流動性マイニングの収益設計とILヘッジ:AMMで“手数料が勝つ”を再現する運用ガイド

DeFi

本稿は、AMM型DEX(例:Uniswap v3、PancakeSwap v3等)における流動性マイニングの収益源を分解し、手数料収益 − IL(インパーマネントロス) − コスト が長期で正に傾く構造を、具体的な運用手順と数式で再現するためのガイドです。対象読者は、暗号資産の現物・パーペチュアル・先物を扱える個人投資家です。一般論ではなく、実際のオペレーションに落ちる形で説明します。

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1. 収益式の骨格

AMM LPの損益は概ね次式で近似できます。

損益 = 手数料収益(約定量 × フィー) − IL(価格変動起因の相対損失) − コスト(ガス・ブリッジ・借入金利・資本コスト)

本稿のゴールは、手数料収益 > IL + コスト を安定的に実現するための「プール選定」「価格帯設計」「ヘッジ」「回転(リバランス)」の4点を定式化することです。

2. プール選定:勝ちやすい場所を最初に選ぶ

2.1 候補の絞り込み

  • スプレッドの薄い主要ペア(例:ETH/USDC, WBTC/USDT)。
  • 出来高/TVL比(Vol/TVL)が高いプール:手数料効率が高い
  • 手数料ティアが市場実態に合っている(0.05% or 0.3%等)。
  • チェーンの総コスト(ガス、MEV損、ブリッジ)を許容できる。

2.2 指標の目安

手数料APRの初期推定は、直近7–30日の 手数料総額 / TVL × 365 で概算します。これが想定ILと運用コストを十分に上回ることが前提です。

3. 価格帯(レンジ)設計:Uniswap v3型の肝

集中流動性では、価格帯の狭さが手数料効率を押し上げますが、外れた時のILと無収益時間が増えます。初学者向けには以下の3型を推奨:

  1. ワイド型:現値±20–40%。外れにくいが効率は低い。
  2. ミドル型:現値±10–20%。効率と稼働時間のバランス。
  3. ナロー型:現値±3–8%。効率は高いが監視と回転が必要。

価格帯はボラティリティ(σ)回転頻度で決めます。日次で±1σを跨ぐ確率、約定回数、ガスを織り込んで、1回の回転で積める手数料期待値がガス等を上回るかを検証します。

4. IL(インパーマネントロス)の直観と近似

等ウェイトでX/Yを預けるAMMにおけるILは、価格比r = 新価格 / 初期価格に対しておおむね

IL ≈ 2√r / (1 + r) − 1(負値)

として近似できます。価格が一方向に動くほど、現物単独保有に比べて不利になります。従って、方向リスクをヘッジして手数料だけ抜く構造が理にかないます。

5. ILヘッジ:3つの代表手法

5.1 デルタ・ニュートラル(現物±先物/パーペチュアル)

例:ETH/USDCプールに等価額を供給しつつ、ETHの純エクスポージャをパーペチュアルのショートで中立化します。

  1. LP投入:ETHとUSDCを同額。
  2. ヘッジ:LPのETH相当量×βを目安にETH-PERPをショート。βは価格帯中心と在庫感応度で0.8–1.2程度。
  3. 調整:価格が帯の端へ寄る/外れる時にヘッジ量を微調整。

メリット:手数料は取りに行きつつ、方向リスクを抑制。デメリット:資金効率と資金調達コスト(ファンディングレート)の管理が必要。

5.2 ステーブル×主要銘柄の片面レンジ+片方向ヘッジ

ETH/USDCで、現値より下側に偏らせた狭い帯を敷き、上振れ時の外れを許容しつつ、部分ショートで補う設計。滞在時間が長い価格帯での手数料の積み上げを狙います。

5.3 二面LP+先物スプレッド

異なるティア/DEXに同時LPし、出来高の偏りを利用。先物やPERPでデルタを吸収しつつ、手数料源泉の分散を図ります。

6. ファンディングレートの取り扱い

PERPショートには受払が発生します。プラスなら受け取り、マイナスなら支払い。手数料APR − |ファンディング| − コスト がプラスであることが条件。約定量が多い時間帯にLP比率を上げ、支払いが重い時間帯はヘッジ方法(先物に切替/比率調整)を検討します。

7. 具体例:ETH/USDC(0.05%ティア、v3型)

仮定:

  • 現値:$3,000、日次ボラ:5%、直近30日のVol/TVLが0.2。
  • 狙い:ミドル型(±15%)の価格帯を中心に設定。
  • 資金:$50,000。

手順:

  1. LPに$50,000(ETHとUSDC半々)を投入。
  2. LP在庫のETH推定量に対し、PERPを0.9倍でショート(β=0.9)。
  3. 手数料期待:手数料APR ≈ (Vol/TVL × ティア) × 365 = 0.2 × 0.0005 × 365 ≈ 3.65%(概算)。
  4. IL想定:±15%帯での滞在を前提とし、外れ確率に応じて年率1–4%相当を見込む。
  5. ネット期待値:3.65% − 1–4% − コスト。このままでは薄いので、ナロー型(±6–8%)へ一部配分して手数料効率を引き上げ、回転頻度に応じて再投入。

