コモディティETFは、原油や金、農産物などの商品市場に少額から分散投資できる便利な金融商品です。しかし、多くの投資家は「上がってきたから買う」「暴落して怖いから売る」といった感情ベースの売買を行いがちで、結果として高値づかみや安値投げを繰り返しやすいという課題があります。
本記事では、あえて「行き過ぎた下落」に着目し、割安になったコモディティETFに逆張りで入り、一定期間ごとに銘柄を入れ替える「コモディティETF逆張りローテーション戦略」について解説します。短期の値動きに振り回されず、シンプルなルールで淡々と運用することを前提とし、投資初心者でも理解しやすい形で整理します。
コモディティETF逆張りローテーション戦略とは何か
逆張りローテーション戦略とは、複数のコモディティETFの中から「最近売られすぎているもの」を定期的に選び直し、一定期間保有することで、価格が元の水準に戻る動きを狙う手法です。言い換えると、短期的に不人気となったセクターに資金を振り向け、行き過ぎた悲観からの戻りで利益を狙う考え方です。
株式市場でも「リバウンド狙い」や「リバーサル戦略」といった名称で類似の発想がありますが、コモディティ市場は需給やニュースによる短期的な過熱・失望が起こりやすく、逆張りローテーションとの相性が比較的良い領域です。
対象とする主なコモディティETFのセグメント
具体的な銘柄は各証券会社の取り扱いに依存しますが、考え方としては次のようなセグメントに分けておきます。
- エネルギー系コモディティETF(原油、ガソリン、エネルギー総合など)
- 貴金属系ETF(金、銀、プラチナなど)
- 産業用金属ETF(銅、アルミ、ニッケルなどを対象とするもの)
- 農産物・ソフトコモディティETF(小麦、トウモロコシ、大豆、コーヒーなど)
この中から、流動性や信託報酬、取り扱いのしやすさなどを考慮し、3〜6本程度のコア銘柄をピックアップして「ローテーションユニバース(候補リスト)」を作ります。
ステップ1:投資ユニバースの設計
戦略の成否は、どの銘柄群を対象にするかで大きく変わります。まずは、以下のような観点で投資ユニバースを設計します。
- 売買代金・出来高が十分にあるか(スプレッドが広すぎないか)
- 信託報酬やその他コストが極端に高すぎないか
- 同じセクターのETFが重複しすぎていないか
- 原資産となるコモディティが、ニュースや需給要因で「行き過ぎ」が起こりやすいか
例えば、エネルギー・貴金属・農産物・総合コモディティといった形で、性質の異なるETFを4〜5種類ピックアップしておくと、ローテーションによる分散効果が出やすくなります。
ステップ2:逆張りシグナルの設計
次に、「どの銘柄が売られすぎているか」を判断するためのシグナルを決めます。複雑な指標を使う必要はなく、継続しやすさを重視してシンプルに設計することが重要です。
シンプルな期間リターンベースのシグナル
初心者でも扱いやすいのは、「一定期間の騰落率」に基づくシグナルです。例えば、次のようなルールが考えられます。
- 毎月末に、過去3カ月の騰落率を各ETFについて計算する
- 騰落率が下位の銘柄(例えばワースト2銘柄)を次の1カ月間保有する
- 翌月末に再び3カ月騰落率を計算し、保有銘柄を入れ替える
「最近3カ月で最も売られているもの」を買い、「売られ過ぎの戻り」を取りにいくイメージです。3カ月という期間は、短期過ぎず長期過ぎず、需給の行き過ぎが少し落ち着いて戻りが出やすいバランスの良い長さとしてよく使われます。
ドローダウン率を補助指標として使う
期間リターンだけでは心配な場合、「直近高値からの下落率(ドローダウン)」も参考にすると、より行き過ぎをイメージしやすくなります。例えば以下のような考え方です。
- 過去6カ月の高値を基準に、現在価格が何%下落しているかを計算
- 3カ月騰落率がマイナス、かつ高値からの下落率が20%以上の銘柄を「強い売られ過ぎ」として候補にする
このように、期間リターンとドローダウンを組み合わせることで、「単なるもみ合いの中の下落」なのか、「はっきりとした売られ過ぎ」なのかを区別しやすくなります。
ステップ3:ローテーションの運用フロー
ルールが決まったら、あとは毎月または毎四半期ごとに、決めた手順で淡々と銘柄を入れ替えていきます。例として、月次ローテーションのフローを示します。
