プット売りは「株を安く買いたい」という投資家の欲求を、オプションという形式で“ルール化”する手段です。結論から言えば、キャッシュセキュアド・プット(現金担保のプット売り)は、指値買い注文にプレミアム(オプション料)を上乗せしたような設計ができます。ただし、相場の急変時には「想定より高い値段で買わされる」「下落が止まらない局面で損失が拡大する」といった、株の現物よりも心理的にキツい局面も出ます。
この記事では、プット売りを“ギャンブル”にしないために、どの銘柄で、どの満期で、どの行使価格(ストライク)を選び、どれだけの資金を確保し、いつ撤退・ロールするかを、具体例ベースで徹底的に整理します。読み終えたら、あなたは「何となくプット売り」ではなく、株式取得のための入札設計として扱えるようになります。
- プット売りを“株式取得戦略”として捉える
- まず前提:キャッシュセキュアドでやる(レバレッジを切る)
- 設計の骨格:満期・行使価格・IVの三角形
- 銘柄選定:プット売りに向く株、向かない株
- 具体例で理解する:同じ“買いたい”でも設計は変わる
- 満期まで持つか、途中で閉じるか:実戦の意思決定
- 割当後の運用:プット売りは“入口”、出口はあなたが決める
- リスク管理:プット売りの“致命傷”を潰す
- “本当に使える”チェックリスト(発注前に必ず確認)
- よくある失敗と、その回避策
- まとめ:プット売りは「株式取得のための入札設計」 運用面の論点:早期割当・配当・金利を理解しておく
- 日本の個人投資家が詰まりやすいポイント(実務の注意)
- まとめ:プット売りは「株式取得のための入札設計」
プット売りを“株式取得戦略”として捉える
プット売りの本質:あなたが保険会社になる
プットオプションの買い手は「下落保険」を買っています。売り手(あなた)は保険料=プレミアムを受け取り、その代わりに一定価格で株を買い取る義務を負います。つまり、あなたがやっているのは「保険引受」です。
- 満期に株価が行使価格以上なら:保険は使われず、あなたはプレミアムを丸取り。
- 満期に株価が行使価格未満なら:保険が使われ、あなたは株を行使価格で買わされる(割当)。
「指値買い」との違い:買わなくても儲かるが、急落では苦しい
指値買いは約定しなければ何も起きません。一方、プット売りは約定しなくても(割当がなくても)プレミアムが入る。これが魅力です。しかし、急落局面では「買いたいと思っていた価格」よりも遥かに下に行くことがあるため、“買った瞬間から含み損が深い”状態になりやすい。つまり、プット売りは“買う意思”の強度が試される戦略です。
まず前提:キャッシュセキュアドでやる(レバレッジを切る)
初心者が破綻する典型は、証拠金(マージン)に任せてポジションを増やし、急落で追証・強制決済になるケースです。株式取得目的なら、基本はキャッシュセキュアド、つまり「割り当てられても買える現金を先に確保」してから売ります。
必要資金の計算(米国株オプションの基本)
米国株の株式オプションは通常、1枚=100株が基本です。行使価格が50ドルなら、割当時に必要な購入代金は 50ドル×100株=5,000ドル です。ここに手数料等が加わりますが、概念としてはこの金額を現金で確保します。
“現金担保”にすると、何が良いのか
- 強制退場リスクが激減:急落でも「買うだけ」で済む。
- 損失の上限が見える:最悪、株を保有するのと同等の損失構造になる(ゼロに向かう)。
- 意思決定がシンプル:追証対応という別ゲームが消える。
設計の骨格:満期・行使価格・IVの三角形
プレミアムは何で決まるか
オプション価格は雑に言えば、以下で増減します。
- 期間:満期が長いほど時間価値が大きい。
- 距離:行使価格が株価に近いほど(ATMに近いほど)高い。
