:期近残り3〜5営業日でロール判断。ガンマ上昇前に新たな期近を売るか、クローズする。
  • 損切り:(a)ネット損失がデビットの-30〜-50%、(b)スポットがストライクから2σ以上離脱、(c)IV拡大が想定を超える。

12. 実務のミス回避(チェック項目)

  1. 両レッグを同時執行(スプレッド注文)で片張り回避。
  2. 配当・金利・権利行使ルール(欧州/米国/現金決済)を事前確認。
  3. イベントカレンダーの明記(決算、CPI、雇用統計、FOMC、OPEC等)。
  4. ロール方針を先に決め、機械的に動く(感情排除)。
  5. ポジションサイズは口座エクイティの1〜3%リスクに抑制。

13. 応用:ダイアゴナル/ダブルカレンダー

ダイアゴナル:ストライクをずらす(期近OTM売り、期先ATM買い等)ことで、弱気/強気の方向性を付与。
ダブルカレンダー:上下に2本のカレンダー(例:95と105)を組むことで、レンジ中立性を高める。IV低下イベントで有効。

14. コストと税務のポイント(一般論)

委託手数料、スプレッドコスト、為替スプレッド(海外市場)、金利等は必ず想定収益から控除して計画します。税務は各国制度・口座区分(一般/特定/法人/デリバティブ課税)に依存します。取り扱いの異なる現物・先物・オプションの損益通算や繰越控除の可否など、居住地の制度を自ら確認し、必要に応じて専門家に相談してください。

15. 1枚で分かる設計テンプレ(保存版)

  • 対象:主要ETF/大型株/BTC・ETH
  • 期近/期先:14D vs 45D(流動性で調整)
  • ストライク:ATM(±1段で微調整)
  • 目標:デビットの+40% or 期近残5Dで判断
  • 撤退:デビット-40% or 2σ離脱 or 想定外のIV拡大
  • サイズ:口座の1〜3%リスク/戦略

16. まとめ

カレンダースプレッドは、価格予想ではなく時間とIVの構造差を収益源に据える中立寄り戦略です。横ばい市場が続くと退屈に見えますが、統計的にこの退屈さこそが味方になります。イベント、IV、残存日数、ロールの規律を組み合わせれば、初心者でも「無理に当てない」運用を設計できます。まずは小さく、板の厚い銘柄で、テンプレに沿って実行し、日次で学習サイクルを回していきましょう。

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