要旨:本稿は、いわゆる「億ドロ」(高額エアドロップの獲得)を、運任せではなく再現性のある投資プロジェクトとして扱うための実務フレームワークを提示します。単なる「〇〇を触れ」ではなく、予算配分・期待値計算・ウォレット設計・作業スケジュール・撤退基準まで具体化します。
1. 億ドロを「事業」として定義する
目的は 正味期待値(EV)最大化 です。EVは、複数プロジェクト(候補)に対する報酬の期待値の総和から、ガス代・ブリッジ手数料・機会費用を引いたものとして定義します。
EV_total = Σ_i ( p_i × R_i ) − Cost_total
ここで、p_i: 受取確率(ヒューリスティクスで推定)、R_i: 期待トークン価値(配布量×想定価格)、
Cost_total: ガス代・手数料・時間価値(時給換算)を含む総コスト
「事業」として扱う以上、月次の予算上限・時間上限・作業KPI(例:週8時間、1プロジェクトあたり30〜60分、同時並行10本)を先に固定します。
2. 候補プロジェクトの発掘と優先度スコア
具体名に依存しない汎用的なスクリーニング軸を用います。名前が変わっても機能で判定できるのがポイントです。
- 機能カテゴリ:L2/ロールアップ、クロスチェーン・メッセージング、リステーキング、データ可用性、DeFi基盤(DEX/レンディング/デリバティブ)、ウォレット/アカウント抽象化。
- 資金調達とユーザー基盤:開発継続性・TVL推移・日次アクティブ。
- タスクの「シビル耐性」設計:手作業の多様性、ソーシャル/オフチェーン連携、オンチェーン履歴の整合性。
- 明示/示唆:トークン発行の明示、または大規模インセンティブの示唆(未公表でも設計から推測)。
- コスト効率:ガス代の低い時間帯/チェーンで完結するか、ブリッジ回数は最小化できるか。
上記を0〜5点で採点し、合計20点以上を「優先作業」へ。自作のスコアシートを使い、週次で見直します。
3. ウォレット設計:安全性と再現性の両立
基本は3層構造です。
- 保管層(Cold):長期資産。ハードウェアウォレット+マルチシグ。エアドロ作業資金は置かない。
- 作業層(Warm/Hot):作業専用。少額のみ。常時残高を持ちすぎない。
- 清算層(Exit):受取後の売却・換金・税務計上用。作業層と分離。
各層を別アドレスで運用し、承認(approval)の定期解除・スパムNFT無視・フィッシング対策をルーチン化します。
4. 実務フロー(テンプレ)
- 予算配分:月X万円、作業時間は週Y時間。1件あたりガス代上限Z円を設定。
- 初期準備:作業層に基軸資産(例:ETH/L2ETH/USDC)を少額補充。ブリッジは複数に分散。
- タスク実行:DEXスワップ、LP提供、レンディング/借入、メッセージ送受信、NFTミント、アカウント抽象化ウォレットの利用など、多様な行動履歴を残す。
- 行動の深さ:単回で終えず、週数回×数週間に分散して履歴を積む。
- 記録:日付、Txリンク、コスト、所要時間、所感をスプレッドシートに記録(後述テンプレ)。
- リスク制御:許可リセット、残高引上げ、怪しいコントラクトは触らない。
- 受取と清算:配布後は清算層へ移動。想定レンジ内で段階売却し、税務用の原価と取得日を記録。
5. 期待値(EV)の実務計算
各候補の見積り例:
項目 | 値 |
---|---|
配布想定トークン量 | 2,000 |
想定上場価格(円換算) | 150円 |
報酬期待値 R_i | 300,000円 |
受取確率 p_i | 0.35 |
ガス・手数料 | 4,500円 |
時間価値(時給2,500円×0.6h) | 1,500円 |
EV_i = p_i×R_i − コスト | 300,000×0.35 − (4,500+1,500) = 98,500円 |
