オンチェーン分析で勝ちパターンを作る:個人投資家のための実務ガイド

暗号資産

テクニカルやファンダだけでは拾い切れない「資金の動き」を、ブロックチェーンの生データから直接読む。それがオンチェーン分析です。本稿では、主要指標の“意味”を腹落ちさせ、実際の売買オペレーションに落とし込むまでを具体的に解説します。扱う資産は主にビットコインとイーサリアムですが、応用は多くのアルトにも効きます。

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オンチェーン分析の設計思想:市場の“内臓”を見る

価格は外側の結果、オンチェーンは内側の原因です。出来高やRSIのような価格派生データと違い、オンチェーンは「いつ・誰が・どこへ・どれだけ」資産を動かしたかという一次情報に近い。ゆえに先行性持続性が出やすい一方、ノイズや構造変化に対する頑健性が必要になります。

核となる8つの指標と“読解の型”

1) 取引所ネットフロー(Exchange Netflow)

オンチェーン上で、取引所アドレスへの入出金の差分を追います。入金超過(正のネットフロー)は売り圧の潜在化、出金超過(負のネットフロー)は現物保有意欲の強さを示唆します。短期的には価格に先行することが多く、ニュースより早く“資金の意思”が滲みます。

実務の読み:7日移動平均ベースで閾値を設定(例:総供給量比で±0.05%)。負の幅拡大は押し目買いの候補。正の急拡大はレバ清算と重なると下振れの火種。

2) MVRV(Market Value to Realized Value)

時価総額 / 実現時価総額。実現時価はコインの平均取得コストの概念。MVRVが高い=含み益が厚いため利確圧力が高まり、低い=含み損/薄利で売り枯れやすい。

目安:BTCの長期観測ではおおむね2.5~3.5で過熱、1.0近傍で妙味。銘柄ごとに最適帯は異なるためローリング最分位(過去2~3年)でローカル閾値を動的設定。

3) SOPR(Spent Output Profit Ratio)

送金時に利益が出ているか(1より大)損失か(1未満)を集計。強気相場では1が支持に、弱気では1が抵抗になりやすいという“再起動ライン”の性質が強力。

4) NUPL(Net Unrealized Profit/Loss)

未実現損益の純額。市場の含み益・含み損の偏りを色分けできる。極端なプラスは循環天井圏の予兆、極端なマイナスは投げ売り後の復元力を示唆。

5) SSR(Stablecoin Supply Ratio)

時価総額に対するステーブルコイン供給の相対量。SSR低下=買付“火薬”が多い状態。USDT/USDCのミント/バーンや取引所のステーブル残高も併せて確認。

6) マイナーから取引所へのフロー

PoW資産では、マイナーの入金増=売り圧化の典型サイン。難易度調整直後やハルビング後のキャッシュフロー逼迫局面ではインパクトが増幅。

7) 長期/短期保有の構成(HODL Waves, LTH/STH Supply)

長期保有の増減は売りの不在クッションの厚みを示す。短期供給が増えるとボラが上がる傾向。

8) ネットワーク利用度(手数料、アクティブアドレス、ETH Burn等)

イーサリアムではEIP-1559によるバーン、L2利用拡大、手数料の張り付き方が需給を映す。手数料上昇×価格上昇の同時発生は強いトレンドの典型。

“指標→行動”に落とす:3つのプレイブック

プレイブックA:現物の押し目回収(BTC)

条件:7日平均の取引所ネットフローが-0.05%以下に拡大、かつSOPRが1.0±0.02に回帰。
エントリー:次の4時間足のVWAP割安(-0.5σ)で現物25%、-1.0σでもう25%、合計50%。
手仕舞い:MVRVが直近2年の上位20%帯に入ったら半分利確、残りはSOPRが1割れで全利確。
想定:ニュースが出る前に資金の引き上げが起きるケースを取りに行く。

プレイブックB:ETHの順張り(ネットワーク燃焼ドライブ)

条件:手数料7日中央値が上昇トレンド、ETH Burnが7日合計で発行を上回る(純減)、SSRが過去1年下位30%帯。
エントリー:日足の高値更新で先物またはパーペチュアルを小さめに(レバ2倍以内)。
増し玉:アクティブアドレスが前週比+10%以上で1回のみ増す。
手仕舞い:SOPRが1を明確割れ、もしくは手数料ピークアウト(3日連続低下)で撤退。

