価格が清算集中帯に突入した直後、板が一瞬スカスカになり、ヒゲで吸い上げ(吸い込み)たあとに急反転——この現象を狙い撃ちするのが「清算ヒートマップ逆張り」です。清算データは先物市場特有の強制決済メカニズムを可視化し、需給バランスが一時的に極端へ振れた瞬間を炙り出します。ここでは、初心者でも実装できる形にまで落とし込み、具体的なルール、サイズ計算、検証・運用手順までを体系化して示します。
戦略の前提:なぜ清算集中は反転を生みやすいのか
先物のレバレッジ取引では、証拠金に対して許容損失を超えると自動で強制決済(清算)が発動します。ロングの清算は成行売り、ショートの清算は成行買いとして板にぶつかります。清算が同じ価格帯に密集していると、短時間に成行の偏りが連鎖し、価格は一気にその帯を突き抜けます。ところが清算が終わると注文フローの片寄りが解消し、流動性の空白(価格の“真空”)に吸い戻されるように反転が起きやすくなります。これが『清算吸い込み→反転』の基本メカニズムです。
使用データ:清算ヒートマップの読み方
清算ヒートマップは、価格帯ごとの潜在的清算規模(想定の清算注文量)や過去実績の清算発生量を色の濃淡で可視化したものです。読み方は次の通りです。
- 高濃度ゾーン(清算クラスター):同一帯に清算が厚く積み上がった価格領域。ここが一番の狙い目です。
- テール帯:クラスター外側の薄い清算帯。反転の質は落ちやすいが、一次反応は起きやすい。
- 実績 vs 潜在:過去の清算発生点(実績)と、現在の建玉に由来する潜在清算帯を区別します。逆張りは潜在が厚く、かつ直近で実績が少ない帯が“初回”で効きやすい傾向。
戦略ルール(コア版)
マーケットと時間軸
- 対象:BTC/USDT または ETH/USDT のパーペチュアル先物(できれば出来高が多い板)。
- 時間軸:実行判断は1分足、利確/撤退判断に5分足の傾向を併用。
- 稼働時間:主要セッション(東京仲値 9:55±5分、ロンドン立会、NYオープン前後)はボラが出やすいが、イベント重複時は回避。
エントリー・トリガー
- 価格接近:清算クラスター上端/下端の±0.1〜0.3%に接近。
- 清算シグナル:1〜3本の1分足で連続清算発生(テープ上の約定が増大し、出来高と瞬間ボラが跳ねる)。
- OIドロップ:同時に建玉(Open Interest)が0.5〜1.5%低下(清算による建玉解消の兆候)。
- 吸い込みヒゲ:クラスターを“貫通”したロウソク足が長いヒゲを残し、直後にスプレッドが縮小。
上記が同時に揃ったら、クラスターを抜けた方向と逆方向に小さく逆張りで入ります(下抜けならロング、上抜けならショート)。
エントリー方法
- 注文種別:スリッページ回避のため、指値(post-only)で“戻り”に差し込み。どうしても入れない時だけ成行で小サイズ。
- 分割:2〜3分割で平均取得。板が薄い場合は1回で終わらせ、約定を追いかけない。
損切り・利確
- 初期ストップ:清算クラスター外側の“最深部”からさらに0.15〜0.25%先。
- 第一利確:直近VWAPまたはクラスター中心点までの50〜70%戻し。
- 第二利確:5分足のミドル(EMA20など)到達で半分。
- 残りはトレーリング:直近スイング高安の内側に追随(価格が伸びる日は意外と伸びる)。
- 時間切れ撤退:エントリー後10〜15分で伸びない場合は同値〜微益で整理。
ポジションサイズ計算:シンプルな安全運用
口座残高を E、1トレードで許容する損失率を r(0.5〜1.0%推奨)、初期ストップ距離(%)を d とします。名目ポジション(レバレッジ後)の目安は
名目 = E × r ÷ d
例:
口座100万円、許容1%、ストップ0.25%なら、名目=1,000,000×0.01÷0.0025=4,000,000円。レバレッジ4倍なら現物相当サイズは100万円でOK。清算帯は突発的に抜け直進もあるため、名目は欲張らず、同時に相関銘柄での多重エントリーを避けます。
具体シナリオ(BTCの下抜け→反転)
状況:清算ヒートマップで 68,500〜68,800 にロング清算クラスター。価格が69,000から出来高を伴い急落、68,720でロング清算が連鎖して長い下ヒゲを形成、次の1分でスプレッド縮小とOI▲0.9%を確認。
