バタフライスプレッド完全入門:最初の一回で理解するための実践ガイド【例題・損益式・調整戦略】

オプション取引

本記事では、オプション戦略の代表格である「バタフライスプレッド」を、投資初心者の方でも最初の一回で腹落ちできるように、構造・損益式・数値例・ギリシャ指標・実務フロー・調整・失敗事例まで一気通貫で解説します。難しい数式や専門用語は丁寧に言い換え、価格やボラティリティが動くと何が起きるのかを、時間の経過とともに追体験できるように説明します。

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バタフライスプレッドとは何か

バタフライスプレッドは、同一銘柄の異なる権利行使価格を組み合わせ、中心の価格(ミドルストライク)に着地したときに最大利益が得られるよう設計されたオプション戦略です。基本は三つのストライクを使います。例えばコール・バタフライの場合は、低い行使価格のコールを1枚買い、中央の行使価格のコールを2枚売り、高い行使価格のコールを1枚買います。プットでも同様に構築できます。

この構造により、損失は「両翼の価格差(ウィング幅)」と建玉コストで限定され、最大利益は「満期日に現物価格が中央ストライクにピタリと来たとき」に生まれます。時間が経つほど中央のショート2枚が価値を失いやすく、シータ(時間価値の減少)を利用する戦略としても知られています。

コール・バタフライとプット・バタフライ

コール・バタフライは上方向のストライクで構成します。一方、プット・バタフライは下方向のストライクで構成します。理論上は同一幅・同一満期・同一中心であれば、コールとプットのデビット(またはクレジット)はアービトラージ調整後にほぼ一致します。実務では板の厚みやスプレッドの差で小さな価格差が生じますが、目的は同じく「中央ストライク着地で最大利益」です。

アイアン・バタフライとの違い

アイアン・バタフライは、中央ストライクのショート・ストラドル(コール売り+プット売り)に、外側にウィング(コール買い・プット買い)を被せるクレジット戦略です。通常の(同タイプ4枚)バタフライはデビット建て(買い)になることが多いのに対し、アイアン・バタフライはクレジット受け取り(売り)から開始します。証拠金の求め方や建玉の安定性が異なり、初心者はまずデビット型のコール(またはプット)・バタフライから理解すると混乱しにくいです。

損益の仕組みと上限・下限

行使価格を K1 < K2 < K3、ウィング幅を W = K3 – K2 = K2 – K1 とします。デビット型コール・バタフライの建玉コスト(支払総額)を D とすると、最大損失は理論上 D に限定されます。最大利益は満期日に現物価格 S がちょうど K2 に一致したときに発生し、おおむね W – D(各契約の倍率を掛ける)となります。

ブレークイーブンは二つあります。下側の損益分岐点は K1 + D、上側の損益分岐点は K3 – D です。S がこの範囲内で満期日を迎えれば概ね利益、外に出れば損失になります。時間の経過とともにオプションの時間価値が減るため、S がレンジ内で推移すれば含み益が増えやすい傾向があります。

一方で、満期より大幅に前だと、ベガ(IV感応度)やガンマ(価格感応度)の影響が強く、含み益が出ていても IV が急上昇すればデビット型では利益が伸びにくい場面があります。したがって「IVが高くなるイベント(決算、経済指標、政策発表)を跨がない」「エントリー時はIVが相対的に高すぎない」などの条件付けが重要です。

数値例①:SPYでのコール・バタフライ(仮定値)

前提として、現物価格が 500 付近の SPY を想定します。行使価格は 490 / 500 / 510(幅 W=10)で、満期は30日後。手数料やスリッページは簡便のため省略し、以下の仮定プレミアムで建てます。

  • 490C を 2.10 で 1枚買い
  • 500C を 1.10 で 2枚売り
  • 510C を 0.60 で 1枚買い

ネット支払い(デビット)は 2.10 – 2×1.10 + 0.60 = 0.50 です。米株オプションは通常 100 倍率なので、支払総額は 50 ドル相当になります。最大利益はおおむね W – D = 10.00 – 0.50 = 9.50(×100 = 950ドル)。ブレークイーブンは 490 + 0.50 = 490.50 と 510 – 0.50 = 509.50 です。満期日に SPY が 500 で終われば理論最大利益付近、495〜505 の範囲で終われば概ね利益確度が高い、というイメージです。

時間の経過に伴い、中央の 500C(ショート2枚)が価値を失うことでポジション全体の含み益が増えやすくなります。ただし、500 を大きく離れるトレンド相場では含み益が削られ、両ウィングの価値が上がっても中央のショートが損失を拡大しやすいので注意します。想定と逆方向へ強く走った場合は早めにクローズするか、バタフライ全体をロールして中心を現値付近に合わせる判断が有効です。

