Arthur Hayes氏が2025年8月26日に公開した論考「Buffalo Bill」、投資家目線での示唆を整理します。原文はCrypto Trader Digest(Substack)およびMediumで公開されています。かなりのボリュームなので分かりやすく噛み砕きます。
要点
- 米財務長官スコット・ベッセントは、ドル連動ステーブルコインをテコに、ユーロダラー(オフショア米ドル)やグローバルサウスの資金を米国短期国債(T-Bill)へ吸い上げ、フロントエンド金利の主導権を強められるとHayes氏は主張します。
- Meta(WhatsApp)など米テックのソーシャル・ウォレット展開が、各国の資本規制を事実上バイパスし、ドル口座の代替として普及するシナリオを提示します。
- この「ステーブルコイン=T-Bill吸収装置」仮説は、DeFi・ステーブルコイン・周辺インフラの長期成長ドライバーになり得る一方、規制・地政学・運用リスクが主要な不確実性です。
背景:ユーロダラーと外貨準備のシフト
Hayes氏は、推計10〜13兆ドル規模のユーロダラーが非米系銀行で運用され、その使途や規模が不透明である点を問題視します。また、2008年以降の量的緩和を契機に、各国中銀が外貨準備を金へシフトしてきた長期トレンドにも触れ、「米国債より金が優位だった局面」が続いたと指摘します。
枠組み:『受容可能なステーブルコイン』=ナローバンク
米国が支援・容認するドル連動ステーブルコインは、受け入れた資金を短期国債(T-Bill)で運用し、名目ドル建てでは実質的に信用リスク極小の口座に近い形になるという整理です。これにより、ユーロダラーや新興国の預金がステーブルコインを経由してT-Billに流入し、短期国債の価格非感応的な買い手が創出されると論じます。
帰結:フロントエンド金利の主導権とFRBの相対的形骸化
ステーブルコイン発行体は利回り確保のためT-Billを機械的に購入するため、財務省が提示する利回りに追随せざるを得ません。結果として、財務省が短期金利の主導権を強める一方、FRBの政策金利操作は相対的に影響力が弱まる——という挑発的な見立てが示されます。
グローバルサウス:ソーシャル・ウォレットが「ドル口座」化
WhatsApp等の大規模SNSに暗号資産ウォレットが標準実装され、USDTなど承認トークンを送受信可能になれば、各国の資本規制や外貨口座制限を事実上バイパスし、個人が低コストでドル建て利回りにアクセスできるようになります。これにより、現地通貨のマネタリーベース管理が困難となる国が増え、米国は対外制裁・関税・規制を交渉カードとして活用しやすくなる——という筋立てです。
政策シグナル:今後出てきそうな見出し(Hayes氏の観測)
- オフショアUSD市場(ユーロダラー)への監督強化論
- 米国のドル・スワップライン提供とデジタル市場開放(対テック企業)の連動
- ステーブルコイン準備資産の米国内銀行口座・T-Bill保有の規制化
- ステーブルコイン発行体の米株式市場上場の奨励
- 大手SNSの暗号資産ウォレット標準搭載
- 政権要人によるステーブルコイン活用のポジティブ発言
投資家への示唆(中立)
機会:ステーブルコインの時価総額拡大は、①短期国債需要(フロントエンド)増加、②オンチェーン決済の普及、③ステーブルコイン運用・清算・オン/オフランプ等の周辺インフラ需要の増大、につながる可能性があります。DeFiプロトコルや清算基盤、オンチェーンT-Bill型商品、ソーシャル・ウォレット連携などのエコシステム領域は、構造的追い風になり得ます。
留意点:①テザー等の準備資産・開示リスク、②各国でのMiCA類似の厳格規制、③ソーシャル・ウォレット導入に対する個人情報・制裁順守の懸念、④関税・外交カードの波及による地政学ボラティリティ、⑤FRB・財務省・議会・司法の権限配分(法的枠組み)など、多面的な不確実性が残ります。個別トークン(例:ENA, ETHFI, HYPE)については、著者の利害関係(ポジショントーク)を明記している点も織り込みが必要です。
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