DMI（Directional Movement Index、方向性指数）は、「今の相場で本当に強いトレンドが出ているのか」「そのトレンドはどちら向きなのか」を教えてくれるテクニカル指標です。移動平均線やMACDと比べるとややマイナーですが、トレンドフォロー型の戦略と相性が良く、株・FX・暗号資産のどれでも活用しやすい指標です。
DMIとは何か：トレンドの「強さ」と「向き」を数値化する指標
DMIは、J. Welles Wilderが考案したトレンド系指標で、主に次の3つのラインで構成されています。
- +DI（プラス・ディレクショナル・インデックス）…上昇方向の強さ
- -DI（マイナス・ディレクショナル・インデックス）…下降方向の強さ
- ADX（Average Directional Index）…トレンドそのものの強さ
+DIと-DIは「どちらの方向に力がかかっているか」、ADXは「今はトレンド相場なのか、それともレンジ相場なのか」を示します。つまりDMIを見るだけで、「今は買いトレンドに素直についていくべきなのか」「レンジなので無理にポジションを持たない方がよいのか」といった判断がしやすくなります。
チャートだけを見ていると、強いトレンドに見えても、実際には勢いが弱まっていることがあります。DMIは、ローソク足の高値・安値の動きをベースに、方向性の変化を定量的に捉えることで、感覚だけの判断を減らしてくれます。
DMIを構成する3つのラインのイメージ
+DIと-DI：上昇と下降の「どちらが優勢か」
+DIと-DIは、高値と安値の更新幅をもとに「上方向にどれだけ動いたか」「下方向にどれだけ動いたか」を計算し、その差を指数平滑化してラインにしたものです。数式はやや複雑ですが、イメージとしては次のように考えると分かりやすくなります。
- 前日の高値より今日の高値が大きく伸びている → 上昇方向の力（+DM）が強い → +DIが上がりやすい
- 前日の安値より今日の安値が大きく切り下がっている → 下降方向の力（-DM）が強い → -DIが上がりやすい
- どちらの方向にもあまり更新していない → トレンド方向の力は弱く、レンジ傾向
実際のチャートでは、+DIが-DIを上から下に抜けたときは「上昇優勢 → 下降優勢への転換」、逆に+DIが-DIを下から上に抜けたときは「下降優勢 → 上昇優勢への転換」と捉えます。
ADX：相場に「本当にトレンドがあるか」を測る
ADXは、+DIと-DIの差をもとに「トレンドの強さ」を数値化したラインです。一般的には、次のような水準がよく使われます。
- ADX 20未満：トレンドが弱く、レンジになりやすい
- ADX 20〜25：トレンドが出始めている可能性
- ADX 25以上：はっきりしたトレンドが出ている
- ADX 40以上：非常に強いトレンド（行き過ぎゾーンに入ることもある）
注意点として、ADXは「トレンドの方向」ではなく「トレンドの強さ」しか教えてくれません。上昇トレンドであっても、下降トレンドであっても、トレンドが強ければADXは上昇します。そのため、方向の判断には+DIと-DIを必ずセットで確認します。
DMIの基本的なチャート設定例
多くのチャートソフトやTradingViewなどでは、インジケーター一覧から「DMI」「Directional Movement Index」「DMI/ADX」といった名称で追加できます。期間設定は「14」が一般的です。これは、ワイルダーが推奨している標準設定で、日足チャートならおおよそ2〜3週間分の値動きをならして見るイメージになります。
初心者のうちは、まずは標準の「14」のまま使い、慣れてきたら次のようなチューニングを検討しても良いでしょう。
- 短期トレード（1時間足〜4時間足）：期間を10前後まで短くし、シグナルをやや早くする
- スイングトレード（日足〜週足）：期間14〜20程度でノイズを減らし、ゆったりしたトレンドを狙う
株、FX、暗号資産いずれでも使い方は同じですが、ボラティリティが高い暗号資産では、期間をやや長めにしてノイズを抑えた方が見やすい場面もあります。
DMIで読み取る5つの基本シグナル
1. +DIと-DIのクロス：トレンド方向の転換シグナル
