金利先物で利回り変動を稼ぐ・守る:JGB/USTを使った金利リスク管理と実践トレード完全ガイド

リスク管理
金利先物と金利リスク管理の横長アイキャッチ(昼)本稿のゴール
このガイドは、金利先物(日本国債先物=JGB Futures、米国債先物=UST Futures)を使って、ポートフォリオの金利リスクを測る・減らす・取りにいくまでを、初学者でも実行できる形で整理したものです。株式やREIT、債券ファンド、ETFの投資家にとって、金利の上げ下げは評価損益やキャッシュフローに直接響きます。金利先物は、証拠金取引ゆえのレバレッジ、流動性、価格連動性を活かして、損失のクッションにも、収益ドライバーにもなりえます。

以下では、Duration・DV01といった感応度の基礎から、CTD(Cheapest to Deliver)/コンバージョン・ファクターベーシスカーブ戦略ロールインボイススプレッドまでを体系的に解説し、最後に実装手順・チェックリストを提示します。数式は最小限に抑えつつ、数値例を厚めに載せ、再現性を重視します。

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1. なぜ今「金利先物」か

株式・不動産・債券・暗号資産など多様なアセットを組み合わせる個人投資家でも、金利の方向性を無視することはできません。政策金利や長期金利の変化は、割引率・資本コスト・賃料/配当成長期待に直結し、バリュエーションを大きく揺らすからです。金利先物は、現物債券を大量に売り買いせずとも金利感応度だけを比較的ピュアに取り出してヘッジ/エクスポージャー調整できる点が実務的に優れています。

また、先物は証拠金取引のため、必要資金が小さいのに対して、ポートフォリオ全体のDV01(1bp=0.01%の金利変化当たりの価格変動額)を素早く中和できます。これは、含み益を守る、防御的な使い方にも、テーマ性のある債券ビューで攻めるにも有効です。

2. DurationとDV01の最短理解

Durationは金利に対する価格感応度、DV01は「金利が1bp動くと何円(何ドル)価格が動くか」を示す金額尺度です。一般に、Modified Duration(修正デュレーション)を用いると、価格変化率 ≈ - ModifiedDuration × 金利変化幅で近似できます。

DV01は、DV01 ≈ 時価評価額 × ModifiedDuration × 0.0001 で近似されます。例えば、債券や債券ETFの評価額が1,000万円、修正デュレーション6.0なら、DV01 ≈ 1,000万円 × 6.0 × 0.0001 = 6,000円/bpです。つまり金利が+10bp(0.10%)動けば、約6万円動く計算です。

3. 先物のDV01とヘッジ比率

金利先物1枚あたりのDV01は、ブローカーが公表していることが多く、CTDのDV01とコンバージョン・ファクター(CF)から求められます。概念的には、DV01_futures ≈ DV01_CTD / CFと捉えられます(実務ではデリバリー・オプションの影響、銘柄入替等に注意)。

ヘッジ比率は、必要枚数 ≈ DV01_ポートフォリオ / DV01_先物1枚 が基本。例えば先の例でポートフォリオDV01=6,000円/bp、先物1枚のDV01が62,000円/bpなら、6,000 / 62,000 ≈ 0.097で、約0.1枚(=10枚で1口に該当するミニ等の派生や、ETF/金利スワップで微調整)を売ると、おおむねDV01が中和されます。

DV01は線形近似であるため、大きな金利変動時や凸性(Convexity)が効く領域ではズレます。実務では、DV01を定期的に再計算し、ヘッジ枚数をリバランスします。

4. 具体例①:REIT/高配当株 × 金利上昇リスクの防御

ケース:国内高配当株とREITで2,000万円保有。配当/分配金は魅力だが、金利上昇はバリュエーションの圧力になる可能性がある。ポートの金利感応度(擬似的なDV01)を簡易推定すると、約12,000円/bp(各アセットの歴史的ベータや利回り回帰から推定)だったとする。

対応:長期ゾーンのJGB先物を売りで当てる。先物1枚のDV01が62,000円/bpなら、12,000 / 62,000 ≈ 0.19枚。ミニサイズ/マイクロサイズ、あるいは金利スワップ等の併用で過不足を最小化する。結果、金利+20bp上昇時の時価下押し分を、先物側の利益で相殺できる可能性が高い。

副次効果:全下落を消せるわけではない。REIT固有の空室率や賃料、株式固有のEPS成長など、金利以外の要因はオープンのまま。だが、最大ヘッドウィンドになり得る金利方向だけはコントロールできる。

5. 具体例②:債券ETF × 下方耐性を厚くする

ケース:国内債券ETFを1,500万円。修正デュレーション7.0、よってDV01 ≈ 1,500万円 × 7.0 × 0.0001 = 10,500円/bp金利+50bpなら理論上約52.5万円の評価押し。

対応:先物1枚DV01=62,000円/bpとすれば、10,500/62,000 ≈ 0.17枚売りでヘッジ。ETF自体の分配金や、金利低下局面ではヘッジが足を引っ張る可能性もあるため、ビューによってヘッジ比率を可変にする(例:50%ヘッジ、75%ヘッジ、100%ヘッジ)。

