固定金利 vs 変動金利カーブトレード完全ガイド:DeFiで金利差を収益化する設計図

暗号資産

本稿は、固定金利と変動金利の「歪み」を使って収益を狙うカーブトレードの実務ガイドです。DeFiの固定金利(例:満期付き割引債のようなトークン)と、レンディング等で決まる変動金利を組み合わせ、キャリー(保有収益)ロールダウン(満期接近に伴う価格上昇)を同時に取る設計を、初心者でも運用できる粒度まで分解します。

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1. なぜ「固定 vs 変動」なのか:収益源の分解

このトレードの収益源は大きく3つに分解できます。

  1. キャリー:固定金利でロックした利回り − 変動金利で支払うコスト(借入や機会コスト)。
  2. ロールダウン:満期付きトークン価格の時間価値の減衰に伴う上昇(割引債の価格が満期に向けて額面へ近づくイメージ)。
  3. ベーシス収縮:固定/変動のスプレッド縮小から得られる評価益。

一方の主なリスクは、金利の再上昇(固定 < 変動が拡大)、原資産の価格変動、スマートコントラクト/カストディ/デペグ、流動性、清算、スリッページ・手数料です。以下で順に潰します。

2. 仕組みの基礎:固定金利トークンと変動金利の関係

2-1. 固定金利トークンの直感

満期 T、表面利回り r の固定金利トークンは、概ね割引債のように価格 P ≈ 額面 × 1/(1+r×τ)(単利近似、τは年換算残存期間)で評価されます。τ が小さくなるほど P は額面に近づき、ロールダウン益が期待できます。

2-2. 変動金利の直感

変動金利は需要・供給で短期的に上下します。借入を使う場合は支払金利の上振れが P&L を圧迫します。逆に、変動で貸す側に回る構造なら受取金利の低下が逆風です。

2-3. スプレッド(ベーシス)の見方

スプレッド = 固定想定利回り − 変動想定利回り。プラスなら固定を買って変動をショート(または抑制)する構造が有利、マイナスなら逆です。

3. 代表的なポジション構成(初心者向け)

3-1. 「固定ロング × 変動ショート」

  • 固定金利トークンを購入(満期まで保有)。
  • 同額の資金で変動金利の支払側ポジションを構築(例:ステーブル借入、もしくは変動受取を減らす形でオフセット)。

狙い:固定 > 変動 のスプレッドとロールダウンを取りに行く。

3-2. 「変動ロング × 固定ショート」

  • 変動金利の受取側(レンディングで貸付など)を構築。
  • 固定金利トークンをショート(可能な市場があれば)または同等の経済効果を持つヘッジを組む。

狙い:変動 > 固定 の局面でキャリーを取りに行く(ただし満期接近のロールダウンは逆風)。

4. 具体例(数値シミュレーション)

前提(仮定):残存 90 日、額面 100 の固定金利トークン。市場は単利近似で rfix=12%/年。変動金利 rflt=8%/年。手数料・スリッページ合計で元本の0.40%負担。

  1. 初期価格 P0 ≈ 100 / (1 + 0.12 × 90/365) ≈ 97.08
  2. キャリー(90日保有) ≈ (0.12 − 0.08) × 90/365 × 100 = 0.986
  3. ロールダウン:90日→0日に向け P は 97.08→100 に収れん、差分 ≈ 2.92
  4. 総粗利 ≈ 0.986 + 2.92 = 3.906(%換算で約3.906%/90日)
  5. コスト控除後:3.906 − 0.40 = 3.506%
  6. 年率換算(単純):3.506% × (365/90) ≈ 14.2%

注意:実際は金利変動・手数料変動・価格インパクト・清算バッファ等を考慮し、これより収益はぶれます。だがロジックは明快です。

5. 実装手順(チェックリスト形式)

  1. 対象チェーンと原資産の選定:ステーブル(USDC/USDT/DAI 等)や LST(stETH 等)。価格変動とデペグの有無を把握。
  2. 固定金利市場の確認:満期、想定利回り、出来高、深さ、建玉。購入時のスリッページ試算。
  3. 変動金利面の設計:借入/貸付どちら側に立つか。必要担保率、清算閾値、金利モデル。
  4. ヘッジ方法:原資産価格の影響を受ける場合、先物でデルタを中立化(LP+先物ヘッジの要領)。
  5. サイズと余力:清算バッファ(例:想定ボラ×2σ相当)と手数料予算(建玉×往復コスト)を先に確保。
  6. エグゼ:TWAP/VWAPで分割。流動性が薄い場合はアグリゲータでルート最適化。
  7. モニタリング:固定/変動スプレッド、残存、担保率、金利モデル更新、先物ベーシス、ガス代。
  8. リバランス:スプレッドが閾値を下回ったら利確、逆に拡大なら追撃/撤退ルールを事前定義。

