初心者の方にも再現できるレベルまで分解して解説します。単なる概念説明に止まらず、
実際の手順、数式、利回りの見方、行使価格(ストライク)の選び方、期限の管理、
ボラティリティとギリシャ指標の基礎、想定外シナリオへの対応、ローリング(巻き直し)の実務、
さらにチェックリストとケーススタディまでまとめました。
株式の上値を限定する代わりに、売却プレミアムを定期的に受け取る「保守的なインカム戦略」として、
市場が横ばい〜緩やかな上昇の局面で特に有効です。
1. カバードコールとは何か
カバードコール(Covered Call)は、現物株のロング+同一銘柄のコール売りを組み合わせる戦略です。
現物保有により下方向のリスクを負いながら、上方向の利益は売ったコールの行使価格で上限が生まれます。
代わりに、売却時点でプレミアム(オプション料)を受け取り、時間の経過とともに
(他条件が一定なら)時間価値が減価して利益化しやすい構造を持ちます。
単純化すると、利益の合計は次の通りです。
損益 = 現物株の損益 + 受取プレミアム - 必要ならば調整コスト
大切なのは、上昇の上限がある代わりに、確率的に期待値を平準化しやすいことです。
短期の急騰をすべて取りに行く戦略ではありません。「横ばい〜小幅上昇でコツコツ稼ぐ」ことが主眼です。
2. どんな相場で有効か(相場観の合わせ方)
- 想定レンジ:横ばい〜緩やかな上昇。
- ボラティリティ:やや高め(プレミアムが厚くなるため)。ただし極端な高ボラは急変動リスクも増大。
- イベント:決算直前はIV(インプライド・ボラティリティ)が急騰しプレミアムが厚くなる反面、サプライズに弱い。
総じて、プレミアムが十分で、急騰の可能性が相対的に低い局面が相性良好です。
3. 具体例:100株単位での月次運用モデル
例として、株価5,000円の銘柄を100株保有(合計50万円)し、
1カ月後満期のコール行使価格5,300円を1枚売り、
プレミアム120円(= 12,000円)を受け取るケースを考えます。
項目 | 数値 | メモ |
---|---|---|
株価 | 5,000円 | 開始時点 |
保有株数 | 100株 | 現物 |
コール行使価格 | 5,300円 | OTM(アウト・オブ・ザ・マネー) |
受取プレミアム | 120円 × 100株 = 12,000円 | 税前 |
満期まで | 約30日 | 月次運用の想定 |
このときの最大受取額(配当除く)は「行使価格までのキャピタルゲイン + 受取プレミアム」です。
最大利益 ≒ (5,300 − 5,000) × 100株 + 12,000 = 42,000円
満期日時点の株価が5,300円を超えても、それ以上の上昇を取れない点がトレードオフです。
一方、株価が下落した場合でも、受取プレミアム12,000円が緩衝材として働き、
ブレークイーブンは次式で求まります。
損益分岐株価 ≒ 5,000円 − 120円 = 4,880円
4. 利回りの考え方(年率換算の基礎)
月次の受取プレミアムから単純年率を見積もるには、次の式が直感的です。
推定年率(単利) ≒ (受取プレミアム ÷ 現物評価額) × 12
上記例では、12,000 ÷ 500,000 × 12 ≒ 28.8%(単利推定)となります。
実務上は、満期前の買い戻しやローリング、コールが行使されて株が呼び出されるケースが絡むため、
実現年率は変動します。配当がある銘柄では、配当も合算した総合利回りで評価します。
5. ストライクの選び方(OTM/ATM/ITM)
一般的に、OTM(現値より上)ほど上昇余地を残し、プレミアムは薄くなります。
ATM(現値近辺)はバランス型、ITM(現値より下)は呼び出されやすく、
受取プレミアムは厚くなります。初心者の方は、まずは控えめなOTMから始め、
約定しやすさ・管理のしやすさ・期待値の感触を掴むのが無難です。
タイプ | 特徴 | 向き・不向き |
---|---|---|
OTM | 上昇余地を残しつつ薄いプレミアム | 横ばい〜小幅上昇の想定 |
ATM | バランス型、プレミアムは中程度 | 方向感に自信がないとき |
ITM | 厚いプレミアム、呼び出しされやすい | すぐに株を売却しても良いとき |
6. 満期までの管理とローリング
満期が近づくと、時間価値は急速に減っていきます。目標利回りを達成したら、
満期を待たずに買い戻して利確し、次の期先へローリングするのが定石です。
- 売ったコールの評価益が一定以上(例:受取プレミアムの70%消化)になったら買い戻し。
- 同日または翌営業日に、同じ株で翌月(または2週間先など)に再度コールを売る。
- 相場が想定より強ければ、少し上のストライクを選んで上値を取りに行く。
