オーダーブック vs AMMで変わる実効コスト:DEXで勝つ発注戦略と数式で読むスリッページ/MEV

暗号資産

同じ「成行で買う」でも、CEX(オーダーブック)DEX(AMM)では実際に支払う総コストがまったく違います。見えるコスト(手数料・スプレッド)に加え、見えにくいコスト(価格インパクト、MEV、ガス、失効・再送など)まで含めて最終的な約定コストを最小化できるかが、短期トレードの勝敗を分けます。本稿では、AMMの数式まで踏み込み、どの板・どのプールで、どのサイズを、どう分割して、どの経路で出すべきかを実務ベースで整理します。

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結論:この条件ならこう発注

先に指針を示します。細部は後述の根拠で確認してください。

小口(~USD 5k)・主要ペア:DEXアグリゲータで最良経路を選び、最大許容スリッページを0.1–0.3%に設定。サンドイッチ対策にプライベート送信(保護RPC/リレー)を使う。

中口(USD 5k–200k):CEX板の見せかけ流動性を避けるため、氷山/時間分割(TWAP)か、DEXはRFQ(見積り)対応ルータでオフチェーン見積もり→オンチェーン清算。範囲注文(Uniswap v3のレンジ)でリミット的に待つのも有効。

大口(USD 200k~)・アルト:まずCEX複数板で合算気配を確認し、残余はDEXで複数プール分散クロスチェーンRFQ。必ず事前にテストトレード(1–3%サイズ)で価格インパクトを実測。

オーダーブック(CEX)の価格形成と隠れコスト

オーダーブックは、気配(気配値×数量)の階段を上から順に呑んでいく仕組みです。見た目の厚みがあっても、板を食い進めると途中でキャンセルが多発し、想定より悪い平均約定価格(滑り)になることがあります。これが実流動性表示流動性の差です。

例えば、3,000 USDTのベストオファーに100 ETHが並んでいるように見えても、その半分がボットの誘い注文なら、50 ETHを成行で買うと平均3,015 USDT/ETHまで押し上げられることがあります。CEXではさらに両建てコスト(現物+先物ヘッジ)や手数料ティアの影響も無視できません。

AMM(DEX)の数式で読む価格インパクト

代表的な定数積型AMM(x·y=k)では、プール準備金をX(基軸トークン)、Y(見積り通貨)とします。トレーダーがΔXを投入してΔYを受け取ると、

(X+ΔX)(Y-ΔY)=k となり、ΔY=Y·ΔX/(X+ΔX)、実効価格は P_eff=ΔX/ΔY=(X+ΔX)/Y です。よって相対スリッページはおおむね ΔX/X(小口近似)に等しく、サイズに比例します。

逆に、見積り通貨(USDCなど)を投入して基軸(ETHなど)を受け取る場合、受け取り量ΔX_outとすると必要コストは ΔY_in = k/(X-ΔX_out) - Y、実効単価は ΔY_in/ΔX_out です。

具体例:ETH/USDC プール(X=10,000 ETH、Y=30,000,000 USDC)

プールの理論価格は3,000 USDC/ETH。ここで100 ETHを買う(USDCで支払う)と、必要USDCは 303,030.30、実効単価は 3,030.30 USDC/ETH価格インパクトは約+1.01% です。10 ETHなら+0.10%、500 ETHなら+5.26%と、サイズが大きいほど非線形に悪化します。

スリッページ許容量と注文分割

DEXでは、トランザクションに最大許容スリッページ(例:0.3%)を与えます。許容量が緩すぎるとサンドイッチ攻撃の標的になり、厳しすぎるとガスだけ消費して失効します。実務では、許容量を0.1–0.5%に設定し、複数トランシェに分けて連続送信(または時間分散)し、各トランシェに私設リレー経由のプライベート送信を使うのが定番です。