6. P&L分解と感応度(IR01/PVBPの考え方)

固定金利トークンは「利回り上昇 ⇒ 価格下落」の関係。IR01(金利1bp変化の評価損益)をざっくりでも把握すると、サイズ調整が合理化します。ロールダウンは自然に積み上がる一方、金利ショックは即時P&Lに乗ります。

7. シナリオ別プレイブック

7-1. 変動金利が急騰

  • 固定ロング × 変動ショート構造では逆風。ヘッジとして先物ベーシスを取り、借入サイズを縮小。
  • 手当:利回り閾値を超えたら部分クローズ、ロールダウン益の残価値を評価。

7-2. 変動金利が低下

  • キャリーが拡大し追い風。固定の追加ロングは満期と深さを見て分割。

7-3. 固定カーブが急上昇

  • 価格下落。満期分散、残存短いロットへのロール、またはショート保険(プット相当)を薄く。

8. 原資産と金利の二面リスクを分離する

ステーブル基盤にすれば価格ボラは抑制。LST系なら先物でデルタフラット化。「金利の見通し」だけにベットする設計が原則です。

9. コスト最小化(地味だが効く)

  • ルーティング最適化:DEXアグリゲータで価格改善。見かけの0.05%差でも年率で大差。
  • 手数料の二重取り回避:CEX/DEXの往復・ブリッジ・ラップ/アンラップの重複を洗い出す。
  • TWAP/VWAP/POV:板厚とボラに応じて最適化。
  • 担保最適化:ポートフォリオ証拠金で相関・ヘアカットの効率化。

10. 失敗パターン集(実例からの学び)

  • 満期の取り違え:ロールダウンを取りに行くつもりが、残存が長すぎて価格が動かない。
  • 清算バッファ不足:変動金利ショックで担保が急減。最初に厚めに取る。
  • 流動性錯覚:表示の深さは実約定と乖離。小分け・時間分散で実需を測る。
  • ヘッジ怠慢:LSTデペグや先物ベーシスの広がりを放置。

11. 取引ルール(テンプレート)

  1. 対象:USDC/USDT/DAI または stETH 等。
  2. エントリー条件:スプレッド S = r_fix − r_flt が +300bp 以上、残存 30〜120日。
  3. サイズ:1トレードで資金の10%以内、ポートフォリオ最大30%。
  4. 損切り:S が 0bp 付近まで縮小したら半分利確、マイナス転換で原則全て解消。
  5. 利確:ロールダウン残価値が 1% 未満、または S が +100bp 未満に縮小。
  6. 点検:毎日 金利、担保、ヘッジ、手数料、残存。

12. 税務・損益計測の実務メモ

原資産のスワップ、利息、割引債的な評価差額など、仕訳が混在します。台帳は取引IDベースで時系列に区分、損益通算・損出しの余地を検討。円建て評価とドル建て評価の両系統で記録しておくとブレが減ります。

13. 実務フロー(例)

  1. ステーブルに統一 → ブリッジ → 固定金利市場で残存60日のロットをTWAPで買付。
  2. 同額の変動金利コストを最小化する構造を用意(借入枠の複線化、金利モデルの異なる複数市場を分散)。
  3. 必要なら先物でデルタ中立。
  4. ダッシュボードで S、残存、担保、ヘッジ誤差を日次監視。閾値到達で自動部分利確。

14. よくある質問(FAQ)

Q1. どの満期を選べば良い?

初心者は 30〜120 日で十分。残存が短いほどロールダウンは取りやすいが、流動性が先細りやすい点に注意。

Q2. どの原資産が無難?

最初はステーブル。LST系はヘッジ設計に慣れてから。

Q3. スプレッド閾値は固定?

市場ごとに異なる。過去分布(四分位)から自分の基準をチューニング。

15. まとめ:小さく始め、手数料を削り、規律で積む

この戦略は派手さはありませんが、「時間が味方」になる設計です。ロールダウンとキャリーを淡々と積み上げ、スプレッドが縮むときに利確する。サイズ・コスト・ヘッジ・台帳、この4点の規律が利益の大半を決めます。

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