現物ETF×先物ETFの歪み裁定──仕組み・実践手順・リスク管理を徹底解説

暗号資産

本稿では、現物ETF(Spot ETF)と先物ETF(Futures ETF)の価格歪みを収益源とする裁定手法を、
仕組み・測定・建玉・執行・リスク管理・運用オペレーションまで実務手順に落として解説します。
ビットコインなど暗号資産の現物ETFと先物ETFの組み合わせを主題にしますが、株式指数やコモディティにも一般化できます。

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なぜ「歪み(ディスロケーション)」が発生するのか

同じエクスポージャを目指す2つのETFでも、運用の仕組みが異なるため連動経路に差が出ます。

  • 現物ETF:実物(現物)を保有。創造・償還(Creation/Redemption)により基準価額(NAV)に収斂。
  • 先物ETF:先物でエクスポージャを取る。ロール(限月乗せ換え)でコンタンゴ・バックワーデーションの影響を受ける。

加えて、管理報酬・保管料・先物限月の建玉集中・規制・取引時間の差、更にフロー(資金流入出)や借株・借コイン費用が
短期〜中期の乖離を生みます。これが裁定の原資です。

歪みの測定:3つのコア指標

1) NAVプレミアム/ディスカウント

現物ETF価格 P_SPOT と推定NAV NAV_SPOT を用い、Prem_SPOT = (P_SPOT - NAV_SPOT) / NAV_SPOT
創造・償還が機能していれば日中は±数十bpに収まるのが通例ですが、フロー急増や基礎資産の板が薄い時間帯は拡大します。

2) 先物ETFのロール・キャリー

先物ETF価格 P_FUT と直近限月先物 F1、次限月 F2、ロール日程を用いて、RollYield ≒ (F2 - F1)/日数
コンタンゴではマイナス(保有コスト)、バックではプラス。先物ETFの恒常的なトラック差の主因です。

3) ベーシス(先物−現物)

基礎資産の先物価格 F と現物指数 S を用い、Basis = (F - S)/S。金利・保管・融資料・配当(相当額)が理論値。
暗号資産の永続先物では資金調達率(Funding)がベーシスの代理変数になります。

基本戦略:高い方を売り・安い方を買い、差の収斂で取る

裁定の原理はシンプルです。相対的に割高なレッグをショート、割安なレッグをロングし、
乖離の縮小でリターンを得ます。レッグは以下のいずれか:

  1. 現物ETF ↔ 先物ETF
  2. 現物ETF ↔ 先物(先物直、またはパーペチュアル)
  3. 先物ETF ↔ 先物(直)

建玉比率はβやデュレーションを合わせるため、ヘッジ比率 = 目標デルタ / 各レッグのデルタで決めます。
ETFは1口あたりの実効エクスポージャが微妙に違うため、目論見書・KIDの記述や実測相関で補正します。

数値例:1日の短期裁定(暗号資産)

前提:基礎指数 S = 10,000。現物ETFは NAV_SPOT = 10,000、時価 P_SPOT = 10,050(+0.5%プレミアム)。
先物ETFはロールによるコストを内包し P_FUT = 9,980。乖離は Δ = P_SPOT - P_FUT = 70

実行:現物ETFをショート、先物ETFを買い。各1,000口(1口=1指数換算と仮定)。
手数料合計をc = 8bp、スリッページをsl = 7bpと置くと、ネット差 = 50bp
終値でプレミアムが+0.2%まで縮小すれば、収益 ≒ (50-15)bp × 元本

注意:実務では借りコスト・貸株金利・先物ETFのロール時期・配当相当額を織り込み、期待値がプラスか判定します。

中期裁定:ロール・キャリー捕捉

先物ETFはコンタンゴ局面で継続的に価値が目減りします。先物ETFをショート・現物ETFをロングするペアは、
収斂だけでなくロール損の捕捉も狙えます。逆にバック局面では方向を反転。

判定は、推定ロール損益(bp/日) − 貸株/借コスト(bp/日) − 手数料・税引後影響 を週次でモニタリング。

執行(Execution):コストと風向きがすべて

プレトレード

  • 板の厚さ・スプレッド・有効気配(真の流動性)を把握。表示板と約定実勢のギャップに注意。
  • 創造・償還のタイムウィンドウ、先物ETFのロール暦、関連指数の算出時間を確認。
  • 借株・貸コインの可用性と料率(または先物の必要証拠金)を事前確保。

発注設計

  • 同時成行は滑る。原則はTWAP/VWAP/POV等のアルゴで分割。
  • 優位性が薄くなる局面では指値+逆指値(OCO)でリスクを限定。
  • 約定順序は割安レッグ→割高レッグの順で先行させると期待値が安定。

ポストトレード

  • ヘッジ比率のズレが1σを超えたら即リバランス。閾値はΔβ > 0.05など定量規律を。
  • 損切りはスプレッド拡大(bp)をトリガに。相関崩壊のときは時間ストップも併用。

リスク管理:起き得ることを先に数える

  1. 創造・償還の停止:現物ETF側の収斂メカニズムが一時停止すると、ディスカウントが長期化。
  2. 先物ETFのロール急変:限月の建玉偏在でロールコストが突発的に拡大。
  3. 借り難・貸株回収:ショートの継続不可能リスク。代替(先物直・スワップ)を準備。
  4. 流動性蒸発:CPIやFOMC等のイベントでスプレッドが数倍に。建玉サイズをリスク予算で制約。
  5. 税・費用の過少見積り:取引コスト、源泉、為替の往復を都度反映。

モニタリング設計:最低限のダッシュボード

  • Prem_SPOT(現物ETFのNAV乖離、bp)
  • RollYield(先物ETFの推定ロール、bp/日)
  • Basis(先物−現物、bp)と永続先物Fundingのスナップショット
  • 流動性(スプレッド、実行可能サイズ、平均滑り)
  • ヘッジ比率と相関(β、R²、追跡誤差)

実務フロー:チェックリスト

  1. ユニバース決定(対象ETF、対応先物、代替ヘッジ)
  2. ダッシュボード初期化(NAV、先物限月、ロール暦、借株可用性)
  3. 優位性スクリーニング(閾値:例 30–50bp 以上)
  4. 建玉計画(サイズ、証拠金、想定損益、カットルール)
  5. 執行(アルゴ、OCO、キュー管理)
  6. モニタリング(収斂・ロール・コスト)
  7. クローズ&レビュー(原因分解、再現性評価)

よくある失敗

  • ETFの実効エクスポージャを口数で雑に合わせ、βズレで損失。
  • 先物ETFのロール日を勘違いし、想定外のギャップを被る。
  • 借株のハード・トゥ・ボロー化で強制クローズ。
  • イベント時に同時成行で突っ込んで過大スリッページ。

拡張:暗号資産ならではの応用

  • パーペチュアル金利キャプチャ:先物ETFショートの代わりに、永続先物ショート+Funding受取。
  • デルタニュートラル+イールド強化:割安レッグを現物ETFで、割高レッグをパーペチュアルにし、Fundingとロールの両取りを狙う。
  • ETFフロー裁定と併用:創造・償還フロー急増時のNAV乖離を先回り。

まとめ

現物ETF×先物ETFの歪み裁定は、収斂+ロールの二層の原資を丁寧に拾う戦略です。
勝率は執行品質とコスト管理で決まります。小さな優位性を重ねる設計(アルゴ発注・閾値管理・迅速なリバランス)を
習慣化すれば、相場環境が変わっても再現性のある収益ドライバーになります。

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