- ボラティリティ(IV):市場が荒れそうだと高い。
だからこそ、あなたの仕事は「高い保険料を取れるが事故率も高い条件」を、許容できる範囲に落とし込むことです。
おすすめの初期レンジ:30〜45日満期、デルタ0.20〜0.30
実務的に使いやすいのが、30〜45日程度(約1〜1.5か月)の満期で、デルタが0.20〜0.30程度のOTMプットです。理由は明快です。
- 短すぎる(7日以下)と、価格変動に振り回されやすく、売買回数が増えます。
- 長すぎる(90日超)と、資金拘束が長く、ロールの自由度が落ちます。
- デルタ0.20〜0.30は、プレミアムと割当確率のバランスが取りやすい。
“IVが高いときだけ売る”は正しいが、雑にやると事故る
IVが高いとプレミアムが厚くなり、統計的には売り手有利になりやすい、という発想は筋が良いです。ただし、IVが高いのは「市場が恐れている」からであり、本当に急落が来る前夜のこともあります。そこで重要なのが、IVの高さを“イベント要因”と“構造要因”に分けることです。
- イベント要因:決算、FOMC、訴訟、規制、買収など。満期の選び方で回避可能。
- 構造要因:セクター崩壊、信用収縮、バリュエーション調整。回避困難。
銘柄選定:プット売りに向く株、向かない株
向く銘柄の条件:あなたが“割当を歓迎できる”か
プット売りは、割当が「失敗」ではありません。むしろ株式取得戦略なら、割当は計画通りの在庫仕入れです。したがって、向く銘柄は以下です。
- 長期で保有したい、ビジネスが理解できる(永久保有でも耐える)。
- 流動性が高い(スプレッドが狭い、出来高がある)。
- ボラが“読みやすい”(突発ニュースで跳ぶ銘柄は避ける)。
- 配当・自社株買いなどの株主還元がある(下支えになりやすい)。
避けたい銘柄:ギャップダウンで死ぬタイプ
- 小型・低位株:材料で一夜に半値、があり得る。
- バイオ・承認待ち:イベントリスクが本質。
- 財務が脆い赤字企業:信用環境悪化で急に資金繰りが詰む。
「プレミアムが高いから」という理由でこういう銘柄を選ぶと、保険料は取れても、事故が起きたときのダメージが桁違いになります。
具体例で理解する:同じ“買いたい”でも設計は変わる
例1:優良大型株を“指値+上乗せ”で拾う
あなたがA社(株価100ドル)を「95ドルなら買いたい」とします。ここで、95ドルのプット(30〜45日満期)を売り、プレミアムが仮に2ドル取れるなら、実質の取得単価は95−2=93ドル相当になります。
- 満期に95ドル以上:株は買わないが、2ドル×100株=200ドルが収益。
- 満期に95ドル未満:95ドルで100株を取得。受け取った200ドルがクッション。
ここで重要なのは、割当後に「やっぱり嫌だ」と思うなら、最初からこの銘柄で売るべきではない、という点です。
例2:インデックスETFで“市場全体の押し目”を狙う
個別株のニュースに振り回されるのが嫌なら、S&P500連動ETFや全米株ETFなど、指数寄りで設計する手もあります。指数は個別破綻の影響が薄く、割当を受けても「市場の平均を持つだけ」に近づきます。プット売りは本質的に“在庫”を持つ戦略なので、在庫の質を上げるのが合理的です。
例3:高IV銘柄でプレミアムを厚く取るが、満期を短くする
IVが高い銘柄は、同じデルタでもプレミアムが厚い。しかし構造的に荒いことが多い。そこで、満期を短くして資金拘束を抑え、ロール判断を早める設計が考えられます。ただし、短期はガンマが強くなり、株価が行使価格付近に来た瞬間の損益変動が激しくなるため、精神的な耐性が必要です。
満期まで持つか、途中で閉じるか:実戦の意思決定
目標利確:プレミアムの50〜80%で買い戻す
