HV(ヒストリカルボラティリティ)で相場の「本当の振れ幅」を読み解く

テクニカル指標

テクニカル指標というと、移動平均線やRSIのような「価格の方向」を示すものに注目が集まりやすいですが、実際のトレードでは「どれだけ価格が動きやすいか」というボラティリティを読むことが同じくらい重要です。その代表的な指標がHV(ヒストリカルボラティリティ)です。

HVは、過去の値動きから「この銘柄はどの程度のスピードと振れ幅で動きやすいのか」を数値化した指標です。トレンド系指標と併用することで、エントリーのタイミングだけでなく、利確・損切りの幅やポジションサイズの設定にも活用できます。本記事では、株・FX・暗号資産のいずれにも応用できる形で、HVの考え方から具体的な活用法までを丁寧に解説します。

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HV(ヒストリカルボラティリティ)とは何か

HVは、日本語では「過去実績ボラティリティ」などとも呼ばれます。簡単に言えば、一定期間の価格変動を統計的にまとめた「値動きの荒さ」を示す指標です。値動きが大きく上下している銘柄ほどHVは高くなり、ゆっくりと小さく動いている銘柄ほどHVは低くなります。

チャート上では、価格の推移だけを見ていると「なんとなく荒れている」「なんとなく落ち着いている」と感覚で判断しがちですが、HVを使うとその感覚を数値に落とし込むことができます。トレーダーにとって、感覚ではなく客観的な数値に基づいてリスクをコントロールできる点がHVの大きなメリットです。

HVの基本的な計算イメージ

HVの計算式は統計学的な標準偏差をベースにしていますが、実務上は「中身の考え方」が分かっていれば十分です。代表的な考え方を、できるだけ平易なイメージで整理します。

多くのHV指標は、以下の流れで計算されています。

1. 日々のリターンを計算する

まず、終値ベースで「前日から何%動いたか」を計算します。例えば、前日終値が100、今日の終値が102なら+2%、逆に98なら−2%という具合です。これを一定期間、例えば20日分や30日分など連続して計算します。

2. そのブレ具合(標準偏差)を求める

次に、その日々の%変化のバラつきを統計的にまとめたものが標準偏差です。変動が安定していれば標準偏差は小さくなり、大きく上下している期間ほど標準偏差は大きくなります。ここで計算された標準偏差を、年率換算など一定のスケールに直したものがHVです。

3. HVが高い=「よく動く相場」、HVが低い=「静かな相場」

計算の中身をすべて理解していなくても、次のイメージを持っておけば十分です。

  • HVが高い:短期間に大きく動いている、急落・急騰が起きやすい
  • HVが低い:値動きが小さく、レンジ相場になりやすい

この「よく動くのか、あまり動かないのか」という性質を知ることで、ストップロスや利確幅の設定、エントリー戦略を現実的な水準に調整しやすくなります。

株・FX・暗号資産でのHVの特徴

HVは、株・FX・暗号資産のどれに対しても同じロジックで使えますが、市場ごとに「典型的な動き方」が異なるため、読み方に少しクセがあります。

株式市場におけるHV

個別株のHVは、決算発表や材料ニュースの有無によって大きく変わります。普段はHVが低くても、決算前後だけ急激に高まるケースがよくあります。例えば、普段は1日あたり1〜2%程度しか動かない銘柄が、決算前後は5〜10%動くことも珍しくありません。このような局面では、普段の感覚でストップロスを狭く置くと、ノイズで刈られやすくなります。

FX市場におけるHV

主要通貨ペア(ドル円、ユーロドルなど)は、株式に比べると平時のHVは比較的低い傾向がありますが、経済指標や要人発言をきっかけに一時的にHVが跳ね上がります。ボラティリティが急上昇しているときにロットを大きくすると、普段の感覚よりもはるかに早く損益が振れるため、HVを意識したポジションサイズ調整が重要になります。

暗号資産市場におけるHV

ビットコインやアルトコインは、そもそもHVが高い市場です。1日で10%以上動くことも珍しくなく、株やFXの感覚でレバレッジをかけると簡単にロスカットに届きます。暗号資産では、同じチャート形状でもHVの絶対値が大きいため、ストップ幅や利確幅、ロットサイズを「HV前提」で設計することが特に重要です。