数値例②:BTC オプションでの応用(仮定値)

暗号資産のオプションでも構造は同じです。例えば BTC 現値が 70,000 のとき、69,000 / 70,000 / 71,000 のコール・バタフライを 30 日満期で構築します。プレミアムは板の状況で大きく変わりますが、仮に 69kC 買い = 2,200、70kC 売り = 1,500、71kC 買い = 900(単位はドル)とすると、ネットデビットは 2,200 – 2×1,500 + 900 = 100 です。最大利益は W – D = 1,000 – 100 = 900。ブレークイーブンは 69,100 と 70,900。IV が乱高下しやすい銘柄では、イベント直前のエントリーは避け、IV が落ち着いたタイミングを選ぶのが実務的です。

暗号資産では 24/7 で価格が動くため、週末の急変に備えたリスク管理(事前の決済、ポジション縮小、OCO の準備)が重要です。現物や先物でデルタヘッジする手法もありますが、初心者はまず「価格が中心に戻らないケース」に対する損切り・撤退基準を明確に持つことを優先します。

ギリシャ指標の挙動(初心者の要点)

デルタ

エントリー直後のデビット型バタフライは概ねデルタ中立に近いですが、価格が片側に寄ると偏りが出ます。強く片側に走るときは損益が悪化しやすいため、含み損が規律値を超えたら撤退する、あるいは中心をロールしてデルタを再び近似中立に戻す判断が現実的です。

ガンマ

満期が近づき、現値が中心に近づくほどガンマが大きくなり、価格に対する感応度が急増します。プラスにもマイナスにも振れやすく、直前の乱高下で利益が消えるリスクがあるため、初心者は「含み益の一定割合で先に利益確定」する保守的ルールを採用したほうが破綻しにくいです。

シータ

時間経過でプラスに働きやすい要素です。特に中央ストライクのショート2枚が減価するため、レンジで推移すれば有利です。ただし IV が一斉に上昇する局面ではシータの効果が相殺されることがあります。

ベガ

デビット型バタフライは一般にベガがマイナス寄り(IVが上がると不利)になりがちです。エントリーは「IVが相対的に高すぎないとき」を意識し、IVイベント(決算、FOMC、雇用統計など)を跨がないようにします。

エントリー手順(実務フロー)

  1. 銘柄選定:出来高・未決済建玉(OI)が十分で、板が厚い銘柄を選びます。SPY、QQQ、主要株価指数、流動性の高い大型株が無難です。暗号資産では主要取引所の上位銘柄に限定します。
  2. イベント確認:期間中に決算や大型経済指標がないかを確認します。ある場合は日程をずらすか、アイアン・バタフライなど別戦略を検討します。
  3. ストライク設計:中心は「現在価格の近辺」。ウィング幅は流動性と希望するリスクに合わせて設定します。初心者は等間隔(例:±10)から始めると理解しやすいです。
  4. 板の確認:売買気配のスプレッドが狭いか、約定履歴があるか、二枚目・三枚目でも大きく滑らないかをチェックします。
  5. 指値執行:ミッド近辺に指値を置き、部分約定でも焦らず待ちます。無理に追いかけるとデビットが膨らみ、期待値を悪化させます。
  6. 損切り・利確ルールの設定:建玉デビットの〇%で損切り(例:−30%)、含み益の〇%で部分利確(例:+50%で半分クローズ)など、機械的に決めておくと感情に流されにくいです。

調整とクローズ(初心者向けミニマム版)

調整は高度なテクニックですが、初心者でも取り入れやすい最低限の方法を挙げます。

早期クローズ

目標の一定割合に達したら決済します。満期直前の乱高下を避け、利益の取りこぼしを減らします。

中心ロール

現値が大きく片寄ったら、すべて解消して新しい中心に組み直します。余計なレッグを残さないのがコツです。

アイアン化

板・証拠金の都合で有利なら、デビット型からアイアン・バタフライへ構造を切り替える選択もあります。ただし構造が複雑になりやすいため、まずは単純な建玉で管理できる範囲を守ります。

よくある失敗と対策

第一に、「イベント跨ぎでIV上昇に巻き込まれる」ことです。カレンダーを必ず確認し、IVが跳ねやすい日程は避けます。第二に、「板の薄さを甘く見る」ことです。成行で飛びつくとデビットが一気に不利になります。第三に、「損切りと利確の不徹底」です。ルールは建玉前に決め、約定後にすぐアラートを設定します。第四に、「満期直前のガンマ拡大を軽視する」ことです。中心に近い含み益は直前の一振れで消えます。前日までに段階的に利確する運用が堅実です。

ミニ損益表(言語でイメージを固める)

