本記事は、IPO銘柄のロックアップ解除日(lock-up expiry)に着目して、需給の偏りが解ける瞬間を狙う初歩的トレード戦略を、投資初心者でも実行できる水準まで具体的に解説します。抽象論ではなく、実務の手順・チェックリスト・発注方法・ポジションサイズの決め方・失敗パターンの回避まで、最短距離で実装できる形に落とし込みます。
ポイントは3つだけです。①供給ショック(売り圧)がいつ・どの程度発生し得るかを前もって推定する、②価格と出来高のパターンを定義して待ち伏せする、③勝てる局面だけを薄く繰り返し期待値で稼ぐ。これを丁寧にやるだけで、不要な勝負を避け、損失の振れ幅を抑えながら、習熟に比例して収益カーブを滑らかにできます。
1. ロックアップとは何か:なぜ価格に効くのか
ロックアップとは、IPO後に大株主(ベンチャーキャピタル、役員、従業員、事業会社など)が一定期間、保有株式を売却できない契約(もしくは慣行)です。解除日に売却が可能となるため、浮動株の急増が起こり、需給が悪化することがあります。とくに以下の条件が重なると、短期的な値動きが生まれやすくなります。
- 解除対象の株数が発行済株式数に対して大きい(unlock float impactが大)
- 直近までの上昇で含み益が大きい(profit takingが出やすい)
- 直近の出来高が細い(absorptive capacityが小さい)
- 好材料や指数採用などで過熱感(sentimentが極端)
逆に、解除対象が小さく、需給の受け皿となる出来高が厚い場合は、明確なショックが出ずに通過することも珍しくありません。この「効きの強弱」を見積もるのが、戦略成否の分水嶺です。
2. 価格に効く主要ファクター(初級〜中級の観点)
- Unlock Ratio(アンロック比率):解除対象株数 ÷ 発行済株式数。大きいほどインパクト大。ただし実際に売られるかは別問題。
- Float Turnover(浮動株回転):直近20日出来高 ÷ 浮動株。回転が鈍いと吸収力が弱くショックが出やすい。
- 含み益とコスト帯:上場来高値圏にあると利確圧が出やすい。直近の支持線・VWAPとの位置関係が重要。
- ニュースの有無:解除日直前の好材料は、売り圧の吸収役にも増幅役にもなる。サプライズの方向性を要チェック。
- 貸借・空売り環境:売り需要が集中し、貸株料や在庫不足が起きるとショートの建てづらさが収益機会を左右する。
初心者はまず、Unlock RatioとFloat Turnoverの二つだけを見て絞り込み、解除日の前後での「出来高の変化」と「VWAP乖離」のパターンに集中すると良いです。
3. 典型的な値動きパターン(図解イメージと言語化)
図は掲載しませんが、以下の3パターンの言語化イメージを覚えておくと、チャート上での判断が速くなります。
- パターンA:事前織り込み → イベント通過で自律反発
解除前に下げ続け、当日寄り付きで一段安。しかし寄り後に前日安値を明確に割れず、5分足VWAPを回復し、出来高を伴って上昇に転じるパターン。 - パターンB:当日ギャップダウン → 寄り天 → VWAPリバ=戻り売り場
寄り付きで大きくGD、いったんVWAPに戻すも、出来高を伴わず失速。VWAP到達〜やや上抜けで失速したところがショートの高勝率エリアになりやすい。 - パターンC:材料上書きで無風
直前に大型の好材料(受注、決算、提携等)が出て買い需要が厚く、解除ショックを吸収してしまう。無理に逆張りしない。
4. 初心者向け3つの売買プラン(手順・発注・撤退)
プラン1:リバ狙い(パターンA)— 前日売られすぎ & 寄り後VWAP回復でIN
狙い:寄り付きの投げを待って、VWAP回復かつ直近安値割れ否定でエントリー。出来高増加が条件。
手順:
- 前日までの下落トレンドを確認。5日線からの下方乖離が大きいほど有利。
- 当日寄り付きでギャップダウン→1〜3本目の5分足で安値更新が止まり、出来高が前日対比で増える。
- 5分足VWAPを明確に回復したら、指値または成行で買い。直近安値の少し下に逆指値を置く。
撤退:直近安値を割れたら成行で損切り。利確は、前日終値〜当日VWAP+前日安値の戻り帯で分割。
プラン2:戻り売り(パターンB)— VWAP到達の失速でIN
狙い:寄りのGD後、VWAPまでの自律反発を待ち、出来高を伴わない上抜け失敗でショート。
手順:
- 当日寄り付きでのGD幅(-3%〜-8%など)を確認。出来高急増が出ているかを重視。
- 5分足でVWAPに接近。出来高が減速し、高値更新が止まったら成行ショート、もしくは直近高値少し上に逆指値売りを準備。
- 利確はGD起点の半値戻し帯、または当日安値付近で分割。直近高値の上に買い戻し逆指値を置く。
注意:売り在庫・規制・逆日歩など、ショート固有の制約を事前に確認すること。
プラン3:無風通過の見送り—勝てる場だけに集中
解除対象が小さい・出来高厚い・材料上書きなどの条件では、無理に勝負しない。「見送り」も戦略。スクリーニング→待ち伏せ→条件合致のみ実行、というルーチンを守ることで収益カーブが安定します。
5. スクリーニングと準備作業(前日までに終わらせる)
- 候補抽出:解除予定日が近いIPOをリスト化。Unlock Ratio(目安:5%/10%/20%の節)で優先度を付ける。