プレイブックC:ステーブル“火薬庫”ドリブンの循環取り(マルチアセット)

条件:SSRが過去2年の下位20%帯に侵入、取引所のステーブル残高が増加、主要アルトのネットフローが同時に負へ。
エントリー:時価総額上位の強相関3銘柄を等金額で現物購入。
手仕舞い:NUPLがプラス域で横ばい→縮小に転じたら機械的に1/3ずつ利確。
備考:アルト固有のリスクは個別ニュース流動性を必ず確認。

具体的な数値例:ルールの検証感覚を掴む

例:BTCの総供給量を2,100万枚、循環1,950万枚と仮定。7日平均ネットフローが-9,750BTC(循環の-0.05%)で、同時にSOPR=1.01、MVRV=1.2。VWAP-0.5σで1BTC=¥9,200,000に25%、-1.0σで¥9,050,000に25%を配分。
その後MVRVが2.6(直近2年上位20%帯)へ上昇、SOPR>1.05の利確走りが見えた段階で半分を利確、残りはSOPRが1割れで全利確。結果、加重平均買い¥9,125,000→利確平均¥10,800,000→最終¥10,200,000でトータル+13~18%レンジ。

実装パート:表計算(またはコード)での再現

1) 閾値の動的化

各指標の過去n年分位で上下バンドを更新。例:MVRVの20/80分位、SSRの20/80分位、ネットフローの±0.05%など。ローカル最適を狙う。

2) 簡易シグナルの合成

スコア方式(-2~+2)で各指標を符号化し合計が+3以上で買い、-3以下で売り/縮小。ノイズを減らすため移動平均を併用。

3) 発注ロジック

現物:VWAP±σで分割約定。先物/パーペチュアル:資金管理上レバは最大2倍、証拠金はステーブルで隔離、強制ロスカット水準を常時可視化。

運用リスクと限界の扱い方

  • 指標の再定義リスク:取引所ラベルの更新、アドレスクラスタリングの誤差で断面が変わりうる。複数プロバイダで頑健性を確認。
  • 構造変化:ETFの資金流入、L2化、オンチェーンからCEX内ネット化など、データの意味が変わる局面では重み付けを見直す。
  • 流動性ショック:清算の連鎖はオンチェーンより板状況に先に出る。板厚/清算マップの監視とセットで使う。
  • 手数料・スリッページ:指標は優位でも実現損益を削る。発注を分散、約定価格の管理、手数料割引の活用。

日次オペレーションの型

  1. 午前:前日終値ベースでMVRV/NUPL/SSRの位置を更新し、スコア表を再計算。
  2. 昼:取引所ネットフローの7日平均の傾きと、ステーブル残高の増減をチェック。
  3. 夕方:SOPRの1ライン攻防を確認。条件が合えば分割で指値展開。
  4. 週次:LTH/STH供給比率、マイナーフロー、手数料トレンドの構造変化をレビュー。

応用:アルトコインに展開する際の注意

アルトはチェーンごとにデータの質が違います。アドレスの集中度バリデータの構造ブリッジ残高が歪みを生みやすい。まずはBTC/ETHでモデルを確立→相関の高い大型アルトへ限定し、銘柄固有イベント(アンロック/バン/ハードフォーク)を必ず併置。

チェックリスト(印刷用)

  • ネットフロー:7日平均が負方向へ拡大?(閾値:循環供給の-0.05%)
  • SOPR:1を上にバウンド中か、下にブレイク中か
  • MVRV:過去2年の20/80分位帯のどこか
  • SSR:過去2年下位30%帯なら買いの火薬が多い
  • 手数料/バーン:上昇トレンドか(ETH)
  • マイナー→CEX:増えていないか(PoW)
  • LTH/STH:長期供給比が増加傾向か
  • 発注:VWAP±σで分割、レバ最大2倍、損切り水準明確化

まとめ

オンチェーン分析は“雰囲気”ではなく、数値化して継続運用してこそ効きます。指標の意味を正しく掴み、分割・縮小・撤退のルールまで定義する。価格に先行する“資金の意思”を捉え、勝ちパターンを積み上げましょう。

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