現物ETF×先物ETFの歪み裁定:仕組み・手順・数値例・執行とリスク管理まで

暗号資産

本稿では、現物ETF×先物ETFの歪み裁定(ベーシス・アービトラージ)を、用語から具体的な執行・管理まで一気通貫で解説します。想定読者は裁定取引の基礎から実運用の要点までを短時間で把握したい個人投資家です。数値例を多用し、「どうやって実際に収益化するか」に焦点を当てます。

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要点サマリー(先に結論)

本戦略の核心は、現物ETF(Spot ETF)先物ETF(Futures ETF)の価格乖離(プレミアム/ディスカウント)をスプレッドとして捉え、ロング側とショート側を組み合わせて中立的に保有し、乖離縮小からのリターンを狙うことにあります。

  • 収益源:価格乖離(ベーシス)の縮小、ロール構造の差、トラッキング特性の違い。
  • 基本構造:現物ETFロング × 先物ETFショート(プレミアム時)/逆方向(ディスカウント時)。
  • カギ:正しいヘッジ比率(ベータ調整)執行品質(スリッページ最小化)リスク管理(スプレッド管理)
  • 主要リスク:トラッキング誤差、ロールコスト、借株・逆日歩、流動性、イベントギャップ、税務差。

用語整理

現物ETF(Spot ETF)

指数や現物資産に連動するよう設計されたETF。ビットコイン現物ETFであれば、現物保有型のため基準価額(NAV)は現物価格の動きを強く反映します。

先物ETF(Futures ETF)

先物(例:CME先物)を保有することで指数に連動を試みるETF。先物のロール(期近→期先乗り換え)コストや先物カーブ形状(コンタンゴ/バックワーデーション)により、現物と異なるトラックを示すことがあります。

ベーシス/乖離率

ここでは簡便に、ベーシス=「先物ETF価格 − 現物ETF価格」。
乖離率=(先物ETF − 現物ETF) / 現物ETF

歪みが生まれる力学

  1. 先物カーブ:コンタンゴでは先物が割高化しやすく、先物ETFが相対的に高く見えます。バックワーデーションでは逆。
  2. トラッキング差:現物保有型(現物ETF)と先物ロール型(先物ETF)で、費用構造と連動経路が異なる。
  3. 需給・フロー:資金流入が片側に偏ると、一時的なプレミアム/ディスカウントが発生。
  4. コスト差:管理報酬、借株・逆日歩、スプレッド、為替ヘッジ費用など。

基本の建て方(3パターン)

1)先物ETFが割高(プレミアム)

現物ETFロング × 先物ETFショート。乖離縮小をとりにいきます。

2)先物ETFが割安(ディスカウント)

現物ETFショート × 先物ETFロング。ただし現物ETFの空売り可否・コスト(逆日歩等)は要確認。

3)中立ペアでのロール差取り

先物ETFのロールに伴うパフォーマンス差と、現物ETFのシンプルなトラック差を中立的に抽出。乖離が小さくても、ロール構造の繰り返しがリターンの源泉になる場合があります。

ヘッジ比率の決め方(重要)

単純な等金額ヘッジ(1対1)では不十分なことが多いです。先物ETFは先物のロールやデュレーション、為替ヘッジ有無、経費率が異なり、ベータ(価格感応度)がズレます。

  1. 経験則アプローチ:直近60営業日の日次リターン回帰で先物ETFを従属変数、現物ETFを説明変数に置き、先物ETF = α + β × 現物ETF。得られたβでヘッジ比率を決める。
  2. ボラ等価アプローチ:両者の年率ボラを合わせ、ポジションサイズ ∝ 1/ボラで設計。
  3. 合成アプローチ:回帰βで大枠を決め、ボラ等価で微調整。

実務上は、週次でβを更新し、スプレッドのドリフト(片寄り)を抑えます。

数値例(仮定でのラフ計算)

以下は概念理解のための仮定例です。

  • 現物ETF価格=$100.00
  • 先物ETF価格=$104.00(+4.00%のプレミアム)
  • 取引コスト(往復)=0.20%
  • 先物ETFの借株コスト(年率)=3.0%(10営業日保有と仮定)

乖離率=(104−100)/100 = +4.00%
保有10営業日(暦日約14日)で借株コスト負担はおよそ3.0% × 14/365 ≈ 0.115%
概算のグロス収益=+4.00% − 0.20%(往復コスト) − 0.115%(借株) ≈ +3.685%