DMIの最も基本的な見方は、「+DIと-DIのクロス」です。
- +DIが-DIを下から上に抜ける → 買い優勢への転換（上昇トレンドに移行しつつある）
- +DIが-DIを上から下に抜ける → 売り優勢への転換（下降トレンドに移行しつつある）
このクロスだけで売買することも可能ですが、レンジ相場ではダマシのシグナルも多くなります。そのため、次に紹介するADXとの組み合わせが非常に重要になります。
2. ADXの水準：トレンドフォローすべきか、静観すべきか
トレンドフォロー戦略を使う場合、基本的な考え方は次の通りです。
- ADXが20未満 → レンジ相場。シグナルは無視、様子見を優先
- ADXが25を超えて上向き → トレンドが出ている。+DIと-DIの向きに注目
- ADXが40前後 → 非常に強いトレンド。順張りは有利だが、終盤の可能性もあるためポジションサイズ管理が重要
「クロス＋ADX25以上」の組み合わせを待つことで、レンジのダマシシグナルを大幅に減らすことができます。
3. ADXの傾き：トレンドの成長と減速を読む
ADXは水準だけでなく、傾きにも注目します。
- ADXが上昇している → トレンドが強まっている
- ADXが横ばい〜下向き → トレンドの勢いが弱まりつつある
例えば、+DIが-DIより上にあり、ADXも上昇している局面は、「強い上昇トレンドの真っ最中」という非常に分かりやすい環境です。逆に、+DIが-DIの上にあっても、ADXが下がり始めている場合は、トレンド終盤や調整入りを警戒した方が安全です。
4. ダマシが出やすい場面の見極め
DMIにも苦手な局面があります。代表的なのは、ボラティリティはある程度あるものの方向感が出ない「広いレンジ相場」です。このような局面では、+DIと-DIが何度も交差し、ADXも20〜25の間をうろうろします。
このような環境では、DMIのシグナルだけを頼りに売買すると、往復ビンタになりやすいです。チャート上で高値・安値が水平に近く、トレンドラインを引いても明確な傾きが出ない場合は、「DMIのシグナルは参考程度」にとどめ、ブレイクを待つ判断が重要になります。
5. レンジ→トレンド移行の初動を捉える
DMIの面白いポイントは、「レンジからトレンドに変わる瞬間」を捉えやすいことです。典型的なパターンは次のような流れです。
- ADXが20以下で横ばい（レンジ相場）
- +DIと-DIが何度かクロスしながらも、値幅は小さい
- どちらか一方のDIが優勢になり始め、同時にADXが20を上抜けて上向きにカーブ
この3ステップが揃ったところで、ブレイク方向にポジションを取ると、その後のトレンドの「初動」から乗れる可能性が高まります。
DMIを使ったシンプルなトレンドフォロー戦略
ここからは、投資初心者でも実践しやすい「シンプルなDMIトレンドフォロー戦略」を紹介します。株、FX、暗号資産のいずれにも応用できるルールです。
基本ルール（4時間足または日足ベース）
ここでは4時間足チャートを例にしますが、日足に置き換えても考え方は同じです。
- インジケーター設定：期間14のDMI（+DI、-DI、ADX）
- トレード方向：トレンドフォロー（順張り）
具体的なエントリー・イグジットルールは次のようにします。
買いエントリー条件
- ADXが20以上で上向きになっている
- +DIが-DIを下から上へクロスしている、もしくはすでに+DIが-DIより上にある
- ローソク足が直近のレジスタンスを終値ベースで上抜ける
この3つが揃ったタイミングで、次の足の始値付近で買いエントリーする、というイメージです。
売りエントリー条件
- ADXが20以上で上向きになっている
- +DIが-DIを上から下へクロスしている、もしくはすでに+DIが-DIより下にある
- ローソク足が直近のサポートを終値ベースで下抜ける
トレンド方向にブレイクしたことを確認してからエントリーすることで、ダマシのブレイクをある程度避けることができます。
利確と損切りの目安
利確と損切りは、ルールを明確に決めておくことが重要です。例えば、次のような目安が考えられます。
- 損切り：エントリーした足の直近安値（買いの場合）／直近高値（売りの場合）の少し外側に置く