6. CTDとコンバージョン・ファクターの直感

金利先物は理論上、複数の国債のいずれかで受渡可能です。受渡側は、最もコストが安い債券(CTD)で納入する誘因があります。そのため、先物価格はCTDの動き+受渡オプションの影響を受けます。CFは、利率・償還までの期間が異なる各債券を、先物の標準券面に整えるための係数です。実務では、ブローカー/取引所が公表するCTD候補、CF、理論ベーシスを利用し、DV01_先物を認識してヘッジ比率を決めます。

7. ベーシス、ロール、インボイススプレッド

ベーシスは「現物(CTD換算)と先物の価格差」。理論上は、キャリー(クーポン−ファイナンスコスト)が反映されます。限月が近づくと、先物は受渡価格に収斂していくため、時間経過に伴うベーシス変化が発生します。

ロールは、限月乗り換えのこと。カレンダー間のベーシス差(期近↔期先)を活用する取引もあります。インボイススプレッドは、現物債券と先物の同時売買による裁定。担保・清算、コスト、執行品質の差で収益性が左右されます。

8. イールドカーブ戦略(スティープナー/フラットナー)

5年・10年・20年・30年の先物/スワップを組み合わせて、カーブの形状そのものに賭けることができます。例えば、スティープナーは短期を売り/長期を買い(またはその逆)、フラットナーは長短の逆を取ります。ここでも鍵はDV01を揃えることです。DV01_短期側 × 枚数_短期 ≈ DV01_長期側 × 枚数_長期とし、金利レベルの変化にはニュートラル、カーブ変化だけを取りにいく設計が基本です。

9. 実装プロセス:6つの手順

  1. ポートフォリオのDV01測定:保有ファンド/ETF/債券の時価と修正デュレーションから近似。株/REITは歴史データで金利βを推定し、擬似DV01に換算。
  2. 対象限月と銘柄決定:流動性・スプレッド・出来高・建玉を確認。ロールコストとイベント(中銀会合、重要指標)も考慮。
  3. 先物DV01の取得:ブローカー公表値やCTD/CFから把握。毎週更新される場合もあるため、定期チェック。
  4. ヘッジ比率計算必要枚数 = DV01_ポートフォリオ / DV01_先物。過不足はミニ/マイクロやスワップで微調整。
  5. 執行・監視:成行/指値・スプレッド管理・ロール日程。イベント前はスリッページ拡大に注意。
  6. 検証とリバランス:月次/四半期ごとにDV01を再推計。P/L分解(キャリー、ロール、ベーシス、タイミング)で効果測定。

10. リスクと落とし穴

クロスヘッジ・ベーシスリスク:保有資産の感応度と先物DV01が一致しないと、取り切れない残差が出ます。REITなどの株式要素は特に留意。

CTDスイッチ:相場環境次第でCTDが入れ替わり、先物DV01やベーシスが変化。ヘッジ比率の見直しが必要。

流動性/スプレッド/ロールコスト:期近は流動性が高いが、ロール負担が周期的にかかる。期先はスプレッドが広がりやすい。

マージン管理:ヘッジ目的でも証拠金変動は現金管理を圧迫しうる。証拠金レベル追証リスクを常に監視。

イベント・ギャップ:中銀、CPI、雇用統計などで大きくギャップ。約定品質サイズ分割でリスク低減。

11. 収益化アプローチ(ヘッジ以外)

ビュー・トレーディング:金利低下を見込むなら先物買い、上昇なら売り。レベルとカーブを分けて立案し、DV01でサイズを決める。

相対価値:期近/期先のカレンダースプレッド、JGB vs UST、先物 vs スワップ(アセットスワップ)など、リスク要因を限定した相対取引で再現性を狙う。

裁定:インボイススプレッドやキャリー/ロールの理論価格からの乖離を定点観測。コストと約定の現実が優位性の源泉。

12. 1ページ計算例(DV01→枚数)

前提:ポート時価=3,000万円、修正デュレーション=6.5 ⇒ DV01 ≈ 3,000万円 × 6.5 × 0.0001 = 19,500円/bp。対象先物のDV01=62,000円/bp。

枚数19,500 / 62,000 = 0.3145...0.31枚相当。ミニ×3(各0.1枚相当)+マージンで微調整、あるいはスワップ-ETFの組み合わせで0.01〜0.02を埋める。

シナリオ:金利+25bp ⇒ 先物売り側の評価益 ≈ 25 × 62,000 × 0.31 ≈ 480,000円。保有の下押し ≈ 25 × 19,500 ≈ 487,500円差はコスト/ベーシス/凸性

13. チェックリスト

  • 保有資産のDV01と先物DV01のソースを明確化(更新頻度も)
  • ヘッジ比率は「ビュー≠ゼロ」なら80%/50%等の段階設定にする
  • イベント前はサイズ縮小・スリッページ前提で注文
  • ロール日程とキャッシュ管理(分配・配当・課税)を同期
  • 月次でP/L分解(キャリー、タイミング、ベーシス、ロール)
  • 想定外のCTDスイッチ/清算所ルール更新に備える

14. まとめ

金利先物は、ポートフォリオの金利露出をコントロールするための、最も実務的な手段のひとつです。DV01という共通尺度でサイズを決め、CTD/CF/ベーシスを理解し、ロールとマージンを管理すれば、守りと攻めの両方で再現性ある成果が期待できます。株・REIT・債券・オルタナ資産を横断する個人投資家こそ、金利という共通ドライバーを握っておく価値があります。

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