ストラドル/ストラングル完全ガイド:イベント相場でボラティリティを取りに行く実践法

オプション取引
本記事では、オプションのストラドル(Straddle)ストラングル(Strangle)を、初心者でも今日から実践に移せるレベルで徹底解説します。用語定義から始め、ブレークイーブンやギリシャ指標の意味、実際の執行手順、イベント相場での戦い方、よくある失敗、手仕舞い・調整、簡易バックテストの作り方まで、順序立てて具体的に整理します。株式(例:指数ETFや個別株)、FX(例:USD/JPY)、暗号資産(例:BTC)まで横断的に応用できる普遍的なフレームワークを提示します。

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1. ストラドルとストラングルの基本

ストラドルは同一満期・同一行使価格(通常ATM=アット・ザ・マネー)のコールとプットを同時に買う(または売る)戦略です。買いストラドルは価格が大きく動けば上下どちらでも利益化できる一方、動きが小さいと時間価値の減少(シータ)に押されて損失が拡大します。

ストラングルは同一満期のOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)コールとOTMプットを同時に買う(または売る)戦略です。プレミアムはストラドルより安くなりやすい一方、利益化にはより大きな値動きが必要になります。買いストラングルは「極端な値動き」を狙い撃ちするイメージです。

初心者はまず買いのストラドル/ストラングルから学ぶのが安全です。最大損失が最初に支払うプレミアムに限定されるため、管理が容易だからです。売りは上級者向けです。損失が理論上無限大となる局面や、ギャップ発生時に急速に損失が膨らむ局面があり、厳格なリスク管理と証拠金管理が不可欠です。

2. 必須用語とギリシャ指標の超要点

  • プレミアム(Premium):オプションの価格です。買い手の最大損失に等しいです。
  • IV(Implied Volatility):市場が織り込む将来の変動率です。IVが高いほどオプションは高く、IVが下がると安くなります。
  • デルタ(Δ):原資産の小幅な値動きに対するオプション価格の感応度です。買いストラドルの初期デルタはほぼ中立に近いですが、動くと偏ります。
  • ガンマ(Γ):デルタの変化率です。買いストラドルはガンマがプラスで、短期に大きく動く場面で有利です。
  • シータ(Θ):時間経過による価値減少です。買い手に不利に働きます。保有時間が長引くほどシータコストが効きます。
  • ベガ(ν):IVの変化に対する感応度です。買いストラドル/ストラングルはベガがプラスで、IV上昇に強く、IV低下(いわゆるIVクラッシュ)に弱いです。

買いストラドル/ストラングルは「ガンマ+、ベガ+、シータ−」の性格を持ちます。つまり「素早い方向性の発生」と「IV上昇」で利益を伸ばし、「動きが乏しい」と「IV低下」で不利になります。ここを外さない限り、判断は大きくブレません。

3. ブレークイーブン(損益分岐点)の算出

ブレークイーブンはオプション買い戦略の生命線です。概念は極めてシンプルです。

3-1. ストラドルのブレークイーブン

原資産価格をS0、ATMのコール・プットのプレミアム合計をC0+P0とします。満期時点のブレークイーブンは次の通りです。

上側: S0 + (C0 + P0)
下側: S0 - (C0 + P0)

例:株価100、コール3.0・プット3.2なら合計6.2です。満期時点の損益分岐は「106.2」と「93.8」です。価格が106.2を超えるか、93.8を割り込めば、満期時点の損益はプラスへ向かいます(取引コスト等は別途)。

3-2. ストラングルのブレークイーブン

行使価格がコールKC、プットKP、プレミアム合計がC0+P0のとき、

上側: KC + (C0 + P0)
下側: KP - (C0 + P0)

例:株価100、105C=1.8、95P=1.6(合計3.4)。ブレークイーブンは「108.4」と「91.6」です。ストラドルより広がる一方、支払額が小さいため必要変動幅の感覚を養いやすいです。

4. どんなときに有利か:判断フレームワーク

  1. イベント前後の「実現変動>織込変動(IV)」が期待できるとき:決算、CPI、雇用統計、FOMC、日銀会合、暗号資産のハードフォークや大型上場などです。市場が織り込む「想定値幅」より実際の動きが大きい(かつ素早い)ほど優位です。
  2. IVが「相対的に割安」なとき:過去分布・直近の実現ボラ・同業他社のIVとの比較で低水準なら、ベガ+の買い戦略が機能しやすいです。
  3. 期中のガンマ活用(短期の方向性が出やすい):強いトレンド発生や要人発言が続く地合いでは、デルタが素早く偏って利益になりやすいです。

