資金調達率曲面の裁定:時間×銘柄で抜く市場中立の設計図

暗号資産

「資金調達率(Funding Rate)」は、パーペチュアル先物の建玉バランスを現物価格に引き戻すための金利メカニズムです。本稿ではこの金利を“時間(t)×銘柄(i)”で面(サーフェス)として捉え、歪みの大きいセルを体系的に取りにいく市場中立の裁定フレームを提示します。最終的な目的は受け取り金利の安定的な積み上げであり、方向性(デルタ)やボラに賭けないことです。

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この戦略で狙う収益源

収益源はシンプルに「正の期待値を持つ資金調達フローの捕捉」です。具体的には、資金調達率がプラスで高止まりする銘柄をショート(支払い側)にしないマイナスが長く続く銘柄をロング(受け取り側)に偏らせる、かつ現物または先物でデルタを中立化します。単一銘柄での裁定に加え、時間と銘柄で“面”を張ることで、単発の偶然ではなく分散された継続的キャリーを狙います。

資金調達率の基礎(速習)

定義

パーペチュアル先物の建玉双方が一定間隔で支払・受取する金利。多くの取引所で8時間ごと、あるいは1時間ごとに確定します。価格が現物より上振れ(先高)ならロングが支払い、下振れ(先安)ならショートが支払うのが一般的です。

年率換算の直感

例えば1時間ごとに+0.005%なら、単純計算で年率約0.00005×24×365≒4.38%(実際は複利・変動)。これが常時受け取れるわけではないため、どの時間・どの銘柄で高い受取期待があるかを面で管理します。

曲面(Surface)の作り方

データ収集

対象は主要CEXのパーペチュアル銘柄(例:BTC、ETH、SOL、XRP…)。取得するのは「時刻、銘柄、資金調達率、次回確定時刻、価格、出来高、OI(建玉)、スプレッド」。最低90日、できれば180日以上。

バケツ(セル)の定義

横軸に時間(例:UTCで1時間刻み、イベント時は15分粒度)、縦軸に銘柄。各セルに「予想資金調達率(直近N観測の平均・加重平均・回帰予測)」を格納します。さらに補助特徴量として「OIの増減」「価格乖離(先物-現物)」「出来高レジーム」を併記。

スコアリング

セルごとにScore = w1×ExpectedFunding - w2×スプレッドコスト - w3×ボラ由来のヘッジ誤差 - w4×上場先のADL/清算リスクを定義。スコア上位セルを優先して資金配分します。

ポートフォリオ構築ロジック

基本形(単銘柄・デルタ中立)

資金調達率がマイナスの銘柄をロングし、同量の現物をショート(または先物ショート)してデルタ中立を作ります。逆にプラスが極端に高い銘柄は、先物ショート+現物ロングで受け取り側に回ります。いずれも名目サイズ×資金調達率×保有時間が金利収益の一次近似です。

クロス銘柄・バスケット

銘柄間で資金調達率の差が開いたとき、受取側(よりマイナス)をロング、支払側(よりプラス)をショートのバスケットを作ります。各銘柄のベータをBTCに対して回帰し、ネットのマーケットベータをゼロに近づけるのがコツです。

時間分散

確定時刻(Funding Timestamp)直前のみの短期回転は競争が激しいため、面で見て平均的に報われる時間帯に薄く広く張るほうが安定します。CPI・FOMCの前後はボラ増でヘッジ誤差が跳ねるため、配分を意図的に落とすレジーム切替が有効です。

執行設計(スリッページ最小化)

資金調達率は“確定時刻に向けて”需給が偏りやすく、板が薄くなる瞬間に成行で叩くとリターンを溶かします。TWAP/VWAP/POVを使い、板気配の厚みに応じて参加率を動的制御。ルーティングは複数CEXと主要DEX(AMM/アグリゲータ)を比較し、手数料+価格改善の合計で最適経路を選びます。

リスク管理(重要)

