注文フロートレード完全入門:板・テープ・CVDで“本物の圧力”を読む実践ガイド

テクニカル分析

本記事は、チャートの「形」ではなく、実際にどの価格で誰がどれだけ買い・売りをぶつけたのかという注文フロー(Order Flow)の読み解き方を体系化した実践ガイドです。ローソク足だけでは見えない「成行⇔指値の力学」「板の吸収(Absorption)」「隠れ在庫(Iceberg)」「テープの勢い(Tape Speed)」を、初心者でも明日から再現できるレベルで手順化します。対象市場は株式、先物、FX、暗号資産。ツールや銘柄は具体名に依存せず、概念と再現性を重視します。

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なぜ注文フローなのか:価格は“出来た量”で動く

教科書的には「需要と供給」で説明されますが、トレードの現場で価格を押し上げる直接因子は成行注文が指値在庫を食い進めることです。出来高ゼロでは価格は動きません。つまり、価格変動=流れ込む成行の方向×サイズ×持続時間 − 板在庫の厚み×撤退速度、という力学に還元できます。ローソク足や移動平均は結果の可視化に過ぎず、原因であるフローの変化を一段階早く捉えるのが本手法の狙いです。

前提知識:用語と最小セットアップ

主要概念

  • フットプリント(Footprint):各価格帯の買成行・売成行の約定量を表示。しばしばBid×Ask形式やデルタ表示(Ask量−Bid量)。
  • デルタ(Δ):同バー内の買成行約定量−売成行約定量。プラスなら買い優勢、マイナスなら売り優勢。
  • CVD(Cumulative Volume Delta):バーごとのΔを時系列で累積。フローの中期的偏りを追跡。
  • インバランス(Imbalance):同一価格での買い成行と売り成行の比率差。例:AskがBidの150%超など。
  • アブソープション(吸収):強い成行が連発しても価格が進まない現象。厚い指値が“飲み込む”。
  • アイスバーグ:大口の隠れ指値。表示枚数は小さいが約定するとすぐ補充され、結果的に大量を吸収。
  • テープスピード:時間当たりの約定件数・出来高。急加速は“噴き”の初動に多い。

最低限の表示

  • 価格帯別出来高(フットプリントまたはバイ・セルのティック足集計)
  • ΔとCVD(ローソク下段)
  • 板の厚み(DOM/Depth)と約定音(Tape)
  • 基準線:VWAPと当日高安(IB高安でも可)

勝ち筋は「3つの現象」を捉えるだけ

細かい名称は多いですが、実戦で収益源になる現象は次の3つに集約できます。

  1. ブレークへの“押し切り”:価格帯に長時間溜まった在庫を、偏った成行が一気に食い破る。
  2. 吸収→反転:成行で攻めても進まない(アブソープション)。攻め手の体力切れで逆噴射。
  3. 踏み上げ・投げのチェーンリアクション:ストップ集中帯に突入し、連鎖的に成行が加速。

具体戦略A:インバランス・ブレイクアウト(再現性◎)

狙い:レンジ上限(または下限)で、価格停滞にもかかわらずAsk(またはBid)のΔとインバランスが連続的に拡大する局面を捉え、板の“押し切り”が起きる直前〜直後に同方向へ参加します。

条件

  • 上限ライン付近で、連続3バー以上の正のΔ上向きCVD
  • フットプリントで上側価格帯に買いインバランスが階段状に出現(例:150%以上が2段以上)。
  • VWAP上方、かつ当日高値の直下で滞留時間が短縮(テープ加速)。

エントリー

直近高値上の薄い帯(いわゆる空白)に成行が突入した瞬間、小さく成行で同方向に。滑りを避けたい場合は1ティック逆指値。初期リスクは「ブレイク直下の厚い足場の内側」まで。

イグジット

  • 第一利確:次の顕著な出来高ノード(過去の滞留帯)の手前。
  • 残し運用:CVDがフラット化し始めたら半分利確、残りはトレーリングで当日高値更新を追う。
  • 無効化:Δが2バー連続で反転、またはフットプリントで売りインバランスが同じ階段形状へ転化。

具体戦略B:吸収→反転(逆張りだが期待値◯)

狙い:押し目買い・戻り売りの最中、価格が進まないのに同方向の成行だけ大量に約定する帯を見つけます。そこが吸収点(供給の壁/需要の床)で、攻めの燃料切れ後に反転が起きやすい。

検出フロー

  1. フットプリントで1〜3ティックの狭い帯に極端な一方向約定が集中(例:Askが連続して巨大、にもかかわらず上抜けない)。
  2. 同帯でΔは大きく偏るが、バーの高安更新が止まる
  3. テープの速度が鈍化→逆側成行の出現(小反撃)→CVDが切り返し。