逆に、イベント直後のIVクラッシュや、「想定ほど動かない」膠着相場では苦戦します。タイミングとIV水準の両輪で判断します。

5. 具体的シナリオ別の実践例

5-1. 米国CPI前の指数ストラドル(例:ETF)

想定:明日21:30(JST)にCPI。市場は±1.2%の値幅を織り込み(ATMストラドル合計がその程度に相当)、ヒストリカルにCPI直後の初動は±1.5〜2.5%出ることが多い状況だとします。この場合、買いストラドルは「実現変動>織込変動」を狙う合理性があります。エントリーは発表前日引け〜直前、エグジットは「初動+15〜60分」または「当日引け」など時間で決めるのが有効です。IVクラッシュの前に素早く利食いするのが原則です。

5-2. 日銀会合前のUSD/JPYストラングル

想定:政策据え置きコンセンサスだが、声明文と会見次第で±1.0〜1.8円の単発が起きやすい。OTMの95P/105Cに相当する為替水準(例)でストラングルを構築し、初動の片側を素早く利食い、もう片側を原資回収後に「タダ玉」として残す戦術が考えられます。為替の初動はスプレッド拡大・約定滑りが起きやすいので、板の厚みと指値の置き方、ポジションサイズを控えめにする運用が現実的です。

5-3. 週末のBTCストラングル

暗号資産は週末・深夜にもニュースが走りやすく、ギャップ的値動きが多い市場です。週末の出来高低下とニュースフローの偏りが合わさると、こじれた方向性が出やすい場面があります。IVが相対的に落ち着いているタイミングでの短期ストラングルは、突発ニュースによる大振れに対する「手数料限定の保険+チャンス狙い」として機能します。ただしIVの戻りが弱い週末は、時間価値の消耗に注意が必要です。

6. 執行の技術:どこでどう買うか

  • ミッド付近の指値:スプレッドが広い銘柄では成行は避け、ミッド±数ティックで粘ります。板の厚さと回転速度を観察し、約定効率が落ちすぎる場合は段階的に価格を切り上げ(下げ)ます。
  • 出来高とIVの歪み:特定行使に板が集中している場合、同じ構造でも「歪み」が小さい組み合わせが存在します。合計プレミアムが同等でも、流動性の高い行使のほうが有利です。
  • タイムフレームの一致:狙いが「発表直後の15分」なのか「1〜2日」なのかで最適満期は変わります。保持期間に対して過度に長い満期はシータ負担が重くなります。

7. 退出と調整:ルールを前もって決める

7-1. 利食いルール例

  • プレミアム合計に対する比率:+30〜50%で半分利確、+80〜120%で全利確。
  • 時間ベース:イベント直後の最初の波で利食い。IVクラッシュ前に抜ける。
  • 片利食い+タダ玉化:片側だけ急騰したら、その利益で原資を回収し、残りを原則ゼロコストで保有。

7-2. 損切りルール例

  • −40〜−60%の含み損でクローズ(想定ほど動かない・IV低下時)。
  • 時間切り:イベントの主戦場が過ぎたら撤退。シータ負担を引きずらない。

7-3. 簡易デルタヘッジ(上級への入口)

買いストラドルはガンマ+なので、価格が動くほどデルタが偏ります。原資産を小口で逆方向に当てるガンマ・スキャルピングは、方向が出ない日のシータ負担を相殺する助けになります。初心者は「ヘッジは小さく・回数は少なく・コストは厳重管理」を守り、まずはヘッジ無しの基準成績を把握してから導入するのが現実的です。

8. リスク管理チェックリスト

  • 最大損失=支払プレミアム合計:最初に確定しているコスト以上の損失は発生しません。
  • IVクラッシュ:イベント直後はIVが急低下しがちです。値幅が出ても利益が伸びないケースがあります。
  • ギャップとスリッページ:指標や決算直後は板が飛びます。サイズを抑え、約定を分割します。
  • 手数料と税・為替:複数枚の同時売買は手数料総額がかさみます。為替建て資産なら為替変動の影響も受けます。
  • イベントの再現性:過去に動いたから次も動くとは限りません。データで検証し、過信を避けます。