同様に10件見積もり、合計EVが月次予算の数倍になる構成を優先します。確率と価格は保守的に。
6. シビル(多重アカウント)対策と「自然な履歴」
プロジェクトは不正な大量アカウントを嫌います。自然さを設計しましょう。
- アクションの多様性:同じ操作を機械的に繰り返さない。スワップ銘柄、額、時間をランダム化。
- 時間分散:特定の1日集中ではなく、週跨ぎ・月跨ぎで履歴を積む。
- オフチェーン連携:フォーラム/開発者Discordでの建設的発言、バグ報告、提案投票など。
- ガス費の合理性:極端に少額すぎる取引ばかりは避ける(明らかなポイント掘りに見える)。
- クリーンな承認管理:使わないコントラクトの承認を定期的に解除。
7. ガス代最適化:費用対効果を最大化
コストはEVを直接削ります。以下の順に効果が高いです。
- チェーン選択:同等タスクならガスの安いL2を優先。
- 時間帯調整:混雑時間(米市場オープン前後)を避ける。
- バッチ化:関連タスクは1セッションでまとめるが、「自然さ」を損なわない範囲で。
- ブリッジ最適化:往復回数を最小化。複数チェーン跨ぎを減らす。
8. 記録テンプレート(そのまま使える項目)
- 日付 / チェーン / Dapp名 / タスク内容 / Txリンク
- コスト(ガス・ブリッジ・その他)
- 作業時間(分)
- 受取フラグ(済/未)・受取日
- 想定R_i・p_i・EV_i
- メモ(不具合・学び)
9. 売却・保有・分散のルール化
受取後の値動きは読めません。事前ルールで機械的に対応します。
- 初日:受取額の30%を即時利確(ガス考慮)。
- 残り70%:目標レンジ(例:+50%、+100%)に到達したら段階売却。未達なら30日で再評価。
- 急騰時:トレイリング利確(例:最高値から−15%で自動売却)。
- ロック条件:ベスティングやクレーム期限を必ず記録し、失効リスクをゼロに。
10. 典型的なトラブルと回避策
- 偽サイト:必ず公式リンク集をブックマーク。検索広告は踏まない。
- 承認放置:四半期に一度、承認解除ツールで棚卸し。
- ブリッジ迷子:Txハッシュ・ブロックエクスプローラのリンクを記録。到着確認まで資金を動かさない。
- クレーム忘れ:カレンダーに期限を入れる。通知を二重化。
11. ミニケーススタディ(仮想)
仮想プロジェクトA(L2ロールアップ)で、以下のタスクを4週間に分散して実施:
- Week1:ブリッジ+DEXスワップ(計2Tx)
- Week2:レンディングにデポジット→翌週に一部借入→返済
- Week3:LP提供→手数料獲得を確認→引上げ
- Week4:メッセージングDappで送信テスト、アカウント抽象化ウォレットで署名タスク
総コスト6,000円、R=28万円、p=0.4 ⇒ EV=106,000円。これを同時並行で5案件。
12. 撤退・見直し基準
- 月次の実績EVが3か月連続で予算を下回る→稼働本数を半減し、上位スコアに集中。
- 悪質なルール変更(明示的な大規模シビル判定の後出しなど)→即撤退、記録に残す。
- 資金拘束が長期化→清算層に戻し、次の案件へ回す。
13. すぐ使えるチェックリスト
- 予算上限(円/月)・時間上限(h/週)を設定したか
- 候補を機能軸で採点し、20点以上に集中しているか
- 3層ウォレット運用・承認棚卸しは回っているか
- 行動履歴は週跨ぎ・多様化できているか
- EVシートを週次で更新しているか
- 受取後の売却ルールを事前に書面化したか
14. まとめ
「億ドロ」は神話ではありません。期待値・コスト・安全性・作業設計の4点を数式と手順に落とせば、誰でも再現可能な投資プロジェクトになります。今日からは、噂を追うのではなく、自分のフレームワークで案件を評価し、淡々と積み上げていきましょう。
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