- 68,760に指値ロング(1/2)、68,690でもう1/2。
- 初期ストップ:68,520(クラスター最深部68,580のさらに0.1%外)。
- 第一利確:VWAP 68,980(半分利確)。
- 第二利確:5分EMA20=69,120でさらに半分。
- 残りは直近安値の内側にトレーリング。時間切れなら同値付近で撤退。
このように、清算→吸い込み→反転初動に対して“戻り”で拾うのがキモです。突き抜けて止まらない日は早めに損切り。長居は禁物。
フィルター設計:負けやすい日を避ける
- トレンドの強い日:日足で大陽線/大陰線が連続、1時間足で連続N波動のときは逆張りを封印。
- イベント直撃:CPI・FOMCの指標数分前〜発表後30分はノータッチ。
- 週末深夜・薄商い:板が極端に薄いと清算後に戻らず、だらだら伸びやすい。
- 清算が散らばるケース:クラスターが複数に分散していると反転の質が低下。
執行の実務:スリッページとコストを抑える
- 指値はスプレッド中心から1〜3ティック内側に置き、約定を追いかけすぎない。
- 成行は“約定急ぐ局面”に限定しサイズを小さく。手数料とスリッページの合算コストを常に意識。
- 手数料ディスカウントとリベート設計は純益率に直結。可能な範囲で最適化。
検証(バックテスト)設計の要点
清算ヒートマップの“潜在”部分は履歴化が難しいため、次善策として以下の近似で検証可能です。
- 過去の実績清算データ(1分解像度)を取得し、清算集中直後の反転幅を計測。
- OIドロップと出来高スパイク(上位k%)の同時発生をトリガー化。
- エントリーは“次の足の戻り”に指値を仮置き、ストップ/利確は本戦略の規則通り。
- 手数料・スリッページは保守的に(片道0.02〜0.05%、成行増なら0.08%)で控除。
期待値がプラスでも、連敗が必ず発生します。最大ドローダウン(MaxDD)が口座の10%を超えないよう、同時エントリー数や1トレードのリスク率を調整してください。
リスク管理:ボラターゲティングと時間リスク
- ボラターゲティング:1分足ATR(n=14)でストップ距離を動的調整。ATRが平常の2倍以上ならサイズを半減。
- 時間リスク:“短時間勝負”が前提。ポジション保有が長くなると想定外ニュースの被弾確率が上がる。
- 相関リスク:BTCとETHを同時に同方向で持たない。どちらかに限定。
上級拡張:デルタニュートラル併用
反転の“厚み”が読みにくい日は、先物で逆張り、スポットで部分ヘッジを入れ、デルタを弱めておく手もあります。反転が起きたら先物だけで利確し、スポットは薄利/同値で処理。純粋な逆張りに比べ利益は薄くなりますが、失敗時の損失カーブを緩和できます。
チェックリスト(実行前)
- 清算クラスターは“ひと山”に集中しているか。
- 接近→清算連鎖→OIドロップ→吸い込みヒゲの順に発生したか。
- イベント30分前後を避けているか。
- ストップ位置は最深部のさらに外側か。
- 名目サイズはルール通りか(
名目=E×r÷d)。 - 第一/第二利確と時間切れ撤退の水準を事前に決めたか。
よくある失敗と回避策
- 反転待ちの“掴み”:清算帯へ“向かう途中”で先走って入ると焼かれやすい。必ず吸い込みヒゲを待つ。
- 過剰サイズ:勝率の波で連敗が続く。リスク率は0.5%を標準に。
- 時間切れ放置:戻らない日は戻らない。時間ルールで損小に徹する。
運用ロードマップ
- まずはデモ/超小額で10連敗に耐えられる設定を探る。
- 1日の試行回数を2〜3回に制限、良いセットアップのみ実行。
- 週次でトレードログを見直し、清算帯の“質”(厚さ、初回/再訪、時間帯)を評価。
まとめ
清算ヒートマップ逆張りは、「行き過ぎた強制決済の反動」に着目した短期戦略です。ポイントは、清算→OIドロップ→吸い込みヒゲ→戻り指値の順序と、ストップ/時間ルールの徹底。勝てる日の値幅を取り、勝てない日は損小で離脱する。これを機械的に繰り返すことで、初心者でも再現性のある“狙いどころ”を得られます。


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