  • 価格ジャンプ(ギャップ):デルタ中立でもヘッジの遅延で損が出る。最大想定損失(VaR)とスリッページ上限を事前に設定。
  • 資金調達反転:プラス→マイナスなどレジーム転換。資金調達率の移動平均クロスで縮小・クローズを自動化。
  • 借入・現物調達コスト:現物ショート時の調達費や貸株料、先物のベーシスを常時計測。
  • 清算・ADL:低流動性銘柄は避け、証拠金レベルに余裕。所要IM/維持証拠金に対し余力を1.5〜2.0倍確保。
  • 相関崩壊:クロス銘柄でベータヘッジしても、イベントでベータが飛ぶ。非常停止ルールとハードストップを併用。

検証手順(バックテストの青写真)

  1. 過去180日の資金調達率・価格・OI・出来高を収集。
  2. セルごとに期待資金調達率を予測(単純移動平均+出来高で重み付け)。
  3. 上位セルへ資金配分(リスクパリティまたはボラターゲティング)。
  4. デルタヘッジを反映し、手数料・スリッページ借入コストを差し引く。
  5. 日次で再平衡(リバランス)。週次でレジーム判定(イベント前後は縮小)。
  6. 評価:年率化収益、最大ドローダウン、シャープ比、Calmar、Hit比、テール損失。

初心者はまずBTC/ETHの2銘柄×1時間セルで小さく始め、ルールが安定したら銘柄数・セル数を広げると良いでしょう。

ケーススタディ(数値例)

例:資金100万円。BTCの1時間資金調達率が-0.004%、ETHが-0.002%と観測。両方ロング(受取側)に立ち、同額の現物ショートでデルタをゼロ化。1時間あたりの期待受取は名目合計の0.003%(加重)とする。名目が合計2,000,000円なら、期待は約600円/時。手数料とスリッページで200円、ヘッジ誤差で100円を見込むと、純益は約300円/時。日8回で2,400円、月30日で72,000円のオーダー。もちろん実際は変動し、損失日もあるため、日次の損失許容(例:-0.8%)で強制縮小を組み込みます。

運用チェックリスト

  • 対象銘柄のOI・出来高が十分か(板厚・ADLリスク)。
  • スコアの根拠(Funding期待、スプレッド、ヘッジコスト)。
  • 執行パラメータ(TWAP秒間隔、参加率上限、価格逸脱閾値)。
  • リスク上限(IM余力、日次VaR、ストップ水準、イベント縮小ルール)。
  • ログとアラート(Funding反転、OI急変、価格乖離拡大)。

よくある失敗と対策

(1)高金利セルに一点集中:流動性が薄くてヘッジが滑る。—面で分散し、各セルの上限を資金の5%に制限。

(2)イベント時間帯でのフルサイズ:CPIやFOMCはボラ急騰。—前後2時間はサイズ50%に縮小。

(3)現物調達コストの見落とし:貸借料がFundingを相殺。—常時トラッキングし、ネットの金利差が薄い場合は撤退。

(4)相関の過信:ベータヘッジが効かない瞬間は必ず来る。—ハードストップと時間分散で被弾を限定。

簡易Q&A

Q:初心者は何から? A:BTC/ETHの2銘柄で、1時間セルのスコア上位だけに小額で張り、毎日ログを振り返るのが近道です。

Q:どのくらいの頻度で回す? A:日次の再評価+イベント時の臨時縮小。過剰回転はコスト増なので禁物。

Q:どの取引所を使う? A:板厚・手数料・API安定性・清算設計で総合判断。単一所への集中は避け、2〜3所に分散。

まとめ

資金調達率を“点”ではなく“面”として観察すると、単発の当たりから継続的な金利キャリーへと収益構造が変わります。時間と銘柄の分散、ヘッジと執行の規律、イベント時のサイズ制御を徹底すれば、相場の方向に賭けずとも着実な積み上げが可能です。まずは小さく、記録を残し、面の歪みを取りにいきましょう。

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