MEV(サンドイッチ)と回避策

公開メンンプールに流した成行は、先読みボットに挟まれやすく、意図以上の高値を掴まされます。対策は以下。

① プライベート送信:トランザクションを公開メンンプールに出さず、保護リレー経由でブロック提案者に直接渡します。これでサンドイッチの大半を遮断できます。

② RFQ/オフチェーン見積:複数マーケットメーカーに見積もらせ、確定価格でオンチェーン清算。価格インパクトとMEVの双方を抑制。

③ 厳格な許容量+最短期限:許容量は0.1–0.3%に、期限(deadline)は数十秒に設定。失効時は自動で次トランシェへ。

④ TWAP/時間分割:プール在庫の回復(アービトラージ流入)を待ちながら段階的に執行。ボラが高いときはトランシェを小さく。

オーダーブックとAMMの使い分け:プレイブック

主要ペア(BTC、ETH)・小中口:CEXとDEXの総コスト(手数料+スプレッド+滑り+ガス)を試算。CEXの板が厚い時間帯(ロンドン・NY重複)ではCEX優位、深夜や週末・オンチェーンフローが多い時間はDEX優位のことも。

アルト・片側薄いペア: CEXは表示は厚くても撤退コスト(出口の薄さ)が高い。DEXで複数プール分散(v2、v3、サイドチェーン、L2)+RFQが有利。

事前検証:本発注の1–3%でテストスワップ→実効単価とガスを測り、同額をCEX成行(または小口VWAP)で試し、どちらが安いかを確認してから本体を出す。

LPの視点:インパーマネントロス(IL)をコストに転嫁しない

AMMの流動性提供(LP)は、価格が動くと在庫が偏るため、単純保有より損をし得ます(インパーマネントロス)。トレーダーが大口でプールを押すと、LPはILを被る一方で手数料を得ます。薄いプールを無理に突くと、あなたが支払う滑りがLPの手数料となり、実質的にIL補填をしているのと同じです。ゆえにプール選びと注文分割が重要です。

実務フロー:チェックリスト

1) 市場把握:直近のボラ・出来高、CEX板の厚み、DEXプール準備金(X、Y)を確認。

2) ルート決定:アグリゲータで複数経路を試算。プール跨ぎL2も比較。

3) リスク管理:許容量、期限、ガス上限を設定。プライベート送信ON。

4) トランシェ設計:理論インパクト ~サイズ/準備金 を目安に、1トランシェのサイズをプール準備金の0.2–0.5%以内に制限。

5) 執行:テスト→本体。失効時はリトライではなく次経路へ切替。

6) 事後検証:約定データから手数料・ガス・価格インパクトを分解。次回に反映。

数値で掴む:サイズとインパクトの関係

先のETH/USDCプール(X=10,000、Y=30,000,000)で、10/50/100/500 ETHの買いに必要なUSDCはそれぞれ、30,030.03/150,753.77/303,030.30/1,578,947.37。実効単価は3,003.00/3,015.08/3,030.30/3,157.89となり、サイズが5%に近づくとインパクトが急増します。これが「一気にやらない」理由です。

ミスしやすい論点

ガスを軽視:小口・劣位チェーンではガスの割合が無視できません。レイヤー2ロールアップでの執行を検討。

期限の未設定:メンンプール滞留はMEVの餌です。短い期限プライベート送信はセット。

片持ちリスク:一方通行の買い集めは撤退時に高コスト。ヘッジ(先物ショート等)や段階利確を前提に。

まとめ

オーダーブックとAMMは価格の作られ方が異なるため、同じサイズでも最安の執行場所は状況次第で変わります。数式でおおよその価格インパクトを読み、テストトレードで実測し、厳格な許容量・時間分散・プライベート送信・RFQを組み合わせる。それが、オンチェーン時代の勝つ発注の基本形です。


本記事は一般的な情報提供であり、特定の銘柄や手法の推奨ではありません。暗号資産取引には元本割れリスクがあります。手数料・税制・規約は各サービスの最新情報をご確認ください。

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