- 需給チェック:直近20日出来高、浮動株、回転率。薄い銘柄は「動くが滑る」ため板の厚みも確認。
- 価格帯確認:上場来レンジ、直近支持抵抗、5日線・25日線、日足VWAPの位置。
- 前日シナリオ化:GD幅の想定(-3/-5/-8%など)ごとに、買い/売り双方のif-thenを紙に書く。
- 発注準備:成行・指値・逆指値(ストップ)・OCO(利確/損切り同時発注)を事前登録。
6. 実行:寄り付きから後場引けまでの進行表
時間 | やること | 判断基準 |
---|---|---|
寄り前 | 気配確認・板厚・出来高気配・GD率を把握 | GDが想定内か(-3/-5/-8%帯)。気配での約定見込み。 |
寄り〜10分 | 最初の3本足で安値更新と出来高の関係を観察 | 安値更新が止まるか/VWAP回復の兆し/戻り薄いならBプランへ |
10〜30分 | プラン1・2のトリガー成立で発注・同時にストップ設定 | VWAP回復+出来高/ VWAP付近の失速+出来高減速 |
前場引け | 建玉の半分をクローズ or ストップを建値に引き上げ | 損益比2:1の確保・リスク中立化 |
後場 | トレンド継続/失速で分割利確・引け成行で整理 | VWAPとの位置・出来高増減で決定 |
7. ポジションサイズ設計(初心者の安全マージン)
初心者は1トレードの許容損失=口座残高の0.5%〜1.0%に固定するのが無難です。以下の式で株数を決めます。
許容損失額 = 口座残高 × 1.0%
株数 = 許容損失額 ÷ (エントリー価格 − 損切り価格)
たとえば口座100万円、エントリー1,200円、逆指値1,160円(リスク40円)なら許容損失1万円で250株。価格が高い米株は、端株(少額約定)やミニ株を活用すると良いでしょう。
8. 具体的なケーススタディ(架空データでの再現)
条件:Unlock Ratio 12%、直近20日出来高は浮動株の7%、前日までに3日続落、当日GD -5%。
- 寄り付き後3本目で安値更新停止、出来高は前日同時刻比150%
- 5分足VWAPを上抜け、押し目でVWAP割れず
- 前日終値付近で出来高増えて失速→半分利確、残りは引け成行
結果:平均+2.1%(手数料・税引き前)。同条件でも、出来高が伴わない場合は勝率低下。「出来高を待つ」が肝心です。
別パターン:GD -7%、VWAPまで戻すも出来高が細く、上抜け失敗。直近高値少し上にストップを置いたショートが機能。
結果:+1.6%(一部利確・引けで残り手仕舞い)。ショートは在庫と逆日歩を必ず確認すること。
9. よくある失敗と回避法
- 寄り成行の過剰サイズ:板が薄いと滑る。最初は小さく刻む。
- 損切りの先送り:解除日はボラが高い。ストップは機械的に執行。
- ニュース無視:好材料で無風化する。直前のIR/決算は必ず確認。
- 出来高軽視:価格だけ見て反転を早押し。出来高がなければ反発は持続しない。
- 一発逆転狙い:期待値のトレードは反復回数で効く。1回で賭けない。
10. 口座準備と基本の注文方法(超要約)
日本株・米株とも、現物+信用(または売建の代替手段)に対応したネット証券口座が扱いやすいです。入金は即時入金サービス、約定通知はアプリのプッシュ通知に設定。注文は以下を使い分けます。
- 成行:確実に約定させたいとき。
- 指値:価格を限定し、滑りを抑えたいとき。
- 逆指値(ストップ):損切りの自動化。
- OCO:利確と損切りを同時に置く。
初心者は、エントリー直後に必ずストップ注文を入れるルールにしておきましょう。
11. 監視テンプレート(コピペ運用OK)
【前日まで】
・解除候補の抽出(Unlock Ratio 5%超を優先)
・直近20日出来高/浮動株、VWAP/移動平均の位置
・前日までの3日足の方向(陰線連続/上ヒゲ)
・好材料/悪材料の有無、決算予定
・発注テンプレ準備(IN条件/OUT条件/サイズ)
【当日(寄り〜前場)】
・GD幅 %-3/-5/-8 のどれか
・最初の3本足で安値更新停止→出来高増
・VWAP回復で買い or VWAP失速で売り
・ストップ発注の確認(自動化必須)
【後場〜引け】
・半分利確→ストップ建値→トレーリング
・出来高減速or節目到達で残り手仕舞い
12. 用語ミニ辞典
- VWAP
- 出来高加重平均価格。短期の「公正価格」目安。
- GD(ギャップダウン)
- 前日終値より低く寄り付くこと。
- 浮動株
- 市場で実際に流通している株式数の推定値。
- 逆指値(ストップ)
- 指定価格に達したら成行(または指値)を発動する注文。
- OCO
- 利確と損切りの2条件を同時に設定し、片方が約定するともう片方を自動取消する仕組み。
13. まとめ:勝てる局面だけを薄く繰り返す
ロックアップ解除日は「需給イベント」という明確な理由でボラティリティが上がります。すべてを取りにいくのではなく、条件が揃ったときだけ、小さく・機械的に実行し、損失を限定しながら回数で期待値を積み上げる。これが初心者でも再現できる現実解です。テンプレートを整備し、毎回同じ手順で淡々と運用してください。
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