ステーブルコイン金利×為替アービトラージ実務――USDT/USDCで狙う安全域の超過収益

暗号資産

ボラティリティが縮んだ局面でも収益源を確保できるか――個人投資家にとっての死活問題です。本稿では、ステーブルコイン(USDT/USDC)の金利USDJPYの為替ヘッジを組み合わせて作る「プロテクト付き超過収益」の設計図を、手順・数式・数値例まで踏み込んで解説します。マーケットの方向性に賭けないため、裁定余地がある限りは再現性を持ちやすいのが魅力です。

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戦略の全体像(要旨)

狙うのは「金利差 − 取引コスト − ヘッジコスト − 信用/スマコン/規制リスク・プレミアム」の正値です。具体的には、(1) ステーブルコインを供給して受け取る利回り(供給APY)と、(2) それを調達するコスト(現金や暗号資産を担保にした借入、あるいは自資金の機会費用)、(3) 円建て投資家の為替リスクを消すUSDJPYヘッジコストを並べ、ネットでプラスになる領域を継続的に拾います。

ステーブルコインの仕組みと裁定の前提

3類型のペッグ

  • フィアット担保型:USDT/USDCなど。準備資産からの利回りが金利源泉。発行体の信用・準備開示・凍結権限が論点。
  • 暗号担保型:過剰担保+清算ロジックでペッグ維持。オンチェーン透明性は高いが、市場急変時の清算連鎖がリスク。
  • アルゴリズム型:需要供給機構に依存。歴史的にペッグ維持失敗の事例が多く、裁定対象からは除外が無難。

裁定では「発行/償還フロー」「チェーン/ブリッジの安全性」「ブラックリスト・凍結権限」を前提条件として点検します。ペッグ回復の期待値が低いコインは、たとえ価格が0.995に落ちても買い向かわないのが鉄則です。

金利アービトラージの骨格

基本式

Net_APR ≒ Lend_APR − Borrow_APR − Fees_APR − Hedge_APR − Risk_Premium
APY = (1 + Net_APR / m)^(m) − 1   (m = 複利頻度)

「APR換算の手数料(入出金、ブリッジ、ガス、スリッページ)」と「USDJPYヘッジコスト(先物/FX/無期限)」を必ず差し引きます。さらに、発行体・スマコン・規制の複合リスクに対して、最低限のプレミアム(例えば年率0.5〜2.0%相当)を見積もり、これを上回るネット利回りだけを稼働対象にします。

数値例:自資金×USDC供給+USDJPYヘッジ

仮に自資金1,000,000円をUSDに替え、USDCに転換し、オンチェーンで年率6.0%の供給利回りを得るとします。USDJPYの為替リスクは、ドル売り/円買いの先物(もしくはFXショート、あるいはUSD建て無期限のショートエクスポージャ)で遮断。入出金やブリッジの費用、片道スリッページを年率換算0.6%、ヘッジコストを年率1.2%とすると、

Net_APR = 6.0% − 0.0%(借入なし) − 0.6% − 1.2% − 1.0%(リスク・プレミアム)
         = 3.2%(概算)

この3.2%が、相場の方向性に依存しない「基礎収益」として期待できるレンジです。もちろん、各パラメータは日々変動します。ダッシュボード化して定点観測することが実務上の勝ち筋です。

借入×供給のクロス(スプレッド・トレード)

自資金ではなく、USDまたはUSDT/USDCの借入レートが低く、供給レートが高い環境なら、差し引きのスプレッドを取りに行けます。例えば借入2.5%・供給6.5%なら、手数料とヘッジコスト、リスク・プレミアムを差し引いた上でネットがプラスの間だけ建てる。変動金利は急変に備え、日次で再計算・必要なら即時クローズをルール化します。

8時間ファンディングの年率化

無期限(パーペチュアル)の資金調達/支払は8時間ごとが一般的です。年率換算は次式で近似します。

APR_approx = funding_rate_8h × (3 × 365)
APY_approx ≒ (1 + funding_rate_8h)^(3×365) − 1

正確には変動するため、実測系列での積み上げ(日次サム)を推奨します。

為替ヘッジの実装

ヘッジ手段

  • 先物/FX:USDJPYの先物売り/FXショートでUSDエクスポージャを中立化。
  • クリプト無期限:USD建ての無期限をショートして、ドル高による円評価益/損の相殺を狙う(ベータずれ注意)。
  • 自然ヘッジ:将来のUSD支出(海外サービス/旅費等)が恒常的にある場合、その分だけはヘッジ軽減。

最重要は「ヘッジ比率の過不足」。過剰ヘッジは逆方向に損失を広げ、過小ヘッジは為替感応度を残してしまいます。常にポジション台帳でドル換算を点検し、±2〜3%の許容バッファ内で機械的に再調整するのが現実的です。