- 利確１：リスクリワード1:1（リスクが100なら利益100）に到達したらポジションの半分を利確
- 利確２：ADXがピークアウトして下向きに転じたら残りを決済
DMIは「どこまで伸びるか」を直接教えてくれる指標ではないため、損益比率やチャートパターンと組み合わせて出口を整えるのがポイントです。
株式の例：成長株の上昇トレンドに素直に乗る
日本株の成長銘柄を日足で見るケースをイメージしてみます。決算内容が良く、出来高を伴って上昇している場面では、次のような動きになりやすいです。
- 好材料でギャップアップし、大陽線が出る
- +DIが急上昇し、-DIを大きく上回る
- 数日遅れてADXが20を超え、25〜30に向かって上昇
このような局面では、「押し目買い戦略」とDMIを組み合わせると有効です。具体的には、次のようなルールが考えられます。
- 日足で+DI＞-DIかつADX＞25を確認
- 短期の押し目（5日移動平均線付近までの調整）を待ち、陰線後の陽線転換でエントリー
- +DIが-DIを下抜け、かつADXが下向きに転じたらポジションを全て決済
トレンドが続く限り、押し目買いを繰り返すことで、成長株の大きな上昇を効率的に取りに行くことができます。
FXの例：ドル円のトレンド相場を狙う
FXでは、金融政策の差や金利差によって、数カ月単位で一方向に動くトレンドが発生することがあります。ドル円の上昇トレンドを4時間足で追いかけるケースを考えてみます。
- レンジ相場が続き、ADXは20以下で横ばい
- 重要な高値ラインを上抜けたあと、+DIが-DIを上抜ける
- その数本後、ADXが20を超えて上向きにカーブ
この場面で、「ブレイク後の最初の押し目」を狙う戦略が有効です。例えば次のような手順です。
- ブレイク直後は飛び乗らず、いったん押し目を待つ
- 4時間足の短期移動平均線（例：20本）まで戻ってきたタイミングで、+DI＞-DIかつADX上向きを確認
- 戻りの小さな陰線の高値を上抜けたら買いエントリー
- 直近安値の少し下に損切りを置き、リスクリワード1:1到達で半分利確
このように、DMIで「今はトレンドが強い環境だ」と確認してから押し目を拾うことで、レンジブレイクのダマシに振り回されにくくなります。
暗号資産の例：ボラティリティの高い相場での使い方
ビットコインや主要アルトコインは、株や主要通貨ペアに比べてボラティリティが高く、トレンドの立ち上がりも急激です。そのため、DMIを使う際には次のような工夫が考えられます。
- DMIの期間をやや長め（例：20）にしてノイズを抑える
- 時間軸を4時間足以上に限定し、スキャルピングには使わない
- ADXが25を超えたタイミングだけを厳選してエントリーを検討する
例えば、ビットコイン日足チャートで、長いレンジ相場のあとに出来高を伴う上抜けが発生し、+DI＞-DIかつADXが20→25へ上昇してくる場面では、「トレンド相場への移行サイン」として注目できます。こうした環境では、短期調整での押し目買いを数回に分けて仕掛ける戦い方が有効です。
DMI戦略の強みと弱み
強み：強いトレンドだけを狙い撃ちできる
DMIの最大の強みは、「トレンドが強いときだけ仕掛ける」というフィルタリングがしやすい点です。ADXという「トレンドの強さ」を表す指標をセットで使うことで、レンジ相場を避ける精度が高まります。
また、+DIと-DIを組み合わせることで、「単にトレンドがある」だけでなく、「上昇トレンドなのか、下降トレンドなのか」まで一目で分かります。そのため、トレンドフォロー戦略を学び始めた初心者にとっても、方向感をつかみやすい指標です。
弱み：レンジ相場ではシグナルが多く、ダマシも増える
一方で、DMIはレンジ相場を完全に避けられるわけではありません。特に、はっきりしたトレンドが出ない状況では、+DIと-DIが何度もクロスし、そのたびに「方向転換シグナル」のように見えてしまいます。
また、強いトレンドの後半では、ADXが高値圏で横ばい〜下向きに転じることが多く、出口の判断が難しくなる場面もあります。DMI単体で完璧なタイミングを測ろうとせず、移動平均線や価格のサポート・レジスタンスと併用することが重要です。