9. 数字で理解する:具体的計算例

9-1. 株価100のATMストラドル

条件:満期7日、コール3.0、プット3.2、合計6.2。満期の損益分岐は93.8/106.2です。イベント直後30分で株価が102.5(+2.5%)に上昇、同時にIVが▲20%低下した場合、コールの内在価値は2.5、プットは0、時間価値とIVの影響を加味すると、合計は6.2からやや増えるか横ばい程度に留まることがあります。ここで利食いできるかは、IV低下動きの速さの綱引き次第です。発表直後のもっと速い初動で抜くと有利です。

9-2. USD/JPYのストラングル

条件:スポット150.00、1週満期、151.50C=0.55円、148.50P=0.60円(合計1.15円)。ブレークイーブンは152.65147.35です。会見直後に150.00→151.90(+1.90円)、IVは−15%とします。コールはITM化し、プットは無価値に近づきます。ガンマによりコールが素早く伸び、合計は1.15円→1.40〜1.70円程度に張り付く場面が想定されます(板と約定次第)。ここで半分利食いして原資回収→残りをタダ玉で放置、という運用が機能しやすいです。

9-3. BTCの週末ストラングル

条件:BTC=70,000、1週満期、72,000C=1,300、68,000P=1,250(合計2,550、単位はUSD相当)。週末に急落して67,000(−3,000)、IVは+10%上昇。プットは内在価値1,000に時間価値とIV上昇が加わり、合計は2,550→3,200〜3,800へ拡大するケースがあります。利益化後は、トレール指値で追いかけるか、時間で確実に手仕舞うかを事前に決めておきます。

10. 執行テンプレート(コピペで使える)

① 目的:イベント初動の「実現変動>織込変動(IV)」を狙う買いストラドル/ストラングル
② 対象:流動性が高いETF/先物/主要FX/主要暗号資産
③ 満期:保持想定に合致(数時間〜数日)。長すぎる満期は避ける。
④ サイズ:最大損失(=合計プレミアム)を口座の1〜2%以内に制限。
⑤ エントリー:発表前日引け〜直前、ミッド±数ティックで分割指値。
⑥ 利食い:+30〜50%で半分、+80〜120%で全利確。時間決済(初動+15〜60分)優先。
⑦ 損切り:−40〜−60%またはイベント通過後に時間切り。
⑧ 調整:片側急伸時に原資回収→タダ玉化。ヘッジは最小限。
⑨ 終了後:手数料・滑り・IVの動きを記録。次回の比較指標(織込幅 vs 実現幅)を更新。

11. 初心者でもできる簡易バックテスト

最低限、次の2系列を作るだけで意思決定が改善します。

  1. イベント前日のATMストラドル合計(=市場の織込幅の近似)
  2. イベント直後の実現値幅(例:発表から60分以内の高値−安値)

この2つの差が平均的にプラス(=実現>織込)なら、買いストラドル戦略に分があります。エクセルで十分です。さらに一歩進めて、IVの変化(発表前後のATM IV)と、期限別の結果(1日・2日・満期持ち)を切り分けると、勝ち筋が見えてきます。

ブレークイーブン達成確率 ≒ N(|実現変動| ≥ ブレークイーブン距離)
期待値 ≒ 勝率×平均勝ち幅 − 敗率×平均負け幅(=プレミアムに近い)

勝率を上げるには「織込<実現」が出やすいイベントだけに絞ること、期待値を上げるには「利食いの速さ」「サイズの最適化」「滑りの削減」が重要です。

12. よくある落とし穴と対策

  • IVクラッシュで利益が伸びない:初動で時間を使いすぎない。利益確定は速さが命。
  • 遠すぎるOTMで届かない:ストラングルでも、現実的なブレークイーブンを意識。過去の実現分布に照合。
  • サイズ過大:最大損失は確定コスト。口座の1〜2%上限で始める。
  • 流動性不足:板が薄い銘柄は避ける。主要指数・主要通貨・主要暗号資産を優先。
  • 撤退基準の欠如:入る前に「利食い・損切り・時間切り」を決め、機械的に執行。

13. まとめ:勝てる形を「型化」する

買いのストラドル/ストラングルは、最大損失が事前確定で、イベントドリブンの大きく速い値動きに強い戦略です。要点は(1)織込幅と実現幅のギャップをデータで管理すること、(2)IVクラッシュ前に抜ける速い手仕舞い、(3)サイズの一貫性です。テンプレート化し、毎回の取引メモを残すと、初心者でも短期間で精度が上がります。まずは小さく始め、検証と改善を繰り返してください。

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