永久先物の清算価格を完全理解:初心者でも失敗しない証拠金管理ガイド【BTC/ETH対応】

デリバティブ

本稿では、暗号資産の永久先物(パーペチュアル)取引における清算価格を、初学者でも腹落ちするレベルまで体系的に解説します。清算は「突然やってくる不幸」ではなく、計算でほぼ事前に把握できます。仕組みと数式、実例、そして実務に使えるチェックリストと簡易電卓(MQL4)までを提示し、清算されない設計を身につけていただきます。

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清算価格とは何か:3つの価格を区別する

まず、似て非なる3つの価格を区別します。マーク価格は取引所が算出する公正価格推定で、清算判定に使われます。清算価格は口座資産が維持証拠金を下回る境界の理論値で、そこに到達するとポジションが強制縮小・クローズされます。破産価格はポジション単体の証拠金が尽きる理論値で、清算実務では破産価格より手前で段階的に処分(部分清算)されることが多いです。

証拠金体系:アイソレとクロスの本質的な違い

アイソレ(Isolated)はそのポジション専用の証拠金で完結します。初期証拠金(IM)以上の損失は口座残高に波及しませんが、清算価格は比較的近くなりがちです。一方クロス(Cross)は口座の余力(フリーバランス)がポジションの損失を肩代わりし、清算価格は遠のきます。ただし、同時に保有する他ポジションと運命共同体になります。

清算の判定原理:数式で見ると恐くない

清算判定は「有効証拠金 ≤ 維持証拠金」で行われます。有効証拠金は「初期証拠金 + 含み損益 − 手数料や資金調達支払の累計」です。維持証拠金は通常、ポジション名目価値 × 維持証拠金率(mmr)で表されます(実際はティア別の定数加算が入る取引所もあります)。

線形(USDT建て)パーペチュアルの近似式

ロングとショートで清算価格の近似式は次のように書けます(手数料・定数加算を無視した学習用の式です)。

ロング: L = (Entry − IM/Q) / (1 − mmr)

ショート: L = (IM/Q + Entry) / (1 + mmr)

ここで、Entryは建値、IMは初期証拠金、Qはベース資産数量(例:BTC枚数)、mmrは維持証拠金率です。クロスの場合はIMを「初期証拠金 + 口座余力」に置き換えると直感が掴めます。

具体例:BTC/USDT ロング(アイソレ10倍)の清算価格

建値が65,000 USDT、数量0.10 BTC、レバレッジ10倍、維持証拠金率0.5%とします。初期証拠金IMは名目価値6,500÷10=650.00 USDT。式より清算価格は

L ≈ ( 65,000 − 650.00/0.10 ) ÷ (1 − 0.005) = 58,793.97 USDT

つまり、マーク価格が約58,794 USDTまで下がると清算域に入ります。IMを増やせば分母はそのまま、分子の「IM/Q」が大きくなるので清算価格はさらに遠のきます。

具体例:BTC/USDT ショート(アイソレ5倍)の清算価格

建値60,000 USDT、数量0.20 BTC、レバレッジ5倍、維持証拠金率0.4%。初期証拠金IM=12,000÷5=2,400.00 USDT。清算価格は

L ≈ ( 2400.00/0.20 + 60,000 ) ÷ (1 + 0.004) = 71,713.15 USDT

ショートでは価格がに抜けると清算に近づきます。mmrが高い銘柄やティアに上がる大口ポジションでは、同数量でも清算が近づく点に注意が必要です。

具体例:ETH/USDT ロング(クロス8倍、余力1,000 USDT)

建値3,500 USDT、数量2.00 ETH、レバレッジ8倍。ポジションIMは7,000÷8=875.00 USDT。口座の余力1,000 USDTがクロスで吸収されると、実効IM=1,875.00 USDT。清算価格は

L ≈ ( 3,500 − 1875.00/2.00 ) ÷ (1 − 0.006) = 2,577.97 USDT

同じサイズでもクロスは清算が遠くなります。ただし他ポジションと資金を奪い合う点は両刃の剣です。

マーク価格とラスト価格のズレ

清算判定は多くの取引所でラスト(約定)価格ではなくマーク価格に基づきます。急な板薄・フラッシュクラッシュでも、指数連動のマーク価格が落ち着いていれば清算されにくい設計です。逆に、指数側が動けば約定が無くても清算ラインに到達します。