- 相場が弱ければ、プレミアム厚めのストライクでインカムを重視。
ローリングは「満期の先送り」と「ストライク調整」の二つを同時に行う発想です。
7. ボラティリティとギリシャ指標の超入門
- IV(インプライド・ボラティリティ):市場が織り込む将来の変動率。IVが高いほどプレミアムは厚い。
- θ(シータ):時間経過に対するプレミアムの減少速度。売り手に味方します。
- Δ(デルタ):株価変動に対するオプション価格の感応度。OTMほど小さい。
- Γ(ガンマ):デルタの変化率。満期接近やATMで大きくなりやすい。
- V(ベガ):IVの変化に対する感応度。IVが下がると売り手に有利。
初心者はまず「IVが高いとプレミアムが厚い」「時間経過は売り手に有利」の二点を押さえてください。
8. 想定外シナリオの対処(急騰・急落・決算)
急騰時(コールが深ITM化)
- 株を売ってもよければ行使を受け入れる(上限での売却)。
- 売りたくないなら、買い戻してより上のストライクで再度売る(アップ&アウト)。
- 満期直前は外部要因でIVが急低下することもあり、買い戻しコストが下がる場面もあります。
急落時
- 受取プレミアムが緩衝材。ストライクを下げるローリングでプレミアムを積み増す選択肢。
- ただし、根本的な下落トレンドなら株自体の見直し(損切り)も選択肢。
決算・配当・イベント
- 決算跨ぎはIVが跳ねやすく、厚いプレミアムの代わりにギャップリスクが上がります。
- 配当落ち日はコール理論価格が影響を受けます。配当取りの投資家は、権利確定日と満期の位置を確認しましょう。
9. ルール設計テンプレート(再現性を高める)
- 対象銘柄:出来高が十分、オプション板が厚い銘柄を選択。
- 期先:まずは30〜45日先を基本に、慣れたら週次も活用。
- ストライク:現値+3〜8%の範囲でOTM中心。相場観で調整。
- 利確基準:受取プレミアムの50〜70%を消化したら買い戻し。
- 損切基準:急騰で深ITM化したら「買い戻し→より上で売り直し」を優先。
- イベント管理:決算・配当・大きな経済指標の前後は建玉サイズを調整。
10. 事例研究(ケーススタディ)
ケースA:横ばい相場での月次回転
株価が5,000±150円のレンジに留まる1カ月。OTMコールを毎月回して、
プレミアムを3〜4回積み上げた結果、年間の実現利回りは配当込みで二桁台に達しました。
急騰を取り逃しても、継続性が積み上げの源泉となります。
ケースB:決算ギャップで呼び出し
決算サプライズで株価が5,700円へギャップアップし、行使価格5,300円のコールが行使。
最大利益での売却となり、その後の上昇は取れませんでしたが、既定の上限で満足し次の機会へ。
上昇相場をすべて取る戦略ではない点を再確認できる例です。
ケースC:下落相場での防御
株価が4,600円付近まで下落。プレミアムを重視しつつストライクを引き下げ、
期間も短くしてθの恩恵を迅速に取る運用へ。根本的な悪材料なら、現物の縮小も併用して
リスクを制御します。
11. 税務・コスト・実務の留意点(一般論)
- 取引手数料やスプレッド、税務の取り扱いは市場・商品・口座体系で異なります。
- 配当の受取・権利落ち・源泉徴収のスケジュールは、満期設定と合わせて確認します。
- 外国株・海外オプションの場合は為替や時差、現地ルールにも注意が必要です。
※本稿は一般的な情報提供であり、特定の投資助言ではありません。
12. 実装チェックリスト
- (1)対象銘柄の板・出来高・IVを確認。
- (2)イベント日程(決算・配当・経済指標)をカレンダー化。
- (3)期先30〜45日を基本に、OTMストライクを仮決定。
- (4)目標利回りと利確基準(例:50〜70%消化)を明文化。
- (5)急騰・急落時の対処方針(買い戻し&売り直し)をプリセット。
- (6)ローリングの手順と記録フォーマットを用意。
- (7)月次で実績を集計し、期待値が出ているか検証。
13. よくある失敗と回避策
- 失敗:決算跨ぎで深ITM化し慌てる。
回避:建玉サイズを落とす、またはイベント回避。 - 失敗:薄商い銘柄で約定・決済に手間取る。
回避:出来高・板の厚い銘柄に限定。 - 失敗:利確・損切の基準が曖昧。
回避:数値基準を事前に決めて自動化・省力化。
14. まとめ
カバードコールは、現物株の価値を「時間」に変換してインカムを引き出す戦略です。
上昇の上限と引き換えに、横ばい局面での収益平準化が狙えます。
小さく始め、ルールを定め、データで検証しながら積み上げていきましょう。
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