多くの運用者が採用するのが、受け取ったプレミアムの50〜80%を確保したら買い戻して終了というルールです。満期まで粘ると「残り数日で急落して全てを吐き出す」リスクが残ります。時間価値は加速度的に減るため、後半の期待値が落ちやすいのも理由です。
ロールの基本:時間を買い、行使価格を調整する
ロールとは、現在のポジションを買い戻し、より先の満期(場合によっては別の行使価格)に乗り換えることです。ロールは逃げではありません。株式取得の観点では、次のいずれかを達成するための手段です。
- 取得価格を引き下げる:ストライクを下げて、より安く買う設計にする。
- 時間を延ばして立て直す:急落の“時間的ショック”を平準化する。
- クレジット(追加受取)を確保する:ロールで追加プレミアムを得る。
ただし、ロールは“問題の先送り”にもなります。あなたが本当にその株を欲しいなら、割当を受けて現物に切り替えた方が、判断がクリアになることも多いです。
割当後の運用:プット売りは“入口”、出口はあなたが決める
割当されたら、まず損益分岐点を更新する
割当後の実質取得単価は、行使価格−受取プレミアムです。これがあなたの基準線になります。ここから、次の運用を選びます。
- 長期保有:企業価値が変わっていないなら、淡々と持つ。
- 反発で売却:テクニカル的に戻りが取れそうなら、現物で利確。
- カバードコール:保有株の上にコールを売り、追加プレミアムで取得単価を削る(いわゆるWheelの2段目)。
Wheel戦略の注意点:レンジ相場では強いが、上昇相場では置いていかれる
Wheel(プット売り→割当→カバードコール→(売却)→再びプット売り)は、レンジ相場や緩やかな上昇局面で機能しやすい。一方、強い上昇相場ではコール売りが上値を削り、結果として指数に負けることがあります。つまり、Wheelは「リターン最大化」よりも、キャッシュフローと規律を重視する戦略です。
リスク管理:プット売りの“致命傷”を潰す
最大リスクは“市場の断層”
プット売りは、ゆっくり下がる相場より、ギャップダウン(窓開け下落)に弱い。なぜなら、損切りや調整の余地が一気に奪われるからです。対策は以下です。
- イベントを避ける:決算またぎをしない、重要発表前の満期を避ける。
- 分散:同一セクターに集中しない。市場ショックは相関が上がるので、分散は“完全な盾”ではないが効く。
- サイズ管理:1銘柄で口座を支配しない(割当が来ても耐える枚数にする)。
“利回り換算”で判断しない
月2%のプレミアムが取れる、という話は魅力的ですが、それは「事故が起きなかった月」の話です。保険業は、長期で見て事故率と損害率を織り込んで初めて成り立ちます。あなたが見るべきは、
- 想定取得単価が、あなたの評価に対して割安か
- 割当後に持てる財務体力・心理体力があるか
- 最悪ケース(半値、さらに半値)でもポート全体が死なないか
この3点です。オプションは“うまく使うと堅い”が、“欲を出すと一撃で終わる”道具です。
IV急騰時のルール:ポジションを増やさない、まず縮める
恐怖が来るとIVが跳ね、プレミアムが急に美味しく見えます。ここで枚数を増やすと、あなたは「落ちてくるナイフを両手で受ける」ことになります。IV急騰局面は、基本は新規売りを控え、既存のリスクを管理する局面です。どうしても参加したいなら、
- 満期を短くしすぎない
- デルタを下げる(より遠いOTM)
- ポジションサイズを落とす
この3つを同時にやるべきです。
“本当に使える”チェックリスト(発注前に必ず確認)
- この株を100株(1枚)保有してもいいか。割当後に後悔しないか。
- 出来高とスプレッド:板が薄いなら見送る。コストで負ける。
- 決算日・重要イベント:満期がまたぐなら理由が必要。
- 必要資金を確保したか:現金担保で、他のポジションと競合しないか。