エントリー

吸収帯の内側で逆方向へスモールサイズで打診。直上(直下)にストップを置く。成功時は素早く建玉を追加。失敗時の損失がミニマムで、RR比が自然に高くなります。

具体戦略C:ストップ・スイープ(流動性狩りの便乗)

明確なストップ集中(直近高安、前日高安、日足の節)へ向けて一方向にテープが加速し、強いΔが出続ける局面は“誰かの損切り”が燃料です。初動は順張り、到達後は反転待ちの二段構えが有効です。

  • 到達前:CVDが傾き増大、足裏の出来高が増加、板の薄い帯を連打で突破。
  • 到達直後:一瞬の拡張後にΔが縮小、フットプリントの極端な片寄りが消える→反転の種

実装のための“数値ルール”テンプレ

裁量の幅を減らすため、最低限の数値基準を設けます。市場や銘柄により最適値は異なるため、検証で微調整してください。

  • インバランス閾値:Ask/Bid比が150%以上を「強」、200%以上を「特強」。2段連続で強、3段で特強。
  • Δ連続基準:ブレイク狙いは3バー連続の正Δ(下落ブレイクは負Δ)。
  • 吸収判定:同価格帯で一方向約定が合計出来高の40〜60%を占めるのに価格拡張が1〜2ティック以内。
  • テープ加速:1分あたり約定件数または出来高が直近10分平均の2倍
  • 損切り:セットアップの「否定点」に限定(ブレイクなら直下の厚い足場内、吸収反転なら吸収帯の外側)。

データとツール:何を使えばよいか

株式・先物は取引所由来のティック・板データが入手容易です。FXは真の板がないため、出来高=ブローカー内の約定という制約がありますが、CVDやティック圧力の相対変化は十分に有用です。暗号資産は板・約定が公開されるため可視化がしやすい一方、スプーフィングなどの板操作が多く、テープ>板の優先度で判断するとノイズに強くなります。

注文フロー×リスク管理:RR>2を“作る”

注文フローの強みは、損切り位置を構造の否定点に置けることです。これにより自然とリスクリワード比が2以上になりやすい。以下の固定ルールを推奨します。

  1. 1回のリスクは口座資金の0.5〜1.0%。
  2. 初回利確はリスク幅の1.2〜1.5倍で部分利確、残りはΔ・CVDの鈍化で手仕舞い。
  3. 連敗3回で当日停止。CVDの傾きとVWAP位置が一致しない日はロット半減。

よくある負けパターンと対処

  • 板の見せ玉に釣られる:板厚だけで判断しない。約定が伴わない厚みは無視。
  • テープだけで飛び乗る:到達先の在庫帯(過去の出来高ノード)を必ず確認。真空地帯でのみ追随。
  • 時間軸ミスマッチ:1分足のΔに拘泥し、上位のCVD傾きと逆行。原則は上位CVDの向きに順張り
  • 逆指値の置きすぎ:見え見えの位置は刈られる。吸収帯の外側、もしくは直近ノードの外へ。

実例シナリオ:BTCUSDの朝のブレイク(仮想データ)

アジア時間のレンジ上限で、3バー連続の正Δ、CVD上向き、上2ティックに買いインバランス(150%→190%)。直上は出来高の薄い真空帯。高値ブレイクで成行買い、ストップは直下の厚いノード内(−0.35%)。第一利確は過去の出来高ノード手前(+0.6%)。CVD鈍化で半分利確、残りはテープ鈍化で手仕舞い(合計RR=2.1)。

検証(バックテスト)とログ化

  • スクリーンショット+数字(Δ、インバランス段数、CVD傾き、テープ速度指数)を必ず記録。
  • 各セットアップを100回以上、曜日・時間帯別に集計。勝率・平均損益・最大連敗を把握。
  • 「否定点に置いたストップまで届いた率」を監視。届かないのに撤退しているなら裁量過多。

注文フロー×他指標の融合

VWAP、当日高安、前日高安、主要オプションストライク(先物・暗号資産)などの流動性が溜まりやすい価格と、フローの偏りが一致する瞬間に絞るとフィルタ精度が上がります。移動平均やRSIは補助でよく、主役は常に「どこでどれだけ約定したか」です。

実運用のチェックリスト

  • 上位CVDの方向と当日のVWAP位置は一致しているか。
  • 重要価格に近づくにつれテープは加速しているか(2倍ルール)。
  • フットプリントに階段状インバランスが出たか。
  • 吸収帯の発見→否定点の明確化→RR>2の計算。
  • 利確ポイントは過去の出来高ノード手前に設定したか。

まとめ:形ではなく、流れを見る

ローソクの形は結果、注文フローは原因。ΔとCVD、インバランス、吸収の3点セットを、VWAPと重要価格に重ねて運用するだけで、エントリーは遅れず、損切りは浅く、利確は構造の手前で計画できます。小さなリスクを積み重ね、統計的にRR>2を確保すること――これが初心者でも実装可能な「実務の勝ち筋」です。

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