金利先物でイールドカーブを稼ぐ:DV01ニュートラル設計とキャリー&ロールの実装ガイド

先物

「株か債券か」ではなく、金利(イールドカーブ)そのものを取引して安定した超過収益を狙うための完全ガイドです。テーマは金利先物(Interest Rate Futures)。株式と相関が低く、マクロイベントに対する感応度が高い金利の世界は、情報優位・構造的優位(キャリー&ロール、限月構造、ヘッジ需要)が多く、個人投資家にも門戸が開かれています。本稿では、初心者がつまずきやすい抽象概念をすべて実売買の手順に落とし込み、DV01ニュートラル設計スティープナー/フラットナーキャリー&ロールベーシス/CTDの罠証拠金・ロスカット管理まで、実務の順序で解説します。

対象は主に次の3系統です。(銘柄名や仕様は例示。ブローカー/取引所により細部は異なるため、実際の約款・仕様を必ず確認してください。)

  • 国債先物:2年/5年/10年/超長期(米国債先物、JGB先物など)。カーブ取引の主役。
  • 短期金利先物:3カ月物金利(例:CMEの3M SOFR先物)。政策金利見通しに最も敏感。
  • 債券ETF/国債投信×先物ヘッジ:現物(長期債ETF等)の金利リスクを先物で中和。
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金利先物の「収益ドライバー」を最初に掴む

金利先物の損益は次の3要素に分解できます。

  1. 方向性(デルタ):金利↑で先物価格↓、金利↓で先物価格↑。最も直感的。
  2. キャリー(保有コスト/保有利得)保有しているだけで生じる期中の損益。クーポン・資金調達・先物ベーシスが絡む。
  3. ロール(ロールダウン)時間経過で限月が近づき、先物がイールドカーブ上を転がり落ちることによる価格変化。曲線の傾きに依存。

このうちキャリー&ロールは、方向を当てなくても稼げる源泉になり得ます。株式で言えば「配当+リバランス効果」のような構造的リターンに近く、カーブの傾きや形状の歪みを丁寧に拾う戦略が有効です。

基礎:価格と利回り、DV01、デュレーション

国債価格は利回りと反対方向に動きます。価格感応度はおおむねデュレーションに比例し、1bp(0.01%)の利回り変化に対する価格変化額をDV01(Dollar Value of 01bp)と呼びます。先物1枚あたりのDV01は銘柄・限月・CTDにより異なります。

実務では、ポジション全体のDV01をゼロ近辺に合わせることで、方向性(デルタ)を消し、形の変化(カーブ取引)に純粋に賭けることができます。例えば5年先物を売り、30年先物を買うスティープナーでは、枚数比をDV01比で調整します。

3つの代表的な戦術

1. スティープナー(曲線が立つ)

「短中期金利が上がる/長期金利は相対的に上がらない」または「短中期が下がらないのに長期が下がる」環境で機能しやすい。建て付け例:

  • 5年先物売り × 30年先物買い(DV01ニュートラル比)
  • 短期金利先物(SOFR)売り × 10年先物買い(政策金利急騰リスクに対する長期の耐性を買う)

ポイントは、枚数比を適当に決めないこと。5年のDV01は30年より小さいため、5年の枚数は多め、30年は少なめが一般的です(具体値は限月・CTDで変動)。

2. フラットナー(曲線が寝る)

「短中期金利の引き締めが長引く/長期のインフレ期待が低下」などの局面で機能しやすい。建て付け例:

  • 5年先物買い × 30年先物売り(DV01ニュートラル比)
  • 10年先物買い × 超長期先物売り(長端のボラ・凸性の影響を管理)

3. 方向性×キャリーの折衷(「傾き+方向」を同時に狙う)

DV01をあえて少し残し、キャリー&ロールの正の向きも同時に取りに行く手法。完全中立より損益のブレは大きくなるが、トータルの期待値が改善する場合があります。

DV01ニュートラル比の設計:手順を明確に

DV01ニュートラルは次の手順で設計します。

  1. 候補限月のDV01/枚を調べる(ブローカーのリスク画面や取引所資料、または近似式)。
  2. 比率=DV01(ロング側) ÷ DV01(ショート側)。例えば「30年買い/5年売り」で30年のDV01が$200、5年が$80なら、5年を2.5倍の枚数持てばおおむね中立。
  3. 実運用ではロール時にDV01が変わるので、ロールのたびに比率を再調整する。