HVを使ったリスク管理の基本

HVの最も実務的な使い方は、エントリーの可否判断よりもリスク管理にあります。ここでは、HVを使ってトレード設計をより現実的にするための考え方を整理します。

1. ストップロス幅をHVに合わせる

例えば、「平均的な1日の動きが1%の銘柄」と「1日の動きが5%の銘柄」に同じ1%のストップを置いたとします。前者では、トレンドが間違っていたときだけストップにかかるイメージですが、後者ではただのノイズで簡単に刈られてしまいます。

HVを参考にして、例えば「直近20日HVの1〜2倍を目安にストップ幅を決める」といったルールを作ると、その銘柄の「いつもの揺れ」に耐えながら、本質的にシナリオが崩れたときだけ撤退しやすくなります。

2. ロットサイズをHVに応じて調整する

HVが高い銘柄は「1ポジションあたりの期待値」も大きくなり得ますが、その分ブレも大きくなります。同じ金額のストップロス許容額であれば、HVが高い銘柄ほどロットを小さく、HVが低い銘柄ほどロットをやや大きくするのが自然です。

例えば、1トレードあたりの許容損失を資金の1%と決めた上で、HVをもとにストップ幅を決め、そのストップ幅に合わせてロットを逆算する、といったやり方です。これにより、「ボラティリティが高い銘柄だけ過度に資金を減らしてしまう」といった偏りを減らせます。

3. HV急上昇時は「距離」を取る選択肢も

HVが急上昇している局面は、チャンスと同時にリスクも膨らんでいます。特に初心者のうちは、HVが極端に高い銘柄や、ニュース直後でボラティリティが跳ね上がっている局面では、あえてロットを抑えるか、様子見に回るという判断も有効です。

HVを用いた具体的なトレードアイデア

次に、HVを使ったシンプルなトレードアイデアをいくつか紹介します。あくまで考え方の例であり、実際の運用では必ずご自身で検証し、リスク管理ルールを合わせて設計してください。

1. HV低下後のブレイクアウト戦略

多くの市場では、「長く静かな相場の後に大きなトレンドが始まる」ことがあります。HVが低い状態が続いている=値動きが縮んでいる局面では、その後の材料や需給の変化をきっかけに大きく動き出すことがしばしばあります。

例えば、以下のようなイメージです。

  • 20日HVが過去数か月の中でも低い水準まで低下している
  • 価格は明確なレンジ上限・下限の中で推移している
  • 出来高は徐々に増え始めている

このような状況では、レンジ上抜け・下抜けのブレイクアウトに注目し、「HVの低下→急上昇への転換」を狙う戦略が考えられます。ただし、ブレイクがダマシに終わることも多いため、HVだけでなく出来高やトレンド系指標(移動平均線、MACDなど)と組み合わせてフィルタリングするのが現実的です。

2. HVの水準による銘柄の絞り込み

デイトレードや短期トレードでは、「よく動く銘柄」だけを対象にした方が効率が良いことが多くあります。一方で、スイングトレードや中期投資では、極端にHVの高い銘柄は避け、ある程度落ち着いたボラティリティの銘柄を選んだ方が計画的にポジションを管理しやすくなります。

スクリーニングの段階で「HVが一定以上の銘柄だけをピックアップする」「HVがあまりにも高い銘柄は除外する」といったフィルターをかけることで、自分のトレードスタイルに合った銘柄を効率的に探し出すことができます。

3. HVとIVのギャップに注目する

オプション市場がある銘柄では、HV(過去のボラティリティ)とIV(インプライドボラティリティ=市場が織り込む将来のボラティリティ)を比較することで、「市場が今後の値動きをどう見ているか」のヒントが得られます。

例えば、直近のHVは落ち着いているにもかかわらず、IVだけが高騰している場合、市場は「今後、大きなイベントや方向性のある動きが起こるかもしれない」と見ている可能性があります。逆に、HVは高いのにIVがそれほど高くない場合、足元の荒い値動きが一時的なものだと市場が判断しているケースも考えられます。

このHVとIVのギャップを手掛かりに、イベント前後のポジションサイズ調整や、ストラドル・ストラングルのようなオプション戦略の検討材料にすることもできます。

実践的な活用例:ドル円とビットコインの場合

ここでは、イメージしやすいように具体的な例を挙げます。数値はあくまで例ですが、考え方を掴む参考にしてください。

ドル円のスイングトレードでのHV活用

仮に、ドル円の日足チャートで直近20日HVが「年率換算で8%」程度だったとします。この水準は、平常時のドル円としてはやや落ち着いたボラティリティです。このとき、1日の平均変動幅はおおよそ0.5〜0.7%程度とイメージできます。

