結論先出し:初心者が個別株で「割安かつ利益体質の良い銘柄」を絞り込むなら、配当利回り(DY)・PER(益回り=E/P)・PBR・ROEの4指標を一体で見てください。単独指標ではノイズが多すぎます。本稿では、これらを統合した「DY×E/P×ROE − PBR」の実践フレームワークを作り、明日から使えるスクリーニング表・売買ルール・検証の手順までを、初心者向けに丁寧に解説します。
本ガイドは、専門用語をかみ砕きつつ、具体的な数値例・Excel式・運用ルーチンまで踏み込みます。特定銘柄の推奨は行わず、ご自身の判断で再現できる方法に集中します。目的はシンプルです。「割安で、稼ぐ力があり、株主に報いている会社」を効率よく見つけ、損は小さく・利益は大きく伸ばす仕組みを持つことです。
1. なぜ4指標を「セット」で見るのか
単独指標は、局所的には当たりでも、全期間では当たり外れが激しくなります。例えば、配当利回りだけを見ると「罠高配当」(業績悪化で株価下落→見かけ利回りだけ上昇)を拾いがちです。PERだけだと「低PER=割安」という誤解で、成長なき低評価銘柄を握り続けやすくなります。そこで、以下の4つを同時に見ます。
- 配当利回り(DY)=1株配当÷株価。株主還元の現在値を測ります。
- PER(株価÷EPS)。益回り(E/P)=EPS÷株価=1/PERで見ると、利益創出力に対し今の株価が割安かの直感が湧きます。
- PBR(株価÷BPS)。バランスシート目線の割安度です。資産に対して高すぎないかを確認します。
- ROE(当期純利益÷自己資本)。株主資本をどれだけ効率よく増やしているかの指標です。
直感的には、DY↑・E/P↑・ROE↑はポジティブ、PBR↑はバリュエーション的に慎重に見るべきサインです。これを一枚の基準にまとめると、「稼ぐ・配る・資本効率が良いのに、資産対比で買値が高すぎない」銘柄が浮かびます。
2. 定義・式・相互関係を短く押さえる
配当利回り(%)=(1株当たり配当金)÷(株価)
PER=(株価)÷(EPS)/ 益回り(E/P)=(EPS)÷(株価)=1/PER
PBR=(株価)÷(BPS)/ BPS=(自己資本)÷(発行株式数)
ROE(%)=(当期純利益)÷(自己資本)=(EPS)÷(BPS)
ここで重要なのは、ROE=EPS/BPSという関係です。つまり、利益(EPS)を資本(BPS)でどれだけ増やしているかを見ています。PERは「株価/EPS」であり、EPSが強い会社はPERが低く出やすい(=益回りが高い)傾向があります。ただし人気化するとPERは簡単に上振れします。そこでPBRも併用し、資産対比で買値が過熱していないかを同時に監視します。
3. 初心者向けしきい値と合成スコア
まずは基礎チェックとして、下限/上限のしきい値を設定します(あくまで出発点)。
- 益回り(E/P)≧ 7%(=PER≦約14.3)
- 配当利回り(DY)≧ 2.0%
- ROE ≧ 10%
- PBR ≦ 1.5倍(資産対比で買い過ぎ回避)
- 営業CF/当期純利益 ≧ 80%(利益の質チェック)
- 有利子負債/自己資本 ≦ 100%(財務健全性)
次に、複数銘柄を比較するための合成スコアを用意します。シンプルで構いません:
S = w1・標準化(DY) + w2・標準化(E/P) + w3・標準化(ROE) − w4・標準化(PBR)
初心者は w1=w2=w3=w4=1
からで十分です。標準化は「同期間・同業集団内」での相対評価にするためです。数値の大小だけでなく、同業他社との比較という目線が身につきます。
4. 実務フロー:週1ルーチン
- データ取得:証券会社やIR資料から、株価・配当・EPS・BPS・ROE・CF・負債指標を取得します。最初は保有候補20〜30銘柄で十分です。
- 基礎チェック:前章のしきい値を満たすかを「○/×」で判定。
- 合成スコア算出:DY・E/P・ROEはプラス方向、PBRはマイナス方向に寄与。
- チャート整合:週足の200日移動平均線の上にあり、20日・60日が上向き/ゴールデンクロス気味なら前向き。
- 出来高とVWAP:直近の上昇が出来高増+日次VWAP上で推移していれば健全。
- エントリー分割:同額を3回に分ける(例:33%×3)。最初はスコア上位2〜3銘柄でOK。
- 損切りとトレーリング:初期ストップは直近スイング安値の2〜3ATR下、利益が乗ったら10〜15%幅でトレーリング。
- 月次点検:決算更新後はEPS/BPS/ROEを差し替え、PBR/益回りを再計算。
- 四半期再均衡:スコア下位は縮小、上位は増額。税コスト・手数料を必ず記録。
5. ケーススタディ(数値は仮想)
銘柄A:株価2,000円、配当60円、EPS180円、BPS1,600円、ROE=11.25%、営業CF/純利益=95%、有利子負債/自己資本=40%
DY=3.0%、PER=11.1、E/P=9.0%、PBR=1.25。しきい値をすべて満たし、合成スコアは高位。週足は200MA上、20MAと60MAは上向き、出来高も徐々に増加。3分割でエントリー、ストップは直近安値1,880円の下に2ATR(仮に80円)を置く=1,720円。含み益が10%乗ったらトレーリング幅10%に切替。
銘柄B:株価1,200円、配当24円、EPS60円、BPS700円、ROE=8.6%、営業CF/純利益=60%、有利子負債/自己資本=130%