ポイント:帯を狭めるほど手数料効率は上がるが、外れ→無収益期間が増える。よって、複数帯×複数ティア×DEX分散でポートフォリオ化し、回転の非同期性でブレを抑えます。

8. コスト設計:見落としがちな“摩擦”

  • ガス&MEV:入出金、レンジ移動、手数料請求。
  • ブリッジ&ルーター手数料:L1⇄L2、チェーン跨ぎ。
  • PERP/先物の資金調達・手数料・スプレッド。
  • 価格オラクル乖離時のスリッページ。

原則:1回の回転(レンジ外→再入)で得られる手数料期待 > 全コスト。これを満たさなければ回転の頻度を落とすか帯を広げます。

9. 実行プレイブック(チェックリスト)

  1. 市場フェーズ判定:トレンド(強/弱)・レンジ・ボラ拡大局面。
  2. プール候補スクリーニングVol/TVL上位、主要ペア優先。
  3. レンジ設計:σに基づきワイド/ミドル/ナローを配分。
  4. ヘッジ構築:PERP/先物でβ調整、ファンディング負荷を試算。
  5. 発注:ガス安時間帯にまとめて実施。
  6. 監視:価格が帯外へ出る確率が上がったら事前に移動。
  7. 回転:帯外→再セット時は、収益式を必ず再評価。
  8. 記録:手数料、IL推定、コスト、実現損益を週次で棚卸し。

10. リスク管理:やられ方を先に潰す

  • 急騰急落:帯外滞在→無収益。対策:帯の分散と先回り移動。
  • ヘッジ過不足:βズレによる片張り。対策:在庫推定の更新と小口調整。
  • ファンディング逆風:支払い過多で逆ザヤ。対策:先物切替・サイズ縮小。
  • スマートコントラクト:監査・実績・バグ対策の確認。
  • 流動性掘削(MEV):前後攻撃で効率悪化。対策:発注時間・金額分割。

11. 計測KPI:伸ばすべき数字だけ追う

  • 実効手数料APR受取手数料 / 平均投入資本 × 年換算
  • ネットAPR実効手数料APR − |ファンディング| − コスト推定 − IL推定
  • 稼働率:価格が帯内にある時間比率。
  • 回転効率1回の回転あたり純益 / ガス

上記がプラスで安定するほど、資金をスケールできます。

12. 初期資金別のモデル

12.1 ,000規模(L2推奨)

  • ミドル型1本+ナロー型1本。PERPヘッジは小さく。
  • 回転は週1回程度。ガスの安い時間帯にまとめる。

12.2 ,000規模

  • ミドル2本+ナロー1本、DEX分散。
  • PERPヘッジβ=0.8–1.0で運用。ファンディングで先物切替も。

12.3 ,000規模

  • ティア×DEX×帯の3次元分散。回転の非同期化でボラ耐性を上げる。
  • 週次のKPIレビューで配分を見直す。

13. よくあるミス

  • 手数料APRだけ見て突っ込む(ILとコストを無視)。
  • 帯が狭すぎて外れっぱなし。
  • ヘッジのβ固定で放置し、片張りを食らう。
  • ガス高時間帯に細切れに操作して摩耗。

14. まとめ:設計→実装→検証→拡張

流動性マイニングは、売買ではなく“市場に仕組みを提供して手数料を得るビジネス”です。勝ち筋は、(1)出来高が見込めるプールの選定(2)適切な価格帯の設計(3)方向リスクのヘッジ(4)摩擦コスト管理(5)定期的なKPI検証の積み重ねにあります。小さく試し、数字で確認し、勝ちパターンだけをスケールしてください。

付録A:簡易IL早見表(参考)

価格比rに対するIL近似(%)。

r IL(%)
0.7 約 -5.7%
0.8 約 -3.2%
1.2 約 -2.0%
1.3 約 -3.7%
1.5 約 -5.7%
2.0 約 -13.4%

付録B:運用テンプレ(コピペ用)

【前日準備】
・候補プール3件:ティア/TVL/Vol/TVL/チェーン/手数料見込みを表に。
・ファンディング見通し:直近7日平均と時間帯ごとの偏り。
・ヘッジ計画:βレンジ、先物切替条件。

【当日実行】
・発注はガス安時間帯に集約。帯はミドル+ナローを配分。
・PERPヘッジを建て、β=0.9から開始。±0.2で調整。
・メモ:トレードログに手数料、ガス、推定IL、ファンディングを記録。

【週次レビュー】
・ネットAPR、稼働率、回転効率を算出。
・良い帯は規模拡大、悪い帯は撤退。DEX/ティアの再配分。
  

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