近似の目安として、デュレーション×価格でDV01を概算できます(厳密にはCTDのコンバージョン・ファクターや最終利払いの影響等を加味)。初心者はまず「比率を固定せず、定期的に見直す」習慣をつけると大きなミスを避けられます。

キャリー&ロール:見えにくいが再現性の源泉

キャリーは、資金調達コスト・クーポン・先物ベーシス等から決まります。ロールは、保有限月が時間とともにカーブ上を下り、より短いデュレーションに近づくことで価格が自然に変化する効果です。一般に、順イールド(長期高・短期低)ではロールダウンがプラスに働きやすく、逆イールドではマイナスに働きがちです。

カーブ取引では、ペアの片側で得るキャリー&ロールが、もう片側の支払いを上回るように設計できると、方向を外しても損益が耐える構造になります。実際には、限月・銘柄・ベーシスの組み合わせで大きく違うため、バックテストと月次の実測管理が必須です。

ベーシス、CTD、インプリード・レポ:先物特有の落とし穴

国債先物の理論価格は、現物価格+保有コスト(調達金利−クーポン等)で決まるのが基本ですが、実務ではCTD(Cheapest To Deliver)コンバージョン・ファクター、そしてインプリード・レポ(IRR)の変動により、先物−現物のベーシスが動きます。ロールの直前・直後は、CTDの入れ替わりデリバリー・オプションの価値変化で短期的に歪みが拡大します。

カーブ取引でも、このベーシス変動は無視できません。同一限月内のペアであっても、片側のCTD交代が起きれば比率の妥当性が崩れます。定期的にIRRとCTD候補の利回りを点検するだけで、「勝っているはずなのに増えない」といった違和感の原因が見えます。

ケーススタディ:5年×30年スティープナーを設計する

ここでは概念の理解を目的に、架空の数値でステップを示します。

  1. 前提:5年先物のDV01=80、30年先物のDV01=200(単位は同一通貨)。
  2. 目標:DV01ニュートラルのスティープナー(5年売り×30年買い)。
  3. 比率:200÷80=2.5 → 5年を2.5枚、30年を1枚(整数に丸める場合は5年5枚×30年2枚など)。
  4. キャリー&ロール:仮に30年側のロールダウンが+、5年側が±0とすると、日々の時間価値でスプレッドが縮小しやすい(スティープ化)。
  5. リスク:短期ショックで5年金利が急低下すると、スプレッド拡大方向に逆行(評価損)になりやすい。
  6. 運用:限月ロール時にDV01を再計算。ベーシスの変化が大きい時期はサイズを抑える。

短期金利先物(SOFR)を組み合わせる意味

政策金利の期待値は短期金利先物に最も鮮明に映ります。例えば「SOFR先物売り × 10年先物買い」は、タイトニング長期化に対する長期成長期待の耐性という構図を表現できます。イベント・ドリブン(雇用統計、CPI、中銀会合)との親和性も高く、イベント前後の資金管理を徹底すれば、有意なリスクリワードを取りやすい局面が出ます。

債券ETF×先物のハイブリッド運用

現物ETF(長期債ETFなど)でベースのキャリーを取りつつ、先物で余剰のデュレーション/カーブ・エクスポージャーを調整する手法は、最小限の取引回数で目標リスクに合わせやすいのが利点です。例:

  • 長期債ETF買い×10年先物売りで、実効デュレーションを短くする。
  • 中期債ETF買い×30年先物買いで、カーブの長端リスクを意図的に増やす(スティープナー寄り)。

注意点は、ETFの分配金や経費率と、先物のベーシス/証拠金のトータルでリターンを評価すること。グロスではなくネットで設計してください。

イベント前後のリスク管理:サイズは「ボラ×DV01×枚数」で管理

金利はニュースの一撃で数十bp動くことがあり、ボラティリティ×DV01×枚数で瞬間的な損益変動幅が決まります。イベント前はサイズを落とし、逆行時の損失×2回分を想定した証拠金余裕(余力)を残すのが実務的です。さらに:

