固定金利 vs 変動金利カーブトレード:DeFiで利回り差を収益化する実践ガイド

暗号資産

本稿では、分散型金融(DeFi)で扱われる「固定金利」と「変動金利」のカーブ(期限構造)をテーマに、利回り差(ベーシス)を着実に収益化する手順を、投資初心者でも運用できる水準まで具体化して解説します。単なる用語集ではなく、執行フロー・サイズ設計・リスクの優先順位付け・検証の枠組みまで一貫して提示します。

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なぜ「金利カーブ」なのか

DeFiの金利は、貸付需要と担保の需給、プール利用率(Utilization)やリザーブファクター、プロトコル設計(kinkや二段階スロープ)などで決まります。変動金利は市況に合わせて刻々と動き、固定金利は期限と需要で価格が形成されます。この二つの価格体系は必ずしも一致せず、「固定 − 期待変動」の乖離が発生します。ここにキャリー(保有で獲得する利回り)とロール(期限移動時の価格調整)という二つの収益源が生まれます。

伝統金融の金利カーブと同様に、DeFiでも短期は変動に敏感、長期は需給とプレミアムが効きやすい傾向があります。従って、金利の水準だけでなく、期限方向(期近〜期先)の形状変化を読むことで、方向性のないマーケットでも安定した利回り差を取りに行けます。

固定金利と変動金利の基本構造

変動金利(Floating)

貸付プールの利用率が上昇すると金利が上がり、低下すると下がる仕組みです。担保の需給やレバレッジ需要に敏感で、イベント(CPI、FOMC、相場急変)でも揺れやすいのが特徴です。

固定金利(Fixed)

将来の利回りを事前にロックする契約です。裏側では年限ごとの「割引債」や「利回りトークン(元本トークンPT/利回りトークンYT)」として分解され、満期まで保有すれば表面利回りが確定します。固定金利は需給に応じて市場で売買され、価格が動きます。

収益の分解:ベーシス、キャリー、ロール

固定と変動の戦略は、主に以下の三つの要素に分解できます。

  1. ベーシス(固定 − 期待変動):固定金利が高く、将来の平均変動金利がそれを下回ると見込むなら、固定を受け(固定で貸す)ことで利回り差を確保できます。逆も同様です。
  2. キャリー:保有中に自然発生する利回り。固定の「表面利回り」、変動の「日々の金利」が該当します。
  3. ロール:期近→期先へポジションを乗せ替えるときの価格調整。カーブがスティープ(長期ほど高利回り)なら、ロールで追加収益を得られます。

代表的な商品構造と用語整理

元本トークン(PT)と利回りトークン(YT)

原資産(例えばステーブルコインの預け入れ)を「元本」と「利回り」に分解して取引する方式です。PTは満期に額面で償還され、YTは満期までの利回りを受け取ります。PT割引率=市場の固定金利を反映し、YT価格=将来の変動金利期待に敏感です。

固定金利ボンド型

満期まで保有すると表面利回りが確定する一方、中途売却では価格変動リスクが生じます。長期のボラティリティ(価格感応度)に注意が必要です。

貸付プール(変動)

担保を預け、資産を貸し出す一般的なモデルです。利用率、担保係数、清算閾値、リザーブファクターなどのパラメータが金利に影響します。

実践①:変動→固定のロック(上昇局面のヘッジ)

金利が上がりやすい環境(相場のレバレッジ需要増、イベント前後)では、固定金利の受けを作り、変動金利の上振れによる不確実性を遮断します。手順は次のとおりです。

  1. 対象資産(例:USDC)を保有し、固定金利マーケットでPTを割引価格で購入または固定貸付を設定。
  2. 同時に、変動金利側でのエクスポージャを持つ場合はサイズを相殺し、金利の方向性リスクを抑えます。
  3. 満期まで保有できるキャッシュフローを確保(流動性のため中途売却も想定)。

この戦略のキモは、「固定が割高」な局面の見極めです。短期的に変動が加熱していても、長期期待が低ければ固定のプレミアムが膨らみます。

実践②:固定→変動のロール(低下局面のキャリー取り)

金利が低下基調と読む場合、固定を払い、変動を受ける形にします。具体的には、保有中のPTを売却してキャピタルゲインを確定しつつ、変動プールへ乗り換えて日々の金利を取りに行きます。さらに、期近→期先のロールでカーブの形状変化から追加収益を狙えます。

実践③:カレンダー/ダイアゴナル(年限を跨ぐスプレッド)

満期の異なる固定金利を組み合わせて、期先−期近の利回り差をヘッジ付きで捕捉します。例えば、期近の固定を受けつつ、期先の固定を払い、スティープ化局面のロール収益を狙います。変動側はサイズを小さめにして、ガンマ(短期変動)を吸収します。

