ビットコインのハルビング(採掘報酬半減期)は、供給ショックが時間分散で市場に織り込まれ、価格トレンド・ボラティリティ・先物ベーシス・パーペチュアルの資金調達率(Funding)に系統的な歪みを作ります。本稿では、「トレンドは読めなくても、ゆがみは拾える」という前提で、現物・先物・オプション・パーペチュアルを重ねる実務的な稼ぎ方を、初学者でも再現できる手順に落とし込みます。
全体設計:3レイヤーで“取りこぼさない”
ハルビングの前後12〜18か月は、(1) ボラ(IVと実現ボラ)のギャップ、(2) 期先プレミアム(先物ベーシス)、(3) Fundingの偏りが織り込みと反動で波打ちます。以下の3レイヤーで重ね取りするのが、裁量に依存しない現実解です。
- ベーシス・キャリー:現物ロング+先物ショートで年率化キャリーを回収(コンタンゴ優位)。
- Funding・キャリー:パーペチュアルのFunding逆張り・分散捕捉(ロング優位期はヘッジ付きショート)。
- ボラ・トレード:IV≒恐怖/期待の過剰反応を、ストラドル/ストラングルの売買で捕捉。
資金配分と口座設計
小さく始める場合でも、口座は最低2つに分けます。
- スポット&先物口座:ベーシス用(同一取引所 or クロス所間)。
- デリバティブ口座:パーペチュアルとオプション用(証拠金通貨はUSDT/USDCが管理しやすい)。
初期例:総額100万円なら、40% ベーシス
/ 30% Funding
/ 20% ボラ
/ 10% 余力
。含み損耐性のため、各レイヤーで証拠金余裕率は最低150%(証拠金維持率≧2.5倍)を確保。
レイヤー1:先物ベーシスの取り方(現物ロング+期先ショート)
狙い:コンタンゴで先物がプレミアム(先高)なら、現物を買って先物を売ると期日までにプレミアムが剥げ、理論上は無方向で利回りが確定します。
基本式
年率化ベーシス利回り(単利目安):
APR ≒ (F - S) / S × (365 / 残日数)
ここで F
=期先先物価格、S
=現物価格。
数値例
例:現物7,000,000円、3か月先物7,140,000円(残日数90日)。
APR ≒ (7,140,000 – 7,000,000)/7,000,000 × (365/90) ≒ 0.02 × 4.06 ≒ 約8.1%。
実行フロー
- 同額デルタで、現物ロングと先物ショートを同時執行(スプレッド注文/手動同時)。乖離が大きい時間帯(週明け/ロール直後)を狙う。
- 資金繰り:現物側は現物口座、先物側は証拠金口座。手数料と資金調達コストを引いたネットを常に記録。
- クローズ:満期前ロール or 満期受渡しでクローズ。ロール時は新期先のベーシスを再評価。
リスク管理
- 先物ショート側の証拠金変動(逆行時の追証)。余力10〜20%で都度追加。
- 現物貸借(レンディング/APY)と重ねると、取引所信用リスクが上がる点に注意(分散配置)。
レイヤー2:Fundingキャリーの取り方(パーペチュアル)
ハルビング周辺は強気センチメントが先行しやすく、ロング優位のFunding(Funding > 0
)が続きがちです。現物ヘッジを前提に、Fundingの支払い側に極力回らず、受け取り側に回り続ける設計を取ります。
基本式
年率化Funding(8時間1回の場合の概算):
APR ≒ Funding率(1回) × 3回/日 × 365
配置パターン
- 強気相場:現物ロング+パーペチュアルショート(デルタ中立)。ロング溢れのFundingを受け取り。
- 弱気/揉み:Fundingがマイナス優位に傾く場合、逆にパーペチュアルロング+先物ショート or 現物ショート(借株/代替手段)で受け取り側へ。
数値例
1回0.010%のFundingが続くと仮定。APR ≒ 0.0001 × 3 × 365 ≒ 10.95%。実務では変動が激しいため、銘柄分散(BTC/ETH/主要アルト)と時刻分散で平均を取りにいきます。
レイヤー3:ボラ(IV)を売る/買う
ハルビング前後はイベントIVが上振れし、通過後に剥落しやすい一方、実現ボラが残る局面もあります。“IVの位置”と“実現ボラの推移”を見て、売りと買いを使い分けます。
売り(IV高)
- ショート・ストラドル/ストラングル:IVが高止まり、かつ実現ボラが収縮基調。デルタを小まめに先物で調整。
- クレジット・スプレッド:遠い翼を買ってテールリスクを限定。
買い(IV低/イベント前)
- ロング・ストラドル:イベントを跨ぐ方向性不明の局面でガンマを取りにいく。
- カレンダー:近月売り×遠月買いでIV構造を捕捉。
数値イメージ
例:IVが年率70%、実現ボラが年率40%へ低下傾向。ATMショート・ストラドルの日次θ(概算)は保険料の1〜1.5%/日。デルタ調整の手数料と滑りを見込んでも、数日〜数週で優位が出やすい。