SPY 490/500/510 の例では、満期日に 500 なら最大利益付近、495〜505 では堅実な利益、490.5 未満または 509.5 超えでは損失です。途中経過では、横ばいレンジと穏やかなIV低下が味方、単一方向への急伸・急落やIV急騰は逆風です。建玉した翌日に想定外のトレンドが出た場合、含み損が −30% に達したら粛々と撤退する、といった規律が運用成績を安定させます。

チェックリスト(エントリー直前の最終確認)

  • イベントカレンダー確認(決算・経済指標・政策発表)
  • 板厚・OI・スプレッド確認(流動性)
  • ウィング幅とデビット妥当性(最大損失と期待収益のバランス)
  • 損切り・利確・期日管理(数値で明文化)
  • 満期直前は段階利確方針(ガンマ拡大への備え)

Q&A:初心者がつまずきやすい点

Q. 等間隔でなくても良いですか?

A. 可能です。非対称のバタフライは「片側に寄りやすい」と感じる相場観を反映できます。ただしまずは等間隔で感覚を掴み、次に応用すると混乱が少ないです。

Q. 何日程度の満期が良いですか?

A. 初心者は 20〜45 日程度で、イベントを跨がない期間が扱いやすいです。短すぎるとガンマに振り回され、長すぎるとIVのブレに影響されやすくなります。

Q. IV が高いときはどうしますか?

A. デビット型のバタフライはIV上昇が逆風になりがちです。見送る、またはクレジット戦略(アイアン・バタフライ)を検討するのが現実的です。

バタフライスプレッドは「損失限定」「利益の上限明確」「時間の味方を活かす」戦略であり、レンジ想定の局面で合理的に機能します。成功の鍵は、イベント回避、流動性のある銘柄選定、妥当なデビット、そして機械的な損切り・利確ルールの遵守です。本稿の手順とチェックリストを、そのまま最初の一回に適用し、まずは小さなサイズで実装して経験を積んでください。

付録:数式と期待値の直観

デビット型コール・バタフライの満期損益は、各レッグの満期価値を足し合わせて求められます。490Cの満期価値は max(S-K1,0)、500Cの満期価値は max(S-K2,0)、510Cの満期価値は max(S-K3,0) です。よって合成価値は max(S-K1,0) – 2×max(S-K2,0) + max(S-K3,0) となり、ここから建玉デビット D を差し引きます。S が K1 と K3 の間にあるときに台形状の利益構造になるのはこの式から理解できます。

期待値の直観としては、IVと時間の二つの変数が主要因です。IVが一定または低下し、Sが大きく動かないとき、中央のショート2枚が減価するため、含み益が滑らかに増えます。一方、トレンドやIV急騰の局面では、含み損が拡大しやすく、損切りルールの有無がパフォーマンス差を生みます。したがって「入る局面の選別」が成否の過半を占めると考えるべきです。

証拠金の観点では、デビット型は支払済みのプレミアムが上限損失となるため、口座破綻の確率を抑えやすい特性があります。初心者にとって、この「最大損失の明確さ」は極めて重要です。売り主体の戦略は日々の価格変動に耐えるための証拠金管理が難しく、板の薄い市場では想定外のスリッページが起きやすい点に注意が必要です。

付録:実装のミスを減らすオペレーション

オプションはレッグ数が増えるほど誤約定や数量ミスのリスクが増します。実装のコツは、まず片側ウィングを買い、次に中央のショートを一枚ずつ、最後にもう片側ウィングでクローズ構造を完成させる順番を固定することです。約定毎にネットデビットをメモし、事前に設定した上限を超えないようにします。指値はミッドからやや有利側に置き、部分約定でも焦って成行に切り替えないのが肝心です。

また、建玉後はアラートを必ず設定します。価格がブレークイーブンの外へ出た、IVが指定閾値を超えた、残存日数が指定閾値に達した、含み益/含み損が指定割合に達した、などです。アラート運用だけでもヒューマンエラーを大幅に削減できます。

付録:ケーススタディ(相場タイプ別)

レンジ相場

最も相性が良い局面です。中心付近に滞留する目線で、IVの高さを見極めてデビットを抑えます。含み益が早期に乗れば一部利確し、残りは伸ばす二段構えが有効です。

上昇・下降トレンド

中心から外れやすく、損益は悪化しやすいです。トレンド中は参加を見送り、押し目・戻りでボラが落ち着いた局面に絞ってエントリーするか、中心を順次ロールして追随します。

イベント前後

イベント前はIVが上がりやすく、デビット型は不利です。イベント後にIVが低下し、価格が落ち着いてからのエントリーを検討します。どうしてもイベントを跨ぐならサイズを極小にし、損切り水準を浅めに設定します。

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