ヘッジ比率が1:1で適切なら、スプレッド収益として約3.7%を狙える計算です。実務では、さらにトラッキング誤差為替配当・分配金等の差も加味して前提を厳格化します。

候補のエントリー・エグジット設計

指値・逆指値・OCO

スプレッド(先物ETF − 現物ETF)が過去60日平均+2σに拡大で新規売り(先物ETFショート/現物ETFロング)。縮小して平均+0.5σで部分利確、平均付近で残りをクローズ、といった段階的OCOを設定します。

時間分散(TWAP/VWAP/POV)

片側だけ一気に成行で執行するとスリッページが増大します。POV 5〜10%TWAP 15〜60分で分散。約定の同時性を重視し、両建ての足並みを揃えるのが要点です。

執行品質の最適化

  • 板厚の時間帯を使う:先物の出来高が厚くなる時間帯に合わせる。
  • スプレッド監視:アグリゲータで複数気配を比較し、隠し流動性(ダーク/アイスバーグ)も考慮。
  • スマートルーティング:一番良い気配に分割ヒット(ただし過度な小口化は手数料増)。
  • 誤発注防止:発注前後でヘッジ比率と建玉残をチェックする簡易BOTを用意。

リスクとコントロール

  1. トラッキング誤差:先物ETF特有のロール影響で、想定どおり縮まらない。最大ドローダウン閾値ロールカレンダーを事前定義。
  2. 借株・逆日歩:先物ETFショートのコスト急騰に注意。代替ティッカーの用意と貸借需給の定期確認。
  3. 流動性ショック:イベント(CPI/FOMCなど)やオープン直後は気配飛び。サイズ縮小や完全見送りのルールを持つ。
  4. 為替:外貨建てETFの場合、スプレッドは同一通貨換算で評価。必要に応じて通貨ヘッジ。
  5. 税務差:キャピタルゲイン/インカムの課税区分と通算可否の差でネットの妙味が変化。

モニタリング指標(ダッシュボード化の推奨)

  • 乖離率(先物ETF − 現物ETF) / 現物ETF
  • スプレッドZスコア(当日乖離 − 平均) / 標準偏差
  • β:週次更新の回帰ベータ
  • ボラ:年率換算。スプレッドのボラにも注意
  • 執行コスト:手数料、スリッページ、借株、FX
  • DD:最大ドローダウン、DD>閾値で強制縮小

簡易バックテスト設計(表計算で可)

  1. 両ETFの終値データを取得し、同一通貨に正規化。
  2. 日次で乖離率とZスコアを計算。
  3. Zが+2超で建て、+0.5で半利確、0でクローズ等のルール化
  4. 手数料・借株コスト・FXを控除。
  5. ロール期間の挙動とイベント日をタグ付けし、例外時の挙動を把握。

チェックリスト(運用前に)

  • 空売り可否と借株コストの上限設定。
  • β更新手順(毎週固定曜日、閾値越え時に臨時更新)。
  • イベント時のサイズ規模と発注禁止時間帯。
  • 強制クローズ基準(Z>+3継続、DD>X%等)。
  • ヘッジ崩れ検知(デルタ逸脱率)。

よくある落とし穴

  1. 1:1等金額ヘッジの放置:β変動でスプレッドがドリフト。
  2. イベントに突っ込む:CPI/FOMC直前・直後はギャップと板飛び。
  3. 借株コストの見落とし:急騰で想定超えのコストに。
  4. 流動性の薄い時間帯の成行:スリッページで優位性が消える。

運用フロー(テンプレ)

  1. 監視:乖離率とZスコアをダッシュボードで常時計測。
  2. シグナル:Zが閾値突破で発注準備、βを当日値で更新。
  3. 執行:POV/TWAPで両建て同時執行、OCOで出口を自動化。
  4. ケア:ヘッジ崩れ・借株コスト上昇・イベント接近を監視。
  5. 事後:Fillレポート、スリッページ分析、サイズ最適化。

結語

現物ETFと先物ETFの歪みは、構造的な要因一時的な需給が重なって生まれます。適切なヘッジ比率と高品質な執行、そして明確なリスク・ルールを組み合わせれば、価格乖離という「誤差」から安定的な超過収益を抽出できる可能性があります。まずは少額・短期・厳格なルールで検証し、容量を段階的に引き上げてください。

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