- 月末:各コモディティETFの過去3カ月騰落率を集計
- ワースト2銘柄を選定し、翌営業日の寄付きまたは引けで購入(既存保有銘柄は売却)
- その1カ月間は基本的にホールドし、途中の値動きに振り回されない
- 翌月末に再度集計し、銘柄を入れ替えるかどうか判断
重要なポイントは、「売買のタイミングを事前に決めておき、ニュースや感情で変えないこと」です。逆張り戦略は、どうしても含み損を抱えた状態からスタートしやすいため、「買った直後の逆行」で不安になってルールを捨ててしまうケースがよくあります。ローテーション戦略では、この心理的負担を軽減するために、あらかじめルールを紙に書き出し、ブレない運用を心がけることが大切です。
具体例:4つのコモディティETFで運用するケース
仮に、エネルギー・金・農産物・総合コモディティの4本をユニバースとし、常に2銘柄を保有する戦略を考えます。
ある月末時点で、直近3カ月の騰落率が以下の通りだったとします。
- エネルギーETF:-18%
- 金ETF:-5%
- 農産物ETF:+2%
- 総合コモディティETF:-12%
この場合、最も売られているのはエネルギーETFと総合コモディティETFなので、この2本を翌月1カ月間保有します。翌月末には再度騰落率を計算し、今度は金ETFと農産物ETFが売られているようであれば、保有銘柄をそちらに入れ替える、といったイメージです。
リスク管理の考え方
コモディティETFはボラティリティが高く、株式インデックスに比べて値動きが荒くなりがちです。そのため、逆張りローテーション戦略では、リスク管理をあらかじめ仕組み化しておくことが重要です。
ポジションサイズと資金配分
一つの目安として、「総資産の何%をこの戦略に割り当てるか」を最初に決めておくと良いでしょう。例えば、総資産の10〜20%を上限とし、その範囲内で2銘柄に均等配分するなどの方法があります。
また、銘柄によってボラティリティが大きく異なる場合には、「価格変動の大きい銘柄には少なめ、安定的な銘柄には多め」という調整を行うことで、ポートフォリオ全体の値動きを滑らかにすることができます。ボラティリティ調整を厳密に行う場合は、過去の標準偏差やATRなどの指標を使いますが、初心者のうちは「特に値動きが激しいと感じる銘柄には金額を抑える」という感覚的な調整でも構いません。
最大ドローダウンの許容ラインを決める
逆張り戦略では、一時的に含み損が大きくなる局面があります。そこで、戦略全体の最大ドローダウン(ピークからの下落幅)としてどの程度まで許容するか、あらかじめラインを決めておくと冷静な判断がしやすくなります。
例えば、「戦略全体で15〜20%の下落を経験したら一度運用を止める」「ポジションサイズを半分に落として様子を見る」といったルールです。重要なのは、想定外の損失が出たときに、感情ではなく事前に決めたルールで対応することです。
ポートフォリオ全体の中での位置づけ
コモディティETF逆張りローテーションは、それ単独で資産運用のすべてを担う戦略というよりも、「株式や債券とは異なる値動きをするサテライト戦略」として組み込むイメージが適切です。
例えば、ポートフォリオ全体の構成を次のように設計することが考えられます。
- コア:株式インデックスETFや債券ETF(長期積立の軸)
- サテライト1:テーマ株や個別銘柄へのスイングトレード
- サテライト2:コモディティETF逆張りローテーション(景気・インフレ局面でのリスク分散役)
このように、「長期の資産形成の軸」と「短〜中期の機動的な戦略」を役割分担させることで、ポートフォリオ全体の安定性とリターンの両立を目指すことができます。
シミュレーションイメージ:インフレ局面とディスインフレ局面
ここでは、あくまでイメージとして、2つの局面を考えてみます。
インフレ局面での動き
インフレ懸念が高まり、エネルギー価格や一部のコモディティが急騰した局面では、
- 短期的に急騰したセクターは徐々に調整に入りやすい
- 逆に、まだ上昇が限定的なセクターが後追いで上昇することがある