勝率を上げるための補助フィルター
DMIを使ったトレンドフォロー戦略の勝率を高めるには、いくつかの「フィルター」を組み合わせると効果的です。
移動平均線との併用
最もシンプルなフィルターは、「価格が一定期間の移動平均線より上にあるときだけ買いを狙う」「下にあるときだけ売りを狙う」というルールです。例えば次のように設定します。
- 日足の50日移動平均線を上回っている銘柄のみ、+DI＞-DIかつADX＞25の買いシグナルを採用
- 50日移動平均線を下回っている銘柄のみ、+DI＜-DIかつADX＞25の売りシグナルを採用
これにより、「長期的なトレンド方向に沿った取引」に絞り込むことができ、逆張りになってしまうエントリーを減らせます。
サポート・レジスタンスとの組み合わせ
もう一つ有効なのが、水平ラインとの組み合わせです。
- 価格が重要なレジスタンスをブレイクしたタイミングで、+DI＞-DIかつADX上向きなら買い
- 価格が重要なサポートを割り込んだタイミングで、+DI＜-DIかつADX上向きなら売り
これにより、「トレンド発生＋ブレイク」という強いシグナルが重なるポイントだけを狙えるため、エントリー回数は減るものの、1回あたりの期待値を高めやすくなります。
複数時間軸での確認
最後に、上位時間軸でDMIの状態を確認する方法もあります。例えば、4時間足でエントリーするときに、日足のDMIも併せて見ると、「上位足も同じ方向のトレンドが出ているか」をチェックできます。
- 日足で+DI＞-DIかつADX＞25 → 上昇トレンドの環境
- そのうえで、4時間足でも+DI＞-DIかつADX上向きになったところを狙う
上位足と下位足のDMIが同じ方向を向いているときは、トレンドの信頼性が高くなりやすく、反対に、上位足がレンジ、下位足だけトレンドという状況では、トレンドが長続きしにくい傾向があります。
バックテストと検証のポイント
DMIを本格的に活用するなら、過去チャートで自分のルールを検証しておくことが重要です。手作業で過去チャートをスクロールしながら、「この条件で入っていればどうなっていたか」をノートに記録するだけでも、ルールの癖が見えてきます。
検証時には、次のようなポイントを意識すると良いでしょう。
- トレンドが出た局面では、どの程度の値幅が取れているか
- レンジ相場でどのくらいダマシシグナルが出ているか
- フィルター（移動平均線、サポート・レジスタンス）を加えた場合に、トレード回数と勝率がどう変わるか
可能であれば、スプレッドや手数料も含めてシミュレーションしておくと、実際の成績に近い感覚をつかむことができます。
よくある失敗と避けるための工夫
DMIを使う際に陥りやすい失敗パターンと、その対策も確認しておきます。
- シグナルが出るたびにエントリーしてしまう → ADX水準と価格ブレイク条件を加えて、厳選する
- トレンド終盤で飛び乗ってしまう → ADXが高値圏で横ばい〜下向きに転じていないかを確認する
- レンジ相場で連続して損切りになる → チャート全体を見て、明らかにトレンドが出ていない期間はDMIのシグナルを無視する
トレードで重要なのは、「どの指標を使うか」よりも、「どのタイミングで指標を信じないか」を決めておくことです。DMIも万能ではないため、使わない局面を意識することで、無駄な損失を減らすことができます。
まとめ：DMIで「強いトレンドだけ」を取りに行く
DMIは、+DI・-DI・ADXという3つのラインを通じて、「トレンドの方向」と「トレンドの強さ」を同時に教えてくれる指標です。特に、レンジからトレンドへ移行する局面で威力を発揮し、「強いトレンドだけを狙うトレード」を実現しやすくしてくれます。
株、FX、暗号資産のどの市場でも、トレンドがはっきり出ているときに素直にその方向についていくことが、初心者にとって再現性の高い戦略の一つです。DMIをうまく活用し、「トレンドが強いときだけ勝負する」「レンジでは休む」というメリハリのあるトレードスタイルを身につけていきましょう。
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