  • ストップは価格ではなくスプレッド(例:30年−5年のbp差)で置くと、ペアの整合性を保てます。
  • 強制ロスカットは構造を壊す最大リスク。余力>期待リターンで設計。
  • ロール週は流動性が薄くなりやすい。指値幅を広げ、分割執行を基本に。

バックテストの最低限:単純でも「同じルール」を通す

完璧なモデルは不要です。以下の要素だけでも、定量的な期待値が見えるようになります。

  • データ:日次の先物終値(複数限月)と参照利回り、簡易DV01。
  • シグナル:カーブ形状(10s30s、5s10s など)のバンド/平均回帰、またはイベント・ドリブンの固定期間保有。
  • コスト:片道のグロス手数料+スリッページ(保守的に)。
  • ロール:実際のロール日を近似し、DV01比をロールごとに再計算して反映。

大事なのは、「良かった区間だけを都合よく選ばない」こと。同じルールで全期間を通し、プロファイル(平均日次損益、勝率、最大DD、テールイベント時の挙動)を把握してください。

よくある失敗と回避策

  • 比率固定のまま放置:ロールやCTD交代でDV01が変わる。月次点検をルーチン化。
  • 現物ETFのキャリーだけ見てしまう先物ベーシスを含めてネットで評価。
  • イベント前のサイズ過大ボラ×DV01×枚数で最大損失幅を試算、余力で制御。
  • 長端の凸性を軽視:30年は価格の非線形性が強い。ストップ基準を広めに。
  • 同一テーマをニュースで追いかけすぎ:ストーリー先行ではなく、カーブ指標(bp差)の定点観測を。

簡易計算ツール(手計算のための式)

DV01の概算は、DV01 ≒ 修正デュレーション × 価格 × 0.0001(単位一貫)。先物ではCTDとコンバージョン・ファクター(CF)を用い、先物DV01 ≒ 現物DV01(CTD)/CFと近似できます(厳密ではありません)。

比率は比率 = DV01(ロング) / DV01(ショート)。建玉は整数調整し、差分は最小限の方向性として許容するか、短期金利先物の少量で微調整します。

実装順序のチェックリスト

  1. ブローカーで対象先物の仕様(限月、ティック、値幅制限、取引時間、証拠金)を確認。
  2. 対象カーブ(5s30sなど)を決め、DV01/枚の近似表を作る。
  3. ロール・イベントのカレンダーを作り、サイズと注文戦略を前もって決める。
  4. 最初は小さく始める(試行錯誤の余白を取る)。
  5. 月次で損益の分解(方向/キャリー/ロール/コスト)を記録する。

シナリオ別の思考法

  • インフレ再加速:短期金利上昇→フラットナー優位。ただし長端のインフレ期待が上がるとスティープ化の反撃もある。
  • リセッション懸念:短期利下げ期待→スティープナー優位。ただしリスクオフで長端利回り低下が先行する局面では一時的に逆行あり。
  • 政策転換期:短期金利先物のボラ上昇。サイズを抑え、イベント跨ぎは段階的エントリー/クローズ

用語の要点まとめ

  • DV01:1bp当たりの価格変化額(感応度)。
  • キャリー:保有で自然に積み上がる(または減る)収益。
  • ロールダウン:時間経過でカーブ上を移動することによる価格変化。
  • ベーシス:先物−現物の価格差。CTDやIRRで動く。
  • CTD:受渡しで最も有利(安い)に差し入れられる現物債。

まとめ:勝ち筋は「設計・整備・点検」

金利先物は難解に見えますが、勝ち筋は単純です。設計(DV01比)整備(ロールと比率の定期調整)点検(キャリー&ロール/ベーシス/イベントの監視)をルーチン化すれば、方向を外しても崩れにくい収益構造が手に入ります。株式のオルタナとして、分散の柱に加えてみてください。


注:本稿は一般的な投資知識の提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘や投資助言ではありません。実際の取引は各自の責任で行い、手数料・税務・規制等は最新の約款・法令をご確認ください。

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