部分清算・ADL・保険基金

大口ポジションは一括清算ではなく段階的にサイズを落とす部分清算が実施されることがあります。市場で処理できない残余は保険基金が吸収し、それでも足りなければADL(自動デレバレッジ)で反対側の高レバレバレッジポジションが強制縮小されます。よって、清算を避けることは自分の損失回避だけでなく、他者への波及リスク低減にもつながります。

資金調達(Funding)の影響

資金調達支払は口座残高を目減りさせ、クロスでは清算価格をじわじわ近づけます。高い正の資金調達が続く相場でロングを抱えると、価格が動かなくても清算が近づく体感になります。建玉の方向・レバレッジ・保有時間と資金調達の積が大きいときは、サイズ縮小やヘッジでドリフトを抑えるのが合理的です。

実務での計算フロー(どの取引所でも使える抽象手順)

1) 建値・サイズ・レバレッジから初期証拠金IMを出します。2) 取引所のティア表から維持証拠金率mmr(と定数加算があればその額)を拾います。3) クロスなら口座余力をIMに加えます。4) 上記の学習式で暫定清算価格を求め、5) 手数料・資金調達・定数加算の影響を控えめに上乗せして安全側に補正します。6) 価格階層やティアが変わる閾値では再計算します。

ミニ電卓:MQL4で清算価格を概算する

//+------------------------------------------------------------------+
//  Liquidation Price Estimator (Linear Perp, Educational)
//  Inputs: entry, qty, initial_margin, mmr, isLong
double LiqPrice(double entry, double qty, double im, double mmr, bool isLong) {
   if(isLong) {
      // L = (entry - im/qty) / (1 - mmr)
      return (entry - im/qty) / (1.0 - mmr);
   } else {
      // L = (im/qty + entry) / (1 + mmr)
      return (im/qty + entry) / (1.0 + mmr);
   }
}
// サンプル
// BTC ロング: entry=65000, qty=0.10, im=650.00, mmr=0.005
// Print( LiqPrice(65000, 0.10, 650.00, 0.005, true) );

よくある誤解と事故パターン

「証拠金を足せば永遠に安全」ではありません。ボラティリティが急拡大する局面では、資金調達や手数料、ティアの切り上がりで必要維持証拠金が増え、清算が追いかけてくることがあります。「逆指値があるから大丈夫」も禁物で、清算は約定の有無に依らないマーク価格判定のため、スリッページで逆指値が飛ばされる一方、清算は進むということがありえます。

ケーススタディ:サイズ調整で清算を遠ざける

BTCロング例のIMを2倍(+650.00→+1,300.00 USDT)にすると、清算価格は

L ≈ ( 65,000 − 1300.00/0.10 ) ÷ (1 − 0.005) = 52,261.31 USDT

さらに、サイズ自体を半分(0.10→0.05 BTC)にすれば、同じIMでも「IM/Q」が2倍となり、清算は劇的に遠のきます。レバレッジよりも絶対損失額に着目して設計するのが実務的です。

清算回避のための設計チェックリスト(実務版)

・ポジション建て前に「清算価格−損切り価格−想定ボラ」の順で幅を測り、損切りが清算より十分手前に来るようサイズを逆算します。
・クロスを使う場合、他ポジションの最悪相関(同時に逆行するケース)で余力が食われるシナリオを必ず机上検証します。
・高資金調達局面では保有時間を短くし、陰のコストによる清算接近を防ぎます。
・資金・ティアが増えてmmrが上がる閾値では、分割エントリーでティア上昇を避ける設計を検討します。
・急変動時はアイソレに切り替えて火事の延焼を防ぎます。
・週末・早朝など板が薄い時間帯は清算リスクが増えるため、杠杆を平時より落とす運用ルールを決めておきます。

まとめ

清算価格は恐怖の象徴ではなく、事前にコントロール可能な設計変数です。建値・サイズ・IM・mmrの4点を押さえ、クロスかアイソレかを状況で切り替え、資金調達やティアの影響を控えめに見積もるだけで、清算は統計的に回避できます。まずはご自身の主力銘柄で本稿の式を使って清算距離を算出し、サイズを再設計してみてください。

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