逆張りローテーション戦略では、「急騰しているセクター」を追いかけるのではなく、あくまで「相対的に出遅れている、あるいは一度売られ過ぎたセクター」にポジションを取ります。結果として、インフレ局面の中でも、ローテーションによって値動きの波を取りにいくことになります。
ディスインフレ局面での動き
逆に、インフレ懸念が後退し、コモディティ全体が軟調な局面では、
- 一部セクターだけが過度に売られ、その後の戻りが大きくなる
- ニュースやセンチメントの変化で、短期的なリバウンドが発生しやすい
このような局面でも、逆張りローテーションは「相対的な売られ過ぎ」を手がかりに、短期的な戻りを狙うことが可能です。ただし、コモディティ全体のトレンドが長期的な下落にある場合は、そもそも戦略の比重を下げる、あるいは一時的に運用を停止するなど、環境認識に応じた柔軟な対応が必要です。
コスト・税金面のチェックポイント
コモディティETFのローテーション戦略では、売買回数が増える分、売買手数料やスプレッドの影響が無視できません。特に、出来高の少ないETFはスプレッドが広がりやすく、実質的なコストが高くなりがちです。
また、海外ETFを利用する場合には、為替スプレッドや為替手数料も考慮する必要があります。国内上場のコモディティ連動ETFであれば円建てで取引できるため、為替部分のコストを抑えやすい一方で、信託報酬がやや高めに設定されているケースもあります。
税金に関しては、売買益や分配金に対して課税が行われますが、具体的な税率や取り扱いは居住国や口座区分によって異なります。制度面は定期的に変更される可能性もあるため、最新の情報を確認することが重要です。
初心者が陥りやすい落とし穴
逆張りローテーション戦略は一見シンプルですが、実際に運用してみると感情面の影響を強く受けます。代表的な落とし穴と回避策を整理しておきます。
- 直近のニュースだけを見てルールを変更してしまう
- 一度の失敗で戦略全体を否定してしまう
- ローテーションのタイミングをバラバラにしてしまい、検証しにくくなる
- コモディティ特有のリスク(ロールコストなど)を意識せずに運用してしまう
これらを避けるためには、最初に「自分なりのルールブック」を作成し、売買の判断をできるだけ機械的に行うことが有効です。例えば、ローテーションの判定日を月末と決めたら、その日にだけ各ETFの騰落率をチェックし、それ以外の日は値動きだけを見て判断しない、といった運用です。
発展編:他の資産クラスとの組み合わせ
コモディティETF逆張りローテーションは、単独でも戦略として成立しますが、他の資産クラスと組み合わせることで、より安定したポートフォリオを構築できます。
- 株式インデックスとの組み合わせ:株式が弱い局面でコモディティが強くなることがあり、リスク分散効果が期待できる
- 短期債券やキャッシュとの組み合わせ:ボラティリティの高いコモディティ部分を、安定的な資産で緩衝する
- 他のローテーション戦略(セクターETFや通貨など)との組み合わせ:異なるマーケットで同様のルールを適用し、戦略間で分散を図る
重要なのは、「どの戦略にどれだけの比重を置くか」を明確にし、ポートフォリオ全体のリスク水準を自分の許容度に合わせることです。コモディティ逆張りローテーションは、その中の一つのピースとして位置付けるとバランスが良くなります。
まとめ:ルールをシンプルに保ち、小さく始める
コモディティETF逆張りローテーション戦略は、複雑なモデルや高度なプログラミングを使わなくても実践できる一方で、「感情に流されずに淡々とルールを守る」という点が難所です。
まずは、
- ユニバースを3〜5銘柄に絞る
- 月に一度、過去3カ月騰落率をチェックするだけのシンプルなルールにする
- ポートフォリオの一部(総資産の一部)だけで小さく試す
といった形で始めると、無理なく継続しやすくなります。運用しながら、自分がどのような値動きにストレスを感じるのか、どのくらいのドローダウンなら許容できるのかを体感しつつ、少しずつルールを調整していくと良いでしょう。
相場の「行き過ぎ」は、見ているだけではチャンスになりません。ルールを決め、ローテーションという形でシステム化することで、感情に左右されにくい逆張り戦略としてポートフォリオに組み込むことができます。


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