DY=2.0%、PER=20、E/P=5%、PBR=1.71。ROEとE/P、財務健全性でしきい値を割る。合成スコアは低位。観察継続だが買わない判断が妥当。
銘柄C:株価3,000円、配当45円、EPS300円、BPS1,000円、ROE=30%、営業CF/純利益=110%、有利子負債/自己資本=20%
DY=1.5%、PER=10、E/P=10%、PBR=3.0。収益力は極めて高いがPBRが高く、利回りも低い。押し目待ち or 値がさ回避が妥当。仮に25%押した局面でPBRが2台に落ちてきたら再評価。
6. エントリー/エグジットのルール化
6.1 初期ストップと損失限定
損失を限定しない投資は、偶然の勝ちがあっても最終的に資金を毀損します。初期ストップはチャート構造(直近安値/サポート)にボラティリティ(ATR)を重ね、「ノイズで狩られにくい・破られたら撤退に合理性がある」位置に置きます。
6.2 トレーリングで「利益は伸ばす」
含み益が10%を超えたら、10〜15%の幅でトレーリング。ボックス相場では利確が先行しますが、トレンド発生時の大型利益を逃しません。
6.3 リスク・リワード比(RRR)を事前に算定
想定損失:初期ストップまでの距離×株数。想定利益:前回高値の更新幅やフィボナッチ拡張で仮置き。RRR≥2.0を満たさないエントリーは見送ります。
7. ポートフォリオ設計と再均衡
初心者はまず3〜5銘柄・等金額から。月次で合成スコアを再計算し、上位は維持/増・下位は縮小/入替。同一業種過度集中は避け、業種を2〜3に分散します。現金比率を20〜40%の範囲で環境に合わせて調整すると、心理的安全性が高まります。
8. 1枚シートで回す:Excel実装例
列例:株価, 配当, EPS, BPS, DY, PER, EP, PBR, ROE, 営業CF/純利益, 負債倍率, スコア
DY = 配当 / 株価
PER = 株価 / EPS
E/P = EPS / 株価
PBR = 株価 / BPS
ROE = EPS / BPS
スコア = Z(DY) + Z(E/P) + Z(ROE) - Z(PBR)
Excel式のイメージ(日本語関数でも英語関数でも可):
=IFERROR([@配当]/[@株価], "")
=IFERROR([@株価]/[@EPS], "")
=IFERROR([@EPS]/[@株価], "")
=IFERROR([@株価]/[@BPS], "")
=IFERROR([@EPS]/[@BPS], "")
' 標準化は(値 - 平均)/STDEV.P(範囲) でOK
=IFERROR( ([@DY]-AVERAGE(DY列)) / STDEV.P(DY列), "" )
しきい値は条件付き書式で色分け(例:E/P≧7%を緑、PBR≦1.5を緑、ROE≧10%を緑、未達は赤)。視覚的に勝ち筋が浮かぶように設計します。
9. どこで失敗するか(よくある落とし穴)
- 罠高配当:一時的な業績悪化で株価が崩れ利回りだけ高く見えるケース。営業CFや配当性向も併読。
- 低PER常習:構造的低収益のため市場評価が恒常的に低い。ROEやトップラインの鈍化に目を向ける。
- PBR高騰の追っかけ:資産対比の割高が進んでいるだけの可能性。E/P・ROEとセットで。
- 決算更新を放置:EPS・BPSは動きます。古い数値で意思決定しない。
- 損切り先送り:小さな損を認めないと、やがて大損になります。ルールは機械的に執行。
10. Q&A(初心者からの頻出)
Q1. DYが高く、E/Pも高いのにPBRも高い銘柄は?
A. 成長+人気が重なっている可能性。買うなではなく、「分割・押し目・RRR確保」の三点で慎重に。
Q2. ROEが低いけれどPBRも低い銘柄は?
A. 改善余地はあるが、低収益が構造的な場合も多い。まずは改善の兆候(利益率・CF)を待ちます。
Q3. 期間はどれくらい?
A. 基本はスイング〜ポジション(数週〜数ヶ月)。決算をまたぐ場合はサイズを半分に落とすのが無難です。
11. 運用テンプレ(コピペして使える)
売買ルール(雛形)
- しきい値チェック:E/P≧7%、DY≧2%、ROE≧10%、PBR≦1.5、営業CF/利益≧80%、負債倍率≦100%。
- スコア上位から最大3銘柄に同額エントリー、3分割で買う。
- 初期ストップは直近安値−2ATR。RRR≥2.0を満たさなければ見送り。
- 含み益10%でトレーリング10〜15%に切替。決算前はサイズ半減。
- 月次でスコア更新、四半期で再均衡。下位は縮小・入替。
12. 次の一歩
本フレームワークは、「再現性の高い割安・高収益の抽出」を目的とした最初の土台です。慣れてきたら、セクター別のベースライン(例:資本集約的業種のPBRは低く出やすい)を設定し、利益成長(EPSのCAGR)や配当成長、自己株式の取得状況などの追加因子を織り込み、スコアを拡張してください。最重要は、損失を限定する規律と、継続的な検証です。
最後にもう一度。勝ち筋は複雑ではありません。DY・E/P・ROEで稼ぐ力と株主還元を確認し、PBRで買値の常識を守る。この土台の上に、サイズ管理と撤退規律を積み上げれば、初心者でもぶれない投資が可能です。
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