3レイヤーの“重ね方”テンプレ
(1) ベーシス:現物 1BTC ロング / 3M 先物 1BTC ショート(APR 6〜12%を目安) (2) Funding:上記に重ねて、同銘柄Perp 0.5BTC ショート(ロング過多期のFunding受取) (3) ボラ:IVが極端に高いときのみ、ATM±5%のショート・ストラングルを小ロットで追加
この構成だと、価格が急騰しても下落しても、①ベーシス剥落+②Funding受取がベース収益、③オプションはIV低下局面の上乗せ要因という役割分担になります。
エクセル/電卓での再現手順
- ベーシス:
=((先物-現物)/現物)*(365/残日数)
- Funding年率:
=資金調達率(1回)*3*365
(8時間サイクルの場合) - IV位置:IV(ATM)と20日実現ボラ(標準偏差×√年換算)を並べ、
=IV-実現ボラ
をモニター。
シナリオ別の動かし方(数値シミュレーション)
ケースA:強気トレンド継続
前提:3か月で現物+20%、先物ベーシス年率8%、Funding年率10%。
結果:ベーシス+2.0%(3か月換算)、Funding+2.5%(3か月換算)。価格方向のP/Lはヘッジで中立。
ケースB:急落→揉み
前提:価格-25%、IV上振れ→低下、Fundingは一時マイナス。
対応:ベーシスは維持(証拠金追加で耐える)。Fundingはロングに回して受け取り側へ。IV高止まり中はクレジット・スプレッド中心。
ケースC:イベント後ボラ低下
前提:IV70%→45%へ数週間で低下。
対応:ショート・ストラングルを徐々に利確。再上振れまで縮小。
実務の9つの注意点
- デルタのズレ:建玉と価格基準のミスマッチに注意(指数価格 vs マーク価格)。
- ロールタイミング:先物の限月移行は流動性が移る直前/直後が妙味。
- Fundingの時刻分散:3回/日の時刻は取引所で異なる。分散で平均化。
- 手数料と滑り:スプレッドが広い時間帯は待つ。成行多用は×。
- 証拠金通貨:同一通貨で揃えると損益の見通しが立つ。
- テールリスク:オプション売りは翼買いでリスク限定。
- 取引所リスク:ベーシスとFundingは取引所分散が基本。
- 税務:実現/未実現の計上基準に沿って日次で記録。
- 自動化:日次でベーシスとFundingのスナップショットを記録(CSV)。
日次チェックリスト(コピペ用)
[ ] 主要銘柄のベーシス(近月/期先)と年率換算 [ ] 資金調達率(8時間×3)と銘柄分散の状態 [ ] IV(ATM)と20D実現ボラ、IV-実現ボラの差 [ ] 証拠金余裕率(≧150%) [ ] 取引所別の手数料・スプレッド・建玉制限 [ ] ロール予定(週次)
よくある失敗と回避策
- “両建てなのに強制ロスカット”:先物ショート側の証拠金が不足しやすい。現物側の含み益は先物口座に反映されないため、余力を別途確保。
- “Funding狙いがいつの間にか方向ギャンブルに”:必ず現物/先物でデルタを落とし、損益の源泉がFunding/ベーシス/IVにある状態を維持。
- “IV売りの踏み上げ”:翼買い(デビット少額)をケチらない。損切りルールを価格ではなくIVで定義する。
ミニ実装(擬似コード)
# ベーシス監視 basis_apr = ((futures - spot) / spot) * (365 / days_to_expiry) if basis_apr >= 0.06: # しきい値超えで実行 size = capital * 0.4 / spot open_spot_long(size) open_futures_short(size, expiry="3M") # Funding監視(8h) funding_apr = funding_rate * 3 * 365 if funding_apr >= 0.08: size = capital * 0.3 / spot * 0.5 open_perp_short(size) # ロング過多期の受け取り # ボラ(IV - Realized) if iv_atm - realized_vol >= 0.20: sell_strangle(spot*0.95, spot*1.05, size=small, with_wings=True)
まとめ:ハルビングは“方向”ではなく“歪み”で取る
方向を当て続けるのは不可能でも、ベーシス+Funding+IVの3レイヤーは、ハルビングが作る需給の歪みを複数のバケツで掬い取る設計です。小ロット・分散・証拠金余力を徹底すれば、裁量の当たり外れに依存しない収益カーブを目指せます。
コメント