スイングトレードを行う場合、ストップロスを「直近安値・高値から1%の位置」に置くと、日々のノイズでタッチされる可能性が高くなります。そこで、HVを踏まえて「直近安値から1.5〜2%の位置」にストップを置き、その代わりロットを抑える、という設計にすることで、ノイズ耐性を高めながら総リスク額を一定に保つことができます。

ビットコインの短期トレードでのHV活用

一方、ビットコインの日足HVが「年率換算で80%」のような高水準にある場合、1日の平均変動幅は3〜5%以上になることもあります。この状態で、株やFXと同じ感覚でストップを2%などに設定すると、ほとんどのトレードがノイズで刈られてしまう可能性があります。

HVが高い局面では、そもそもトレード自体を控える、あるいはストップ幅を広げてロットを大きく減らすなど、HV前提のリスク設計が必要です。「よく動くからチャンス」と考えるだけでなく、「よく動くからこそ一度のミスでのダメージも大きい」という視点を持つことが大切です。

HVと他のテクニカル指標を組み合わせる

HV単体では「どの方向に動くか」は分かりません。そのため、多くの場合はトレンド系・オシレーター系の指標と組み合わせて使います。いくつか代表的な組み合わせパターンを紹介します。

移動平均線+HV

シンプルな例として、移動平均線でトレンド方向を判断し、HVでポジションサイズとストップ幅を調整する方法があります。例えば、

  • 価格が長期移動平均線の上で推移している間は買い目線
  • HVが低いときはストップ幅をやや狭くし、ロットも控えめ
  • HVが適度に高まってきたら、トレンドフォローのブレイクを狙うが、ストップ幅とロットをHVベースで再調整

このように、「どこで入るか」は移動平均線などで決め、「どれくらいのリスクを取るか」はHVで決める、という役割分担をすると、感覚任せになりがちな部分を数値ベースで統一しやすくなります。

ボリンジャーバンド+HV

ボリンジャーバンド自体もボラティリティを利用した指標ですが、HVと併用することで「銘柄固有のボラティリティ水準」と「直近の値動きの広がり方」をそれぞれ確認できます。例えば、HVが通常より低く、かつボリンジャーバンドが強く縮小している局面では、ブレイクアウトの準備段階として注目しやすくなります。

オシレーター系+HV

RSIやストキャスティクスなどのオシレーターは「買われ過ぎ・売られ過ぎ」を示しますが、HVと組み合わせることで戦略のニュアンスが変わります。HVが低いレンジ相場では、オシレーターのシグナルで逆張りを行う戦略が機能しやすく、HVが高まりトレンド相場に移行している局面では、オシレーターシグナルをトレンド方向にのみ使うなど、使い分けが可能です。

HVを活用する際の注意点

最後に、HVを使う上で押さえておきたいポイントをまとめます。

1. パラメータに万能解はない

HVの期間設定(例:10日、20日、30日など)には正解があるわけではなく、トレードスタイルや銘柄特性によって最適な値が変わります。短い期間を使えば相場の変化に敏感になりますが、ノイズも増えます。長い期間を使えば安定しますが、変化に遅れが出ます。自分の保有期間や狙う値幅に合わせて、複数の期間を比較しながら調整していくのが現実的です。

2. HVはあくまで「過去」の指標

HVは過去の値動きから算出されるため、「将来も同じように動く」とは限りません。特に、大きなイベントや制度変更、流動性の急変などがあると、過去のHVと将来のボラティリティが大きく乖離することがあります。HVを絶対視するのではなく、「現時点での過去データから見た目安」として扱うことが重要です。

3. 必ず他の情報と組み合わせて使う

HVは非常に有用な指標ですが、単独で売買シグナルを出すよりも、トレンド系・オシレーター系・ファンダメンタルズ・ニュースなどと組み合わせて総合的に判断することが現実的です。特にリスク管理の面では、HVを基準にストップ幅やロットを決めつつ、銘柄選びやエントリータイミングは別のロジックで決める、という役割分担を意識すると良いでしょう。

HVを上手に使うことで、「なんとなく危なそう」「なんとなく動かなそう」といった曖昧な感覚から一歩進み、客観的な数値に基づいたリスク管理がしやすくなります。トレードスタイルや扱う市場に合わせて、自分なりのHVの活用ルールを少しずつ組み立てていくことが、安定した売買判断につながります。

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