- 利確ルール:50〜80%で買い戻すなど、出口を先に決めたか。
- ロールの条件:どの水準でロール、どの水準で割当容認か。
よくある失敗と、その回避策
失敗1:プレミアムの高さだけで銘柄を選ぶ
回避策:「割当歓迎」基準で選び直す。高IVは“警報”です。
失敗2:枚数を増やして平均取得単価を下げようとする
回避策:平均化は“資金が無限にある前提”の幻想です。枚数を増やす前に、ポート全体の最大ドローダウンを計算してください。
失敗3:満期まで放置して、最後の数日で崩壊する
回避策:時間価値の減衰を利用して、途中利確を標準にする。放置は“最も楽に見えて最も危険”です。
まとめ:プット売りは「株式取得のための入札設計」 運用面の論点:早期割当・配当・金利を理解しておく
米国株オプションはアメリカン型:満期前に行使され得る
米国の個別株オプションは多くがアメリカン型で、理論上は満期前でも行使され得ます。プット売りでの早期割当は、コール売りほど頻繁ではありませんが、深いITMで、かつ金利や配当、借株コストなどの要因が絡むと起こり得ます。実務上は「突然100株が口座に来る」だけなので致命傷ではありませんが、資金管理が甘いと一気に苦しくなるため、現金担保の徹底が重要です。
配当落ちで株価が下がる:それ自体は“事故”ではない
配当銘柄では権利落ち日に理論上株価が下がります。プット売りの立場だと「下がった=不利」に見えますが、配当は株主に移転する価値なので、割当後に受け取れる配当と合わせて評価する必要があります。逆に言えば、高配当銘柄でプット売りをするなら、権利確定日と満期の位置関係を必ず確認してください。権利落ち直前の高IVは魅力的に見えても、意図しない割当を誘発することがあります。
現金の置き場所:拘束資金を“遊ばせない”発想
キャッシュセキュアドは安全性が高い一方、資金拘束がデメリットです。そこで実務では、ブローカーの仕組みによっては、担保として確保した現金をMMFや短期国債に近い商品で運用し、プレミアム+短期金利を取りにいく設計があり得ます。ただし、口座の規約や商品ごとのリスク(価格変動、流動性、決済タイミング)を理解せずに触ると逆効果です。最初は“現金で寝かせる”で十分です。
日本の個人投資家が詰まりやすいポイント(実務の注意)
「オプション=危険」ではなく、「証拠金運用=危険」
プット売り自体が危険なのではありません。危険なのは、証拠金で枚数を増やし、急落で退場することです。あなたの目的が株式取得なら、レバレッジを捨てるだけでリスクの質が大きく変わります。
税務・損益管理:取引履歴を“後で何とかする”は破綻する
オプション取引は約定回数が増えやすく、損益の見える化が崩れるとメンタルも崩れます。毎月、最低でも以下をログ化してください。
- 売ったプット(銘柄、満期、ストライク、受取プレミアム、デルタ/IV)
- クローズ/ロールの履歴(いくらで買い戻したか、追加クレジットは何か)
- 割当の有無と、割当後の取得単価
「何をやって儲かった/負けたのか」を説明できない運用は、いずれ同じ失敗を繰り返します。
まとめ:プット売りは「株式取得のための入札設計」
キャッシュセキュアド・プットは、株式取得を“仕組み化”し、待っている間にプレミアムを得られる強力なツールです。しかし、利益の源泉は「市場の非効率」ではなく、あなたが引き受けた下落リスクの対価です。したがって勝ち筋はシンプルで、
- 割当を歓迎できる銘柄に限定する
- 満期・デルタ・IVで事故率をコントロールする
- 利確とロールのルールを先に決める
- サイズを抑え、退場しない
この4点に尽きます。まずは小さく1枚から始め、運用の癖(自分の心理の弱点)を把握してください。オプションは、正しく扱えば「相場に振り回されない規律」をあなたに与えます。


コメント