数値例:円高5円シフト時の影響

USDJPYが150→145へ円高に5円動くと、ヘッジなしのUSDC保有は円換算で約3.33%の評価損になります(145/150−1)。ヘッジが適正であれば、評価損は理論上ゼロ近傍に抑えられ、供給金利のみが残ります。

ペッグ逸脱(デペッグ)逆張り裁定

USDT/USDCが0.998〜0.995程度まで瞬間的に崩れ、流動性が偏ると、短時間での逆張り裁定機会が生まれることがあります。基本動作は「安値の板で拾い、通常値(1.000付近)復帰で利確」。ただし、償還の現実性(門戸・KYC・最小ロット・手数料)と発行体の急所(準備資産の質・規制当局の動き)に問題が見えるときは手を出さない。チェーンやブリッジ跨ぎの価格差を取りに行く場合、ブリッジ遅延で機会が消える前提でサイズを抑えます。

JPY×USDT×USDのトライアングル・フロー

法定通貨(JPY)とステーブル(USDT/USDC)とUSD現金の三角で、手数料・時間価値・価格差の合計でプラスなら回します。高速レール(即時送金/高速チェーン)と、低コスト経路(手数料テーブル)を事前に洗い出して「定型ルート」を作り、イレギュラー時は中断。回転の速さは勝ち筋ですが、コンプラや入出金の上限で詰まると全部無意味になるので、上限値の事前交渉は必須です。

オペレーション設計(実務)

  • 口座分離:ヘッジ用・供給用・裁定用でウォレット/口座を分離。ホット/コールドの役割を固定。
  • 台帳:日次で「保有額・借入額・供給額・ヘッジ比率・ネットAPR」を自動更新(スクリプトでAPI取得)。
  • しきい値:Net_APRが所定閾値(例:2.0%)を割れたら自動縮小、超えたら自動増額。
  • プレイブック:入出金停止、ブリッジ遅延、スプレッド急拡大、デペッグ検知時の「停止・縮小・撤退」条件を文章化。

主要リスクとヘッジ

  • 発行体/保管リスク:凍結/償還制限/準備資産の質。→ コイン分散、発行体の開示監視、資産集中を避ける。
  • スマートコントラクト:監査済みでもゼロにはならない。→ 保険(DeFi保険)、上限金額、バグバウンティ状況の確認。
  • 規制:地域差・急変。→ KYC/税務/報告実務の整備、ニュースの定点観測。
  • 流動性:薄い板はスリッページ拡大。→ 事前の深さ計測、サイズ分割、TWAP化。
  • 為替:ヘッジの遅延/過不足。→ 自動再調整、ヘッジ上限/下限の帯域管理。
  • オペミス:送付先間違い・チェーン違い。→ 少額テスト送金、アドレスのマネジメント、マルチシグ/二重承認。

チェックリスト(実行前)

  • 供給利回りと借入レートを同一通貨・同一複利単位で比較しているか。
  • 入出金/ブリッジ/ガス/スリッページの年率換算を入れているか。
  • USDJPYヘッジの建玉・口数が、ドル換算残高と整合しているか。
  • リスク・プレミアムを差し引いてもネットがプラスか。
  • 停止条件(スプレッド縮小、デペッグ、規制ニュース)を事前に決めているか。

自動化のヒント(擬似コード)

# 1) レート取得
supply = get_supply_apy("USDC")
borrow = get_borrow_apr("USDC")
hedge  = get_usdjpy_hedge_apr()
fees   = estimate_fees_apr()
risk_p = 0.01  # 1%仮置き

# 2) ネット利回り
net_apr = supply - borrow - hedge - fees - risk_p

# 3) アロケーション
if net_apr >= 0.02:
    scale_up()
elif net_apr < 0.01:
    scale_down()

# 4) ヘッジ再調整(±2%バンド)
rebalance_usdjpy_hedge()

シナリオ別・損益感応度(概念例)

(A)供給6%・借入0%・手数料0.6%・ヘッジ1.2%・リスク1.0% ⇒ Net 3.2%。
(B)供給が4%まで低下 ⇒ Net 1.2%(閾値割れで縮小)。
(C)ヘッジコストが2.0%に上昇 ⇒ Net 2.4%(継続)。
(D)デペッグ0.995発生 ⇒ 裁定は発行体とフローを確認してから、サイズ縮小で試行。

出口戦略と再投資

ネット利回りが恒常的に閾値割れなら撤退し、キャッシュは次の金利クロスまたは低リスクなボラティリティ売り(十分なヘッジ付き)へ移す。複数の裁定ラインを並列で走らせ、常に「一番おいしいもの」に資本を寄せるのが、鈍い相場での勝ち筋です。

まとめ

ステーブルコイン金利×為替ヘッジは、相場観を外しても致命傷になりにくい「基礎収益」を作る実務的な手法です。重要なのは、ネット利回りの正確な見積もり、オペレーションの定型化、閾値による機械的運用。仕組みを理解し、小さく始め、台帳と自動化で磨き込んでください。

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