市場データの読み方:金利カーブの実務指標

プール利用率(U)とkink

Uがkinkを超えると金利が急峻に上がる設計が一般的です。kink付近の滞在時間が長い市場は、短期の変動が荒く、固定のプレミアムが付きやすくなります。

リザーブファクター/スプレッド

プロトコルの取り分やスプレッドが大きいほど、投資家の実効利回りは低下します。「ネット金利」で比較するのが必須です。

変動金利のボラティリティ

変動の分散が大きいほど、固定に対する保険価値が上がります。イベント日(CPI・FOMC)前後のサンプルを見ると差が出やすいです。

数値例:固定5.8% vs 期待変動4.2% のケース

想定を置いて計算します。元本10,000 USDC、満期180日、固定年率5.8%、期待変動年率4.2%(標準偏差年率3%)。

  • 固定の表面利回り:10,000 × 0.058 × (180/365) ≈ 286 USDC
  • 変動の期待利回り:10,000 × 0.042 × (180/365) ≈ 207 USDC
  • ベーシス期待:≈ 79 USDC(費用・スリッページ・ガス後で評価)

さらに、期近→期先にロールしてカーブが0.4%スティープ化すると、PT価格に上昇圧力がかかり追加のキャピタルゲインが発生します。逆にフラット化・逆イールドではロール損が出るため、イベント前のサイズ調整が重要です。

執行フロー:ミスを減らす順序設計

  1. 投資方針:期間・期待シナリオ(上昇/低下/横ばい)・最大ドローダウン許容を先に定義。
  2. 資産選定:ステーブル中心(USDC等)から始め、徐々に他資産へ。デペグ履歴とカストディを確認。
  3. コスト見積り:ネット金利=表面金利 − (手数料+スリッページ+ガス)。ネットでプラスになるサイズかを先に計算。
  4. エントリー:カーブの形状を確認し、固定と変動の組み合わせを構築。
  5. モニタリング:利用率、イベントカレンダー、カーブ変化、流動性の枯渇兆候。
  6. ロール/利確・損切り:ロール条件(例:期近残存≦30日で機械的に、またはスプレッドが閾値超過)をルール化。

サイズ設計:ケリー基準×ボラターゲティング

固定−変動のベーシスをストラテジーのリターン、その日次分散をリスクとして、ケリーの一部適用(1/4〜1/2ケリー)とボラ目標(例:年率2〜4%)でポジションサイズを決めます。大小の相場イベントでは目標ボラを下げ、サイズを先に切る運用が有効です。

リスク管理:優先順位の付け方

スマートコントラクト/監査

監査済みでもゼロリスクではありません。実運用では、複数プロトコルへの分散と、預け入れ比率の上限(例:総資産の20%)をルール化します。

流動性とスリッページ

PT/YTや固定ボンドは板が薄いことがあります。TWAPや分割約定で価格インパクトを抑え、ロール期日は早めに設計します。

デペグとカストディ

ステーブルのペグ外れは稀でも致命的です。自己保管とカストディを併用し、発行体リスク・償還条件を把握します。

清算と担保

変動側にレバレッジをかけると清算連鎖の影響を受けます。デルタを中立にする設計を優先し、レバレッジは必要最小限にします。

検証:バックテストと前向き検証

履歴の固定カーブと変動時系列(利用率や日次金利)から、ベーシスの時系列を作成し、条件(ロール閾値、期近残存日数、ボラ目標)でルールベースに検証します。前向き検証では、紙トレで1〜2か月追い、オペレーションの癖を事前に洗い出します。

税務上の着眼点(概説)

固定金利の割引償還益、変動金利の受取、PT/YTの売買差益など、タイミングと所得区分で課税が異なる可能性があります。期末の含み益処理や損出しの可否、為替評価も合わせて、事前に整理してください。個別の税務判断は専門家への相談を推奨します。

ケーススタディ:運用テンプレート

ケースA:カーブ急スティープ化を想定

シナリオ:レバレッジ需要増とイベント前で、短期変動が上振れ、長期プレミアムが拡大。アクション:期先固定を払い、期近固定を受けるカレンダースプレッド。ロール時にプレミアム縮小で利確。

ケースB:デペグ・リスクのヘッジを優先

ステーブルを分散(例:複数発行体)し、固定の満期分散(90/180/360日)を組む。1銘柄の上限を総資産の10%に制限。ロールは残存30日ルール。

自動化の基礎:執行・モニタリング

APIまたは自動化ツールで、利用率・固定金利・PT割引率・取引板の深さを定期取得し、閾値でアラート→執行。TWAP、VWAP、POVのいずれかを用いて、流動性の薄い時間帯を避けます。決め打ちではなく、板に合わせて歩み値を調整するのが要点です。

失敗しやすいポイントと回避策

  • 固定の割高・割安を表面金利だけで判断する:ボラとロールを加味してネットで比較。
  • ロール期日の遅延:流動性が薄くなる前に機械的に回す。
  • サイズの過大化:ボラ目標を先に決め、イベント前に自動縮小。
  • 手数料・ガス軽視:小口はネットでマイナスになりやすい。閾値サイズを設定。

チェックリスト(運用前)

(1)対象資産の信用・ペグ、(2)プロトコルのセキュリティと分散、(3)固定・変動の履歴時系列、(4)スリッページと板厚、(5)ロール条件、(6)税務の整理、(7)緊急時のアンワインド手順――これらをドキュメント化してからエントリーします。

まとめ:小さく始め、規律で積み上げる

固定と変動の金利カーブは、価格変動の方向性に依存せずベーシスを積み上げる余地を提供します。鍵は、ネット利回りで比較し、ロールを規律化し、サイズをボラ目標で制御することです。小さく始め、ログを取り、勝ちパターンをテンプレート化してください。

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